8.39 九つの童謡 — 音で受け取る(Mother Goose) — Epoché
この篇でできるようになること 意味が通らない詩 を、そのまま受け取れる。 行の終わりを縦に読んで、 韻の型 を見つけられる。 音のための繰り返し と、意味を運ぶ繰り返しを分けられる。 今は使われない古い語が、 なぜ残っているか を言える。 前提 : 8.38 まで。 読む前に — 読み方を組み直す ここまでの二十二篇で、あなたは 意味を取る ための道具をたくさん積んできました。骨と並びを分ける、指示語の指す先を決める、引用符の前の語を見る、動詞を数える——どれも 何が言われているか を取るための道具でした。 童謡では、 その道具の半分が効きません 。意味が通らない歌があるからです。たとえばこの篇の五つめは、こういう話です——糸を紡ぐ老婆がいた。それが始まり。子牛がいた。それで半分。尾をつかんで塀の向こうへ投げた。それでおしまい。 筋が通っていません 。通そうとすると読めなくなります。では何で成り立っているのか。 音と拍子 です。 だから童謡の読み方はこうなります—— まず声に出す。意味はそのあと 。順序が逆になります。ここまでの篇では「読んでから音読」でしたが、この二篇は 音読してから読む ほうが早いのです。 気をつけるところを二つ置きます。 一つめ、 古い語 です。 victuals (食べ物)、 tarries (ぐずぐずする)、 codlins (焼き林檎)——今の英語では使いません。 なぜ残っているか は下で説明します。 二つめ、 題は本文の一部ではない ことです。九つの題が段落として入っています。 8.31 読編 の寓話と同じ形です。 題のところで、別の歌に変わります 。 原文 原文は別の文書にあります(作品ページの「原文」)。全部で 363 語、九首入っています。一首あたり四十語ほどの、ごく短い歌です。 There was a little woman, as I've been told, Who was not very young, nor yet very old; 先に声に出して読んでください 。辞書も語釈も見ずに、意味が分からなくても 最後まで声に出す 。それがこの篇の読み方です。 全訳 原文の全訳です。この課程のために、原文に沿って訳しました。番号は原文の段落の番号で、原文と行き来できます。 熱い焼き林檎 聞いた話では、小さな女がいて、/若くもなければ、年寄りでもなかった。/さてこの小さな女は暮らしを立てていた、/焼き林檎を売って、熱い、熱い、熱い! 一つ、彼は愛してる 一つ、彼は愛してる。二つ、彼は愛してる。/三つ、彼は愛してる、とみんなは言う。/四つ、彼は心の底から愛してる。/五つ、彼は捨てる。/六つ、彼は愛してる。七つ、彼女が愛してる。/八つ、二人とも愛してる。/九つ、彼が来る。十、彼はぐずぐずする。/十一、彼が言い寄る。十二、彼が結婚する。 歩いていたら 歩いていた、ずんずん、ずんずん、/おかしな歌をうたいながら、うた、うた、うた、/わたしの行った小道はとても長くて、長く、長く、長く、/わたしのうたった歌もとても長くて、長く、長く、長く、/だから歌いながら歩いていった。 時計 こぎれいな小さな時計がある――/教室に立っている――/そして時を指している、/二本の小さな針で。 わたしたちも時計のように、/顔を清く明るく保ち、/手はいつでも用意していよう、/正しいことをするために。 それでおしまい 糸を紡いでいるおばあさんがいた、/それが始まりのはじまり。 おばあさんは子牛を飼っていた、/それで半分。 しっぽをつかんで、/塀の向こうへ放り投げた、/それでおしまい! 珈琲と茶 わたしの姉妹のモリーとわたしが、けんかした、/さて、何のことでだと思う?/モリーは珈琲が好きで、わたしは茶が好きだった、/それで意見が合わなかったのさ。 ジャック・ジングル ちびのジャック・ジングル、/前は独り身で暮らしていた。/でもそんな暮らしに飽きたので、/独り身をやめて、おかみさんと暮らした。/さて、ちびのジャック・ジングルをどう思う?/結婚する前は、独り身で暮らしていたのさ。 変なおばあさん おばあさんがいた、さて、どう思う?/食べ物と飲み物だけで暮らしていた。/食べ物と飲み物がおもな献立だった、/それなのにこのおばあさん、ちっとも静かにしていられなかった。 土曜日、日曜日 土曜の夜は/わたしの気がかりはただひとつ、/髪に粉をはたいて、/髪を巻くこと。 日曜の朝には/恋人が入ってくる。/そのとき彼はわたしと結婚する、/金の指輪で。 語釈 帯の外の語は 29 語です。下に 全部 出します。 語釈は音読のあとで見てください 。先に見ると、意味を取ろうとしてしまいます。 語(品詞) 意味 注 Codlins en 名 焼き林檎。題の中の語 Codlins are a kind of apple used for baking. コドリンズは焼き菓子に使われるりんごの一種です。 Jack en 名 ジャック。男の名 Jingle en 名 ちりんちりんと鳴る音。ここでは名の一部 Jingle bells rang cheerfully throughout the winter parade. ジングルという鈴の音が冬のパレードの間中陽気に鳴り響きました。 Molly en 名 モリー。女の名 Strange en 形 風変わりな。題の中の語 Strange noises came from the old abandoned house. その古い廃屋から奇妙な物音が聞こえてきました。 Tea en 名 茶。題の中の語 Tea is a popular drink in many countries. お茶は多くの国で人気の飲み物です。 Victuals en 名 食べ物。古い語 Victuals were shared among all the weary travelers. 食べ物は疲れた旅人たち全員で分け合われました。 bright en 形 明るい、よく光る The bright sun woke her up early. 明るい太陽が彼女を早く目覚めさせました。 calf en 名 子牛 The little calf followed its mother closely. その小さな子牛は母親のすぐ後ろについて歩きました。 casts en 動 捨てる( cast away =見捨てる) He casts his fishing line into the river. 彼は川に釣り糸を投げ入れます。 codlins en 名 焼き林檎。古い語 Farmers used codlins to make sweet autumn pies. 農家は甘い秋のパイを作るのに焼きりんごを使いました。 coffee en 名 珈琲 She always drinks coffee before her morning run. 彼女はいつも朝のランニングの前にコーヒーを飲みます。 comical en 形 おかしな The clown made a comical face at us. その道化師は私たちにおかしな顔をして見せました。 curl en 動 巻く She likes to curl her hair every morning. 彼女は毎朝髪を巻くのが好きです。 diet en 名 ふだんの食べ物 A healthy diet includes fruits and vegetables daily. 健康的な食生活には毎日の果物と野菜が含まれます。 gold en 形 金の She wore a beautiful gold necklace to the party. 彼女はパーティーに美しい金のネックレスをつけていきました。 jack en 名 ジャック( Jack と同じ語) lane en 名 細い道 The old lane led to a quiet farmhouse. その古い細い道は静かな農家へと続いていました。 locks en 名 髪(複数)。古い言い方 Her golden locks flowed gently in the wind. 彼女の金色の髪が風にそっとなびいていました。 neat en 形 こぎれいな He keeps his desk neat and organized always. 彼はいつも机をこぎれいに整えています。 powder en 動 粉をふる She likes to powder the cake with sugar. 彼女はケーキに砂糖の粉をふるのが好きです。 quiet en 形 静かな、おとなしい The library was quiet during the exam week. 図書館は試験週間中、静かでした。 schoolroom en 名 教室 The children sat quietly inside the small schoolroom. 子どもたちは小さな教室の中で静かに座っていました。 spinning en 動 糸を紡いでいる The old woman was spinning wool by the fire. その老婦人は暖炉のそばで羊毛を紡いでいました。 tail en 名 尾 The dog wagged its tail happily at dinnertime. その犬は夕食時にうれしそうにしっぽを振りました。 tarries en 動 ぐずぐずする。古い語 He rarely tarries when there is work to do. やるべき仕事があるとき、彼はめったにぐずぐずしません。 tea en 名 茶 I like to drink tea in the afternoon. 私は午後にお茶を飲むのが好きです。 tired en 形 飽きた。 get tired of で〜に飽きる She got tired of eating the same food. 彼女は同じ食べ物を食べるのに飽きてしまいました。 victuals en 名 食べ物。古い語 The travelers gathered victuals before their long journey. 旅人たちは長い旅の前に食べ物を集めました。 構文の骨 ★行の終わりだけを縦に読む 詩の読み方の第一歩は、 行の終わりの語だけを縦に見る ことです。 8.28 読編 で置いたとおり、そこに 韻 があります。 どの歌 行の終わり 韻の型 Hot Codlins told / old / got / hot 二行ずつ揃う Coffee And Tea out / about / tea / agree 二行ずつ揃う The Clock clock / stands / time / hands 二行めと四行めだけ 揃う A Strange Old Woman think / drink / diet / quiet 二行ずつ揃う 二つの型 があります。二行ずつ揃うものと、 二行めと四行めだけ 揃うものです。どちらも英語の詩でいちばん多い型で、この先も何度も出てきます。 型が分かると、 読む速さが変わります 。次の行の終わりに何が来るかが、 音で予想できる ようになるからです。英語で育った子どもは、これを二歳三歳で身につけます。 だから童謡なのです。 韻の型を耳に入れるための歌 ——それがこの二篇の正体です。 ★音のための繰り返し 三つめの歌を見てください。 As I was going along, along, A-singing a comical song, song, song, The lane that I went was so long, long, long, 同じ語が二度、三度とくり返されています。 意味は一つも増えていません 。「道は長かった」を long, long, long と言っても、三倍長くなるわけではありません。 では何のためか。 拍子を合わせるため です。そして、 along ・ song ・ long が みな同じ音で終わる ことに気づいてください。繰り返すたびに、その音が耳に打ち込まれます。 8.21 読編 で「繰り返しは鎖のつなぎ目」と置きました。あれは 意味を運ぶ繰り返し でした。こちらは 音のための繰り返し です。 同じ「繰り返し」でも、働きが正反対 です。 どの繰り返しか 働き 読むときは 意味の繰り返し( 8.21 読編 ) 前の文とつなぐ 立てて読む 音の繰り返し(この篇) 拍子を作る 調子に乗って読む 見分け方は簡単です—— すぐ隣でくり返されていたら、音のため 。文をまたいでくり返されていたら、意味のためです。 ★意味が通らない歌がある 五つめの歌を、全部引きます。 There was an old woman sat spinning, And that's the first beginning; She had a calf, And that's half; She took it by the tail, And threw it over the wall, And that's all! 筋が通っていません 。老婆と子牛に関わりがなく、尾をつかんで投げる理由も書かれていません。 ところが、音を見てください。 行の終わり その音 spinning / beginning 揃っている calf / half 揃っている tail / wall / all 揃っている 三つとも韻で結ばれて います。しかも beginning (始まり)→ half (半分)→ all (ぜんぶ)と、 数え上げになって います。 つまりこの歌は、 「始まり・半分・おしまい」を言うために作られた もので、老婆も子牛も 韻を踏むための材料 にすぎません。 spinning が選ばれたのは beginning と韻を踏むから、 calf が選ばれたのは half と韻を踏むからです。 意味が音に従っている ——これが詩のいちばん大きな特徴です。ふつうの文章では音が意味に従いますが、詩では逆になることがあります。 8