0.3 二重母音と復元式の子音 — c はいつもク — Epoché
この課でできるようになること ae ・ oe ・ au ・ eu を一つの音節として読める。 c・g・v・t・s を復元式の規則で読める(英語の癖を持ち込まない)。 復元式と教会式の違いを知り、この課程が復元式を採る理由を言える。 前提 : 0.2 まで。 この課の主題は 子音 です。結論を先に言うと、ラテン語の子音は 綴りと音が一対一 で、英語のように文脈で読み分ける字がほとんどありません。覚えるのは「英語の癖を持ち込まない」ことだけです。その前に、母音の続きとして二重母音を片づけます。 二重母音 — 二つの字で一つの音節 綴り 読み方 例語 ae アイ(アエ) caelum 空 / Caesar カエサル oe オイ(オエ) poena 罰 / foedus 条約 au アウ aurum 金 / causa 原因 eu エウ Eurōpa / heu ああ ae は古典期には「アイ」に近く、帝政期には「アエ」から「エー」へ変わっていきました。この課程は アイとアエの間 で読みます(音声もそう作ってある)。教会式では「エ」になり、 Caesar は「チェーザル」、日本の医学用語の「カエサル切開」ならぬ「帝王切開」の語源談義はここから出ます。 ★二重母音は 一つの長い音節 として数えます。次の課の強勢の規則で、これが効きます。 poena は poe-na の 2 音節、 causa は cau-sa の 2 音節です。 なお、写本と印刷本は ae を合字 æ で書くことがあります( cælum )。当館のウルガタの本文もそうです。同じものと読んでください。 復元式の子音 — 英語の癖を捨てる 5 か条 文字 復元式の音 英語の癖(捨てる) c いつも ク : Cicerō キケロ / cīvis キーウィス e・i の前でス( city ) g いつも グ : gēns ゲーンス / regiō レギオー e・i の前でジ( gem ) v ウ (ワ行): vīta ウィータ / vōx ウォークス ヴ( very ) t いつも ト : nātiō ナーティオー / ratiō ラティオー -tion でシ( nation ) s いつも ス (濁らない): rosa ロサ / causa カウサ 母音の間でズ( rose ) この 5 つを守るだけで、ラテン語の子音はほぼ全部正しく読めます。あとは ch ・ ph ・ th (ギリシア語から入った語に出る。 philosophia ・ theātrum ・ chorus )で、復元式では ch はク、 ph はプ(に近いフ)、 th はトと読みます。日本語話者には「フィロソフィア」より「ピロソピア」のほうが古典に近い、と知っておけば十分です。 復元式と教会式 — なぜ復元式か ラテン語の読み方には流派があります。 復元式 (古典式)は古代ローマの発音を学問的に復元したもので、日本の大学の標準です。 教会式 はカトリック教会がイタリア語の読み方で読むもので、宗教音楽と典礼で聞く音です。違いが出る主な字を並べます。 綴り 復元式 教会式 c (e・i の前) ク チ g (e・i の前) グ ジ v ウ(ワ行) ヴ ae ・ oe アイ・オイ エ ti (母音の前) ティ ツィ h 弱いハ 無音 この課程が復元式を採る理由は三つ。①読む原典(キケロ・カエサル・ウェルギリウス)が書かれたときの音である。②規則が少なく、綴りから音が一意に決まる。③日本の教室と辞書の標準で、ほかの学習資料と食い違わない。教会式は 0.6 で「聞いて分かる」ために扱い、読むのはすべて復元式です。 実文で c・v・ ae を読む 原文 日本語訳 見るところ Tui sunt cæli, et tua est terra: [1] 天はあなたのもの、地もあなたのもの。 cæli = caelī (カイリー)。c はク、 ae はアイ Venit ergo vox de cælo: [2] そこで天から声が来た。 vōx はウォークス、 vēnit はウェーニト Vos autem dixi amicos: [3] しかし、私はあなたがたを友と呼んだ。 amīcōs の c はク(アミーコース)。 dīxī の x はクス si vis amari, ama. [4] 愛されたいなら、愛せ。 vīs (ウィース)と amārī 。v はワ行 Qui amicus est, amat; [5] 友である者は、愛する。 amīcus / amat 。c と t は英語風にしない 新出語 語(品詞) 意味 注 caelum la 名詞・第 2 変化・中性( -ī ) 空、天 日本語との差 複数は男性 caelī 。英語 celestial の元 Scisne cur caelum caeruleum sit? [6] 空がなぜ青いか知ってる? Oscula oris ejus me caelo tollunt. [7] 彼女の唇の口づけは私を天へ運ぶ。 vōx la 名詞・第 3 変化・女性( vōcis ) 声 日本語との差 英語 voice ・ vocal の元 Haec vox in dictionario non invenitur. [8] この語は辞書に載っていない。 amīcus la 名詞・第 2 変化・男性( -ī ) 友 日本語との差 英語 amicable の元。形容詞「親しい」も同形 Amicus certus in re incerta cernitur. [9] まさかの時の友は真の友。 Es amicus verus. [10] 君は本当の友達だよ。 amō la 動詞・第 1 活用( amāre , amāvī , amātum ) 愛する 日本語との差 第 1 活用の見本の語 Socrum meam amo. [11] 私、姑のこと好きだよ。 Amo eam et ea amat me. [12] 私は彼女を愛し、彼女は私を愛している。 dīcō la 動詞・第 3 活用( dīcere , dīxī , dictum ) 言う 日本語との差 命令は dīc (e が落ちる) Conversus autem Iesus et videns eos sequentes se dicit eis: "Quid quaeritis?" [13] イエス振反りて、その從ひ來たるを見て言ひ給ふ「何を求むるか」。 Dici ei me in Francia esse. [14] 私はフランスにいると彼女に伝えてください。 causa la 名詞・第 1 変化・女性( -ae ) 原因、理由、訴訟 日本語との差 英語 cause の元。 causā (奪格)で「〜のために」 Caesar la 名詞・第 3 変化・男性( Caesaris ) カエサル 日本語との差 ドイツ語 Kaiser ・ロシア語 tsar (ツァーリ)の元 Caesare vivo res publica salva erat. [15] カエサルが生きている間、国家は無事だった。 volō la 動詞・不規則( velle , voluī ) 望む、〜したい 日本語との差 2 人称単数は vīs Montem Fusium ascendere volo. [16] 富士山に登りたいな。 Hic manere volo. [17] 私はここにいたい。 なぜ c が「いつもク」だと分かるのか 復元式の規則は、学者が好みで決めたものではありません。証拠があります。第一に、ギリシア人がラテン語の名前をギリシア文字で書き写したとき、 Cicerō は Kikerōn (キケローン。ギリシア文字ではカッパで始まる)、 Caesar は Kaisar (カイサル)でした。e・i の前でも k の字(カッパ)を使っているのです。第二に、ゲルマン語がローマから借りた語。 Caesar はドイツ語で Kaiser (カイザー)、 cellārium (貯蔵室)は Keller (ケラー)。借りた側が k で写した以上、貸した側の音も k だったと分かります。 v がウ(ワ行)だった証拠も同じ方法で出ます。 Vergilius をギリシア人は Ouergilios (ウエルギリオス)と書き、v をヴ(ベータ)ではなく「オウ」の 2 字で写しました。また、ラテン語の詩では v の前の音節が「子音の前」として扱われず、v が母音に近い音だったことが韻律から分かります。こうした証拠を 19 世紀のドイツの学者たちが積み上げて、復元式ができました。 では教会式はどこから来たのか。ラテン語が話し言葉として生きていた地域では、音が時代とともに変わりました。e・i の前の k は口の前寄りになり、やがてチやツに、 ae は単純なエに、v はヴに。中世のイタリアの聖職者はそうして変わった音でラテン語を読み、それがローマ教会の標準になった——これが教会式です。つまり 教会式は「間違った読み方」ではなく、ラテン語の千年後の姿 です。この課程が復元式を採るのは、読む原典がその千年前に書かれたものだからです。 最後に、日本語話者の耳のために一つ。復元式の c=ク、g=グは、日本語のカ行・ガ行と同じ場所で作る音なので、出すこと自体は易しい。難しいのは 綴りを見た瞬間に英語の読み方が先に出る ことです。 cīvis を見て「シヴィス」と口が動いてしまう。これは知識の問題ではなく癖の問題なので、音声を聞いて真似る回数でしか直りません。この編の各課に「本文を隠して復唱」を置いているのはそのためです。 練習 練習 1 — 復元式で読む 次の語をカナで書き、声に出してください。c・g・v・t・ ae に注意。 Cicerō gēns vīta nātiō caelum poena causa philosophia 練習 2 — 復元式か教会式か 次のカナ書きは、復元式・教会式のどちらの読み方ですか。 チチェロ カイサル ヴィータ ウェーニト エクスチェルシス 練習 3 — 本文を隠して復唱する 上の 5 文を音声で聞き、本文を伏せて復唱してください。 vōx ・ vīs の v をヴにしていないか、 amīcus の c をスにしていないか、自分の口で確かめます。 この課のまとめ 二重母音 ae oe au eu は一つの長い音節。 ae はアイ〜アエ。 復元式の 5 か条: c=ク、g=グ、v=ウ、t=ト、s=ス。 いつでも 。 ch ・ ph ・ th はギリシア語系。復元式ではク・プ・ト。 教会式は c=チ、v=ヴ、 ae =エ。宗教音楽で聞く音。この課程は 復元式で読む 。 次の課へ 第 0.4 課は 音節の切り方と強勢の規則 です。ラテン語の強勢はたった一つの規則で決まります——「後ろから二つ目の音節が長ければそこ、短ければ三つ目」。この規則を使うために、母音の長短(前の課)が要ります。 答え 練習 1 : キケロー/ゲーンス/ウィータ/ナーティオー/カイルム/ポイナ/カウサ/ピロソピア。 練習 2 : (1) 教会式。(2) 復元式。(3) 教会式。(4) 復元式。(5) 教会式( excelsīs 。復元式ならエクスケルシース)。 参考文献 Vulg . Ps . 88:12( Tui sunt cæli, et tua est terra: )。 Vulgata Clementina , la . wikisource 。パブリックドメイン Vulg . Ioh . 12:28( Venit ergo vox de cælo: )。 Vulgata Clementina , la . wikisource 。パブリックドメイン Vulg . Ioh . 15:15( Vos autem dixi amicos: )。 Vulgata Clementina , la . wikisource 。パブリックドメイン Sen . Ep . 1.9.6( si vis amari, ama. )。 Perseus Digital Library ( canonical-latinLit , phi 1017. phi 015)。 CC BY-SA 4.0 Sen . Ep . 4.35.1( Qui amicus est, amat; )。 Perseus Digital Library ( canonical-latinLit , phi 1017. phi 015)。 CC BY-SA 4.0 Tatoeba 文 #8457714( Scisne cur caelum caeruleum sit? )。Tatoeba Project, CC BY 2.0 FR. https://tatoeba.org/en/sentences/show/8457714 Tatoeba 文 #12371941( Oscula oris ejus me caelo tollunt. )。Tatoeba Project, CC BY 2.0 FR. https://tatoeba.org/en/sentences/show/12371941 Tatoeba 文 #12105768( Haec vox in dictionario non invenitur. )。Tatoeba Project, CC BY 2.0 FR. https://tatoeba.org/en/sentences/show/12105768 Tatoeba 文 #423242( Amicus certus in re incerta cernitur. )。Tatoeba Project, CC BY 2.0 FR. https://tatoeba.org/en/sentences/show/423242 Tatoeba 文 #4970642( Es amicus verus. )。Tatoeba Project, CC BY 2.0 FR. https://tatoeba.org/en/sentences/show/4970642 Tatoeba 文 #8932842( Socrum meam amo. )。Tatoeba Project, CC