11.51 孟子 告子下 生於憂患、死於安樂 — 天の將に大任を是の人に降さんとするや — Epoché
この篇でできるようになること 六人の出どころと、最初の人だけ違う動詞を示せます。 形容詞や動詞の、させる意味を現代語で表せます。 手立てや目的を述べる語と、個人から国へ移る所を説明できます。 前提 :11.50「禮記 學記 雖有嘉肴」。行ってはじめて知る順を、人の変化と国の話でも追います。 六人を、出てきた所から読む 孟子の告子下篇の終わり近くの章です。まず六人の名と、その人がどこから現れたかを並べます。低い立場にいた所だけを置き、後に重要な役割を担ったこととの落差が見えます。 人 本文の出どころ 意味 舜 畎畝之中 田畑の中 傅說 版築之間 土壁を築く仕事の間 膠鬲 魚鹽之中 魚と塩を扱う所 管夷吾 士 士は獄官のこと。獄(牢)から引き上げられたと取る注が多い 孫叔敖 海 海辺 百里奚 市 市場 傅說 の 說 は yuè と読みます。人物の読みと、何をしていた所から現れたかを合わせて確かめます。 出どころの於は、受け身の印ではない 舜だけが 發於 で、その所から起こったと述べます。他の五人は 舉於 で、引き上げられたと読みます。 於 は、どちらでも出どころを結んでいます。 舉於版築之間 は、土壁を築く所から引き上げられたことです。受け身の意味は 舉 から読み取り、於の後に引き上げた人が書いてあるのではありません。 型編 25課 の 被 を使う現代語へ直すなら、出どころを示す 从 と、受け身を表す字を分けられます。場所から出たことと、人に引き上げられたことの二つを落とさず読みましょう。 於があるから受け身になる、と覚えないでください。この例の後ろは場所です。受け身として読む動詞と、出どころを示す介詞を分けます。 心から体、そして行いへ 故 から、天が大きな務めを人へ下そうとするときの説明へ進みます。六人の例を並べた後、それをまとめる理由として、五つの働きが述べられます。 苦其心志 は心や志を苦しませる、 勞其筋骨 は筋や骨を疲れさせる、 餓其體膚 は体を飢えさせることです。形容詞や動詞そのものが、させるという意味を持っています。 その身を乏しくし、することを思いどおりに運ばなくします。心から体、身、行いへと内から外へ並びます。漢文の側はこの一字の使動用法で、現代語へ直すときに 让 や 使 を置く兼語文と比べます。 型編 27課 の形を使い、現代語では 天让他 …のように、させる側を主語に、苦しむ人を兼語に置きます。 苦しめることを、何に向けるのか 所以動心忍性 では、そうすることで心を動かし、性質をこらえ強くする、と述べます。前に並べた苦しみを、何のための手立てかという方向から言い直しています。書き下しでは「心を動かし性を忍ばしむる所以なり」と読みます。 現代語の 所以 は、だから、と結果へつなぐ接続に使います。ここは、そうすることで、そうするわけは、という手立てや目的です。単に、苦しんだ、だから心が動いた、という結果の順だけにしないようにします。 曾益其所不能 の 曾 は、 增 に通じ、zēng と読みます。できなかったことを増し加えるという目的が続きます。 所不能 は、できないことを一つのまとまりにした形です。 同じ出来事が、壊すための苦しみではなく、できることを増やす手立てとして説明されます。この篇が何を理由としているかを読みます。 所以 を現代語の、だから、だけで置き換えないでください。天が何をするかの後に、そうすることで何を目指すかを述べています。 同じ字を、位置と内容で分ける 行拂亂其所為 の 拂 は fú と読み、さからうことです。後の 拂士 では、 弼 に通じて bì と読む注があり、君を助け、諫める臣を指します。 同じ字でも、一方は行いが妨げられる話、もう一方は国を支える人の話です。字の形だけで同じ動作へ訳さず、何を述べている所かを見ます。 於 も、出どころだけではありません。大任を下す相手、心や思いという場所、顔色や声に現れる所、憂患や安樂という状態を結びます。現代語では 从 ・ 给 ・ 在 などに分けて言う関係を、一つずつ確かめます。 個人から国へ広がる結び 人恆過,然後能改 から個人の変化を述べます。過ちを経て改め、心や思いに行き詰まって立ち上がり、顔色や声に表れてから理解されるという順です。 入則無法家拂士 で、国の内へ話が移ります。内に法を守り諫める臣がなく、外に敵国や外からの憂いがない国は、滅びると述べます。人について言ったことを、国のあり方へ広げています。 最後の本文は 生於憂患而死於安樂也 です。よく知られる八字の形は 生於憂患 、 死於安樂 ですが、本文は接続と結びの字も置いています。本文の句を書くときは、 而 と 也 も落とさずに書きます。 六人、天の働き、個人の変化、国の存亡へと話が広がります。それが最後に、生と死、憂患と安樂の対に収まります。結論だけを先に受け取らず、誰からどこまで話が広がったかを戻って読めます。 語釈 語 品詞 意味 日本語との差 例文 訳 畎畝 名詞 田畑 出どころの場所 畎畝之中 田畑の中 版築 名詞 土を突き固めて壁を築く仕事 抜擢の前の場 版築之間 土壁を築く仕事の間 舉 動詞 引き上げられる ここでは受け身に読む 舉於市 市場から引き上げられる 苦 動詞 苦しませる 形容詞の使動用法 苦其心志 心や志を苦しませる 勞 動詞 疲れさせる 動詞の使動用法 勞其筋骨 筋や骨を疲れさせる 餓 動詞 飢えさせる 動詞の使動用法 餓其體膚 体を飢えさせる 所以 まとまり そうする手立て・わけ だからだけではない 所以動心忍性 そうすることで心を動かし性質を強くする 曾益 動詞 増し加える 曾は增に通じ、zēng と読む 曾益其所不能 できなかったことを増し加える 拂士 名詞 助け諫める臣 拂を弼として読む 入則無法家拂士 国内に法を守り諫める臣がいない 憂患 名詞 憂いと苦しみ 生きる状態を述べる 生於憂患 憂いと苦しみの中で生きる 練習 六人の句の空欄を埋めて書き、出どころを示してください。 舜_於_之中 、 傅說_於_之間 、 膠鬲舉_魚鹽之中 、 管夷吾舉於_ 、 孫叔敖舉於_ 、 百里奚舉於_ 苦其心志 を、天を主語にして、現代語の 让 を使う文にしてください。 勞其筋骨 と 餓其體膚 を、天を主語にして、現代語の 使 を使う二文にしてください。 所以動心忍性 を、現代語の 这样做 と 是为了 を使って言い換え、接続詞の 所以 を使った文も一つ書いて違いを示してください。 拂士 と 行拂亂其所為 の字の読みと意味を答えてください。 個人から国へ話が移る句を示し、最後の一句が何をまとめるか説明してください。 前の課で学んだ語を使い、苦しい時を経て強くなった人を現代語の二文で書いてください。 困难 ・ 失望 、 冷静 ・ 英勇 ・ 优秀 をそれぞれ使います。 音読:次の原文の句を ▶ で聞き、声に出して読んでください。 舜發於畎畝之中,傅說舉於版築之間,膠鬲舉於魚鹽之中,管夷吾舉於士,孫叔敖舉於海,百里奚舉於市。 故天將降大任於是人也,必先苦其心志,勞其筋骨,餓其體膚,空乏其身,行拂亂其所為,所以動心忍性,曾益其所不能。 然後知生於憂患而死於安樂也。 ▶ の手本を聞いて音読します。六人は同じ調子で続け、天の五つの働きはだんだん強く、最後は生と死の二つに分けてゆっくり読みます。 この篇のまとめ 六人の出どころを読み、天が働きかける五つの句と、その目的を分けました。於や拂を内容で読み分け、個人の変化から国の存亡へ広がる結びを捉えます。 次の篇へ 次の11.52では孟子の告子上から魚我所欲也を読みます。魚と熊の掌の選択を命と義へ重ね、望むものと嫌うものを対にする論を確かめます。 答え 舜發於畎畝之中 、 傅說舉於版築之間 、 膠鬲舉於魚鹽之中 、 管夷吾舉於士 、 孫叔敖舉於海 、 百里奚舉於市 。順に、田畑、土壁を築く場、魚と塩を扱う場、獄官のもと(獄から引き上げられたと取る注が多い)、海辺、市場です。 上天让他的心很痛苦。 上天使他的筋骨疲劳。 上天使他挨饿。 这样做是为了让他更坚强。 他很努力,所以进步了。 前者はする目的、後者は原因を受けた結果を述べます。 前者は bì で助ける、後者は fú でさからう、という意味です。 入則無法家拂士 から国の話へ移ります。最後は個人と国の話を、生と死、憂患と安樂の対でまとめます。 困难让他很失望。 可是困难使他冷静、英勇、优秀。 参考文献 孟子『孟子 告子下』。パブリックドメイン(著者没後70年経過)。本文は抄。 出所: 当館所蔵の文書