2.3 意味がずれた語 I — マンション・クレーム・ナイーブ — Epoché
この課でできるようになること カタカナの資産のうち、意味がずれている 30 語を、ずれ方の型ごとに区別できる。 「マンション」「クレーム」「ナイーブ」を英語で言うとき、 mansion ・ claim ・ naive を避けて正しい語を選べる。 英語の実文の中で、その語が本来どの意味で使われているかを読み取れる。 ずれに気づくための見分け方——「褒めているのか、けなしているのか」を先に確かめる——を身につける。 前提 : 2.2 まで。 2.1 で 1,630 語の資産を数え、2.2 でその音を英語の形に戻しました。ここまでで直したのは 音 です。この課で直すのは 意味 のほうです。音を直しただけの語には、まだもう一つの値札の間違いが残っています。きれいに発音できるようになったぶん、相手には確実に届いてしまい、しかも あなたが言うつもりの無かった意味で伝わる 。音のずれは「聞き返される」で済みますが、意味のずれは聞き返されません。それがこの種の罠のいちばん厄介なところです。 意味のずれは、この課が本編です。ここでは ずれ方の型 で分け直します。数えかたの根拠も先に書いておきます。日本語の辞書 JMdict [1] には、日本で作られた英語風の語(和製英語)という印の付いた語義が 2,001 あり、その材料に使われている基本語 NGSL [2] の語が 778 あります。この課はそこから 30 語を採りました。 ずれは 4 つの型に分かれる 30 語をただ並べても覚えられません。覚えるべきなのは 30 個の事実ではなく、 ずれ方の型 のほうです。型が分かっていれば、この課に出てこないカタカナ語に出会ったときにも「これはどの型で疑うべきか」が立てられます。型は 4 つあります。1 つめは 意味の芯は同じだが、覆う範囲が違う もの。2 つめは 芯そのものが別 で、英語では違う語を使うもの。3 つめは 価値がひっくり返る もの——日本語では褒め言葉なのに英語では悪口、またはその逆です。4 つめは 意味は近いのに、品詞や使い方が違って そのままの形では文に入らないものです。 この順は危険度の順ではありません。危険なのは 3 つめで、相手を怒らせることがあります。1 つめと 4 つめは、たいてい「通じるけれど直される」で済みます。 型 1 意味の広さが違う 英語の語と日本語のカタカナが、同じ芯を持ちながら覆う範囲だけ違うものです。多くは 日本語のほうが狭くなっている ——日本に入ってきたときの場面に貼りついて、そこから広がらなかったからです。この型は、英語の側で範囲がもっと広いことを知れば足ります。 カタカナ 英語ではどう言うか ずれているところ クレーム complaint (苦情) claim は「主張する」「(権利として)要求する」。苦情の意味は無い サービス free ・ on the house (無料のおまけ) service は客への応対・業務・公共事業。「ただにする」意味は無い ジュース soft drink (甘い飲みもの) juice は果汁。炭酸飲料までは含めない トレーニング workout / exercise (運動) training は職業訓練・研修も指す、もっと広い語 タレント entertainer (芸能人) talent は「才能」そのもの。人を指す使い方は普通しない ベテラン experienced (形で)・ an old hand veteran はまず「退役軍人」。熟練者の意味はその一部 クリーニング dry cleaning (洗濯屋の) cleaning は掃除ぜんぶ。日本語のほうが狭い 「クレーム」がこの型の代表です。英語の claim は「こうだと主張する」「自分のものだと要求する」で、保険金を請求するのも claim です。日本語はそのうち「要求」の場面だけを取り込み、さらに「苦情」に狭めました。だから店で I have a claim. と言っても、相手は「何を主張しているのだろう」と身構えるだけです。苦情は complaint です。 型 2 別の語に当たる 音は英語の語から来ているのに、指しているものが別で、英語ではまったく違う語を使う型です。この型に当たると会話が噛み合いません。相手は英語の語のほうの意味で受け取り、そのまま話を続けるからです。住むところの話をしているのに相手が大邸宅を思い浮かべている、というずれには誰も気づきません。 カタカナ 英語ではどう言うか ずれているところ マンション apartment / condominium mansion は「大邸宅」。何十室もある屋敷 コンセント outlet / socket consent は「同意」。音が似ているだけの別の語 ハンドル steering wheel handle は「取っ手・柄」、動詞で「扱う」 サイン signature (署名)・ autograph (有名人の) sign は「標識」「兆候」、動詞で「署名する」 ストーブ heater stove は料理に使うこんろ リフォーム renovation / remodeling reform は制度や法律の「改革」 ペンション guesthouse ・ bed and breakfast pension は「年金」 アレンジ adapt / rework (作り変える) arrange は「整える」「手配する」 ムード atmosphere (場の雰囲気) mood は人の「気分」。場には使わない ヒアリング listening (聞き取り) hearing は「聴力」または「公聴会」 「マンション」がこの型の代表です。英語の mansion は、部屋がいくつもある大きな屋敷を指します。日本の集合住宅の一室は apartment で、買って所有しているなら condominium です。「コンセント」も同じ型で、英語の consent は「同意」。壁の差込口は outlet または socket です。この型の語は、英語の語のほうを別の語として覚え直すしかありません。カタカナからは戻れないからです。 型 3 価値がひっくり返る いちばん危ない型です。日本語では人を褒める語なのに、英語では人を貶める語になっている——あるいはその逆。音も文法も正しいので相手には確実に届き、そのうえ 感情が反転して 届きます。相手が急に黙って初めて気づくことになります。 カタカナ 英語ではどう言うか ずれているところ ナイーブ innocent / sensitive naive は「世間知らず」。褒め言葉ではない スマート slim / slender smart は「賢い」。体型のことは言わない カンニング cheating cunning は人の性格が「ずるい」 テンション excited ・ in high spirits tension は張り詰めた「緊張」。好ましくない語 ルーズ careless / sloppy loose は物が「ゆるい」。だらしなさは表さない リベンジ try again revenge は「復讐」。冗談で使えるほど軽くない ユニーク quirky / original unique は「他に一つも無い」。面白さは表さない 「彼はナイーブな人です」は日本語では「純粋で繊細な人」という褒め言葉ですが、 He is naive. は「世の中を知らない、だまされやすい」という評価です。「スマート」も同じで、英語の smart は頭の働きを言い、体型のことは言いません。「カンニング」は cunning から来ていますが、英語の cunning は人の性格が「ずるい」ことで、試験での不正行為は cheating です。 型 4 品詞や使い方が違う 意味はほとんど合っているのに、そのままの形では英文に入らない型です。日本語は借りた語を「〜する」「〜な」を付けて自由に動詞や形容詞にできますが、英語の側にその形が無いことがあります。この型は、意味ではなく 形 を覚え直します。 カタカナ 英語ではどう言うか ずれているところ マナー manners (複数形で) manner は単数だと「やり方」 チャレンジ try / take on challenge は名詞で「難題」、動詞で「異議を唱える」 イメージする imagine / picture (動詞) image は名詞だけ。動詞の使い方は無い ミス mistake / error (名詞) miss は動詞。「し損なう」「乗り遅れる」「恋しく思う」 アバウト rough / sloppy (形で) about は前置詞・副詞。形容詞では使わない ダイエットする lose weight (動詞) diet は「日ごろの食べもの」。 on a diet なら言える 「イメージする」は日本語では動詞ですが、英語の image は名詞だけです。思い描くのは imagine か picture です。「ミス」も同じで、英語の miss は動詞。「間違い」という名詞は mistake です。「マナー」は数の問題で、礼儀の意味になるのは複数形の manners のときだけ。単数の manner は「やり方」です。 実文で確かめる ここまでは「英語ではこうではない」という否定の説明でした。否定だけでは語は身につきません。英語の側の本来の意味を、実際に使われている文で 8 本、4 つの型から 2 語ずつ見ておきます。読むときは日本語訳の側から見て、 カタカナの意味では訳が成り立たない ことを確かめてください。 英文 日本語訳 見るところ They made a claim for higher pay. [3] 彼らは給料を上げるように要求した。 claim は「要求」。苦情ではない Can I be of any service to you? [4] 私で何かお役に立てますでしょうか。 service は「役に立つこと」。無料のおまけではない Handle with care. [5] 取り扱いに気を付けて。 handle は動詞で「扱う」。車の輪ではない They arranged a meeting. [6] 彼らは会合の打ち合わせをした。 arrange は「手配する」。作り変えることではない You're really smart. [7] 頭がいいね。 smart は「賢い」。体型のことではない This tooth is loose. [8] この歯がグラグラします。 loose は物が「ゆるい」。人の性格ではない She has no manners. [9] 彼女はまったく礼儀がなってない。 礼儀の意味になるのは複数形の manners Above all, watch your diet. [10] 何よりもまず、食事に気をつけなさい。 diet は日ごろの食べもの。減量のことではない 3 番めの文を見てください。荷物の箱に書いてある表示です。ここでの handle は「扱う」で、車を操る輪のことではありません。日本語の「ハンドル」しか持っていないと、この表示は意味を成さなくなります。8 番めも同じで、 diet は「日ごろ何を食べているか」です。医者がこう言うのは「痩せなさい」ではなく「食べるものに気をつけなさい」です。 語表 上の 30 語のうち、基本語彙 NGSL・学術語彙 NAWL・ビジネス語彙 BSL に載っている語を語表にします。真ん中の列がこの課の要点です。この列は語編(語編)の語表でも同じ形で出ますから、そこでまた出会ったときに思い出せます。意味は表に書きません。語をたたけば辞書パネルが出ます。 claim en 動・名 ● カタカナとの差 「苦情」は complaint 。 claim は「主張する」 連語 make a claim They made a claim for higher pay. [3] 彼らは給料を上げるように要求した。 Where do I claim my bags? [11] どこで荷物を受け取るのでしょう? service en 名 ●○ カタカナとの差 「無料のおまけ」は free 。 service は業務・接客 連語 customer service Can I be of any service to you? [4] 私で何かお役に立てますでしょうか。 Room service. May I help you? [12] ルームサービスです。御用は。 talent en 名 ●○ カタカナとの差 芸能人は entertainer 。 talent は「才能」 連語 have a talent for He has a talent for music. [13] 彼には音楽の才能がある。 She has a talent for dance. [14] 彼女にはダンスの才能がある。 veteran en 名 ●○○ カタカナとの差 熟練者は experienced 。 veteran は退役軍人 連語 a veteran of You're a veteran, right? [15] あなたってベテランさんですよね? You're a veteran, aren't you? [16] あなたってベテランさんですよね? consent en 名・動 ○● カタカナとの差 コンセントは outlet 。 consent は「同意」 連語 give consent I will consent to the divorce. [17] 私は離婚に同意するつもりだ。 She consented to take the blame. [18] 彼女はその非難を受けることに同意した。 handle en 動・名 ●○ カタカナとの差 車のハンドルは steering wheel 。 handle は取っ手 連語 handle a problem Handle with care. [5] 取り扱いに気を付けて。 I can't handle this alone. [19] 一人じゃ手に負えないよ。 sign en 名・動 ● カタカナとの差 署名は signature 。 sign