3.8 後ろから修飾 — 前置詞句・分詞・不定詞 — Epoché
この課でできるようになること 名詞に説明を足すとき、英語では一語なら前・二語以上なら後ろ、と向きを決められる。 前置詞句・分詞・不定詞の三つを、名詞の後ろに付ける道具として見分けられる。 後ろから修飾された名詞を含む文を、後ろから訳し上げずに 前から 読める。 日本語訳の順と英語の順が逆になることを知って、訳の順で英語を組み立てないでいられる。 前提 : 3.7 まで。 ここまでの七課で、英語の文の骨と、その骨を組み替える道具を置いてきました。この課で扱うのは、骨そのものではなく 骨に肉を付ける向き です。日本語と英語がいちばんはっきり食い違うのがここで、しかも食い違い方が単純です。日本語は名詞の 前 から、英語は名詞の 後ろ から。それだけです。それだけなのに、この一点を知らないまま読むと、文の終わりまで行って先頭に戻る読み方——返り読み——から一生抜けられません。 例を一つ。「市内を走る自動車の数が増えた」を英語にすると、語の並びはほぼ逆順になります。日本語で最初に来る「市内を走る」は英語では真ん中より後ろ、日本語で最後から二番めの「数」は英語では先頭です。学校で「後ろから訳し上げる」と教わった人は多いはずですが、あれは 訳文を作るための手順 であって、 読むための手順 ではありません。読むときは前から順に意味を置いていきます。その置き方は訳編の 7.1 で道具として立てますが、道具を使うには先に 英語がなぜその順で並ぶのか を知っておく必要があります。この課がその土台です。 例文で見る まず 10 文を見ます。見てほしいのは 名詞のすぐ後ろ です。どの文にも、名詞があって、その後ろに説明がくっついている場所があります。そこを指で押さえながら、日本語訳の側では同じ説明がどこに置かれているかを見比べてください。語はどれも第 1 期の範囲の中にあります。 英文 日本語訳 見るところ The people in the room didn't say anything. [1] 部屋の中の人々は何も言わなかった。 前置詞句が名詞を後ろから伸ばす。主語が五語になった The building on the right side is a school. [2] 右側にある建物は学校だ。 同じ形。日本語訳は「右側にある建物」と前から言う Who is the woman standing there? [3] あそこに立ってる女の人はだれですか。 「している」を表す形が名詞の後ろに付く The man walking over there is our teacher. [4] 向こうを歩いている男の人は私達の先生です。 主語が五語に伸び、動詞が遠くなる A growing child requires more food. [5] 育ち盛りの子供にはもっと多くの食物が必要だ。 同じ形でも、一語だけなら名詞の前に立つ The building built last year is very big. [6] 昨年建てられたその建物はとても大きい。 「された」を表す形。これも二語以上なので後ろ I have a letter written by him. [7] 私は彼が書いた手紙を持っています。 誰が書いたかまで、名詞の後ろに続けられる I'd like to buy a used car. [8] 中古車を買いたいのですが。 「された」形も、一語だけなら前に立つ I want something to eat. [9] 何か食べるものがほしい。 これからすることを言う形。 something の後ろに付く I want to eat something. [10] 何か食べたいな。 同じ五語。並びが替わると、修飾ではなくなる 十の文で、名詞の後ろに来ていたものは三種類しかありませんでした。前置詞で始まる句、動詞の形を変えたもの、そして to で始まるもの。五番めと八番めだけが名詞の前に立っていて、この二つには共通点があります。 一語しかない ということです。 骨組み この課の規則は一つです。 英語は、名詞に説明を足すとき、一語なら前に置き、二語以上なら後ろに回す。 日本語は何語であろうと前に置くので、説明が長くなるほど二つの言語の並びは離れていきます。 なぜ英語は後ろに回すのか。理由は聞き手の側にあります。英語は主語を先に言い、その直後に動詞を言う言語です( 3.1 型編 で置いた骨)。説明を全部主語の前に積むと、聞き手は文がいつ始まるのか分からないまま待たされます。だから、名詞をまず出して 何の話かを先に決めさせ 、説明は後から足す。この順は最後まで変わりません。 一語は前、二語以上は後ろ まず、この規則が本当に働いていることを対で確かめます。 A growing child requires more food. [5] の説明は一語なので名詞の前にあります。同じ形の説明でも二語になると後ろへ回り、 Who is the woman standing there? [3] の形になります。「された」側を表す形も同じで、 I'd like to buy a used car. [8] は一語なので前、 The building built last year is very big. [6] は三語なので後ろです。形容詞も同じ規則に従います。普通の形容詞はたいてい一語なので前に立ちますが、説明が二語以上になれば後ろに回ります。つまり 置き場所を決めているのは品詞ではなく長さ です。 前置詞句 — いちばん数が多い 後ろから修飾するもののうち、いちばん多いのが前置詞で始まる句です。 The people in the room didn't say anything. [1] の主語は五語あり、そのうち三語は「どの人々か」を絞るためだけに置かれています。 The building on the right side is a school. [2] も同じ形で、日本語訳の側では「右側にある建物」と前から言うほかありません。文が長くなると、この形は主語をどんどん伸ばします。 The lights in the room went out. [11] のように、動詞にたどり着くまでに五語を通ることになります。 注意が一つ。前置詞句は、名詞にかかることも、動詞にかかることもあります。 There is a book on the table. [12] の前置詞句は「どの本か」を言っていますが、 He put the book on the table. [13] の同じ句は「どこに置いたか」を言っていて、こちらは名詞ではなく動詞のほうにかかっています。見分けるのは形ではなく意味です。 その句を外しても文の意味の骨が残るなら名詞、外すと文が足りなくなるなら動詞 ——この目安で足ります。 分詞 — 「している」と「された」 二つめの道具は、動詞の形を変えて名詞にくっつけるものです。二種類あります。「している」側を表す形と、「された」側を表す形です。 「している」側は -ing の形になります。 The man walking over there is our teacher. [4] の主語は五語で、動詞にたどり着くのは六語めです。 The man sitting next to me spoke to me. [14] も同じ形で、「座っていた」のは話しかけてきた本人です。つまりこの形が付いた名詞は、その動作を する側 にいます。 「された」側は、動詞ごとに決まった別の形になります。 The building built last year is very big. [6] の建物は建てた側ではなく 建てられた側 で、 I have a letter written by him. [7] の手紙も書かれた側です。この文では、誰が書いたのかまで名詞の後ろに続いています。する側か、される側か——これがこの二つを分ける唯一の手がかりで、形を覚えるより その名詞が動作のどちら側にいるか を先に決めるほうが速く済みます。 なお、この二つの形は名詞にくっつく以外の使い道もあります。「している」側は進行形として 3.7 に出てきましたし、「された」側は受動態として第 3 期に出てきます。同じ形が別の働きをするので、 直前に名詞があるかどうか で見分けてください。 不定詞 — これからすること 三つめの道具は to で始まる形です。名詞の後ろに置くと、 その名詞にまつわる、これからすること を言います。その名詞がする側のこともあれば、される側のこともあります。 I want something to eat. [9] は「食べるための何か」、 I have no one to help me. [15] は「助けてくれる人」、 I have many things to do. [16] は「するべきこと」です。日本語訳ではどれも「〜するもの」「〜する人」と前から言うことになるので、ここでも並びは逆になります。 この形には、よく似ていて中身の違う相棒があります。 I want to eat something. [10] を見てください。使っている語は一つ前の文とまったく同じ五語で、並びだけが違います。前者は something という名詞を後ろから説明していますが、後者の to の形は名詞ではなく 動詞にくっついて いて、「何をしたいのか」を言っています。この二つが並ぶと、英語では 語順そのものが意味を決めている ことがよく見えます。日本語訳はどちらも似た形になるので、訳から英語を組み立てると取り違えます。 重ねられる — そして関係代名詞へ この三つは、一つの名詞に二つ以上重ねられます。 I have something good to tell you. [17] では、 something の後ろにまず形容詞が一語、その後ろに to の形が続いています。 -thing で終わる語は形容詞まで後ろに回すという癖があり、これは 3.4 型編 で予告してあったものです。重なっても規則は変わりません。 名詞を先に出し、説明は後ろに足していく だけです。 そして、後ろから修飾する道具にはもう一つ、この課で扱わないものがあります。 関係代名詞 です。これは名詞の後ろに 文をまるごと くっつける道具で、この課の三つより長いものを後ろに置けます。働きも置き場所も同じ——名詞の後ろ——なので、この課の向きが身についていれば、そのまま延長線上で受け取れます。本編は 3.13 型編 にあります。そこまでの間は、この課の三つで足ります。 日本語ならどう言うか 同じところから入ります。 日本語にも、名詞に説明を足す仕組みがあります。 「赤い本」「机の上にある本」「昨日買った本」——説明が一語でも五語でも、名詞に足せるという点では英語と同じです。ずれるのは一点だけ、 置く向き です。 向きが逆になる — 一文で確かめる 課の冒頭で挙げた一文を、塊に切って並べてみます。 The number of cars driven in the city has increased. [18] です。英語の側は四つの塊が上から順に並んでいて、日本語の側では同じ塊がほとんど逆の順で並びます。 英語の塊 日本語の塊 日本語での順 The number 数が 三番め of cars 自動車の 二番め driven in the city 市内を走る 一番め has increased 増えた 四番め 名詞にかかる三つの塊——一番めから三番めまで——が、日本語ではそっくり逆さに並びます。動詞(四番め)だけが両方で最後に来ます。日本語の動詞が最後に来るのは知られていますが、 名詞の説明まで逆順になる ことは案外知られていません。学校で習う「後ろから訳し上げる」は、この入れ替えを手作業でやる指示です。訳文を作るときには要りますが、 読むときにやってはいけません 。文の終わりまで行かないと一語も理解できないことになり、聞くときには最初から不可能です。 前から読む — 塊ごとに日本語を置く では、どう読むのか。 塊で切って、切ったところから順に日本語を置いていく のです。さきほどの文なら「その数は/自動車の/市内を走っている/増えた」。日本語としては不格好ですが、英語の順のまま意味が積み上がっていて、返り読みが一度も起きていません。切れ目は前置詞の前・ to の前・分詞の前に来ます。この課で見てきた三つの道具が、そのまま切れ目の目印になります。 この読み方は訳編の 7.1 で正式に道具として立てます。そこでは切れ目の規則が五つ出てきますが、そのうち三つはこの課の三つです。順が逆であることを知らないまま切っても、切った塊をまた並べ替えたくなるので、先にこの課で 向きが逆であること自体 を飲み込んでおいてください。飲み込んでしまえば、並べ替えたい気持ちのほうが消えます。 日本語に無い区別 — する側とされる側 もう一つ、日本語に無い区別があります。日本語では「昨年建てられた建物」も「昨年建てた建物」も、文脈で分かるなら「昨年の建物」で済ませられます。英語はここを形で分けなければならず、その名詞が動作を する側 か される側 かを、説明を置く前に決める必要があります。日本語から訳すときに手が止まるのはここです。止まったら、 その名詞は動くのか、動かされるのか と自分に訊いてください。 丁寧さの段 この節は毎課置きます。日本語話者の英語には丁寧さの段が一段しかない、という実測があるからです。この課の道具は、段そのものではなく 頼みの中身 のほうを作ります。下の四つは、中身がどれも「何か食べるもの」で共通していて、変わるのは頭だけです。 英文 日本語訳 どんな相手に Give me something to eat. [19] 何か食べ物を下さい。 親しい相手・急いでいるとき Can I have something to eat? [20] 何か食べ物を頂けますか。 同僚・友人。自分の側から頼む I'd like something to eat. [21] 何か食べるものが欲しいのですが。 店・初対面。望みとして置く Would you li