8.87 ジキル博士とハイド氏(3)— 聞かないという規則 — Epoché
この篇でできるようになること ★ 「聞かない」という規則 の理屈をたどれる。 ★ 描写できないまま書く 書き方が分かる。 ★ 知っていて聞く ことの意味に気づける。 ★ 封じる終わり方 が次を呼ぶことが分かる。 前提 : 8.86 まで。型は 3.32 まで。語は 4.48 まで。 読む前に ★ 前の篇までのこと。 エンフィールドは、 子どもを踏み越えた男 の話をしました。★ 男はあの扉から入り、よく知られた名前の署名のある小切手を持ってきました。 この篇では、 二人がそのあとを話します 。★ アターソンは二つだけたずねます —— 男の名前と、鍵を使ったかどうか 。 ★ そして、最後に「二度とこの話はしない」と約束します。 原文 原文は別の文書にあります(作品ページの「原文」)。本文は 775 語、文は 60 本、いちばん長い一文は 48 語です。★ 8.86 読編 より短く、帯の外の語も 34 語しかありません。 エンフィールドの規則を見ます。 the more it looks like Queer Street, the less I ask ★ Queer Street は 「やっかいな事情」 を指す古い言い方です。★ 「妙に見えるほど、聞かない」。 ★ 8.81 読編 の the more … the less … と同じ形です。★ 二つが連れ立って動きます ( 3.15 型編 )。★ ホームズは「奇怪なほど謎ではない」と言いました。 ★ ここは「妙なほど聞かない」です。 ★ 同じ形で、まるで逆の人生観です。 全訳 原文の全訳です。この課程のために、原文に沿って訳しました。番号は原文の段落の番号で、原文と行き来できます。 「やれやれ!」とアターソン氏は言いました。 「私と同じように感じておられるようですね」とエンフィールド氏は言いました。「ええ、ひどい話です。というのも、私の相手は、誰もかかわり合いになりたくないような男、本当にいまいましい男でした。それなのに、小切手を振り出した人物は、礼儀の鑑のような人で、名も知られていて、しかも(なおさら悪いことに)あなたがたの仲間の、いわゆる善行をする人たちの一人なのです。ゆすりでしょうね。正直な人が、若いころの何かの悪ふざけのために、法外な金を払わされているのでしょう。そういうわけで、私はあの扉のある場所を『ゆすり屋敷』と呼んでいるのです。もっとも、それでもすべての説明にはほど遠いのですがね」と彼は付け加え、そう言うと、もの思いに沈んでしまいました。 そこから彼を呼び戻したのは、アターソン氏のかなり唐突な問いでした。「それで、小切手を振り出した人がそこに住んでいるかどうかは、知らないのですか?」 「住みそうな場所でしょう?」とエンフィールド氏は答えました。「ですが、たまたまその人の住所に気づいたのです。どこかの広場に住んでいますよ。」 「それで、あの——扉のある場所のことは、一度も尋ねなかったのですか?」とアターソン氏は言いました。 「ええ、尋ねませんでした。遠慮がありましてね」というのが答えでした。「私は、問いを発することについては、とても強く思うところがあるのです。あまりにも最後の審判の日のやり方に似すぎています。問いを一つ始めるのは、石を一つ転がし始めるようなものです。丘のてっぺんに静かに座っていると、石は転がっていって、ほかの石も動かし、やがて、どこかの人のよい年寄り(いちばん思いもよらない人です)が、自分の家の裏庭で頭を打たれ、一家は名前を変えなければならなくなる。いいえ、私はこれを自分の規則にしているのです。妙な事情に見えれば見えるほど、私は尋ねない、と。」 「それもまた、たいへん良い規則です」と弁護士は言いました。 「ですが、あの場所のことは自分で調べてみました」とエンフィールド氏は続けました。「家とはほとんど思えません。ほかに扉はなく、あの扉から出入りする者は、ごくたまに、私の一件のあの紳士がいるだけです。二階には中庭に面した窓が三つありますが、下の階には一つもありません。窓はいつも閉まっていますが、きれいです。それに煙突が一本あって、たいてい煙が出ています。ですから、誰かが住んでいるにちがいありません。とはいえ、それもそう確かではありません。中庭の周りには建物がぎっしり詰まっているので、どこで一つが終わり、どこから別のが始まるのか、言いにくいのです。」 二人はまたしばらく黙って歩きました。それからアターソン氏が「エンフィールド」と言いました。「あなたのあの規則は良い規則ですね。」 「ええ、そう思います」とエンフィールドは答えました。 「ですが、それはそれとして」と弁護士は続けました。「一つ聞きたいことがあるのです。子どもを踏みつけたあの男の名前を聞きたいのです。」 「そうですね」とエンフィールド氏は言いました。「それならどんな害があるとも思えません。ハイドという名の男でした。」 「ふむ」とアターソン氏は言いました。「見たところ、どんな男なのですか?」 「説明するのは簡単ではありません。見かけにどこかおかしなところがあるのです。何か不快な、何かまったく忌まわしいところが。あれほど嫌だと思った人間は見たことがありませんが、それでいて、なぜなのかほとんどわかりません。どこかがゆがんでいるにちがいありません。ゆがんでいるという感じを強く与えるのですが、どこがそうなのかははっきり言えないのです。並はずれた見かけの男ですが、それでいて、何が変わっているのか、本当に何一つ挙げられません。いいえ、だめです。どうにも手に負えません。あの男を説明することはできません。それも記憶がないからではありません。なにしろ、いまこの瞬間にも、あの男の姿が見えているのですから。」 アターソン氏はまたしばらく黙って歩きました。見るからに考えごとの重みを背負っていました。「その男が鍵を使ったのは確かですか?」と、彼はようやく尋ねました。 「いや、あなた……」とエンフィールドは言いかけました。驚いて、我を忘れていました。 「ええ、わかっています」とアターソンは言いました。「妙に思えるにちがいないことはわかっています。実は、もう一方の名前をあなたに尋ねないのは、それをもう知っているからなのです。いいですか、リチャード、あなたの話は図星だったのですよ。どこか不正確な点があったのなら、直しておいたほうがいい。」 「前もって言ってくださってもよかったのに」と相手は少しむっとして答えました。「ですが、私は、あなたの言い方を借りれば、杓子定規なほど正確に話しました。あの男は鍵を持っていました。それどころか、今も持っています。ほんの一週間足らず前にも、あの男がそれを使うのを見ましたから。」 アターソン氏は深くため息をつきましたが、ひと言も言いませんでした。やがて若いほうの男が話を再開しました。「何も言うなという、また一つの教訓ですね」と彼は言いました。「私は自分のおしゃべりが恥ずかしい。二度とこの話はしないと約束しましょう。」 「心から賛成です」と弁護士は言いました。「その約束に握手しましょう、リチャード。」 語釈 帯の外の語は 34 語です。★ 読 D でいちばん少ない篇の一つ です。★ 会話だけでできているから です。 語(品詞) 意味 注 Enfield en 名 エンフィールド( 8.85 読編 ) Hm en 間 ふむ Hm, I wonder if we took the wrong turn back there. ふむ、私たちはあそこで間違った道に入ったのかもしれません。 Hyde en 名 ハイド。★この篇で初めて名が出る Mr en 名 Mister の略 Queer en 形 妙な( 8.75 読編 )。 Queer Street はやっかいな事情 Richard en 名 リチャード。エンフィールドの名 Utterson en 名 アターソン( 8.85 読編 ) bargain en 名 取り決め The two neighbors finally struck a bargain over the old fence. その二人の隣人は、古い塀についてついに取り決めをまとめました。 blackmail en 名 ゆすり The frightened clerk paid the stranger to avoid further blackmail threats. 怖くなった事務員は、さらなるゆすりを避けるためにその見知らぬ男にお金を払いました。 bland en 形 人のよさそうな The bland old gentleman greeted every visitor with a gentle smile. その人のよさそうな老紳士は、どの来客にも優しい笑顔で挨拶しました。 capers en 名 はめを外した行い(複数) His youthful capers often left his worried parents shaking their heads. 彼の若い頃のはめを外した行いは、心配する両親をよく困らせました。 cheque en 名 小切手( 8.86 読編 ) The bank refused to cash the old cheque without proper identification. 銀行は、適切な本人確認なしにその古い小切手を現金化することを拒みました。 chimney en 名 煙突 Smoke curled slowly from the tall chimney into the evening sky. 夕方の空に向かって、高い煙突からゆっくりと煙が立ち上っていました。 damnable en 形 いまいましい What a damnable mess this stubborn old machine has made again! この頑固な古い機械が、またいまいましい混乱を引き起こしてしまいました。 deformed en 形 形がゆがんでいる Years of heavy snow had left the wooden fence posts badly deformed. 何年もの重い雪のせいで、木の柵の柱はひどく形がゆがんでしまいました。 deformity en 名 形のゆがみ A childhood injury left a slight deformity in the boy's left hand. 幼い頃のけがのせいで、その少年の左手には少し形のゆがみが残りました。 delicacy en 名 遠慮( 8.84 読編 ) She raised the sensitive family matter with great delicacy and quiet care. 彼女はその家族の微妙な問題を、大きな遠慮と静かな配慮を持って切り出しました。 detestable en 形 いとわしい Everyone at the office found his constant rudeness utterly detestable. 職場の全員が、彼の絶え間ない失礼な態度をまったくいとわしいと感じました。 disliked en 動 きらった The new manager disliked being interrupted while reading the morning report. その新しい部長は、朝の報告書を読んでいる間に話しかけられるのをきらいました。 displeasing en 形 いやな感じの The sudden loud noise from the street was strangely displeasing to everyone. 通りから響いてきた突然の大きな音は、なぜか皆にとっていやな感じのものでした。 drawer en 名 小切手を振り出した人 The clerk asked the drawer to confirm the amount written on it. 係員は、そこに書かれた金額を確認するよう、振り出した人に頼みました。 inexact en 形 正確でない His account of the accident turned out to be somewhat inexact. その事故についての彼の説明は、いくらか正確でないことがわかりました。 inquired en 動 たずねた( 8.81 読編 ) The curious child inquired about the strange noise from the attic. その好奇心旺盛な子供は、屋根裏からの奇妙な音についてたずねました。 musing en 名 もの思い Lost in his quiet musing, he barely noticed the train pulling away. 静かなもの思いにとらわれて、彼は電車が去っていくのにほとんど気づきませんでした。 partakes en 動 〜の性質を帯びる His humor partakes of both gentle wit and quiet, thoughtful sorrow. 彼のユーモアは、優しい機知と静かで思慮深い悲しみの両方の性質を帯びています。 pedantically en 副 きちょうめんすぎるほど The instructor pedantically corrected every tiny error in the student's essay. その講師は、生徒の作文にあるあらゆる小さな誤りをきちょうめんすぎるほど訂正しました。 presently en 副 やがて( 8.73 読編 ) The manager will presently join the meeting to discuss the results. 部長はやがて会議に加わり、結果について話し合うでしょう。 proprieties en 名 作法(複数)。 the pink of the proprieties で「礼儀の鑑」 He always observed the proprieties, greeting every gues