8.37 How Can I Help — 車が直らない(VOA の台本) — Epoché
この篇でできるようになること 括弧の ト書き を、せりふと分けて読める。 意味を持たない音 ( Um ・ Huh )を飛ばせる。 語を足しても分からない句 を、一つの語として受け取れる。 -self の語が「自分で」を表すと分かる。 前提 : 8.36 まで。 読む前に 題材は 直らない車 です。ピートが自分の車を直そうとしています。動画の講座を十回分見ただけで、点火栓を「多すぎる」と言って抜いてしまいました。アナが手伝いを申し出て、道具を持ってきて直そうとしますが、車はかかりません。——原因は、まったく別のところにありました。 気をつけるところを三つ置きます。 一つめ、 括弧の行 です。この篇には括弧で始まる行が 1 本あります。 (She goes and quickly comes back with tools.) のような行で、 誰もしゃべっていません 。 動きを書いた行 です。 二つめ、 意味を持たない音 です。 Um 、 Huh 、 Oh 、 Well ——どれも 訳す必要がありません 。日本語の「えーと」「はあ?」と同じで、 間を埋めたり、気分を出したりするだけ の音です。 三つめ、 点々(…) です。 It’s going … not so good. のように、文の途中に点々が入ります。 言いよどみ です。ここでピートは「うまくいっていない」と言いにくくて、一瞬ためらっています。 点々は、言いにくさの印 だと思ってください。 原文 原文は別の文書にあります(作品ページの「原文」)。全部で 425 語、せりふは 40 本、ト書きは 1 本です。書き出しはこうです。 Anna: Hi, Pete. What are you doing? 先に原文だけを、 辞書も語釈も見ずに 最後まで読んでください。読み終わったら、 車がかからなかった本当の理由 を自分に言ってみてください。 全訳 原文の全訳です。この課程のために、原文に沿って訳しました。番号は原文の段落の番号で、原文と行き来できます。 アナ:こんにちは、ピート。何してるの? ピート:あっ! やあ、アナ。いまちょうど、車を直しているところなんだ。 アナ:調子はどう? ピート:調子は……あんまりよくない。 アナ:何か手伝えることある? 友だちのところへ行こうと思ってたの。でも手伝いが必要なら、手伝うわよ。わたし、人を手伝うのが好きなの。 ピート:アナ、自分で直せるよ。でも、ありがとう。 アナ:ピート、原因がわかったと思うわ。これ、点火プラグよ。(プラグを掲げて見せる) アナ:これがエンジンをかけるの。 ピート:それは知ってるよ、アナ。でも、点火プラグが多すぎたんだよ……そこに。だから余分なのを抜いたんだ。 アナ:余分なんてないわよ、ピート。全部必要なの。ピート、あなた本当に自分で車を直せるの? ピート:いやね、アナ、ゆうべ、オンラインの動画講座「車は自分で直せる!」を見てたんだ。 ダン:そう、車は自分で直せるんです! ピート:で、最初の十回分を見たんだ。だから、自分が何をしているかはわかってると思うよ。 アナ:全部で何回あるの? ピート:四百五十回。 アナ:四百五十! それじゃ時間がかかりすぎるわ! わたしが直せば、十分から十五分で動くようにしてあげる。 アナ:道具はどこ? ピート:これがある。(役に立たない道具をアナの手に置く)それから、これ。(別の役に立たない道具を渡す) アナ:いいわね。えっと、わたしの道具を取ってくるわ。あっという間に戻ってくるから! ピート:でもアナ、ぼくには要らないよ、きみの…… (アナは出ていき、すぐに道具を持って戻ってくる) ピート:……手伝いは。 アナ:ピート、わたし十代のころ、車を直してたのよ。自分でね。師匠に習ったの。 アナ:信じてくれていいわ。 ピート:わかった。 アナ:よし! でも、チームワークが必要よ。あなたは車にすわってて。わたしが「どうぞ」って言ったら、エンジンをかけてね。 アナ:いいわ、どうぞ! アナ:止めて! アナ:いいわ、どうぞ! あれ。 ピート:かからない! かからないよ! アナ:どうしたのかしら? ピート:この車はばかだ……ばか、ばか! アナ:ピート、タイヤを蹴っても何にもならないわよ。 ピート:だって、きみは何の役にも立たなかったじゃないか、アナ。役に立たなかったよ!! アナ:ピート、ピート! しっかりしてよ、もう。鍵をちょうだい。鍵穴の鍵を自分の手で感じて、自分で回さなきゃ。 師匠:鍵を使いなさい、アナ。鍵を回しなさい、アナ。何を忘れているのかね、アナ? アナ:ピート。ピート。 ピート:何? アナ:ガス欠よ。 ピート:ガス欠のはずがないよ。(計器を見る)ガス欠だ。ごめん、アナ。買いに行ってくるよ。 アナ:ピート。あなたはゆっくりしてて。顔を拭いてね。オンラインの動画講座の続きでも見てていいわよ。わたしが行ったほうが早いわ……あっという間にね。それじゃ、また次回…… 語釈 帯の外の語は 26 語です。下に 全部 出します。 車の部品の名 と 意味を持たない音 の二つに分かれているのが、この篇の特徴です。 語(品詞) 意味 注 Anna en 名 アナ。この台本の主人公 Dan en 名 ダン。動画の講座の中の声 Hi en 間 やあ Hi, everyone! Welcome to our first class today. やあ、みなさん。今日から最初の授業を始めます。 Oh en 間 おお、ああ Oh, I did not expect to see you here! ああ、ここであなたに会うとは思っていませんでした。 Pete en 名 ピート。アナの友人 Where’re en 縮約 Where are の縮約。書き言葉では使わない Where’re you going in such a hurry? そんなに急いでどこへ行くのですか。 anna en 名 アナ( Anna と同じ語) engine en 名 発動機 The engine started smoothly on the cold morning. その発動機は寒い朝でも滑らかに始動しました。 flash en 名 ひらめき、閃光。 in a flash であっという間に The solution came to her in a flash. その解決策はあっという間に彼女の頭に浮かびました。 gauge en 名 目盛りのついた計器 The fuel gauge showed the tank was empty. 燃料計はタンクが空であることを示していました。 hi en 間 やあ He smiled and said hi to everyone there. 彼はほほえんでそこにいたみんなにやあと言いました。 huh en 間 はあ? あきれや疑いを表す音 She frowned and muttered huh under her breath. 彼女は顔をしかめて小声で「はあ?」とつぶやきました。 ignition en 名 発動機に火をつける仕掛け He turned the ignition and the car started. 彼が点火装置を回すと車が始動しました。 kicking en 動 蹴っている The baby was kicking happily in his crib. その赤ちゃんはベビーベッドでうれしそうに足をばたつかせていました。 master en 名 師匠 The young student respected his martial arts master. その若い生徒は武道の師匠を尊敬していました。 online en 形 網でつながった。 online video course で動画の講座 She signed up for an online video course. 彼女はオンラインの動画講座に申し込みました。 pete en 名 ピート( Pete と同じ語) plugs en 名 差し込み。 spark plugs で点火栓 The mechanic replaced the old spark plugs quickly. 整備士は古い点火栓をすばやく交換しました。 relax en 動 力を抜く Please relax your shoulders and breathe slowly. 肩の力を抜いてゆっくり呼吸してください。 spark en 名 火花 A single spark can start a huge fire. 一つの火花が大きな火事を引き起こすことがあります。 stupid en 形 ばかな It was stupid of me to forget my keys. 鍵を忘れるなんて私はばかでした。 teamwork en 名 力を合わせること Good teamwork helped the team win the game. 良いチームワークがチームの勝利を助けました。 teenager en 名 十代の若者 My younger sister is now a teenager. 私の妹は今、十代の若者です。 tires en 名 車輪のゴム(複数) We checked the tires before the long trip. 私たちは長旅の前にタイヤを点検しました。 um en 間 えーと He paused and said um before answering. 彼は間を置いて答える前に「えーと」と言いました。 useless en 形 役に立たない This old tool is useless for the job. この古い道具はその仕事には役に立ちません。 構文の骨 ★括弧の行はせりふではない この篇には括弧で始まる行が 1 本あります。 ト書き 何を書いているか (holds them up) アナが点火栓を持ち上げてみせる (puts a useless tool in her hand) ピートが役に立たない道具を渡す (She goes and quickly comes back with tools.) アナが道具を取りに行き、すぐ戻る (looks at gauge) ピートが計器を見る どれも 誰もしゃべっていません 。台本を読む役者に「ここで、こう動け」と伝える行です。 読むときは 場面を思い浮かべる材料 にしてください。たとえば三つめ——アナが道具を取りに行って すぐ戻ってくる と書いてあります。その直前にアナは I’ll be back in a flash! と言っていました。 言ったとおりにした わけです。ト書きとせりふを合わせて読むと、そこが分かります。 そして、もう一つ大事なことがあります。 ト書きは音読しません 。せりふではないからです。 8.35 読編 の行の頭の名前と同じ扱いです。 ★意味を持たない音は飛ばす 話し言葉には、 意味を運ばない音 が混じります。 その音 日本語なら 何をしているか Um えーと 次の語を探している間を埋める Huh はあ? あきれ・疑い Oh ああ 気づき・驚き Well まあ、ええと 話を始める、または一呼吸おく どれも 辞書を引く必要がありません 。意味が無いからです。ところが、日本語話者はこういう音で止まりがちです。 知らない語だと思ってしまう からです。 見分け方は簡単です—— その語を外しても文が立つなら、意味を運んでいません 。 Um, I’ll get my tools. から Um を外しても、文はそのまま立ちます。 ただし、 気分は運んで います。 Um が入っているのは、アナが 一瞬ためらった からです。ピートは「手伝いは要らない」と言ったばかりなのに、アナは道具を取りに行こうとしています。 意味は無いが、気分はある ——音読ではそこを出してください。 ★語を足しても分からない句 話し言葉は、 二語三語でひとまとまりになった句 でできています。一語ずつの意味を足しても、答えは出ません。 原文の句 語を足すと ほんとうの意味 in a flash 閃光の中で あっという間に out of gas 燃料の外で 燃料切れ Pull yourself together 自分を引いてまとめる 落ち着け So I took out the extra ones 外へ取った 抜き出した こういう句は 一つの語として覚える ほかありません。作りを調べても意味は出てきません。 2.7 橋編 で置いた語形成は ここでは効きません 。 では、どう気づくか。 語を足して出た意味が、その場に合わないとき です。「燃料の外で」では意味が通りません。通らないと分かったら、 句ごと辞書を引く ——それが正しい手順です。 この篇の落ちも、その句でできています。アナは点火栓を直し、鍵を回し、師匠の声まで聞こえてきますが、車はかかりません。原因はこれでした。 You are out of gas. 燃料が空だった 。直すところは、どこも壊れていなかったのです。 -self の語 — 「自分で」 この篇には myself ・ yourself が何度も出ます。動画の講座の題からしてそうです。 原文 誰が「自分で」なのか I can fix it myself ピート。手伝いは要らないと言っている You CAN Fix a Car Yourself 動画の講座の題。「あなたにもできる」 when I was a teenager, I was fixing cars -- myself アナ。十代のころ自分で直していた turn it myself アナ。鍵は自分で回すと言い張る この篇は「自分で」の話 です。ピートは自分でやりたがって失敗し、アナも自分でやりたがって失敗します。うまくいったのは、アナが But we need teamwork. と言って二人でやったところだけ——それでも車はかかりませんでしたが。 -self の語は、 「ほかならぬその人が」 という念押しです( 3.4 型編 )。無くても文は立ちますが、 あると意地が出ます 。この篇では、その意地がそのまま話になっています