12.7 児童文学と物語の伝統 — Epoché
この課で分かるようになること ★ 集めた話 と 書かれた話 の違いが分かる。 読み継がれた話に 形 があることを、例で言える。 ★ 子どもの本が大人の見方を運ぶ ことに気づける。 この期に読んだ七冊を、 出どころで並べられる 。 前提 : 12.6 まで。読は 8.72 まで。 読んだ七冊 まず、この期に読んだものを並べます。★ 数はすべて、原文から数えたもの です。 どの本か 何篇か 一文あたりの語数 オズの魔法使い 8 篇 16.5 語 黒馬物語 6 篇 24.2 語 グリム 6 篇 25.8 語 ポター 2 篇 13.7 語 ジャスト・ソー物語 3 篇 20.9 語 秘密の花園 4 篇 14.7 語 マガフィー読本 3 篇 13.4 語 合わせて 20524 語、 32 篇 です。 ★ 一文あたりの語数に、大きな差があります。 いちばん短いのが マガフィー読本 で 13.4 語、いちばん長いのが グリム で 25.8 語。 ほぼ二倍 です。 どれも「子どもの本」と呼ばれます。★けれども、 読ませようとしている相手が違います 。この差が、どこから来るのかを見ていきます。 ★集めた話と、書かれた話 七冊は、 出どころで二つに分かれます 。 どちらか どの本か 作者は ★ 集めた話 グリム ★ いない 。語り伝えられていたものを集めた 書かれた話 そのほか六冊 いる。一人の人が書いた グリムの六篇( 8.55 読編 〜 8.60 読編 )は、 誰かが作った話ではありません 。人から人へ 語り伝えられていた ものを、書きとめたものです。 ★ この違いは、文に出ます。 語り伝えられた話の書き方 8.55 読編 (かえるの王さま)の書き出しを見てください。 In olden times when wishing still helped one, there lived a king [1] ★ いつのことか言いません。 どこの国かも言いません。「昔」「王さまがいた」——それだけです。 8.41 読編 (オズ)の書き出しと比べてください。 Dorothy lived in the midst of the great Kansas prairies [2] ★ 場所が書いてあります。 カンザスという、地図に載っている土地です。 集めた話 書かれた話 いつ・どこかを言わない ★ いつ・どこかを言う 人物の中身をほとんど書かない 人物の思ったことを書く ★ 誰が語ってもよい 書いた人の文体がある ★ 語り伝えられる話は、細かいところを持ちません。 持っていると、 次に語る人が覚えられない からです。 8.57 読編 で「筋だけを語る」と言いました。あれは、グリムの手抜きではありません。★ 口から口へ渡るために、そういう形になった のです。 ★読み継がれた話には、形がある この期に読んだ話には、 同じ形 が何度も出てきました。 三の型 どの篇か 何が三つか 8.57 読編 願いごとが三つ 8.65 読編 たずねに来る動物が三頭 8.72 読編 老人のたとえが三つ ★ 三は、くり返しの最少の数 です。二度では「くり返した」と感じません。四度では くどくなります 。 そして、★ 三度そろえておくと、四度目が効きます 。 8.65 読編 で見たとおりです。 由来を語る形 どの篇か 何の由来か 8.60 読編 豆に黒い筋がある理由 8.63 読編 ・ 8.64 読編 くじらののどが小さい理由 8.65 読編 らくだにこぶがある理由 どれも でたらめ です。★ 本気で信じさせるつもりはありません。 けれども、この形は 世界じゅうの話にあります 。人は、目の前のものに 理由をつけたがる からです。 12.2 知編 で「名前には由来がある」と言いました。★ 物にも由来をつけたがる ——それが、この形の出どころです。 ★そして、 由来を語る形は、説明の形でもあります 。 9.6 論編 で扱った 原因と結果 の、いちばん古い使い方です。「こうなったのは、昔こういうことがあったからだ」——★ 形は科学の説明と同じ で、 中身だけが違います 。 マザーグース — 歌として伝わった話 英語圏の子どもが いちばん早く出会う のは、本ではなく 歌 です。 マザーグース と呼ばれる童謡のまとまりがあります。 ★この課程では、まだ読んでいません。 音を聞かなければ意味が無い からです。けれども、性質だけは知っておいてください。 どんなものか どういうことか ★ 意味より音 韻を踏み、拍がそろっている 筋が通っていないことがある ★ それでよい 。歌だから 作者が分からないものが多い グリムと同じく、伝わってきたもの ★ この性質は、読んだ篇の中にも現れています。 8.63 読編 のキプリングを思い出してください。魚の名前が韻を踏んで並び、辞書に無い語まで作られていました。 ★ あれは、童謡の作り方を物語に持ちこんだもの です。キプリングは、子どもが 音を楽しむ ことを知っていました。 8.64 読編 と 8.65 読編 の終わりに 詩がついていた のも、同じです。★ 物語のあとに歌が来る ——これは、 語って聞かせる場の形 です。 ★子どもの本は、大人の見方を運ぶ この期に読んだ本には、 今の目で読むと引っかかるところ がいくつもありました。 植民地の目 8.66 読編 は、 イギリスの植民地だったインド で始まります。 the dark faces of her Ayah and the other native servants [3] 使用人たちが、 ひとまとめに 呼ばれています。そして、使用人が子どもの言いなりになるのは、 逆らえば職を失う関係 にあったからです。 ★ 作者は、それを問題にしていません。 当たり前のこととして書いています。 教科書の目 8.70 読編 の読本は、 子どもに正しい知識を渡す ために書かれました。そして、うわさを はっきり否定 します。 These are not true [4] ★ これは立派な態度です。 けれども、同じ本の別の課( 8.72 読編 )では、 宗教の教え が結論に出てきます。 当時のアメリカでは、 国語の教科書に宗教が入っている のがふつうでした。★ 「正しい知識」の中身も、時代によって変わります。 働くことの見方 8.65 読編 のらくだは、 働かないから罰せられます 。 is it right for any one to be idle, with the world so new-and-all? [5] ★ なまけることは悪いこと ——この本は、それを疑っていません。 8.71 読編 の読本も同じです。競い合い、助け合い、学校をやめずに通い続けることが よいこと として書かれています。 ★ 子どもの本は、大人が子どもに持ってほしい見方を運びます。 面白い話の形をしていても、 中に考えが入っています 。 これは、悪いことではありません。★ 入っていることを知って読む ——それだけのことです。 9.1 論編 で「なぜそう言えるのかと問えるほうが主張」と置きました。 物語の中にも、主張は入っています。 日本の児童文学と比べて 日本にも、 同じ二つの流れ があります。 どちらか 日本では 英語圏では 集めた話 昔話(桃太郎・かちかち山) グリム、マザーグース 書かれた話 近代に書かれた童話 オズ、秘密の花園 ★ 三の型も、日本の昔話にあります。 三人の子、三つの試し、三度のくり返し。 由来を語る形 もあります。 ★ だから、形のほうは驚かずに読めるはずです。 引っかかるのは、 中に入っている見方のほう です。何を「よいこと」としているか——そこが、育った場所で変わります。 やってみる 読 C の七冊を、 「集めた話」と「書かれた話」に分ける 。★分けたら、 書き出しの一文を見比べて ください。違いが出ているはずです。 ★読んだ篇から、 「よいこと」として書かれていること を三つ書き出す。そして、 今の日本でも同じか を一行で書く。 日本の昔話を一つ思い出して、 三の型か、由来を語る形か を確かめる。どちらでもなければ、 どんな形をしているか を書く。 この課のまとめ ★ 「子どもの本」は一つのものではない。 一文あたりの語数だけでも、七冊でほぼ二倍の差がある。 ★ 集めた話と、書かれた話。 グリムには作者がいない。 集めた話は いつ・どこかを言わず、細かいところを持たない 。★ 次に語る人が覚えられないから 。 ★ 三は、くり返しの最少の数。 二度では足りず、四度ではくどい。 ★ 由来を語る形は、説明の形でもある。 形は科学の説明と同じで、中身だけが違う( 9.6 論編 )。 マザーグースは 意味より音 。★ 8.63 読編 のキプリングは、その作り方を物語に持ちこんだ。 ★ 子どもの本は、大人の見方を運ぶ。 面白い話の形をしていても、中に考えが入っている。 ★ 入っていることを知って読む ——それだけのこと。 日本の昔話にも 三の型も由来の形もある 。★引っかかるのは、中に入っている見方のほう。 次の課へ 次の課は 12.8 、 祝祭と暦 です。クリスマス、感謝祭、ハロウィン——★英語の文章には、 説明なしに出てくる行事 があります。 8.61 読編 のうさぎが いつ畑に入ったか 、 8.62 読編 の大人たちが どこへ出かけたか ——暦を知っていると、 読めるものが増えます 。 答え 一つめと二つめの課題について。 ★ 分け方 ——集めた話は グリムだけ 、残り六冊は書かれた話です。書き出しを見比べると、グリムは「昔」で始まり、ほかは 場所か人の名 で始まっています。★ 始め方に、出どころが出ます。 「よいこと」として書かれているのは—— 働くこと ( 8.65 読編 )、 約束を守ること ( 8.55 読編 )、 人に譲ること ( 8.71 読編 )。★三つとも、今の日本でも「よいこと」です。★ 変わっているのは、よいことの中身ではなく、それを子どもにどう教えるか のほうです。らくだのように 体を変えられて罰せられる 話は、今は書かれにくくなりました。 参考文献 原文の出所: Jacob & Wilhelm Grimm『Grimms' Fairy Tales』(Edgar Taylor・Marian Edwardes 訳), "THE FROG-PRINCE(1/2)"。パブリックドメイン(Project Gutenberg #2591)。原文は 1 字も変えていない。https://www.gutenberg.org/ebooks/2591 原文の出所: L. Frank Baum『The Wonderful Wizard of Oz』(1900), "Chapter I The Cyclone(1/2)"。パブリックドメイン(Project Gutenberg #55)。原文は 1 字も変えていない。https://www.gutenberg.org/ebooks/55 原文の出所: Frances Hodgson Burnett『The Secret Garden』(1911), "Chapter I THERE IS NO ONE LEFT(1/4)"。パブリックドメイン(Project Gutenberg #113)。原文は 1 字も変えていない。https://www.gutenberg.org/ebooks/113 原文の出所: William Holmes McGuffey『McGuffey's Fourth Eclectic Reader』(1879), "VIII. THE MONKEY. (39)"。パブリックドメイン(Project Gutenberg #14880)。原文は 1 字も変えていない。https://www.gutenberg.org/ebooks/14880 原文の出所: Rudyard Kipling『Just So Stories』(1902), "HOW THE CAMEL GOT HIS HUMP"。パブリックドメイン(Project Gutenberg #2781)。原文は 1 字も変えていない。https://www.gutenberg.org/ebooks/2781