5.26 講義 II — ヘッジを耳で拾う — Epoché
この課で聞き取れるようになること ★ ヘッジの強さ を、耳で五段に分けられる。 ★ 限定の語 ( but not exclusive )を聞き逃さない。 ★ 章立ての予告 を、聞くための地図として使える。 ★ファラデーとダーウィンの 話し方の違い が言える。 前提 : 5.25 まで。型は 3.40 まで。 聞く前に チャールズ・ダーウィン は、十九世紀のイギリスの博物学者です。★ 『種の起源』は、講義ではなく本 ですが、★ 一人が長く語るという点では講義と同じ です。 ★ そして、学術の話し方の見本 になっています。★ ダーウィンは、自分がどこまで言えるかを一文ごとに刻みます。 ★ヘッジの五段 どの言い方か 強さ 何を言っているか I am convinced that ★ いちばん強い ★ 言い切りに近い I believe 強い 自分の判断だと断っている seems to have まんなか そう見える may be called 弱い そう呼んでもよい seems to me ★ いちばん弱い ★ 私にはそう見える、だけ ★ 3.36 型編 で置いた五段と、同じ考え方 です。★ ただし、こちらは耳で拾います。 ★ 目で読むときは、戻れます。 ★ 耳で聞くときは、戻れません。 ★ だから、ヘッジの語が来たところで印を付けておきます。 ★限定が、いちばん聞き逃しやすい ★ ここが、この課でいちばん大事なところ です。 台本の二段目の一文目に、★ 三語の限定 が入っています—— the main but not exclusive means 。 聞こえた形 意味 どれだけ違うか the main means ★ 主な手立て ★ 他にもある the only means 唯一の手立て ★ 他に無い the main but not exclusive means ★ 主だが、唯一ではない ★ はっきり「他にもある」と断っている ★ 三語で、主張の幅が決まります。 ★ この三語を聞き逃すと、ダーウィンが「自然選択がすべてだ」と言ったことになります。 ★ 実際、そう読まれてきました。 ★ 本人は、そう書いていません。 ★ 9.8 論編 の「書いてあることを読む」が、耳でも同じように要ります。 ★章立ての予告は、地図 台本の一段目は、全部 目次 です。★ 「第一章では」「次の章では」「最後の章では」。 ★ これが聞こえたら、そこは中身ではありません。 ★ 全体の地図 です。★ だから、書きとめる価値がいちばん高い ところです。 ★ 講義でも同じ です。★ 最初の三分と最後の三分は、たいてい地図 です。★ 途中で分からなくなったとき、戻るところがそこ です。 知っておく語 聞き方 三度聞きます。 ★ 一度目は、ヘッジの語だけ を聞く。★ 五段のどれが、何回出たか を数える。 ★ 二度目は、限定の語 を聞く。 but ・ only ・ in some small degree 。★ 「どこまで」と言っているところ です。 ★ 三度目に、主張 を聞く。★ ヘッジと限定を外したら、何が残るか。 ★ 三度目がこの課の山です。 ★ ヘッジを外して聞くと、ダーウィンの主張は驚くほど単純 です。★ ヘッジは、主張を弱めているのではありません。 ★ 主張の輪郭を描いています。 ★ファラデーとダーウィン どちらか 何を手がかりに聞くか 分からないとき ★ ファラデー ( 5.25 聞編 ) ★ 談話標識 ★ 見せているものを探す ★ ダーウィン ★ ヘッジと限定 ★ どこまで言っているかを探す ★ 同じ「一人が長く話す」でも、聞くものが違います。 ★ 物を見せる話し手は、順を言います。 ★ 考えを述べる話し手は、幅を言います。 問い 台本を聞いて、答えてください。 ★ 一段目は、何の話か。 ★ 中身か、地図か。 ★ 二段目の一文目で、話し手はどこまで言い切っているか。 ★ 二段目と三段目で、ヘッジの強さはどう変わったか。 ★ 三段目の最後で、話し手は何を「軽はずみだ」と言っているか。 ★ この話し手は、自信があるか。 ★ そう思った理由を一行書く。 動画で見る この課の内容に近い解説動画です。押すと再生されます(再生は YouTube に接続します)。「画面に固定して見る」を押すと、本文を読みながら見られます。 Hedging in Academic Writing CityUHK CFML CSL Language Centre (9:28, 2023) ヘッジの実例。香港城市大学の言語センター 練習 台本を 三度聞く 。★ 上の「聞き方」の順で 。 ★ 二段目の一文目を音読する。 ★ but not exclusive を強く読む。 ★ 強く読まないと、聞き手には届きません。 ★ 三段目を、ヘッジを全部外して言い直す。 ★ 日本語でかまいません。 ★ 外したあとの文が、どれだけ乱暴に聞こえるか を確かめてください。 自分が最近書いた文章を一つ選び、★ ヘッジを数える。 ★ ゼロなら言い切りすぎ、多すぎるなら何も言っていない ( 3.36 型編 )。 この課のまとめ ★ ヘッジは耳で拾う。 目で読むときは戻れるが、耳では戻れない。 ★ 五段 —— I am convinced > I believe > seems to have > may be called > seems to me 。 ★ 限定がいちばん聞き逃しやすい —— the main but not exclusive means 。★ 三語で主張の幅が決まる。 ★ この三語を聞き逃すと、「自然選択がすべてだ」と言ったことになる。 ★実際そう読まれてきたが、本人はそう書いていない( 9.8 論編 )。 ★ 章立ての予告は地図。 ★講義でも、最初の三分と最後の三分はたいてい地図。 ★ ヘッジは主張を弱めているのではなく、輪郭を描いている。 ★ ファラデーは順を言い、ダーウィンは幅を言う ( 5.25 聞編 )。 ★ 物を見せる話し手と、考えを述べる話し手では、聞くものが違う。 次の課へ 次の課は 5.27 、 演説 です。★ リンカーンとケネディ を聞きます。★ 講義とも本とも違う話し方 です。★ 演説は、覚えて帰ってもらうために作られています。 ★ だから、同じ形がくり返されます。 答え 「問い」の五つの答えです。 ★ 地図です。 ★ 「第一章では」「次の章では」「最後の章では」。 ★ 中身は一つも言っていません。 ★ それでも、聞く価値がいちばん高い ところです。 ★ 「自然選択が主な手立てだった。ただし唯一ではない」 まで言い切っています。★ I am convinced は、この五段でいちばん強い形 です。★ けれども、そのすぐあとに限定が付いています。 ★ 強く言い、すぐ幅を切る ——★ これが学術の書き方 です。 ★ 弱くなりました。 ★ 二段目は I am convinced ・ I believe 、三段目は seems が二度 です。★ 自分の説の中心では強く、枝の話では弱く 言っています。 ★ 「岩鳩と似た習性を持つ種がそれほど多く絶滅したという想定」 です。★ 他人の説を、 seems to me で退けています。 ★ いちばん弱い言い方で、いちばん強いことをしています ——★ これが学術の作法 です( 10.10 作編 )。 ★ 自信はあります。 ★ ヘッジが多いことと、自信が無いことは別 です。★ 自信が無い人は、どこまで言えるかを刻めません。 ★ 刻めるのは、分かっているところと分かっていないところの境が見えているから です。 台本 答えを出してから読んでください。★ 原文のまま です。 From these considerations, I shall devote the first chapter of this Abstract to Variation under Domestication. [1] In the next chapter I shall discuss the complex and little known laws of variation and of correlation of growth. [1] In the last chapter I shall give a brief recapitulation of the whole work, and a few concluding remarks. [1] Furthermore, I am convinced that Natural Selection has been the main but not exclusive means of modification. [1] I believe this rule to be of the highest importance in explaining the laws of embryology. [1] I will here only allude to what may be called correlation of growth. [1] The whole organisation seems to have become plastic, and tends to depart in some small degree from that of the parental type. [1] If strange and rare deviations of structure are truly inherited, less strange and commoner deviations may be freely admitted to be inheritable. [1] Hence the supposed extermination of so many species having similar habits with the rock-pigeon seems to me a very rash assumption. [1] 参考文献 原文の出所: Charles Darwin『On the Origin of Species』(1859), INTRODUCTION ほか。パブリックドメイン(Project Gutenberg #1228)。原文は 1 字も変えていない。https://www.gutenberg.org/ebooks/1228