12.3 英語圏の地図と変種 — 米・英・世界の英語 — Epoché
この課で分かるようになること アメリカで多い綴りとイギリスで多い綴りの分かれ方を、基本語の中の例で挙げられる。 語彙表が米式と英式を同じ見出しの下に置いていること、その意味を説明できる。 語そのものが違う対が基本語の中では作れない、という実測の意味が言える。 この課程が「どの国の英語に似せるか」でなく「通じるか」で音の優先順位を決めていることを説明できる。 前提 : 12.2 まで。 英語をひととおり学ぶと、遅かれ早かれ同じ問いに当たります。「わたしが習っているのは、どこの英語なのだろう」。教科書には color と書いてあったのに、海外の記事では colour と書いてある。どちらかが間違いなのか、どちらを覚えればいいのか——この問いは、綴りの話に見えて、実は 自分の英語を誰に向けるのか という話です。 この課ではその問いを、この課程が実際に運んでいる語の上で確かめます。使うのは、この課程が運ぶ基本語 2,809 語のうち上位 600 語、つまり第 1 期の語編が扱う帯だけです [1] 。遠い例を並べて「こんなに違う」と言うのは簡単ですが、それではあなたがいま覚えている語がどうなのかが分かりません。12.2 までで見てきたのは、学ぶ側に何が残っているかでした。この課で見るのは、その学んだものがどこで誰に届くのかです。 綴りが分かれるところ まず綴りです。分かれ方には型があり、いくつかの語尾に集中しています。下の表は、この課程の帯 600 の中にある語だけを並べたものです [1] 。右の列は語彙表の中での順位で、数が小さいほどよく使われる語です。つまりここに並ぶのは、遠くの珍しい語ではなく、あなたが第 1 期のうちに何度も出会う語ばかりだということです。 米で多い形 英で多い形 見出しの順位 program programme 240 番 center centre 334 番 color colour 378 番 organization organisation 512 番 realize realise 554 番 traveled travelled 503 番 型は四つに整理できます。一つ、 -or と -our 。色や労働を表す語がここに入ります。二つ、 -er と -re 。字の順が入れ替わるだけで、音は変わりません。三つ、 -ize と -ise 。ただしこの三つ目には注意が要ります。イギリスでも -ize を採る出版社があり、国で分かれるというより、出版社や新聞社の決めごとで分かれるところだからです。四つ、語尾の字が重なるかどうか。旅の語の過去形がその例で、イギリス側では l が二つ重なります。 番組を表す語だけは少し毛色が違います。イギリスでも、機械に入れる手順書の意味では program と書き、催しや放送の予定の意味では programme と書き分けることがあります。つまり「イギリス式かアメリカ式か」の一本の軸だけでは説明が付かない語があるということです。練習する意味の語も同じで、イギリスでは名詞と動詞で綴りを変え、名詞を practice 、動詞を practise と書きます。アメリカではどちらも practice です。こういう語は覚え込むより、「割れる場所がある」と知っておくほうが役に立ちます。 語形が分かれるところ 綴りだけでなく、語の形そのものが分かれることもあります。過去分詞、過去形、それに語末に印が付くかどうかの三つです。数は多くありませんが、どれも帯の上のほうにある、避けようのない語です [1] 。 米で多い形 英で多い形 見出しの順位 gotten got 43 番 learned learnt 261 番 toward towards 406 番 手に入れるという語の過去分詞は、アメリカでは gotten の形が残っています。イギリスでは got のままです。学ぶという語の過去形も、アメリカでは規則どおりの形、イギリスでは短い形がよく使われます。「〜のほうへ」という前置詞に至っては、語末に印が一つ付くか付かないかの違いしかありません。どれも聞いて意味が変わるものではなく、読むときに引っかからなければそれで足ります。 語彙表は両方を同じ見出しに入れている ここで、この課程の道具の作りを一つ明かします。上の表に出た語は、語彙表の中では 別々の語として数えられていません [1] 。米式と英式は、活用形や複数形と同じ資格で、一つの見出しの下にぶら下がっています。色の語なら、二通りの綴りとその活用形が同じ一つの見出しの中に入っています。だから、あなたが色の語を覚えたとき、この課程の数え方では 一語 覚えたことになります。二通りの綴りを別々に覚えるのではありません。 これは道具の都合ではなく、学ぶ側にとっての事実でもあります。読むときは、両方が同じ語として目に入ればそれで困りません。書くときだけ一つを選べばよく、しかも選び方には難しいところがありません。 一つの文書の中で混ぜない ——決めごとはそれだけです。同じ手紙の中で片方の綴りともう片方の綴りが混ざっていると、読む人は「この人はどちらも知らないのかもしれない」と受け取ります。どちらを選んだかは咎められませんが、揃っていないことは目に付きます。 語そのものが違う対は、基本語の中では作れない では、綴りではなく語そのものが違う対はどうでしょうか。エレベーターや休暇や地下鉄のように、米英で別の語を使うと言われる組み合わせがあります。この課程はその代表的な 12 組を語彙表に当ててみました。結果は、両方が帯 600 に入る対が 0 組 、つまり一つもありませんでした [1] 。片方が帯の中にあり、もう片方は帯のはるか外にある——それがこの帯での実際の姿です。 どんな意味か 米で多い語(順位) 英で多い語(順位) 秋 fall (320 番) autumn (2,792 番) 店 store (617 番) shop (437 番) 映画 movie (762 番) film (433 番) 秋を表す語がいちばん分かりやすい例です。アメリカ側の語は帯の中にありますが、これは「落ちる」という動詞と綴りが同じで、語彙表の見出しも動詞のほうと一つにまとまっています。イギリス側の語は 2,792 番で、第 1 期どころか、この課程の基本語の終わりのほうに置かれています。店の語と映画の語も同じ形で、片方だけが帯の中に入っています。 この非対称から言えることは二つあります。一つ、 よく使われる語ほど米英で共通している 。違いが目立つのは、暮らしの道具や制度に付いた名前——つまり帯の外の語です。二つ、だから第 1 期のあなたは、この違いをまだ覚えなくてよい。覚える順番として、帯の中の語を音ごと直すほうが先です。違う語のほうは、読む中で出会ったときに一つずつ受け取れば足ります。実際この課程は、それらの語を語編の帯の順に運び、帯の外の語は読み物の語釈で受けるように組んであります。 音は「どちらに似せるか」で決めない 残るのは音です。ここがいちばん誤解されているところで、「アメリカ英語の発音を目標にするのか、イギリス英語の発音を目標にするのか」という問いの立て方そのものを、この課程は採っていません。採っているのは別の問いです。 どの特徴を落とすと通じなくなるのか 。この問いで音の特徴を選り分けた一覧があり、研究では「通じるための核心」と呼ばれています [2] 。この課程の音編の並びは、その一覧に沿って組みました。 音の特徴 通じるために外せないか この課程のどこで 子音( th の 2 つを除く) 外せない 1.3 音編 ・ 1.5 音編 子音の連続を崩さない 外せない 1.1 音編 母音の長さの区別 外せない 1.2 音編 と第 2 期の音編 語頭の息の強さ 外せない 第 2 期の音編 文の中の核となる強勢 外せない 1.8 音編 th の 2 つの音 外せる 1.5 音編 語の中の山の位置 外せる 1.6 音編 強い音節で刻む調子 外せる 1.7 音編 弱い形とつながり 外せる(聞く側には要る) 1.7 音編 と聞編 表の下半分を見てください。語の中のどこに山を置くか、強い音節でどう刻むか、弱い形をどこまで縮めるか——これらは 核心から外れています [2] 。米英の発音の違いとしてよく挙げられるものの多くは、この下半分のほうに属します。母音の音色がどちら寄りか、語末の綴りの字をどこまで音にするか。この課程が引いている核心の一覧には、そうした項目は挙がっていません。つまり、どちらに似せても通じるということです。1.5 で「 th の 2 つは通じなさの本体ではない」と言い、 1.8 音編 で「文の中の核となる強勢は外せない」と言ったのは、どちらもこの同じ一覧に立っています。 裏を返すと、外せないもののほうは、どちらの英語を選んでも外せません。子音の連続を母音で割らないこと、母音の長さを区別すること、文の中でいちばん強く言う 1 語を落とさないこと。この三つは、相手がアメリカ人でもイギリス人でも、英語を母語としない人でも、同じように効きます。だから「訛りを消す」ことは、この課程の目標に入っていません。消すべきなのは訛りではなく、通じなくする癖のほうです。 母語としない人どうしの英語 もう一つ、地図に描き足しておくべき場所があります。英語が使われる場面のうち、書き手も読み手も英語を母語としない、という組み合わせです。会議の相手が北欧の人と東南アジアの人で、自分が日本人という場面を思い浮かべてください。この場面で目標にすべき発音は、どこの国の発音でしょうか。——問いの立て方が違う、というのが前の節の答えでした。 この種の場面がどれくらいの割合を占めるのかについて、この課程はまだ原典に当たれていません。だから数は書きません。けれども、そこで何が求められているかについては報告があります。職場で英語を母語としない人どうしが英語を使うとき、規範になるのは 明確さ と 関係を作ること で、母語話者らしさではない、というものです [3] 。言い換えれば、凝った言い回しよりも、取り違えようのない言い方と、相手が返事をしやすい言い方のほうが値打ちがあります。 この考え方は、この課程のあちこちに埋め込んであります。型編と話編の全課に置いた「丁寧さの段」は、関係を作るための道具です。音編が核心から先に直すのは、明確さを最短で上げるためです。そして読編が語彙の範囲を道具で保証しているのは、「相手が知っている語で言う」という同じ考え方を、読む側から鍛えるためです。第 7 期の知編では、この非母語話者どうしの英語をビジネスの場面でもう一度扱います。 この課程が運んでくる英語は、どこから来たか 最後に、身も蓋もない話をします。この課程があなたに運んでくる英語は、材料の側の都合でどちらかに寄ります。その寄り方は隠さずに書いておくほうがよいので、表にしました。 材料 誰が書いた英語か この課程での使い方 Tatoeba の池 [4] 世界中の投稿者 型・語・話・聞の実文 Project Gutenberg [5] 英米の古典(原典の綴りのまま) 読み物の原典 Simple English Wikipedia [6] 世界中の書き手 第 2 期の読み物の記事 VOA Learning English [7] アメリカの放送 第 2 期・第 4 期の報道 原典の置き場と報道は、アメリカで公開されている資料です。池と百科事典は世界中の書き手によるもので、どちらの綴りも混ざっています。そして音読判定は、当館が使っている仕組みの都合でアメリカ英語の設定で動きます [8] 。ですから、この課程が既定として出す綴りはアメリカ側に寄ります。そのことは短所ではなく、選んだ結果です。ただし原典の側は違います。第 3 期以降に読む物語や思想の本には、イギリスで書かれたものが多く含まれています。そこでは当然、イギリス側の綴りがそのまま出てきます。この課程はそれを直しません。原典の綴りは原典のままにします。 まとめると、この課程の立場はこうです。 読むときは両方 ——語彙表が同じ見出しに入れているのだから、両方が同じ語として目に入ればよい。 書くときは一つ ——どちらでもよいが、一つの文書の中で混ぜない。 話すときは核心 ——どちらに似せるかではなく、落とすと通じなくなる特徴を落とさない。この三つを持っていれば、「どこの英語ですか」と聞かれても困りません。答えは「通じる英語です」で足ります。 動画で見る この課の内容に近い解説動画です。押すと再生されます(再生は YouTube に接続します)。「画面に固定して見る」を押すと、本文を読みながら見られます。 American English vs British English spelling BBC Learning English (1:02, 2019) 米式と英式の綴り 練習 米式と英式の両方を続けて 音読 し、音読判定にかける。① color と colour ② center と centre ③ program と programme ④ organization と organisation 。判定が返した綴りを 8 つとも書き取り、返ってきた綴りが自分の言ったほうと一致したか、それとも片方に寄ったかを記録する。 身の回りにある英語——機器の表示、アプリの画面、食品の包み、この課程のここまでの課——から、米英で綴りが分かれる語を五つ探し、どちらの形だったかを数える。五つ見つからなければ三つでよい。数えた結果が片方に偏っていたら、その材料がどこで作られたものかを一言添える。 「音は『どちらに似せるか』で決めない」の表を見て、自分がこれから直す特徴を上半分から二つ、直さなくてよいと決める特徴を下半分から二つ選び、選んだ理由を一行ずつ書く。音読判定の記録が手元にあれば、それを根拠に使う。 この課のまとめ 綴りは米英で分かれる。分かれ方は -or / -our 、 -er / -re 、 -ize / -ise 、字が重なるかどうか——の四つの型に集まる。 語彙表は米式と英式を 同じ見出しの下 に入れている。二通りの綴りを覚えても一語。 語そのものが違う対は、代表的な 12 組を当てても、帯 600 に両方が入る