3.9 現在完了 — 経験・継続・完了、過去との違い — Epoché
この課でできるようになること 現在完了の文を見て、それが 今の話 だと分かる。過去形との違いを一文で言える。 経験・継続・完了の三つが、日本語訳の側の区別であって英語の形の区別ではないと分かる。 ever ・ never ・ for ・ just ・ already を目印に、どの訳を当てるか決められる。 過去の一点を指す語と現在完了が同居できない理由を、自分の言葉で説明できる。 前提 : 3.8 まで。 第 2 期の型編が始まります。第 1 期の八課で、英語の文の骨と、その骨に肉を付ける向きを置いてきました。第 2 期で扱うのは、 骨に時間と気持ちを載せる道具 です。この課の現在完了、次の二課の助動詞、そして関係代名詞と比較——どれも「事実をどう言うか」ではなく「その事実を今どう扱っているか」を言う道具です。 現在完了は、学校英語でいちばん評判の悪い形かもしれません。「経験・継続・完了の三つの用法がある」と習い、問題を解くたびにどれかを当てさせられ、そのうち三つの見分けが本題だと思うようになります。ところが英語の側には三つの形があるわけではありません。あるのは 一つの形 だけです。三つに割れているのは日本語訳のほうで、英語を使う人はその割れ目を意識していません。この課では割れ目のほうを先に片づけて、英語の側の一つの形が 何をしている形なのか だけを持って帰ってもらいます。 例文で見る まず 10 文を見ます。1 番めと 2 番めは 対 になっていて、使っている語はほとんど同じです。違うのは形だけで、それなのに言っていることが変わります。そこを見てから、3 番め以降へ進んでください。語はどれも第 2 期の範囲の中にあります。 英文 日本語訳 見るところ She went out. [1] 彼女は外出した。 過去形。出ていった、という出来事だけを言う She has gone out. [2] 彼女は出かけてしまった。 現在完了。今ここにいない、という今の話になる I have never been there. [3] そこに行ったことがありません。 経験が無いことを言う。 never が「一度も」 Have you ever been there? [4] そこに行ったことがありますか。 経験を尋ねる。 ever が「今までに」 I have seen her three times. [5] 彼女に3回会ったことがある。 回数を添えると、経験だとはっきりする I have been here for many years. [6] 私は何年もここにいます。 継続。 for が「どれだけの長さか」を言う I have been living here for three years. [7] 私はここに三年間住んでいる。 同じ継続を、進行の形と組んで言う He has just come back. [8] 彼はちょうど帰ったところです。 完了。 just が「たった今」 I have already read the book. [9] その本はもう読んでしまった。 完了。 already が「もう済んだ」 There has been a change of plans. [10] 計画に変更があります。 There の形も完了になる 十の文のうち、九つに have か has があり、その後ろには動詞の決まった形が続いていました。形はこれだけです。変わっていたのは、そのまわりに置かれた語—— never ・ ever ・ for ・ just ・ already ——のほうでした。 骨組み この課の規則は一つです。 現在完了は、過去に起きたことを持ち出して、今どうなっているかを言う形。 過去形は過去のその時点だけを言い、そこで話が終わります。現在完了は過去から今までを一本の線で結び、線の 今の端 に話の重心を置きます。 過去形との対 — 語がほぼ同じ二文 対にする相手の過去形は 3.6 型編 で作りました。そちらは出来事を過去の一点に置いて、そこで話を閉じる形、この課はその出来事を持ち出して 今の端まで線を引く 形です。形の作り方に迷ったら、先にそちらへ戻ってください。 例文の 1 番めと 2 番めを並べます。 She went out. [1] は、彼女が出ていったという出来事を言っています。いつ出ていったのかは文に入っていませんが、 その出来事はもう終わっていて、今のことは何も言っていません 。彼女がもう戻っているかもしれないし、まだかもしれない。文は答えていません。 これに対して She has gone out. [2] は、出ていったという同じ出来事を持ち出しながら、 だから今ここにいない というところまで言っています。探しているなら、後者を聞けば探すのをやめられます。前者では判断できません。同じことは He has gone out. [11] でも起きていて、この文が答えているのは「彼は今ここにいますか」という問いのほうです。 日本語ではどちらも「出かけた」で済んでしまうので、この差は訳に出ません。だからこそ、 訳で覚えようとすると必ず取りこぼします 。覚えるなら形のほうです。 have か has が見えたら、その文は 今の話をしている ——それだけで、この課の半分は済みます。 三つの訳し分け — 割れているのは日本語の側 学校で習う三つを、順に見ます。ただし見てほしいのは 英語の形が三回とも同じである ことです。 一つめ、 経験 。 I have seen her three times. [5] は「会ったことが三回ある」。 I have never been there. [3] は「一度も行ったことがない」。 Have you ever been there? [4] はそれを尋ねる形です。 ever は「今までのどこかで」、 never は「今までのどこにも無い」。どちらも 過去から今までの全部 を見わたす語で、だから現在完了と相性がいいのです。 He has never been late for school. [12] のように、回数がゼロであることを強く言う形もあります。 二つめ、 継続 。 I have been here for many years. [6] は「何年もここにいて、今もいる」。 for は長さを、 since は始まりの時点を言います。 Three years have passed since then. [13] のように、時間の側を主語にして言うこともできます。継続の文では、 線の今の端がまだ切れていない ことが大事です。切れていれば過去形になります。 三つめ、 完了 。 He has just come back. [8] は「たった今戻ってきて、今ここにいる」。 I have already read the book. [9] は「もう読んでしまって、今は読む必要がない」。 just は「たった今」、 already は「もう」、そして尋ねる文では yet が「もう〜したか」になります。 The work has just been done. [14] も同じ形です。完了の文では、 終わったことより、終わった結果の今 が話の中身です。 三つを並べてみると、どれも同じことを言っています。 過去のどこかで起きたことが、今のこの状態を作っている 。経験・継続・完了という名前は、日本語に訳すときにどの言い方を選ぶかの目印であって、英語の側の区別ではありません。目印になるのは ever ・ never ・ for ・ since ・ just ・ already ・ yet といった語のほうです。 進行の形と組む — ずっと続けている ここで組む相手の進行の形は 3.7 型編 で置きました。そちらは出来事を 途中で切り取る 形、この課はその切り取りを 今まで続いている一本の線 の上に乗せます。二つは打ち消し合わず、重ねられます。 現在完了は、進行の形と組み合わせられます。 I have been living here for three years. [7] と He has been living here these ten years. [15] がその形で、どちらも「住みはじめて、今も住んでいる」と言っています。組まない I have been here for many years. [6] との差はわずかで、 続けている動きのほうに目を向けさせる のが進行の形です。日本語訳はどちらも「ずっと〜している」になるので、訳では見えません。 使い分けの目安を一つだけ。 動きが続いているなら進行の形、状態がそのままなら組まない形 です。住む・働く・探すのように続けられる動きは進行の形に向き、いる・知っている・持っているのように動きのない状態は組まない形のままです。 I have been looking for you. [16] は探すという動きが続いていた例、 She has been out of work these two years. [17] は仕事が無い状態が続いている例です。 There の形も完了になる 第 1 期で置いた There is の形も、現在完了にできます。 There has been a change of plans. [10] は「変更があって、今その変更が効いている」。 There have been no problems so far. [18] は「今のところ問題が出ていない」。 There has been no rain for two months. [19] は「二か月降っていなくて、今も降っていない」。どれも There is を There has been に替えただけで、線の今の端に重心が移ります。天気や状況の報告でよく出る形なので、第 5 期の科学の読み物で必ず会います。 日本語ならどう言うか 同じところから入ります。 日本語にも、過去を今につなげて言う形はあります。 「行ったことがある」「ずっと待っている」「もう食べてしまった」——どれも過去の出来事を持ち出しながら、話の重心は今にあります。ここまでは英語と同じです。ずれるのは 形の数 です。 英語は一つ、日本語は三つ 日本語の言い方 言っていること この課の英文 〜したことがある 経験 I have seen her three times. [5] ずっと〜している 継続 I have been here for many years. [6] もう〜した・〜してしまった 完了 I have already read the book. [9] 右の列を縦に読んでください。三行とも have の後ろに動詞の決まった形が来ているだけで、形は一つも変わっていません。左の列だけが三つに割れています。つまり、 三つの用法というのは日本語側の事情 です。英語から日本語へ訳すときには、この三つから選ぶ必要があります。しかし英語を 読むとき・話すとき には選ぶ必要がありません。選ばされるのは訳すときだけです。 日本語に無い区別 — 過去の一点と同居できない 日本語では「昨日もう食べてしまった」と言えます。「昨日」という過去の一点と、「〜してしまった」という今への接続が、同じ文の中に並んで平気です。英語ではこれができません。現在完了は 過去から今までの幅 を見ている形なので、「昨日」のように幅のない一点を指す語と置くと、見ている範囲が矛盾します。過去の一点が文に出たら、形は過去形に戻ります—— I saw him. [20] のように。 では、どこで線を引くのか。目安は その語が今を含むかどうか です。「今日」「今週」「今までに」は今を含むので現在完了と並べられます。「昨日」「三年前」「あの時」は今を含まないので並べられません。 What has changed since then? [21] の since then は「あの時から今まで」なので、幅があり、現在完了と並びます。日本語から英語にするときに手が止まったら、 その時を表す語は今を含んでいるか と自分に訊いてください。 「行ったことがある」の落とし穴 もう一つ、日本語からそのまま訳すと外れるものがあります。「行ったことがある」です。英語では have been to を使い、 He has been to many places. [22] のように言います。 have gone to と言うと、 行ってしまって今ここにいない という意味になります。経験を言うつもりで gone を使うと、聞き手は「その人は今いないのか」と受け取ります。例文の 2 番めで見たとおり、 gone は 今ここにいない ことを言う語です。 丁寧さの段 この節は毎課置きます。日本語話者の英語には丁寧さの段が一段しかない、という実測があるからです。この課の道具は、段の作り方そのものに効きます。 過去形で訊くと「あの時したか」、現在完了で訊くと「今どうなっているか」 になり、後者のほうが相手を責める感じが薄くなるからです。下の四つは、どれも「済んだかどうか」を訊いていて、訊き方だけが変わります。 英文 日本語訳 どんな相手に Did you call him yet? [23] もう彼に電話しましたか。 親しい相手。あの時したかを直接確かめる Have you called him? [24] 彼に電話した? 今どうなっているかを訊く。急かす感じが薄い Have you decided what to do yet? [25] もう何をするか決めましたか。 yet を足して「まだでもよい」を含ませる Have you decided what you want to order? [26] ご注文はお決まりですか? 店から客へ。決める時間を相手に預ける 一行めの過去形は、相手のあの時の行いを直接ただしています。二行めの現在完了は、同じことを「今どうなっているか」の問いに置き換えていて、 相手ではなく状態のほうを主語にした ような感じが出ます。三行めは yet を足すことで「まだなら、まだでいい」という含みが入ります。四行めは店から客への言い方で、決める時間を相手