3.4 代名詞と所有・指示・不定 — Epoché
この課でできるようになること 同じ人・同じ物を二度目に言うとき、日本語のように省かず、英語では短い語に置き換えられる。 所有の形・目的の席の形・名詞ごと引き受ける形・自分自身を指す形の四つを、席で選び分けられる。 名前の分からない人や物を something ・ someone ・ nothing で指し、形容詞をその後ろに置ける。 each other を足す場面と足さない場面を区別し、日本語の「お互いに」をそのまま貼らない。 前提 : 3.3 まで。 英語で同じ人や物を二度目に言うとき、何が起きるかを考えてみます。日本語なら、二度目は何も言いません。「田中さんに会いました。元気そうでした。」——二文目に主語はありませんが、誰のことか迷う人はいません。英語ではこれができません。主語の席も目的語の席も、空けたままにすると文が立たないからです。そこで英語は、省く代わりに 短い語を置きます 。それが代名詞です。つまり代名詞は「同じ語を繰り返さなくて済む便利な省略」ではありません。 省略できないことの埋め合わせ です。この見方を最初に入れておくと、この課の道具がばらばらの暗記項目ではなく、一つの仕組みの枝分かれとして見えてきます。 枝は五つあります。名詞の前に置いて「誰のか」を言う形、動詞や前置詞の後ろの席に立つ形、「誰の」と名詞をまとめて一語で引き受ける形、主語と同じ人をもう一度指す形、そして名前が分からない相手を指す形です。最後にもう一つ、名詞そのものを別の短い語で立て直す仕掛けを足します。「これ・それ・あれ」に当たる指し示す語は 3.1 型編 で立てたので、ここではその続きだけを扱います。 例文で見る まず 10 文を見ます。英文の側では、 短い語がどの席に立っているか だけを見てください。そのあと訳を読むと、日本語の側では同じ役目を果たす語が 消えているか、形を変えている ことが分かります。この落差が、この課で埋めるものです。 英文 日本語訳 見るところ He took his book. [1] 彼は自分の本を手に取った。 所有の形。日本語の「自分の」に当たる I helped her. [2] 彼女のお手伝いをしました。 目的の席。訳に「私は」が無い My house is like yours. [3] 私の家は、君の家と似ている。 「君の家」を一語で引き受けている He did it by himself. [4] 彼が自分でやった。 主語と同じ人をもう一度指す形 I want something new. [5] 何か新しいものがほしい。 形容詞が名詞の 後ろ に来ている Show me the other ones. [6] 他のを見せてください。 前に出た名詞の代わりに立つ語 None of them are mine. [7] 私の物はないよ。 none は「その中に一つも無い」 They helped each other. [8] 彼らはお互いに助け合いました。 each other は副詞ではなく目的語 We helped one another. [9] 私たちは互いに助け合った。 同じ意味で、少し改まった言い方 Be kind to others. [10] 他人に親切にしなさい。 「自分以外の人たち」をひとまとめに 10 文に出てきた短い語は、どれも「もう分かっている何か」を指しています。指す相手と、立つ席。この二つが決まれば形が決まります。 骨組み この課の規則は一つです。 二度目からは短い語に置き換える。ただし席は空けない。 日本語を先に思い浮かべてから英語にしようとすると、日本語の側に何も無いので、置き換えるべきものが見つからず、席が空いたまま文が出ていきます。 先に席をいくつ埋めるかを決め、それから何を置くかを決める ——逆の順です。 席が三つあり、形も三つある 人を指す語は、立つ席によって形が変わります。主語の席、動詞や前置詞の後ろの席、そして名詞の前に付いて「誰のか」を言う位置。この三つです。主語の席と目的の席の対は 3.1 型編 で表にしました。ここで足すのは 三つめ ——名詞の前に置く形です。 He took his book. [1] の his がそれで、「彼の」に当たります。ここで日本語の訳を見てください。「自分の本」となっています。 日本語の「自分の」は、主語と同じ人に限られます。英語の his はそこまで限りません。この一文だけを取り出すと、 彼自身の本 とも 別の男性の本 とも読めます。どちらかは前後の文脈が決めます。英語の側にはその限定が入っていない——この一点だけ覚えておいてください。読むときに効きます。 名詞ごと引き受ける形 「誰のか」を言う形には、もう一つの姿があります。後ろに名詞を置かず、 「誰の」と名詞をまとめて一語で引き受ける 形です。 My house is like yours. [3] を見てください。日本語訳は「私の家は、君の家と似ている」で、「家」が二回出ています。英語は二回目を yours の一語で済ませました。これが所有代名詞で、 mine ・ yours ・ hers ・ ours ・ theirs があります。 使いどころは決まっています。 どの名詞のことかが、もう場に出ている ときです。 Which one is mine? [11] のように問い、 This is mine. [12] のように答える。この往復のあいだ、「どれ」に当たる名詞は一度も言われていません。日本語なら「私の」で足りるところなので、感覚は近いはずです。難しいのは形のほうで、 my と mine のように別の語になっています。 主語と同じ人をもう一度指す 主語と同じ人が、もう一度その文の中に出てくることがあります。このとき英語は、目的の席の形をそのまま使いません。 自分自身を指す専用の形 に替えます。 He did it by himself. [4] の himself がそれで、 myself ・ yourself ・ herself ・ ourselves ・ themselves と並びます。 この形には二つの働きがあります。一つは、動詞や前置詞の後ろで 主語と同じ人だと示す 働き。 They enjoyed themselves. [13] の訳は「彼らは楽しかった」で、日本語には目的語がありませんが、英語では「彼らが彼ら自身を楽しませた」という形になっています。もう一つは、 「ほかの誰でもなく」と念を押す 働きです。 They didn't know it themselves. [14] の訳が「彼ら自身も」となっているのがそれで、この使い方のときは文から外しても文は立ちます。 名前を言わずに指す 指したい相手の名前が分からないこともあります。そのために英語は、「ある」「どれでも」「無い」「全部」に当たる語と、「もの」「人」に当たる語をくっつけた一語を持っています。 something ・ anything ・ nothing ・ everything 、そして人なら someone ・ everyone です。 I know nothing. [15] と Is someone here? [16] のように、これ一語で主語にも目的語にもなります。 ここで一つだけ、日本語と 並びが逆になる ところがあります。この種の語に説明を足すとき、説明は 後ろ に付きます。 I want something new. [5] が「何か新しいもの」で、 Something important has come up. [17] が「大切な急用」です。日本語は「新しい何か」と前に置きますから、順がそのまま入れ替わります。 この形だけは前に置けない という一点を握っておいてください。 名詞そのものを立て直す語 最後の枝です。人ではなく 名詞の中身 を短い語で立て直す仕掛けがあります。同じ種類のものをもう一つ言うとき、英語は名詞を繰り返さずに one を置きます。複数なら ones です。 Show me the other ones. [6] の訳は「他のを見せてください」で、「もの」に当たる語は日本語にも出ていません。この one は数の「一」ではなく、名詞の代わりに立つ支柱です。指し示す語と組んで this one ・ the other one のようにも使えます。 集まりの中を分ける語も同じ仲間です。二つのうちの残りが the other 、自分たち以外が others 、一つも無いことが none です。 None of them are mine. [7] と The other one is no good. [18] を並べて読むと、どちらも「もう出ている集まり」を前提にしています。分け方の細かいところは 3.32 に置いてあります。 日本語ならどう言うか 同じところから入ります。日本語にも人を指す語はあり、「彼」「彼女」「自分」は英語の語と役目が重なります。「これ・それ・あれ」も同じで、指し示す語の距離の違いは英語にもあります。その表は 3.1 型編 にあります。 指す語を持っていること自体 は日本語話者にとって新しくありません。ずれるのは三つです。省けるかどうか、「お互いに」の品詞、そして説明の並びです。 主語も目的語も省かない いちばん大きいのはここです。日本語は主語を省きます。それだけでなく、 目的語も省きます 。池の訳を見てください。 I have one. [19] の訳は「持っています。」で、「私は」も「それを」もありません。英語の側には二つとも語として立っています。 I helped her. [2] の訳も「彼女のお手伝いをしました。」で、主語がありません。日本語の文をそのまま英語に移そうとすると、置くべき語が原文に見当たらないので、席が空きます。 対策は 3.1 型編 で立てた手順の続きです。 誰がするのかを自分に訊いたら、次に「何を」も訊く。 二つとも答えが出てから英文を組み始めてください。答えが日本語に書かれていなくてかまいません。そして出てきた答えが、二度目からはこの課の短い語に置き換わります。つまり 代名詞が使えるかどうかは、席を埋める習慣があるかどうかで決まります 。 「お互いに」は副詞、 each other は目的語 日本語話者の英語で、はっきり 使いすぎ と測られている語があります。 each other です。母語話者が百万語あたり 168 回のところ、中級の学習者は 407 回使っていました [20] 。倍以上です。原因は品詞の取り違えにあります。日本語の「お互いに」は 副詞 で、動詞の前にいくらでも置けます。英語の each other は 目的語 で、置ける席は一つしかありません。 だから二つのことが同時に起こります。一つめ。目的語を取らない動詞に付けてしまう誤りです。「話す」に当たる動詞は、相手を出すなら前置詞が要ります。 We talked to each other for a while. [21] や They are talking with each other. [22] のように、英語は必ず前置詞を挟んでいます。二つめ。動詞にすでに相互の意味が入っているとき、母語話者は足しません。「会う」「知り合う」「結婚する」のような動詞は、それだけで二人のあいだの出来事を表しています。 足しても間違いにはなりません。 Do you know each other? [23] は実際に使われている文です。そうではなく、 足さなくても同じ意味になる場面で毎回足している のが実測に出ている姿です。直し方は簡単で、 each other を消してみて意味が変わらなければ消す、それだけです。なお one another はほぼ同じ意味で、少し改まった響きがあります。 説明は後ろに付く 三つめのずれは並びです。名前を言わずに指す語に説明を足すとき、日本語は「新しい何か」と前に置き、英語は後ろに置きます。 We want something new. [24] も I learned something new today. [25] も、説明の語が後ろにあります。英語が 名詞を後ろから説明する のはここに限りません。前置詞の句も、動詞から作った形も、関係詞も、全部後ろに付きます。3.8 でその全体を扱うので、この課では 説明が後ろから来ることがある という感覚だけを入れておきます。 丁寧さの段 頼みごとの丁寧さは、動詞の形だけで決まるのではありません。 誰を主語に立て、誰を目的の席に置くか でも動きます。命令文が母語話者の 2.5 倍という癖は 3.2 の主題でしたが、その癖は代名詞の置き方にも出ます。次の四つを、段の低いほうから並べます。どれも目的の席に me が入っている点は同じで、違うのは主語の側です。 丁寧さ 英文 代名詞の置き方 命令文 Show me the other ones. [6] 相手を言わず、目的の席だけを置く can Can you show me the way? [26] 相手を主語に立てて、できるかを訊く could Could you show me another one? [27] 同じ問いを一段下げる would Would you tell me the way? [28] いちばん遠い相手・改まった場で 上から下へ、相手との距離が開きます。命令文には主語がありません。つまり 相手を文の中に登場させないまま動かしている ことになります。これが日本語話者の英語がぶっきらぼうに響く理由の一つです。二段目から下は、相手が主語として文の中に立っています。 さらに上に、もう一つの手があります。 主語を自分に移して、頼みごとを申し出に変える のです。 Would you like me to help you? [29] がその形で、訳は「私がお手伝いいたしましょうか」。相手に何かをさせる文から、自分が何かをする文へ入れ替わっています。この形の作り方は 3.10 で扱います。 よくある誤り 三つ挙げます。どれも「日本語の側に語が無かったので、英語でも置かなかった」か、「日本語の語をそのまま貼った」形をしています。下の誤文は E