2.1 格は助詞である — 6 つの格と第 1 変化 — Epoché
この課でできるようになること 6 つの格を、日本語の助詞との対応で言える。 第 1 変化名詞の単数・複数 12 の形を、 puella で言える。 文の中の名詞の語尾を見て、どの助詞に当たるかを読み取れる。 前提 : 1.4 まで。 形編「形」に入ります。ラテン語の本体です。名詞は文の中での役割——主語か、目的語か、所有者か——を 語尾を変えて 示します。英語は語順で示し( the girl sees the rose と the rose sees the girl は語順だけが違う)、日本語は助詞で示します(「少女が薔薇を」「薔薇を少女が」はどちらも同じ意味)。ラテン語は 日本語の側 です。「少女が」の「が」を語尾 -a に、「少女を」の「を」を -am に置き換えれば、それがラテン語の名詞です。 だからこの課程では、格の名(主格・属格…)を 助詞に翻訳して 覚えます。「対格とは何か」を説明する代わりに「対格=を」と言う。ドイツ語課程も同じ方法を採り、日本語話者にはこれが一番速い。まず対応表を配ります。 6 つの格 = 6 つの助詞 格の名 助詞 働き 主格 〜が・〜は 主語。辞書の見出しの形 属格 〜の 所有・所属。「少女の薔薇」 与格 〜に 与える相手・利害の相手。「少女に与える」 対格 〜を 直接目的語。「少女を見る」。方向「〜へ」も(前置詞と) 奪格 〜で・〜から・〜より 手段・場所・時・分離・比較。いちばん働きが多い(型編で 8 用法) 呼格 〜よ 呼びかけ。ほとんど主格と同じ形 日本語の助詞と一対一ではない格が一つあります。 奪格 です。「で」「から」「より」「において」をまとめて引き受けるので、文脈で訳し分けます。逆に日本語の「へ」に当たる格は無く、対格を前置詞 ad ・ in と組ませて作ります。この二つの非対称は型編の最初の課で扱います。いまは対応表を頭に入れてください。 ★ 与格・奪格の複数はいつも同じ形 、 中性の主格と対格はいつも同じ形 、 呼格は第 2 変化の -us 以外は主格と同じ 。この三つの「いつも」を先に知っておくと、覚える形が 12 から 8 に減ります。 表 — 第 1 変化( -a で終わる名詞、ほとんど女性) 辞書の見出しが -a 、属格が -ae で終わる名詞を第 1 変化と呼びます。 puella (少女)・ via (道)・ terra (土地)・ vīta (生命)——第 0・1 編で出た語の多くがここに入ります。ほとんどが女性名詞で、例外は職業を表す語( nauta 船乗り・ poēta 詩人・ agricola 農夫)だけ男性です。 第 1 変化 — puella , puellae f.(少女) 格(助詞) 単数 複数 主格(〜が) puella puellae 属格(〜の) puellae puellārum 与格(〜に) puellae puellīs 対格(〜を) puellam puellās 奪格(〜で/〜から) puellā puellīs 呼格(〜よ) puella puellae 見てほしいところが三つ。① 主格と奪格の単数は a の長短だけが違う ( puella / puellā )。 音編 2課 で「語末の母音を落とすな」と言った理由がここにあります。②属格単数と与格単数と主格複数が同じ -ae 。文脈で決めます(動詞の数と、前後の語で)。③与格・奪格の複数 -īs は同じ。 もう一つ、 via でも同じ語尾になることを確かめてください。第 1 変化は 一つの表を覚えれば全部の語に使える ——これがラテン語の名詞の良いところで、5 つの表で 1,000 語を賄えます。 同じ語尾で — via , viae f.(道) 格(助詞) 単数 複数 主格(〜が) via viae 属格(〜の) viae viārum 与格(〜に) viae viīs 対格(〜を) viam viās 奪格(〜で/〜から) viā viīs 呼格(〜よ) via viae 読み方 — 語尾の長短と強勢 表を声に出すときの注意を三つ。①奪格単数の -ā は長い——「プエッラー」。主格 puella との違いは最後の 1 拍だけです。② -ae は二重母音でアイ( 音編 3課 )。「プエッライ」。③属格複数 -ārum は ā が長いので強勢が動きます: pu-el-LĀ-rum 。与格・奪格複数 -īs も長い ī で「プエッリース」。強勢はどの形でも 0.4 の規則どおりで、 pu-EL-la ( ll が音節を閉じる)は動きません。 音声を再生して表を聞き、隠して復唱してください。語尾の母音を 最後まで言い切る ことが、この編全体で一番大事な口の癖です。 頻出語で通す — 実文で語尾を読む ウルガタとセネカの短い文で、第 1 変化の語尾を見つけてください。主格(〜が)か、属格(〜の)か、奪格(〜で)か。 原文 日本語訳 見るところ Bona est via tua: [1] あなたの道は良い。 via 主格(道が)。 tua も -a で一致( 形編 3課 ) mea est enim omnis terra: [2] 全地は私のものだから。 terra 主格。 omnis は第 3 変化の形容詞( 形編 5課 ) Multus est populus terræ: [3] この地の民は多い。 terræ = terrae 属格 (地の) Fit via vi. [4] 道は力で開かれる。 via 主格・ vī は奪格(力で。 vīs の不規則な形) Haec poena apud eos est gravissima. [5] この罰は彼らのもとで最も重い。 poena 主格。 haec (この)が一致 5 文のうち 4 文が主格でした。第 1 期の読み物ではまず主格と属格と対格が出て、奪格は前置詞つきで出ます。 語尾を見る癖 をここで作ってください。語順で役割を決めようとすると(英語の癖)、ラテン語は読めません。 日本語話者にとって — 助詞が語尾になっただけ 正直に言うと、この編は課程の中でいちばん覚える量が多い。名詞だけで 5 つの表、形容詞と代名詞でさらに数枚、動詞は 4 活用。しかし日本語話者には二つの利点があります。一つは 「役割を印で示す」発想が同じ こと。英語話者は「語順でなく印で示す」という考え方自体に慣れる段階が要りますが、日本語話者にはその段階がありません。助詞が語尾に化けた、と考えれば済みます。もう一つは 語順の自由に戸惑わない こと。「少女が薔薇を見る」も「薔薇を少女が見る」も通じる日本語の感覚は、そのままラテン語に使えます。 難しいのは、日本語の助詞が名詞の 後ろに付く のに対し、ラテン語の語尾は名詞の 一部になって いることです。「少女」という語そのものは変わらないのに、 puell- の後ろが -a / -ae / -am と変わる。語幹(変わらない部分 puell- )と語尾(変わる部分)を分けて見る目を、この編で作ります。第 3 変化( 形編 4課 )では語幹が主格から見えなくなるので、この目がいっそう要ります。 新出語 語(品詞) 意味 注 puella la 名詞・第 1 変化・女性( -ae ) 少女 日本語との差 第 1 変化の見本の語。 puer (少年)は第 2 変化 Ecce illa parva puella a sene agitatur! [6] 見て、その若い女性は老人に追いかけられる! Puella, de qua tibi locutus sum, Kiotii habitat. [7] 私が君に話した女の子は京都に住んでいる。 via la 名詞・第 1 変化・女性( -ae ) 道、方法 日本語との差 英語 via ・ way とは別語源。 Via Appia Fit via vi. 道は力で開かれる。 Ignosce. A via aberravi. [8] すみません、道に迷ってしまいました。 poena la 名詞・第 1 変化・女性( -ae ) 罰、償い 日本語との差 英語 penalty ・ pain 。ギリシア語から Haec poena apud eos est gravissima. この罰は彼らのもとで最も重い。 Thomas a rege poena liberatus est. [9] トマスは王から罰を免じられた。 grātia la 名詞・第 1 変化・女性( -ae ) 好意、感謝、恵み 日本語との差 英語 grace 。 grātiās agere =感謝する Gratias tibi ago. [10] どうもありがとうございます! Gratias tibi ago ex imo corde. [11] 心の底からお礼を申し上げます。 patria la 名詞・第 1 変化・女性( -ae ) 祖国 日本語との差 pater から。英語 patriot Ubi bene, ibi patria. [12] 住めば都。 fīlia la 名詞・第 1 変化・女性( -ae ) 娘 日本語との差 与格・奪格複数は fīliābus (息子と区別) Filia mea est. [13] これは娘です。 Filia sua ab ea rapta est. [14] 彼女の子どもは彼女から奪われた。 rosa la 名詞・第 1 変化・女性( -ae ) 薔薇 日本語との差 英語 rose 。教科書の定番の語 Sumite ceteras rosas easque in aqua ponite! [15] 残りのバラを水に入れてください! Rosae vere florent. [16] バラは春に咲きます。 epistula la 名詞・第 1 変化・女性( -ae ) 手紙 日本語との差 英語 epistle 。セネカ『道徳書簡』の「書簡」 Rogavi eam ut describeret epistulam quater. [17] 私は彼女にその手紙を四部書き写すよう頼んだ。 porta la 名詞・第 1 変化・女性( -ae ) 門 日本語との差 英語 port ・ portal nauta la 名詞・第 1 変化・ 男性 ( -ae ) 船乗り 日本語との差 -a で終わるが男性。形容詞は男性形で一致 Multi ex huius regionis incolis nautae sunt. [18] この地方の住民の多くは船乗りです。 格の並べ方と、覚え方 この課程は格を 主・属・与・対・奪・呼 の順に並べます。日本の辞書と教科書の順です。英米の教科書は主・呼・対・属・与・奪の順で並べ、似た形(主格と呼格、属格と与格)を隣り合わせにします。どちらでも中身は同じですが、他の教材と表の順が違うと混乱するので、この課程は日本の順を採り、辞書(田中秀央・水谷智洋)と合わせました。 覚え方は 声に出して縦に読む —— puella, puellae, puellae, puellam, puellā, puella 。6 つを一息で言えるようになると、文の中で puellam を見た瞬間に「4 番目、を」と出ます。ラテン語の教室が二千年間この方法を使ってきたのは、それがいちばん速いからです。音編の音読の型(隠して復唱)を、表にも使ってください。 練習 練習 1 — 格を助詞に 次の形を、助詞つきの日本語に直してください( rosa 薔薇)。 rosam rosae rosā rosārum rosīs rosās 練習 2 — 助詞を格に 次の日本語を、 puella の形にしてください。 少女を(単数) 少女の(複数) 少女に(単数) 少女で(複数) 少女たちが 練習 3 — 本文を隠して復唱する 上の 5 文を 3 段で読んでください。語末の -a と -ae をはっきり。 terrae は「テッライ」。 この課のまとめ 格=助詞: 主格が・属格の・与格に・対格を・奪格で/から・呼格よ。 奪格だけ多義 。 第 1 変化( -a , -ae )は puella の表 1 枚で全部の語に使える。 主格と奪格単数は a の長短だけ。 -ae は属単・与単・主複の 3 役。与奪複数は同形。 語幹( puell- )と語尾を分けて見る。語順でなく 語尾で役割を読む 。 次の課へ 第 2.2 課は 第 2 変化 —— -us ・ -um ・ -er で終わる名詞です。 amīcus ・ bellum ・ puer 。ここで初めて 中性 と、呼格の独自の形( amīce )が出ます。 答え 練習 1 : 薔薇を/薔薇の(または薔薇に・薔薇たちが)/薔薇で/薔薇たちの/薔薇たちに・で/薔薇たちを。 練習 2 : puellam / puellārum / puellae / puellīs / puellae 。 参考文献 Vulg . Eccli . 37:11( Bona est via tua: )。 Vulgata Clementina , la . wikisource 。パブリックドメイン Vulg . Exod . 19:5( mea est enim omnis terra: )。 Vulgata Clementina , la . wikisource 。パブリックドメイン Vulg . Exod . 5:5( Multus est populus terræ: )。 Vulgata Clementina , la . wikisource 。パブリックドメイン Sen . Ep . 4.37.3( Fit via vi. )。 Perseus Digital Library ( canonical-latinLit , phi 1017. phi 015)。 CC BY-SA 4.0 Caes . Gal . 6.13.6( Haec poena apud eos est gravissima. )。 Perseus Digital Library ( phi 0448. phi 001)。 CC BY-SA 4.0 Tatoeba 文 #4067791( Ecce illa parva puella