8.63 くじらののど(前) — 音のために語を壊す — Epoché
この篇でできるようになること ★ 音のために語が壊されている ところを見つけられる。 聞き手への呼びかけが、話の中でどう働いているかを言える。 対にして並べる書き方を、声に出して確かめられる。 帯の外の語を、語釈を見ながら読み通せる。 前提 : 8.62 まで。型は 3.24 まで。語は 4.36 まで。 読む前に 『ジャスト・ソー物語』は、キプリングが自分の子どもに 語って聞かせた話 を本にしたものです。だから、文の中に 聞き手が出てきます 。 「なぜ動物がこういう形をしているのか」を説明する形をとりますが、説明は でたらめ です。本気で信じさせるつもりはありません。面白いのは 語り方のほう です。 呼び名 何を指すか O my Best Beloved 「いちばん大事なおまえ」。聞いている子どもへの呼びかけ ‘Stute Fish 「かしこい魚」。 astute (抜け目ない)を縮めた形 Mariner 船乗り。ここでは難破した一人の男 Cetacean 鯨類。くじらを大げさに呼んだ言い方 原文 原文は別の文書にあります(作品ページの「原文」)。全部で 538 語、文は 17 つです。 読 C でいちばん短い篇 ですが、いちばん読みにくいかもしれません。 IN the sea, once upon a time, O my Best Beloved, there was a Whale, and he ate fishes. まず 声に出して 読んでください。この篇は、黙って読むと 半分しか分かりません 。 全訳 原文の全訳です。この課程のために、原文に沿って訳しました。番号は原文の段落の番号で、原文と行き来できます。 むかしむかし、海の中に、ねえおまえ、一頭のクジラがいて、魚を食べていました。ヒトデもダツも、カニもカレイも、ツノガレイもウグイも、エイとその連れ合いも、サバ( mackereel )もカワカマス( pickereel )も、それに本当に本当にくねくねにょろにょろしたウナギも食べました。海じゅうで見つけられるかぎりの魚を、みんな口で食べてしまいました——こんなふうにね! とうとう海じゅうに小さな魚が一匹だけしか残らなくなりました。それは小さなかしこい魚で、危ない目にあわないように、クジラの右耳のすこし後ろを泳いでいました。するとクジラはしっぽで立ち上がって言いました。「腹がへった。」すると小さなかしこい魚は、小さなかしこい声で言いました。「気高く心の広いクジラ目のおかたよ、人間というものを味わったことはおありですか?」 「ないな」とクジラは言いました。「どんな味だ?」 「おいしいですよ」と小さなかしこい魚は言いました。「おいしいけれど、ごつごつしています。」 「では、少し取ってこい」とクジラは言い、しっぽで海を泡立てました。 「一度に一人で十分です」とかしこい魚は言いました。「北緯五十度、西経四十度まで泳いでいけば(これは魔法の場所です)、海の真ん中で、いかだに座っている難破した船乗りが一人見つかります。身につけているのは青い帆布のズボンが一着と、ズボン吊りが一組(ねえおまえ、ズボン吊りを忘れてはいけませんよ)、それにジャックナイフが一本だけです。公平のために言っておきますが、その人は限りない知恵と才覚の持ち主です。」 そこでクジラは、できるかぎり速く、北緯五十度、西経四十度まで泳ぎに泳ぎました。すると海の真ん中で、いかだの上に、青い帆布のズボンが一着と、ズボン吊りが一組(ねえおまえ、ズボン吊りはとくによく覚えておくのですよ)、それにジャックナイフが一本のほかは何も身につけていない、たった一人きりの難破した船乗りが、足の指を水にひたしているのを見つけました。(船乗りはお母さんから水遊びをしてもいいとお許しをもらっていたのです。そうでなければ決してそんなことはしなかったでしょう。限りない知恵と才覚の持ち主でしたからね。) するとクジラは口を後ろへ後ろへ後ろへと、ほとんどしっぽに届くほど開けて、難破した船乗りを飲みこみました。船乗りが座っていたいかだも、青い帆布のズボンも、ズボン吊りも(忘れてはいけませんよ)、ジャックナイフも——クジラはそれを全部、自分のあたたかくて暗いおなかの中の戸棚へ飲みこんでしまいました。それから舌つづみを打ち——こんなふうにね——しっぽで三度くるりと回りました。 けれども、限りない知恵と才覚の持ち主だった船乗りは、自分が本当にクジラのあたたかくて暗いおなかの中の戸棚にいるとわかるとすぐに、どしどし踏み鳴らし、ぴょんぴょん跳び、どんどんたたき、ごつんごつんぶつかり、はね回り、踊り回り、がんがん打ち、がらんがらん鳴らし、ぶっては噛みつき、跳んではそっとはい、うろつき回ってはわめき、ぴょんと跳ねてはどすんと落ち、泣いてはため息をつき、はい回ってはどなり、歩いては跳びはね、踊ってはいけないところでホーンパイプを踊りました。それでクジラは、本当にひどく困ってしまいました。(ズボン吊りのことを忘れてしまいましたか?) 語釈 帯の外の語は 67 語です。★このうち何語かは 辞書に載っていません 。キプリングが作った語だからです。語釈にそう書いてあります。 語(品詞) 意味 注 Beloved en 名 いとしい者。 Best Beloved で呼びかけ Cetacean en 名 鯨類 The blue whale is the largest cetacean on Earth. シロナガスクジラは地球上で最大の鯨類です。 Mariner en 名 船乗り The old mariner told stories of storms at sea. その年老いた船乗りは海の嵐の話を語りました。 Noble en 形 気高い The knight was praised for his noble courage. その騎士は気高い勇気をたたえられました。 O en 間 呼びかけの語。「おお」 O traveler, rest here before the mountain path begins. おお、旅人よ、山道が始まる前にここで休んでください。 Stute en 形 astute (抜け目ない)を縮めた形 Whale en 名 くじら The huge whale surfaced slowly beside the small boat. その巨大なくじらは小さな船のそばにゆっくりと浮かび上がりました。 Whale’s en 名 くじらの The whale's enormous tail slapped against the calm water. そのくじらの巨大なしっぽは静かな水面を打ちました。 banged en 動 がんと打った He banged his fist loudly on the wooden table. 彼は木のテーブルを大きな音でがんと打ちました。 bawled en 動 わめいた The frightened toddler bawled loudly for his mother. そのおびえた幼児は母親を求めて大きな声でわめきました。 breeches en 名 半ズボン The old sailor wore patched breeches and heavy boots. その年老いた船乗りは継ぎの当たった半ズボンと重いブーツを履いていました。 bumped en 動 どんとぶつかった The small boat bumped gently against the wooden dock. その小さな船は木の桟橋にそっとどんとぶつかりました。 canvas en 名 帆布 Strong wind filled the ship's white canvas sails. 強い風が船の白い帆布の帆をふくらませました。 clanged en 動 かんと鳴らした The heavy iron gate clanged shut behind him. その重い鉄の門は彼の後ろでかんと閉まりました。 crab en 名 かに A small crab scuttled sideways across the wet sand. 小さなかにが濡れた砂の上を横向きに走りました。 crawled en 動 はった The baby crawled slowly across the soft carpet. その赤ちゃんは柔らかいじゅうたんの上をゆっくりとはいました。 creeped en 動 はった。 crept が正しい形 The old sailor creeped quietly along the dark deck. その年老いた船乗りは暗い甲板をそっとはっていきました。 dab en 名 かれいの一種 The fisherman caught a small dab near the shore. 漁師は岸の近くで小さなかれいを一匹釣り上げました。 dace en 名 うぐいの一種 He caught a slender dace in the shallow stream. 彼は浅い流れで細長いうぐいを釣りました。 eel en 名 うなぎ A long eel slid silently through the murky water. 一匹の長いうなぎがにごった水の中を静かに滑りました。 fetch en 動 取ってくる The sailor asked his mate to fetch more rope. その船乗りは仲間にもっとロープを取ってくるよう頼みました。 froth en 動 泡立てる The waves began to froth white against the rocks. 波は岩に打ちつけて白く泡立ち始めました。 garfish en 名 だつ The fisherman pulled a long garfish from the net. 漁師は網から長いだつを引き上げました。 generous en 形 気前のよい The generous fisherman shared his catch with the village. その気前のよい漁師は自分の漁獲を村と分け合いました。 harm's en 名 out of harm’s way で「安全なところに」 The captain moved the children out of harm's way. 船長は子どもたちを安全なところへ移動させました。 hopped en 動 跳ねた The small fish hopped briefly out of the water. その小さな魚は一瞬水から跳ねました。 hornpipes en 名 船乗りの踊り(複数) The sailors danced hornpipes on the creaking deck. 船乗りたちはきしむ甲板の上で船乗りの踊りを踊りました。 howled en 動 吠えた The wind howled fiercely around the old ship. 風はその古い船の周りで激しく吠えるように鳴りました。 hungry en 形 腹のへった The hungry sailor searched the ship for food. その腹のへった船乗りは食べ物を求めて船を探しました。 infinite en 形 限りない The ocean seemed to stretch on with infinite patience. その海は限りない忍耐で広がっているように見えました。 jack en 名 jack-knife で折りたたみナイフ The sailor carried a sharp jack-knife in his pocket. その船乗りはポケットに鋭い折りたたみナイフを入れていました。 knife en 名 ナイフ She sliced the bread with a sharp knife. 彼女は鋭いナイフでパンを切りました。 latitude en 名 緯度 The captain calculated their latitude using the stars. 船長は星を使って自分たちの緯度を計算しました。 leaped en 動 跳んだ The dolphin leaped high above the rolling waves. そのイルカはうねる波の上高く跳びました。 lepped en 動 跳んだ。 leapt を崩した形 The dog lepped over the fence to chase the ball. その犬はボールを追いかけてフェンスを跳び越えました。 lips en 名 くちびる(複数) She pressed her lips together and said nothing. 彼女はくちびるを引き結んで何も言いませんでした。 longitude en 名 経度 The sailors used maps to determine their longitude at sea. 船乗りたちは海上での経度を求めるために地図を使いました。 mackereel en 名 さば+うなぎ。作られた語 magic en 名 魔法 The old book was said to hold ancient magic. その古い本には古代の魔法が宿っていると言われていました。 mate en 名 連れ合い The captain trusted his mate with the ship's course. 船長は船の進路を仲間に信頼して任せました。 mummy's en 名 お母さんの The little boy held tightly to his mummy's hand. その小さな男の子はお母さんの手をしっかりと握っていました。 nubbly en 形 ごつごつした。作られた語 The old rope felt rough and nubbly in his hands. その古いロープは手の中でざらざらとごつごつしていました