7.1 返り読みをやめる — スラッシュ・リーディング I — Epoché
この課でできるようになること 英文に意味の塊の切れ目(スラッシュ)を、五つの規則で入れられる。 切った塊を前から順に受け取り、文の終わりまで行って先頭に戻らないで読める。 切りすぎ・切らなすぎを自分で見つけて直せる。 読 A の第 1 篇を、塊で切ったまま音読できる。 前提 : 3.8 まで。 英語の一文は、一つのかたまりで意味を持っているわけではありません。いくつかの 意味の塊 が並んでできています。この塊のことをチャンクと呼びます。話し手も書き手も塊で作っていて、話すときには塊と塊のあいだにわずかな間が入ります。つまり切れ目はもともと英文の側にあるもので、読み手が勝手に決めるものではありません。この課でやるのは、その切れ目を 目に見えるようにする ことです。印には斜線を使います。斜線を入れて読むやり方をスラッシュ・リーディングと呼びます。 そして、切った塊を切った順のまま受け取る読み方を 直読 と言います。直読ができると、読む速さが上がるだけでなく、 聞くことが初めて可能になります 。音は前から順に消えていくので、戻ることが物理的にできないからです。読むときに戻る癖が残っている限り、聞き取りはいつまでも別の能力のままです。この課は読みの課の顔をしていますが、実は聞きの土台でもあります。 なぜ訳す(訳さない)か この編の名前は訳ですが、最初の二課で教えるのは 訳さないこと です。順序が逆に見えるかもしれないので、先にこの編の立場をはっきりさせておきます。 訳が要る場面は確かにあります。英語を読めない人に中身を渡すとき、学術の術語を日本語に固定するとき、契約や仕様のように一語のずれが責任に変わるとき——こういうときは訳文という 成果物 が必要で、それは 7.5 から先で扱います。けれども、自分が読んで分かるために訳文を作る必要はありません。日本語を読むときに私たちは訳していません。分かるだけです。訳文を作る手つきと読んで分かる手つきは、まったく別のものです。 この二つを取り違えると起きるのが 返り読み です。文の終わりまで目を走らせ、後ろから前へ日本語の語順に組み直しながら意味を取る読み方のことで、学校で「後ろから訳し上げる」と教わった手順をそのまま読みに使うとこうなります。代償は三つあります。一つめ、文が長くなるほど目の往復が増え、最後の語にたどり着くまで一語も理解できません。二つめ、音では戻れないので、聞き取りにまったく使えません。三つめ、組み直しているあいだ、内容ではなく語順のことを考えています。読んだのに何が書いてあったか残らないのは、たいていこれが原因です。この語をこの課で使うのはここまでにします。以下では「戻って読む」と言い換えます。 手順 手順は三つです。 切る・置く・消す 。まず英文に斜線を入れて塊に切ります。次に塊ごとに前から意味を受け取ります。慣れたら斜線を消して、同じ切り方を頭の中だけでやります。この課で扱うのは一つめの「切る」で、二つめの「置く」は次の課、三つめの「消す」は第 2 期の 7.4 まで持ち越します。順に一つずつ身につけるのが速く、三つ同時にやると全部が中途半端になります。 切れ目の規則は五つあります。五つとも、3.8 までに置いてきた型がそのまま目印になっています。つまりこれは新しい知識ではなく、 既に知っている型を読む側から見直したもの です。まず池の実文で五つを一度に見てください。 英文 日本語訳 見るところ The lights in the room went out. [1] 部屋の電気が消えてしまいました。 前置詞 in の前で切れる。主語は The lights の 2 語 I ran because I was late for school. [2] 私は学校に遅れたので走った。 接続詞 because の前で切れる。その後ろにもう一つ前置詞の切れ目 The people who live there are our friends. [3] そこに住んでいる人々は私たちの友人です。 関係詞 who の前で切れる。切ったあとに主語が終わる I have many things to do. [4] 私はするべきことがたくさんある。 不定詞 to の前で切れる。名詞にかかる説明が後ろから来る The number of cars driven in the city has increased. [5] 市内を走る自動車の数が増えた。 主語が 8 語。動詞の直前で切ると、そこまでが一つの塊になる 規則 1 — 前置詞の前で切る いちばん数が多い切れ目です。 in ・ on ・ at ・ with ・ for ・ from ・ about ・ of のような語が来たら、その手前に斜線を入れます。前置詞は「ここから先は付け足しです」という合図で、前置詞のところで一度切っても、それまでに受け取った意味は壊れません。 The lights in the room went out. [1] なら、「明かりが」で一つ、「部屋の中の」で一つ、「消えた」で一つです。何の明かりかは、後から絞られれば足ります。一つだけ例外があって、前置詞の句が 文の頭 に来たときは、その手前に何も無いので、句の 後ろ で切ります。 規則 2 — 接続詞の前で切る 二つめは接続詞です。 and ・ but ・ so ・ when ・ because ・ if ・ that が来たら手前で切ります。 I ran because I was late for school. [2] は、「走った」で一区切り、「遅れたから」で一区切り、「学校に」で一区切りです。 ただし条件が一つあります。 文と文をつなぐ接続詞だけ を目印にしてください。語と語をつなぐ and まで切ると、塊が細かくなりすぎます。見分け方は簡単で、その and の後ろに主語と動詞が続くかどうかです。続けば文と文、続かなければ語と語です。なお when のように文の頭に立つ接続詞は、その塊の終わりに読点が置かれることが多く、 When I was a child, I played with my friends every day. [6] のように読点そのものが切れ目の印になります。 規則 3 — 関係詞の前で切る 三つめは関係詞です。 who ・ which ・ that が 名詞のすぐ後ろ に来たら、その手前で切ります。 The people who live there are our friends. [3] なら「その人たちは」で切り、「そこに住んでいる」で切り、「私たちの友人です」で終わります。 関係詞そのものは 3.13 で正面から扱うので、いまは名前だけで足ります。切るために要るのは、この三語が名詞の直後に来ているかどうかを見るだけだからです。本編は 3.13 型編 にあります。覚えておくと得なことが一つあって、英語では関係詞が省かれることがあります。名詞の後ろにいきなり 主語と動詞 が続いていたら、そこも同じ切れ目です。省略されていても切る場所は変わりません。 規則 4 — 不定詞の前で切る 四つめは to と動詞の組です。 I have many things to do. [4] なら「たくさんある」で切って「するべきことが」を受け取ります。 I want something to eat. [7] も同じで、「何かがほしい」の後ろに「食べるための」が来ます。この形が名詞の後ろに付いて、その名詞についてこれからすることを言うのは 3.8 に置いたとおりです。読む側から見ると、名詞を先に受け取ってから説明が来るので、 切って前から取るのがいちばん楽な順 になっています。 ここで一つ注意があります。 to は前置詞でもあるので、後ろが名詞なら規則 1、動詞なら規則 4 です。ただし 切る場所はどちらでも同じ なので、読むだけなら見分けを間違えても実害はありません。 規則 5 — 長い主語の後で切る 五つめだけは、目印が語ではなく 長さ です。主語が三語を超えたら、動詞の直前で一度切ります。 The number of cars driven in the city has increased. [5] の主語は 8 語あり、そこまでを一つの塊として受け取ってから動詞に進みます。 The man walking over there is our teacher. [8] も同じで、主語の終わりが切れ目です。 なぜ主語だけ特別扱いするのか。英語は主語の後ろに説明をいくらでも足せる言語で(3.8 に置いた向きです)、その結果、動詞にたどり着くまでに何語も待たされ、待たされているあいだに読み手は「これは何の話だったか」を見失います。動詞の直前で一度切ると、 主語のかたまりに名前を付けてから動詞に進む ことができます。規則 5 の切れ目が規則 1 から 4 の切れ目とよく重なるのは、主語が長くなる原因がたいてい前置詞句・関係詞・不定詞だからです。 切りすぎない — 三つの目安 規則を覚えたばかりのころは、切りすぎるほうがよく起きます。目安を三つ置きます。一つめ、 一つの塊は二語から六語 。一語ずつになったら切りすぎ、十語を超えたら切らなすぎです。二つめ、 塊の中で息が切れないこと 。声に出したときに一息で言えない長さなら、まだ切れます。三つめ、 塊だけで意味の芯があること 。「その/人たち」のように切ると、どちらの側にも芯が残りません。 それから、五語以下の文はもともと一つの塊なので切らなくてかまいません。斜線は読むための道具であって、正解のある作業ではありません。同じ文を二通りに切れることもあります。 前から受け取れているなら、その切り方で正しい と考えてください。 実例 ここからは読 A の第 1 篇「 A Small Day 」を使います。本を売る店で働く二十歳の青年の、ある一日を書いた八段落・二百五十語ほどの文章で、この課程のために第 1 期の語と型だけで書かれています。篇そのものは 8.1 読編 にあります。ここではその英文を先に借りて切ってみます。 まず短い文から。 The shop closes at seven. [9] は五語なので切りません。一つの塊のまま受け取ります。次に少し伸ばします。 I work / in a book shop / near my house. [9] は、規則 1 が二回働いて三つの塊になります。「わたしは働いている」「本屋で」「家の近くの」——絞り込みが後から二回来ています。 接続詞のある文も見ます。 I do not understand every word, / but I go on. [9] は、 but の後ろに主語と動詞が続くので、文と文をつなぐ接続詞です。ここで切ります。一方、 There are always children, and cars, and people going by. [9] の and は語と語をつないでいるだけなので切りません。同じ語でも働きが違えば扱いが変わります。 最後に、この篇でいちばん長い形の一つを塊に割ってみます。下の表は、左に英語の塊、右にそこで受け取る中身を並べたものです。右の欄は訳文ではありません。訳文にすると順を入れ替えたくなるので、ここでは 受け取った順のまま 書いてあります。 英語の塊 そこで受け取る中身 When someone asks だれかが聞いてくる about a book I know, 自分の知っている本のことを I can talk わたしは話せる for a long time. 長いあいだ 三つの切れ目を作っているのは、前置詞・読点・前置詞です。頭の When は文の先頭にあるので切れ目にはなりません。二つめの塊の中には関係詞が省かれた形が入っていますが、省略されていても切る場所は変わりません。この四行を上から順に読んで意味が通るなら、直読ができています。通らないと感じたら、たいていは右の欄を日本語らしくしようとしています。日本語らしさは訳文の仕事です。 ついでに気づいてほしいことが一つあります。この篇には規則 5 の出番がほとんどありません。主語がどれも一語か二語だからです。第 1 期の読み物が読みやすいのは語が易しいからだけではなく、 主語が短い からでもあります。主語が伸びはじめるのは第 2 期の読 B からで、そのとき規則 5 が効いてきます。 やってみる 同じ篇の第 4 段落を、自分で切ってみてください。三文あります。 At one I stop and eat. [9] Then I sit outside for a few minutes and watch the street. [9] There are always children, and cars, and people going by. [9] 紙に写して斜線を入れても、画面の上で指を置いてもかまいません。入れ終わったら塊ごとに区切って声に出して読み、斜線のところで わずかに間を置いて ください。間を置けない場所があったら、そこは切りすぎです。考え方は下の「答え」の一つめにあります。数が違っても、前から受け取れているなら直す必要はありません。 練習 「手順」の 5 文に自分で切れ目を決めてから、行を押して音を聞き、続けて 音読 する。決めた切れ目で必ず一度、わずかに間を置くこと。3 周する。3 周目は音声に重ねて シャドーイング し、自分の間の置き方が話し手の間と合っているかを確かめる。合っていなければ、切り方のほうを話し手に合わせる。 次の 5 文それぞれについて、切れ目が どの規則 によるものかを日本語で答える。答えは規則の番号(1 から 5)で書く。一文に二つ以上ある場合は全部挙げる。① The lights in the room went out. [1] ② I ran because I was late for school. [2] ③ The people who live there are our friends. [3] ④ I have many things to do. [4] ⑤ The number of cars drive