発表と討論 — Epoché
要点 準備は、聞き手・持ち時間・発表の目的を確かめることから始められます。構成と時間配分を先に決めておくと、資料作りも練習も迷いにくくなります。 レジュメは手元に残る要約、スライドは話を助ける図と要点です。1 枚に載せる情報を絞り、後ろの席からも読める大きさと色にし、色だけに頼らないと、より多くの人に届きます。使った資料の出典はスライドにも書きます。 練習は、本番と同じ時間と資料で、声に出して時計を見ながら行う方法がよく勧められます。録音や人に聞いてもらうと、自分では気づきにくい癖が分かります。 質問を受けたら、まず意図を確かめます。答えられる範囲とそうでない範囲を分けて答えてよく、質問が分からなければもう一度言ってもらう方法もあります。 討論では、分からない点を尋ねる、詳しい説明を求める、理由を示して別の見方を出す、という参加のしかたがあります。批判は人ではなく、主張と根拠に向けます。 学会の発表は、学会ごと・大会ごとに時間や資料の決まりが違います。その回の発表要領を読むことから始めると安心です(段階 2 以上)。 こんなときに 来週のゼミで、指定された本の第 3 章を 20 分で報告する担当になった。レジュメに何を書けばよいのか、どこまで自分の意見を入れてよいのか分からない。初めての発表は、多くの人がこうした場面から始まります。 ほかにも、次のような場面でこの文書が役に立ちます。 10 分の発表のスライドを作ったら 25 枚になった。どの画面も文字でびっしり埋まっている。 練習では時間どおりだったのに、本番では早口になり、3 分も余ってしまった。 質疑で質問の意味がつかめず、黙ってしまった。あとで考えると答えられる内容だった。 他の人の発表のあと「質問はありませんか」と言われたが、何を聞けばよいか分からない。反対の意見を言うと失礼にならないかも気になる。 初めての学会でポスター発表をすることになった。ポスターに何をどれだけ載せ、当日どこに立っていればよいのか分からない。 立教大学の学習支援の冊子は、人前で話すのが苦手でも、準備と練習を重ねた発表は聞き手に伝わると説明しています [1] 。この文書では、準備、資料、練習、質疑応答、討論への参加、学会での発表の順に、大学の学習支援の案内がよく勧める方法を紹介します。 準備 — 聞き手と時間を確かめ、構成を先に決める 最初に、誰に向けて、何分で、何のために話すのかを確かめます。そのうえで話の順番と時間配分を決めると、資料に何を載せるかが決めやすくなります。伝えたいことを絞ると、聞き手に伝わりやすくなります。 発表の型と目的を確かめる 立教大学の冊子は、大学の発表を、話題を提供する型、指定された文献などを報告する型、卒業研究などの成果を発表する型に分けています。研究発表の型では発表のあとに質疑応答や議論が続き、報告の型でも質問を受けることがあります [1] 。 確かめておくとよいことは、立教大学・名古屋大学・慶應義塾大学の案内でほぼ共通しています [1][2][3] 。 聞き手は誰で、そのテーマをどのくらい知っているか いちばん伝えたいことは何か、発表の目的は何か 日時と持ち時間、会場と使える機器 個人の発表か、グループの発表か 名古屋大学の案内は、発表と討論の時間がまとめて示されていることがあるので内訳を確かめること、教壇に立って声の通りや文字の見え方を試しておくことも挙げています [2] 。 話の順番を決める 名古屋大学の案内は、構成の基本の形として、「背景と目的→方法→結果と考察→まとめ」と、「問いや仮説→論証→結論」の 2 つを挙げています。授業で指示があればそちらに従います。決まった型があると、話す側も聞く側も内容を理解しやすくなるからです [2] 。 立教大学の冊子は、序論で問題を示して結論を予告し、本論で根拠を示し、結論で序論の問いに答える流れを紹介しています [1] 。慶應義塾大学の案内も、序論で問題を示し、結論で重要な点をふりかえって主張をまとめる形を挙げています [3] 。立命館大学国際関係学部の学習ガイド(IRナビ)は、聞き手が最後まで集中しているとは限らないので、最初に目的と大まかな結論を述べ、最後にもう一度結論を述べるよう勧めています。内容を 3〜5 点に分けて番号で示す方法も挙げています [4] 。問いと主張の立て方は レポートの書き方 で扱います。 時間を配分し、内容を絞る 名古屋大学の案内には、10 分の発表なら、目的と背景に 3 分、方法に 2 分、結果と考察に 4 分、まとめに 1 分、という配分の例があります。調べた順番と聞いて分かりやすい順番は違うことがあり、読むときと聞くときの速さの違いを考えて分量を決めるよう書かれています [2] 。 話す速さの 1 つの目安として、千葉大学の教科書は、原稿を読み上げると 400 字でおよそ 1 分で、講演としては速めだと説明しています。要点はもっとゆっくり話すことも勧めています [5] 。 研究発表の心得をまとめた Bourne の指針(実験の結果ではなく経験に基づく助言)は、伝えたいことを絞るよう勧めています。多くを言おうとすると、大事なメッセージが埋もれ、質疑の時間も削られ、早口にもなるからです [6] 。立教大学の冊子は、パートごとの時間、何を伝えるか、どう伝えるか(強調・繰り返しなど)を書き出す発表メモを紹介しています [1] 。 レジュメとスライド — 役割を分け、誰にでも読める資料にする レジュメは聞き手の手元に残る要約で、スライドは話を目で見て助けるものです。細かい情報は紙に、図や要点は画面に分けると、どちらも詰め込まずに済みます。文字の大きさや色、出典にも気を配ると、より多くの人が読める資料になります。 レジュメ — 目的によって作り方が変わる レジュメは、発表の内容を 1 枚から数枚の紙にまとめて聞き手全員に配るもので、自分用のメモではありません [7] 。立教大学と立命館大学の案内は、目的によって作り方を 2 つに分けています [7][8] 。 レジュメの種類 中心になる中身 指定された文献を読んで報告する 文献の構成に沿って、見出し・主張・根拠・結論を短い文や箇条書きでまとめる 自分で調べた・研究した成果を発表する 問い、先行研究、方法、結論、使った資料と文献の一覧 文献を報告するレジュメでは、文献の要約と、自分のコメント(疑問や意見)を分けて書く方法が勧められています。分けておかないと、どこまでが著者の主張で、どこからが発表者の意見なのか、聞き手に区別がつかなくなるからです [7] 。 冒頭に授業名・日付・発表者・担当箇所を、最後に参考文献や資料の一覧を置く形が紹介されています [7][8] 。立教大学の案内は、枚数が多すぎると説明も理解もかえって難しくなると注意しています [7] 。立命館大学の IRナビは、ページ番号を入れ、メモ用に余白を多めにとることも挙げています [8] 。 ただし、決まった書き方があるわけではありません。立教大学の案内は、ゼミや専門分野によって適した形がある場合があるとし [7] 、立命館大学の IRナビは、授業で作り方や枚数の指示があればそれに従うよう書いています [8] 。担当する文献の読み方は 学術書の読み方 で扱います。 紙と画面の使い分け 名古屋大学の案内は、細かい情報は配付資料に、図表などの目で見る情報はスライドに、と分けるよう勧めています。ページ番号や図表番号を入れると、話と資料の対応がつけやすくなります [2] 。立教大学の冊子も、文献の抜粋など文字が多いときは、印刷した資料が向く場合があるとしています [1] 。W3C は、ウェブの技術の標準を定める国際的な団体です。その団体のアクセシビリティ(障害の有無などにかかわらず誰もが使えること)の資料も、スライドの文字を減らし、追加の情報は配布資料に回すよう勧めています。文字を読みながら話を聞くのは、多くの人にとって難しいからです [9] 。 スライド 1 枚の作り方 1 枚に何分かけるか、文字を何ポイントにするかは、案内によって目安の数字が違い、共通の決まりは見つかりませんでした。 案内 1 枚あたりの時間の目安 そのほかの主な助言 立教大学の冊子 [1] 2〜3 分の説明 遠くから見える文字、短い箇条書き、図表は 1 枚に 1〜2 個、情報を絞る、各スライドに題を付ける 名古屋大学の案内 [10][2] 1 分に 1 枚(長い発表では枚数を減らしてじっくり、短い発表では少し増やしてもよい) 見出しは 36 ポイント以上、本文は 28 ポイント以上 千葉大学の教科書 [5] 教員が 90 分の講義に用意すると 25 枚前後(講義での目安) 文字は 24〜28 ポイント以上、1 枚の話題は 1〜2 つ、色は控えめ、画像は大きく Bourne の指針 [6] 話す時間 1 分あたり 1 枚を超えると多すぎる、という経験則 — 数字には幅がありますが、1 枚の情報を絞るという方向は共通です。千葉大学の教科書は、箇条書きを並べると説明した気になる危険があるとして、項目ごとにスライドを分ける案も示しています [5] 。 見た目については、名古屋大学の案内が、端を揃える、余白で関係する要素をまとめる、見出しと本文の大きさに差をつける、同じデザインを繰り返す、色に意味を持たせる、を挙げています [10] 。慶應義塾大学の案内も、関係する情報をまとめて配置することと、大きさの差で強調することを挙げています [3] 。グラフには縦軸と横軸の量と単位を欠かさず書きます [2] 。グラフの読み方は 図表と統計の読み方 、論文の図表の作り方は 論文の書き方 で扱います。 段階 2 以上。Kosslyn らは、ウェブで公開されていた PowerPoint のスライド 140 本を、心理学の原則から導いた 137 の規則で点検しました。欠陥の無いものは 1 本も無く、学術研究のスライドも、ビジネスなどのスライドと欠陥の多さに違いがありませんでした。すべてのスライドに見られたのは、一度に多くを見せすぎる欠陥と、文字が小さいなど見分けにくい欠陥でした。同じ論文の 48 人の実験では、2 枚のうち原則に沿ったスライドを選ぶ課題で平均 20.5% の誤りがありました。正しく選べた場合でも、6 回に 1 回ほどは理由を説明できませんでした [11] 。よいスライドの原則は、直観だけでは分かりにくいようです。なお、規則の一部は著者自身が経験則だと書いています。 読みやすさとアクセシビリティ W3C の資料は、スライドについて次のような配慮を挙げています [9] 。 会場のいちばん後ろからも読める文字の大きさにする 読みやすい書体(線の太さが一定の書体など)を使う 文字と背景、グラフの色どうしに、明るさの差(コントラスト)を十分につける 部屋の明るさに合わせて背景と文字の色を選ぶ(明るい部屋では明るい背景に暗い文字を勧める人もいる、と紹介) 動きや点滅を控える コントラストについて、W3C の資料は、媒体は違うもののウェブの基準を参考にできるとし、より高い水準の基準の解説を案内しています [9] 。ウェブの基準では、文字と背景の明るさの比(コントラスト比)の最低限が 4.5:1(達成基準 1.4.3)です [12] 。より高い水準は 7:1(達成基準 1.4.6)です [13] 。スライドの規格ではありませんが、色を選ぶときの目安になります。 色だけで情報を伝えないことも、ウェブの基準の 1 つです [14] 。日本眼科医会の冊子(2008 年発行)によると、日本人の先天赤緑色覚異常は男性の 5%(20 人に 1 人)、女性の 0.2% で、決してまれではないとされています [15] 。名古屋大学の案内は、区別しにくい組み合わせの例として、赤と緑、オレンジと黄緑、青と紫、焦げ茶と深緑、グレーとピンクを挙げ、強調の色は目立たせたい所だけに使うよう勧めています [10] 。グラフなら、線の種類や記号を変える、線のそばに名前を書く、といった色以外の手がかりを足せます。 段階 2 以上。Crameri らは、科学の図で広く使われる虹色や赤と緑の配色(数値を色で表すカラーマップ)が、データを歪めて見せ、色覚に特性のある人には読めないことを指摘しています [16] 。グラフや地図の色を選ぶときの参考になります。 スライドとレジュメにも出典を書く 立教大学の冊子は、スライドでもレジュメでも、使った書籍・論文・画像・映像の出典を明記するよう求めています。書かないと、意図がなくても盗用や剽窃とみなされる、という注意です。レポートでは書くのにスライドでは忘れる例が多い、とも書かれています [1] 。インターネットで見つけた画像を使うときは、著作権、肖像権、個人情報に注意が要ります [5] 。 工学分野のゼミで、留学生 3 人の発表の質疑を分析した研究があります。資料の使い方への指摘は、情報の出典が示されていない、主張を裏づける資料が足りない、先行研究の位置づけ方、の 3 つに分けられました。論文は、1 つ目を引用のルールから外れた基本的な問題とし、後の 2 つを研究の価値に関わる問題としています [17] 。出典の書き方と引用の条件は 引用と参考文献 、盗用の全体は 研究公正 で扱います。 話し方と練習 — 本番と同じ条件で、声に出して 練習は、本番と同じ時間・同じ資料で、声に出して行う方法がよく勧められます。まず時間に収まるかを確かめ、次に目線や声の大きさを見直します。発表で緊張するのは誰にでもあることです。 リハーサルで確かめること 立教大学の冊子は、リハーサルを、本番に近い形(同じ制限時間、同じ資料、立つか座るか)で声に出して練習することと説明し、録音や録画、人に聞いてもらうことを勧めています [1] 。名古屋大学の案内は、練習で確かめることを次のように挙げています [2] 。 時間に収まるか。緊張すると早口になることが多いので、時計を見ながら練習する。 「ハンドアウトの 3 ページ目の下の段を」のように、資料のどこを見てほしいかを一言で示せているか。 録画や録音で、自分の話し方の特徴を知る。仲間と聞き合い、意見を出し合う。 名古屋大学の別のページも、本番を想定して何回か練習しておくよう勧