8.33 三つの寓話 — 犬・キリギリス・亀(イソップ) — Epoché
この篇でできるようになること 皮肉が話の落ちになる ことに気づける。 said の代わりの動詞から、 言い方 を受け取れる。 途中で切れた話を、 知っていることで補える 。 読む力の一部は文章の外にある と知る。 前提 : 8.32 まで。 読む前に 三つの話が入っています。順に、 川の皮を取ろうとして水を飲み干そうとした犬たち 、 蟻とキリギリス 、 兎と亀 です。 二つめと三つめは、 日本でもよく知られた話 です。知っている話を英語で読むのは、 この上なくよい練習 になります。筋を追う力を使わずに済むので、 言い方だけに目が行く からです。 気をつけるところを三つ置きます。 一つめ、 三つめの話は途中で切れます 。競走が始まったところで終わりです。けれども、あなたは結末を知っているはずです。 知っていることで補えるかどうか ——それがこの篇の練習の一つです。 二つめ、 said が一度も出ません 。かわりに cried 、 whined 、 replied 、 asked が使われます。どれも「言った」に 言い方が足されて います。 三つめ、 最後のせりふが皮肉 だということです。字面どおりに読むと、まるで意味が通りません。下の「構文の骨」で扱います。 原文 原文は別の文書にあります(作品ページの「原文」)。全部で 307 語、十四段落です。書き出しはこうです。 Some hungry Dogs saw a number of hides at the bottom of a stream 先に原文だけを、 辞書も語釈も見ずに 最後まで読んでください。二つめと三つめは知っている話のはずです。 知っている話だと気づいた時点で、速さを上げて ください。 全訳 原文の全訳です。この課程のために、原文に沿って訳しました。番号は原文の段落の番号で、原文と行き来できます。 犬と皮 腹をすかせた犬たちが、川の底にたくさんの皮があるのを見つけました。革なめし職人が、水にひたしておくためにそこに沈めておいたものです。よい皮は腹をすかせた犬にはすばらしい食事になりますが、水は深く、犬たちは岸から皮に届きませんでした。そこで犬たちは寄り合いを開き、いちばんよいのは川を飲み干すことだと決めました。 犬たちはみな、できるかぎりの速さで水をなめ始めました。ところが、飲みに飲んで、一匹また一匹と、とうとうみな飲みすぎて破裂してしまったのに、それほど力を尽くしても、川の水はもとのまま高いままでした。 蟻とキリギリス 「なんだって!」と蟻たちは驚いて叫びました。「冬に備えて何もためていないのかい?いったい去年の夏じゅう、何をしていたんだ?」 「食べ物をためる暇がなかったんだ」とキリギリスは泣き言を言いました。「音楽を奏でるのに忙しくて、気がついたら夏が終わっていたんだよ。」 蟻たちはあきれて肩をすくめました。 「音楽を奏でていたって?」と蟻たちは叫びました。「そうかい。それなら今度は踊るがいいさ!」そして蟻たちはキリギリスに背を向け、自分たちの仕事を続けました。 働くときもあれば、遊ぶときもあります。 兎と亀 ある日、兎が亀を、のろまだといってからかっていました。 「お前、どこかへたどり着いたことがあるのかい?」と兎はばかにして笑いながら聞きました。 「あるとも」と亀は答えました。「しかも、お前さんが思うより早く着くよ。競走して、それを証してみせよう。」 兎は、亀と競走するという考えをたいそう面白がりましたが、ほんの座興に承知しました。そこで、審判を引き受けた狐が距離を決め、走る者たちを出発させました。 語釈 帯の外の語は 22 語です。下に 全部 出します。六つは登場人物の名なので、覚えるのは残りです。 語(品詞) 意味 注 Ants en 名 蟻たち。登場人物なので大文字 Fox en 名 狐。登場人物なので大文字 Grasshopper en 名 キリギリス。登場人物なので大文字 Hare en 名 野うさぎ。登場人物なので大文字 Tanner en 名 革なめし職人 Tanner by trade, the old man always smelled of leather. 職業は革なめし職人で、その老人はいつも革の匂いがしました。 Tortoise en 名 かめ。登場人物なので大文字 amused en 形 面白がっている The children were amused by the clown's silly tricks. 子供たちは道化師のばかげた芸に面白がっていました。 anywhere en 副 どこかへ He couldn't find his keys anywhere in the house. 彼は家の中のどこにも鍵を見つけられませんでした。 burst en 動 はじけた( burst の過去形。形は変わらない) The balloon burst suddenly with a loud pop. 風船は大きな音を立てて突然はじけました。 consented en 動 承知した Her father finally consented to the marriage. 彼女の父親はついにその結婚を承知しました。 council en 名 寄り合い、相談の場 The elders gathered for a village council meeting. 長老たちは村の寄り合いのために集まりました。 disgust en 名 あきれ、うんざり She shook her head in disgust at the mess. 彼女はその散らかりように、あきれて首を振りました。 hungry en 形 腹をすかせた The hungry dog searched for scraps of food. 腹をすかせた犬は食べ物のかけらを探し回りました。 lapping en 動 舌ですくって飲んでいる The cat was lapping milk from a small bowl. 猫は小さなお皿からミルクを舌ですくって飲んでいました。 mocking en 形 ばかにした He gave a mocking laugh at her mistake. 彼は彼女の失敗をばかにして笑いました。 runners en 名 走る者(複数) The runners lined up at the starting line. 走者たちはスタートラインに並びました。 shoulders en 名 肩(複数) She carried the heavy bag on her shoulders. 彼女は重いかばんを両肩に担ぎました。 shrugged en 動 すくめた( shrug の過去形) He shrugged his shoulders and walked away quietly. 彼は肩をすくめて静かに立ち去りました。 soak en 動 水にひたす She let the dirty dishes soak in warm water. 彼女は汚れた皿を温かい水にひたしておきました。 stream en 名 流れ、小川 The children played beside a clear mountain stream. 子供たちは澄んだ山の小川のそばで遊びました。 whined en 動 泣き言を言った The tired child whined about walking any further. 疲れた子供はこれ以上歩くことに泣き言を言いました。 winter en 名 冬 Snow covered the fields all through the winter. 雪はその冬じゅう野原を覆っていました。 構文の骨 ★皮肉が話の落ちになる 二つめの話の終わりを見てください。 "Making music, were you?" they cried. "Very well; now dance!" 字面だけ読むと、蟻はキリギリスに 踊れと勧めて います。親切に見えます。けれども、その前の一文を読んでください。 The Ants shrugged their shoulders in disgust. あきれて肩をすくめて います。親切ではありません。つまり now dance は 「踊れ」ではなく「踊っていろ」 —— 食べ物はやらない という突き放しです。 字面 ほんとうの意味 そう読める理由 Very well 「よかろう」ではなく 「ふん、そうかい」 前の一文が in disgust now dance! 勝手に踊っていろ 。食べ物はやらない そのあと turned their backs 皮肉は、前後の動作が教えてくれます 。せりふだけを見ていると、 逆の意味に取ってしまいます 。 8.27 読編 で置いた「物語は説明せず見せる」が、ここでは 皮肉の読み方そのもの になっています。 もう一つ、 Making music, were you? の形にもとげがあります。ふつうに言うなら Were you making music? です。それをひっくり返して、 相手の言ったことをそのまま繰り返してから were you? と付けています。 相手の言い分をなぞって返すのは、どの言語でも冷たい言い方 です。 ★ said の代わりの動詞が、言い方を教える この篇には said が 一度も出ません 。かわりに、こういう動詞が使われます。 使われている動詞 言い方 誰のせりふか cried 声を張って言った 蟻たち(驚いて) whined 泣き言を言った キリギリス asked たずねた 兎(ばかにした笑いとともに) replied 答えた 亀(落ち着いて) 四つの動詞が、四人の 気分まで伝えて います。キリギリスが whined で言うのと said で言うのとでは、受ける感じがまるで違います。 8.30 読編 で置いたとおり、引用符のうしろの語は 誰が言ったか を教えます。この篇では、それに加えて どう言ったか まで教えています。 読むときのこつはこうです—— 引用符のうしろの動詞を、必ず読む 。飛ばしてはいけません。そこに 声の調子 が書いてあります。 ★知っている話は、途中で切れても読める 三つめの話は、競走が始まったところで終わります。 the Fox, who had consented to act as judge, marked the distance and started the runners off 勝ったのがどちらかは書かれていません 。それでも、あなたは知っているはずです。 亀が勝ちます 。 なぜ分かるのか。 文章の外に答えがあるから です。この話を前に聞いたことがあるので、書かれていないところを埋められます。 これは ずるではありません 。読むという行いは、いつも 文章と、読む人の持っているもの の両方でできています。外国語を読むときも同じです。 読む力の出どころ この篇での働き 文章の中にあるもの 語・形・つながり。ここまでの十六篇で組んできたもの 文章の外にあるもの 知っている話・知っている世界 。兎と亀がどうなるかを知っていること だから、外国語の読みを速くするいちばんの近道は 知っている話を外国語で読むこと です。筋を追う力が要らないぶん、言い方だけに目が行きます。この篇の二つめと三つめが、まさにそれです。 一つめの話には教訓が書かれていない 一つめの話——犬たちが川を飲み干そうとして、次々にはじけて死ぬ話——には、 教訓の一文がありません 。 最後の一文はこうです。 still, for all their effort, the water in the river remained as high as ever 「水はもとのまま高かった」で終わり です。何の教えも書かれていません。 8.31 読編 で置いた二通りの置き方(独立した一文か、せりふに溶けるか)の どちらでもない 、三つめの形です—— 置かない 。 置かないのは、 読む側が言えるだろうと見ているから です。教えを言葉にするのは読む側の仕事になります。この篇の練習でそれをやります。 訳 第 2 期の読み物に 文ごとの訳は付けません 。 話ごと の要旨を置きます。 どの話 その話の筋 The Dogs And The Hides 腹をすかせた犬たちが、川底に沈めてある皮を見つけた。革なめし職人が水にひたしておいたものだ。よい皮はよい食事だが、水は深く、岸から届かない。そこで寄り合いを開き、いちばんよい手は川を飲み干すことだと決めた。みな力のかぎり水を舐め飲み、一頭また一頭とはじけて死んだ。それでも川の水は、もとのまま高かった。/教訓は書かれていない The Ants And The Grasshopper 「なんだって」と蟻たちは驚いて声を上げた。「冬に備えて何もためていないのか。夏じゅう何をしていた」。「食べ物をためる暇がなかった」とキリギリスは泣き言を言った。「音楽づくりに忙しくて、気づいたら夏が終わっていた」。蟻たちはあきれて肩をすくめた。「音楽づくりだって。ふん、そうかい。なら踊っていろ」。そして背を向け、仕事に戻った。/教訓:働く時と遊ぶ時がある The Hare And The Tortoise ある日、兎が亀の遅さをからかっていた。「お前、どこかへ着いたことがあるのか」とばかにした笑いで聞いた。「あるとも」と亀は答えた。「しかもお前が思うより早く着く。競走して証してみせよう」。兎は亀と競走するという思いつきを面白がり、座興として承知した。審判を引き受けた狐が距離を決め、走る二人を出発させた。(——ここで切れている) 音読 この篇の音読は、 二つめの話だけ でかまいません。せりふが多く、言い方の練習になります。 引用符のうしろの動詞に合わせて、 声を変えて ください。 cried —— 声を張って 。 whined —— 情けない声で 。 最後の Very well; now dance! —— 冷たく、突き放して 。 最後の一言が冷たく言えたら、 皮肉が声で出せて います。ここを優しく読んでしまうと、この話は まるで別の話 にな