6.7 レストラン — 食べ物の名前が 1 つも無い — Epoché
この課で言えるようになること 料理の名前を知らないまま、あちらの人・連れ・いま出しているもので頼める。 人数・待ち時間・量・一人あたりの額を、数だけで渡したり受け取ったりできる。 店の人から先に来る 4 つの問いを聞き分け、それぞれに合う形で返せる。 味の語が 1 つも無いところで、 good の一語だけで料理の善し悪しを言い分けられる。 前提 : 6.6 まで。 6.6 話編 では、初めての町で道をたずね、自分の事務所への道を渡しました。あのとき困ったのは、言いたいことに当たる語が無いことでした。角も、まっすぐも、方角も無い。それでも道そのものと左右さえあれば、形だけは作れました。 言いたいことの中身は、まだこちらの手にあった のです。 この課の困り方は、もう一段深いところにあります。レストランで頼むものには、必ず名前が付いています。名前を言わずに何かを頼むという経験を、私たちはほとんど持っていません。ところがこの期の 600 語には、 食べ物の名前が 1 つも入っていません 。つまり 言いたいことの中身のほうが、手から落ちている 。名前で指せないものをどう頼むか——この課はそれだけを扱います。 もう 1 つ、この課から変わることがあります。6.1 から 6.6 までは、こちらから話しかけていました。名乗るのも、たずねるのも、買うのも、道を聞くのも、口火はこちらでした。レストランは違います。 先に口を開くのは店の人 です。人数を聞かれ、注文を聞かれ、おかわりを聞かれ、支払い方を聞かれる。話す側の課でありながら、この課だけは 聞き取る耳から始まり ます。 場面と話し手 対話 A は、五人で店に入り、席につき、注文するまでの場面です。話し手は学習者の A と店の人の C 。初対面で一度きりの相手なので、丁寧さは中くらいから上を使います。 対話 B は、同じ食事の終わりです。ここには連れの B が加わって三人になります。身内の B には段を下げ、店の人の C には段を上げる—— 1 つの対話の中で 2 つの段を使い分ける のが、この課の新しいところです。 先に語の話を片づけます。この課には穴が 4 つあります。1 つ目は 場そのものの語 です。 restaurant ・ menu ・ waiter ・ seat ・ chair ・ dish の 6 語がどれも 600 番より外にあります。店を指す語が 919 番、品書きを指す語にいたっては 2,597 番で、第 1 期どころか第 3 期でも出てきません。 店も、品書きも、給仕の人も、席も呼べない 。この課の対話に、店を指す語も品書きを指す語も一度も出てこないのは、そのためです。 2 つ目が、この課のいちばん大きな穴です。 食べ物と飲み物の名前 。 bread ・ rice ・ meat ・ fish ・ egg ・ milk ・ fruit ・ coffee ・ tea ・ drink の 10 語が全部外です。いちばん帯に近い drink でも 655 番、いちばん遠い rice は 2,695 番。帯に残っている飲み食いの語は、 food と water の 2 語しかありません。しかも前者は「食べ物」という総称で、これでは何も頼めません。 この期の 600 語で名指しできる飲食物は、水ただ 1 つ です。 3 つ目は 味を言う語 です。 delicious ・ taste ・ sweet ・ hot ・ cold の 5 語が外にあります。「おいしい」も「甘い」も「熱い」も「冷たい」も言えません。残っているのは good です。たった 1 語ですが、この語には段があります。後で見るように、程度の語を足すことと打ち消すことの 2 つで、 1 語のまま上にも下にも動かせ ます。 4 つ目は 会計の語 です。 bill ・ card ・ cash ・ dollar の 4 語は外。ところがここに 1 つだけ、思いがけない救いがあります。 check が 580 番で、帯のいちばん端にかろうじて残っているのです。この語は「確かめる」の意味のほうがなじみがあるはずですが、 同じ綴りで「勘定書」の意味も持ち ます。帯の中の 1 語が 2 つの働きをしてくれるおかげで、この課は会計まで 600 語で通せます。 そこでこの課では、名前の穴を 3 つの手で埋めます。 人で指す (あちらの人が食べているものと同じもの)、 数で言う (人数・待ち時間・量・一人あたりの額)、 見せてもらう (いま出しているものを見せてください)。この 3 手は、どれも 相手の側にある情報を借りる 形になっています。自分の語彙が足りないとき、足りない分は相手が持っている——これは第 1 期の残り全部にそのまま効く構えです。 対話 A 話者 英文 日本語訳 C How many people? [1] 何名様ですか。 A Do you have a table for five? [2] 五人の席はありますか。 C Wait a while. [3] 少々お待ちください。 A How long will it be? [4] どのくらい待つことになりますか。 C Thanks for waiting. [5] お待たせしました。 A Can we sit at the table over there? [6] あそこの席に座ってもよろしいですか。 C May I take your order? [7] ご注文を承りましょうか。 A Could you show me what you're serving? [8] いま出していらっしゃるものを見せていただけますか。 A I'll have what he's having. [9] あちらの方と同じものにします。 A Could I have some water? [10] お水をいただけますか。 C Here you go. [11] はい、どうぞ。 11 行あり、上から下へ 人数・待つ・席・注文・水 の順に進みます。学習者 A の行が 6 行、店の人 C の行が 5 行です。 1 行目は C から始まります。3 語しかありません。主語も動詞も落ちて、 数をたずねる語だけ が残った形です。短いですが、店の入口ではこれがふつうで、失礼にはなりません。2 行目の答えは 7 語あって、問いより長くなっています。これは第 1 期に何度も出てくる形です。帯には裸の数だけで答える言い方が無いので、 問いの中身を言い直しながら答える ことになります。遠回りに見えますが、こちらのほうが取り違えが起きません。五人と言いながら席まで頼んでいるので、C は次にすることが分かります。 3 行目と 4 行目が 待つ やりとりです。3 行目の命令の形は、店の人が客に使ってもとがめられない数少ない形の 1 つで、日本語の「少々お待ちください」に当たります。4 行目で A が待ち時間をたずねているのが大事なところです。 6.6 話編 で確かめたとおり、この期の語では 遠さも長さも分でしか言えません 。だから時間をたずねる形が、そのまま「待てるかどうか決めさせてください」になります。 6 行目は 8 語あって、この対話でいちばん長い行です。席を指す言い方に、位置を言う語が 2 つ重なっているからです。ここで見てほしいのは、 席そのものの語を使っていない ことです。帯に席の語も椅子の語も無いので、代わりに卓を指す語で言っています。食事の場で卓と言えば席のことなので、これで通じます。 無い語は、近くにある語に肩代わりさせる。 7 行目でまた C が先に口を開き、注文をたずねます。そのあとの 8・9・10 行目が、この課の中心です。3 行続けて A が話しているのは、C が黙っているからではありません。C は 8 行目のあとで、ちゃんと答えています。ただしその答えは 料理の名前ばかりでできていて 、A の 600 語にはどれも入っていません。書き写しても A には読めないので、この表には載せていません。だから A は、名前を聞き取ることをあきらめます。9 行目の 5 語がその決断です。 あちらの人が食べているもの ——名前ではなく、目の前にある実物と、それを食べている人で指しています。これは苦しまぎれの手ではありません。料理の名前を覚えていない土地では、母語話者もこう言います。 8 行目もよく見てください。品書きの語が無いので「見せてください」と頼み、その中身を 「いま出しているもの」という節 で言っています。名詞 1 語で呼べないものを、動詞を使った節にほどいて言う——この作り方は、この先ずっと使います。10 行目で水を頼んでいるのは、ついでではありません。水はこの期に名指しできるただ 1 つの飲み物なので、 確実に手に入る 1 品 としてここに置いてあります。 対話 B 話者 英文 日本語訳 C Would you like some more? [12] もう少し召し上がりませんか。 A I've eaten enough. [13] もう十分いただきました。 B Let's have some more. [14] もう少しいただきましょうよ。 A We ordered too much food. [15] 料理を頼みすぎましたよ。 B The food was very good. [16] 食事はとてもおいしかったですね。 A May I have the check, please? [17] お勘定をお願いします。 C How would you like to pay? [18] お支払いはどのようになさいますか。 A How much is it for one person? [19] 一人いくらになりますか。 B Let me pick up the check. [20] ここは私に払わせてください。 A Is it my turn to pay? [21] 私が払う番ではありませんか。 B It's your turn to pay. [22] ええ、あなたが払う番です。 A Let's go now. [23] そろそろ行きましょうか。 12 行あり、対話 A より 1 行長くなっています。食事の終わりには、 量 と 勘定 という別の話題が 2 つ入るからです。話し手は三人。A が学習者、B が連れ、C が店の人です。 1 行目はまた C から始まります。この課の対話は、どちらも相手のほうが先に口を開く形になっています。おかわりをすすめる問いで、頭が would で始まる、この期でいちばん丁寧なすすめ方です。2 行目の A の答えは、断りでありながら礼になっています。 足りている と言うだけで、「けっこうです」の代わりになる。帯に断りの決まり文句が無いので、この形は覚えておくと役に立ちます。 3 行目で B が逆のことを言い、4 行目で A が量を持ち出して収めます。ここが 数で言う 手の使いどころです。「もういい」と言えば B の顔をつぶしますが、 頼みすぎた と量の話にすれば、誰も否定されません。料理の名前が言えなくても、多い少ないは言えます。名前が使えないぶん、この期は 量の語が会話の主役 になります。 5 行目が、味の語の無いところで出てくる言い方です。料理をほめるのに使えるのは good だけですが、ここでは程度の語を 1 つ足して段を上げています。足さずに言えば「よかった」どまりになり、打ち消せば「あまりよくなかった」になります。 1 語に程度の語を足すか、打ち消すか。この 2 つで足りる。 6 行目から 8 行目までが 勘定 です。6 行目の A は店の人 C に向かって言っていて、頭に許しを求める語、終わりに丁寧さの語を置いた、この期でいちばん上の段です。7 行目で C が支払い方をたずねますが、この問いに帯の中の語で答えるのはむずかしいところです。現金も札も帯の外だからです。そこで 8 行目の A は、答えずに 別の問いで返し ています。一人あたりいくらか——これなら数だけで済み、しかも割り前の相談にもなります。 9 行目から 11 行目までが、この課の最後の山です。B が全部払うと申し出て、A が「私の番では」と押し返し、B が折れる。 3 行で決まっています。 日本語なら「いえいえ」「そんな」と何往復もするところですが、帯にその往復を支える言い方がありません。だからここでは、 番 という語 1 つで決めています。順番の話にしてしまえば、断るのでも遠慮するのでもなく、ただ事実を確かめるだけで済むからです。12 行目は 3 語で締めています。感想はここでは言いません。5 行目で B がもう言っているからです。 言い回し 対話に出なかった言い方を足しておきます。下の 7 つは、頼む・確かめる・直す・払う の 4 つの場面から選びました。 英文 日本語訳 使いどころ What are you serving today? [24] 今日は何を出していらっしゃいますか。 品書きが無いので「今日出しているもの」をたずねる I'd like to order the same. [25] 私も同じものを注文します。 連れと同じもので頼む。人で指すもう 1 つの形 I'd like some more water. [26] お水をもう一杯ください。 おかわり。杯を数える語が帯に無いので、量の語で言う Can I eat this? [27] これを食べていいですか。 出てきたものが分からないときに、目の前の実物を指して確かめる This isn't what I ordered. [28] これは私が注文したものと違います。 違うものが来たとき。相手を責めずに、来た品と頼んだ品の食い違いだけを言う What happened to our food? [29] 私たちの料理はどうなっているのですか。 頼んだものが来ないとき。人ではなく料理を主語にすると角が立たない The check, please. [30] お勘定をお願いします。 会計を頼むいちばん短い形。名詞 1 つに丁寧さの語を足しただけ 3 番目に印を付けておきます。日本語なら「もう一杯」と器を数えるところですが、杯にあたる語も器にあたる語