11.1 論語 學而 — 學びて時に之を習ふ — Epoché
この篇でできるようになること 三つの反語を見つけ、強い肯定として読めます。 接続の字を、前後の意味から読み分けられます。 原文・書き下し文・解説を行き来して、詰まったところを確かめられます。 前提 :9.12「短い原典を通しで — 『論語』七章」。文編で見た形を、篇の内容と結び付けます。 三つの文書を使う まず原文を読みます。字の関係が分からなくなったら、書き下し文の同じ句へ移ります。それでも意味がつかめなければ、解説の語釈と読みどころを見て、原文へ戻りましょう。往復しながら、二つを結び付けます。日本語訳の意味を知ることと、原文の字のつながりを読むことです。 『論語』は、孔子の言葉や行動を弟子たちが記した本で、孔子自身の著作ではありません。ここでは巻頭の第一章を読みます。篇の名は最初の二字から採られているので、題だけで内容を決めず、章を読み進めてください。 問いの形で強く肯定する 不亦說乎 は「なんと喜ばしいことではないか」です。問いの形を使って強く肯定する反語で、答えを知らないために尋ねているのではありません。 文編 7課 で見た形の確認です。 乎 は文末にあります。 型編 3課 で学んだ 吗 と位置を比べられますが、働きまで同じではありません。この章の三つの反語は、聞き手に答えを求めず、学びや人との関わりの価値を伝えています。 原文の句 書き下し 伝えていること 不亦說乎 亦說ばしからずや なんと喜ばしいことではないか 不亦樂乎 亦樂しからずや なんと楽しいことではないか 不亦君子乎 亦君子ならずや それこそ君子ではないか 書き下しでは 不 を「ず」、 乎 を「や」で受けます。ただし、原文では先にある否定の字を、日本語では後ろで読みます。句の切れ目を対応させることと、字を全く同じ順で読むことは別です。 不 だけを否定として取り出すと、「喜ばしくない」になってしまいます。ここでは反語のまとまり全体で、喜ばしいと強く肯定しています。 同じ字でもつながりが違う 學而時習之 は、学んで、それを折にふれておさらいする流れです。前にした学びを後の行動へつなぐので、順に進みます。 之 は習う対象で、前に出た学んだことを受ける代詞です。何を指すかは、字だけでなく前を見て決めます。 人不知而不慍 では、理解されないのに恨まない、と進みます。理解されなければ腹を立てそうですが、そうはしない。この予想との対比があるので、逆向きのつながりとして読みます。 接続の 而 は、字だけで順接か逆接かが決まるものではありません。 文編 5課 で見たように、前後の内容を比べます。この章では同じ字を二つの場面で読み分けることができます。 言う字を喜ぶ意味で読む ここでの 說 は、よろこぶ意味の 悅 を借りて書いた字です。このように音の対応する別の字を借りるものを、通假字と呼びます。現代語の「言う」 说 をそのまま当てはめると、意味が合いません。 この箇所の読みは yuè です。現代語で「言う」ときの shuō とは区別します。書き下しの「說ばし」も、よろこばしいと読んでいます。音と意味を一緒に確かめてから、原文の反語へ戻りましょう。 同じ形の字を見ても、いつも現代語と同じ読みとは限りません。ここでは「言うではないか」ではなく、「喜ばしいではないか」と読める音を選びます。 自分から外へ進む 有朋自遠方來 は、友が遠くから来る場面です。存在を述べる 有 の後ろに友が現れます。 自 は起点を表し、現代語の 从 に当たります。出どころを動詞より前に置く点は 型編 9課 と結び付きます。 三つの場面は、自分の学び、自分と仲間、自分を理解してくれない人へと広がります。楽しい相手だけでなく、思いどおりにならない相手との関係へ進むところに注目しましょう。 最後の 君子 は、ここでは人として立派な者を表します。人に理解されないときも恨まないという態度を、最後の反語で受けています。三つを別々の標語として覚えるだけでなく、最後までの流れを読んでください。 語釈 語 品詞 意味 日本語との差 例文 訳 時 副詞 折にふれて ここでは時刻の名詞ではない 時習之 折にふれてそれをおさらいする 習 動詞 おさらいして身につける 習う一回だけではない 時習之 折にふれてそれをおさらいする 之 代詞 それ 習う対象を受ける 習之 それをおさらいする 亦 副詞 また・やはり 反語の形の中で読む 不亦說乎 なんと喜ばしいことではないか 說 形容詞 喜ばしい 悅の通假字 不亦說乎 なんと喜ばしいことではないか 朋 名詞 友・仲間 訪ねてくる相手 有朋自遠方來 友が遠くから来る 自 介詞 〜から 自分の意味ではない 自遠方來 遠くから来る 慍 動詞 恨む・腹を立てる 不で打ち消される 不慍 恨まない 君子 名詞 立派な人 ここでは態度に注目する 不亦君子乎 それこそ君子ではないか 練習 空欄を埋め、本文の句を書いてください。 學_時習_ 空欄を埋め、本文の句を書いてください。 有朋_遠方來 空欄を埋め、本文の句を書いてください。 人不知_不慍 「亦說ばしからずや」を本文の字の順に戻して書いてください。 「亦樂しからずや」を本文の字の順に戻して書いてください。 「亦君子ならずや」を本文の字の順に戻して書いてください。 現代語の 朋友 ・ 从 ・ 远方 ・ 来 を並べた「友が遠くから来る」という言い方を、本文の形に書き換えてください( 从 → 自 、 有 +名詞で始める)。 三つの反語を、自分の学び・仲間との関わり・理解されない場面の順に対応させてください。 二つの 而 の働きを、前後の内容から説明してください。 說 を yuè と読む理由を書いてください。 人不知而不慍 の中身を、前に学んだ 失望 と、腹を立てる意味の 生气 を使って、現代中国語で二文書いてください。どちらの文も「人に理解されない」という条件と、そのときの自分の態度をそろえて書きます。 原文を三度音読します。ふつうに読み、次に反語の前でひと呼吸置き、最後は三つの問いの結びを意識してください。▶ で手本を聞き、書き下し文でも同じ句の切れ目を確かめます。 この篇のまとめ 反語はまとまり全体で強い肯定を読みます。同じ接続の字でも、順に進むか対比になるかは内容で決まります。原文の音、書き下しの読み、語釈の意味を往復して確かめましょう。 次の篇へ 次の11.2では、曾子が自分を振り返る章を読みます。三つの問いが、相手との関わりから自分の学びへ戻ります。 答え 學而時習之 有朋自遠方來 人不知而不慍 不亦說乎 不亦樂乎 不亦君子乎 有朋自遠方來 不亦說乎 =自分の学び。 不亦樂乎 =仲間との関わり。 不亦君子乎 =理解されない場面。 學而時習之 は学びからおさらいへ順につながります。 人不知而不慍 は理解されないのに恨まないという対比です。 悅 の通假字として、喜ばしいという意味で使われているためです。 别人不理解我,我也不生气。 别人不理解我,我也不失望。 参考文献 孔子の弟子たち『論語 學而』。パブリックドメイン(著者没後70年経過)。本文は抄。 出所: 当館所蔵の文書