8.4 繁体字の現代文を読む — 朱自清「冬天」 — Epoché
この課でできるようになること 繁体字の散文を最後まで読み、三つの場面をまとめられます。 分からない字に戻り、三つの手がかりから選べます。 本文の字を簡体字と日本の漢字へ書き戻せます。 自分の冬の思い出を短い中国語で書けます。 前提 :8.3。字の対応表を離れて、文を続けて読みます。 止まらずに読み、文末から戻る 字体を学ぶ目標は、いつまでも字の対応を数えることではありません。文の意味を追って読めるようになることです。読書ページの「冬天」を開き、分からない字があっても、まず文の終わりまで進みます。 その後で、読めなかった所へ戻ります。繁体字の形が分からなかったのか、形は分かるが語の意味を知らなかったのかを分けます。前後を読むと見当がつくこともあります。そのため、一字ごとに辞書へ移らず、文全体を先に受け取ります。 戻ったときの手 試すこと 部品を替える 繁編 2課 の対応で、簡体字の語に戻してみる 旧字体を考える 繁編 3課 で見たように、日本の旧字体( 燈 ・ 聲 ・ 氣 など、戦前の字)と同じ形が多いので、旧字体を思い出してみる 別の場所を探す 同じ字が本文のほかの語に出ていないか見る 三つの手でも分からなければ、辞書で調べます。一度目と二度目で、分かった場面がどれだけ増えたかも覚えておきましょう。字体の知識が、読むことに役立ったところを自分で確かめられます。 読めない字に出会うたびに止まると、誰が何をしている文かを見失いやすくなります。一度は文末へ進み、読み終えてから戻ります。 三つの冬を追う 朱自清「冬天」 [1] は、三つの冬の思い出を並べ、最後の短い段落で閉じる随筆です。本文は四段落あります。読編でも親しんだ作者の文章を、今回は繁体字のまま読みます。 場面 誰と、どこで 読みながら追うもの 豆腐を囲む夜 父と兄弟三人が、家の食卓を囲む 高いこんろ、湯気、父の箸、待つ子ども 西湖の月夜 S君・P君と小舟に乗る 月光、波、櫂の音、寺でのにぎわい 台州の家 妻と子ども二人との四人暮らし 外の寂しさと、家の中の微笑み 父が何度も立つ動作、舟の音、窓に並ぶ三つの顔のように、場面を作る細部を読みます。最後には、こうしたことを思うと心がいつも温かい、とあります。そこにない別の理由を付け足すより、作者が選んだ思い出と結びの言葉をつなげます。 本文で出会う字と語表 來 ・ 國 ・ 學 ・ 樓 ・ 燈 ・ 爐 ・ 聲 ・ 點 は、簡体字側が日本語で見慣れた形です。 兒 ・ 兩 ・ 圍 ・ 實 ・ 帶 ・ 氣 ・ 淨 ・ 滿 ・ 變 ・ 轉 ・ 邊 は、簡体字も繁体字も、日本の新字体と違う形です( 儿 / 兒 /児)。すべてを読む前に暗記するのでなく、出会ったときに戻れるようにします。 繁体字 簡体字 日本の漢字 本文での語 爐 炉 炉 洋爐子 燈 灯 灯 洋燈 裡 里 裏 熱氣裡 氣 气 気 熱氣 圍 围 囲 圍著桌子 兒 儿 児 哥兒三個 聲 声 声 槳聲 裡 は、ここでは「中」です。日本語の「里(さと)」の意味を入れないようにしましょう。 熱氣裡 なら湯気の中です。日本の字では「裏」にあたります(脳裏・胸裏の「なか」の意味)。 簡体字 繁体字 意味 例文 訳 洋炉子 洋爐子 石油こんろ 用洋爐子 石油こんろを使う 洋灯 洋燈 ランプ 點洋燈 ランプをともす 热气 熱氣 湯気・熱気 熱氣裡 湯気の中 哥儿 哥兒 兄弟たち 哥兒三個 兄弟三人 桨声 槳聲 櫂の音 聽槳聲 櫂の音を聴く 净寺 淨寺 杭州・西湖のほとりの寺の名(浄慈寺) 去淨寺 浄寺へ行く 转变 轉變 (身の上・考えが)変わる、転身する 轉變了好幾回 何度も身の振り方を変えた 氤氲 氤氳 気が濃く立ちこめる 氤氳熱氣 立ちこめる湯気 洋爐子 は鍋をかける石油こんろで、灯りの 洋燈 とは別です。 氤氳 の 熱氣 の中で、父の箸が動きます。 哥兒 は兄弟たちです。西湖では 槳聲 を聞き、 淨寺 へ上がります。 轉變 は、P君のその後の変化を伝える部分で読みます。 引用符にも目を向ける 「冬天」では、会話や、特別な言い方の語も“ ”(二重引用符)でくくられます。例えば本文の “洋爐子” と “洋燈” です。日本語の鉤括弧と同じように、言葉を囲む働きがあります。 繁編 2課 の「海世間」では、台詞に鉤括弧が使われていました。版による流儀の違いです。どちらかを誤りとして直すのでなく、囲まれた部分の始まりと終わりを追います。 対訳 中国語の文書の段落ごとの訳です。先に原文を読んでから見てください。 冬と言えば、ふと豆腐を思い出す。「小さな洋鍋」(アルミ鍋)で白く煮た豆腐で、湯気が立ちのぼっている。湯が煮え立って、たくさんの魚の目のようで、小さな豆腐がひと切れひと切れその中に浸かっていて、柔らかくなめらかで、裏返しに着た白狐の外套のようだ。鍋は「洋炉」(空気を送らない石油こんろ)にかけてあり、こんろとともに煤で真っ黒になっていて、そのぶん豆腐の白さが際立つ。夜のことで、家は古く、「洋灯」をともしていても、やはり薄暗い。食卓を囲んで座っているのは、父と私たち兄弟三人だ。「洋炉」が高すぎるので、父はしょっちゅう立ち上がり、少し顔を上げ、目を細めて、立ちこめる湯気の中へ箸を伸ばして豆腐をはさみ、一つずつ私たちの醤油の小皿に入れてくれた。私たちも自分で手を出すことがあったが、こんろが本当に高すぎたので、たいていは座ったままご相伴にあずかった。これは食事ではなく、ただの遊びだった。父は、夜は寒いから食べればみな少し暖まる、と言った。私たちはみなこの白湯の豆腐が好きだった。食卓に着くとすぐ、じっとあの鍋を見つめ、湯気を待ち、湯気の中から父の箸からこぼれ落ちてくる豆腐を待った。 これもまた冬のことで、たしか旧暦十一月十六日の夜、S君とP君と西湖で小舟に乗った。S君は杭州で教え始めたばかりで、前もって手紙で「西湖に遊ぼう、冬でもかまわない」と言ってきていた。その夜は月がじつに美しく、いま思い出してもまだ体を照らしているようだ。もともと前の晩が「月が真上」だった。十一月の月には本当に何か特別なところがあるのかもしれない。そのとき九時を回っていて、湖の上には私たちの小舟一艘しかいないようだった。少し風があり、月の光がやわらかな波を照らしていた。まんなかの一筋の照り返しは、磨いたばかりの銀のようだった。湖の山は淡い影を残すばかりで、山の麓にはたまに一つ二つ灯火が見えた。S君は口ずさんで二句の詩をつくった。「いくつかの灯火に漁村を知る、淡墨で軽く描く遠い山の跡。」私たちはあまり話をせず、ただ規則正しい櫂の音だけがあった。私はだんだん眠りかけてきた。P君が「おい」と声をかけたので、やっとまぶたを上げると、彼が微笑んでいるのが見えた。船頭が浄寺へ上がらないかと尋ねた。阿弥陀仏の誕生日で、向こうはたいそうにぎやかだという。寺に着くと、堂の上には灯明がきらめき、念仏する老女たちの声に満ちていて、ひと夢から覚めたかのようだった。これはもう十年あまり前のことだ。S君とは今もよく手紙をやりとりしているが、P君は何度か身の振り方を変えたそうで、一昨年はある特税局で特税を集めていたが、その後は消息がない。 台州で一冬を過ごした。一家四人だった。台州は山の町で、大きな谷の中にあると言ってよい。長さ二里の大通りが一本あるだけだった。ほかの道では昼間でもほとんど人を見かけず、夜は真っ暗だった。ときおり人家の窓から灯りが漏れ、道を行く人の持つ松明もあったが、それはごくまれだった。私たちは山の麓に住んでいた。聞こえるのは山の松林を渡る風の音、見えるのは空の一羽二羽の鳥の影だった。夏の終わりに行き、春の初めには去ったのに、いつも冬を過ごしていたような気がする。とはいえ、本当の冬でも寒くはなかった。私たちは二階に住み、書斎は大通りに面していて、道で人が話せばはっきりと聞こえた。けれども道を行く人があまりに少なかったので、たまに話し声がしても、遠い風が運んできたものとしか思えず、窓のすぐ外だとは思いもしなかった。私たちはよそ者で、学校へ行く以外は、たいてい家に座っていた。妻もその寂しさに慣れて、ただ私たち親子と過ごしていた。外はいつも冬だったが、家の中はいつも春だった。あるとき私が町へ出かけて帰ってくると、階下の台所の大きな四角い窓が開いていて、彼女たち母子三人が並んで身を寄せ合い、三つの顔がみな無邪気な微笑みを浮かべて私のほうを向いていた。台州はがらんとしていて、私たち四人しかいないようだった。天地もがらんとしていて、やはり私たち四人しかいないようだった。それは民国十年のことで、妻は実家を出てきたばかりで、すっかりのびのびしていた。今では彼女が亡くなってもうすぐ四年になるが、私はいまも彼女のあの微笑みの面影を覚えている。 どんなに寒くても、大風が吹き大雪が降っても、これらのことを思うと、私の心はいつも温かい。 練習 字を戻し、文を書く 爐 ・ 燈 ・ 圍 ・ 聲 ・ 氣 ・ 兒 を、簡体字と日本の漢字で書いてください。 本文の繁体字を補い、語句全体を書いてください。 _著桌子坐 本文の繁体字を補い、語句全体を書いてください。 熱_裡 本文の繁体字を補い、語句全体を書いてください。 槳_ 豆腐 ・ 寒冷 ・ 窗子 ・ 松树 ・ 宁静 を使って、自分か架空の人の冬の思い出を二〜三文の中国語で書いてください。そのうち一文を繁体字へ直しましょう。 台州の外と家の中を対にする文の形をまね、 外面 と 家里 を使った中国語の文を一つ作ってください。 三つの場面に合う相手と場所を選んでください。相手:父と兄弟/S君・P君/妻と子ども。場所:家の食卓/西湖の舟/台州の家。 父が何度も立ち上がった理由と、最後の「心が温かい」という言葉のつながりを、本文に沿って答えてください。 一度目に読めなかった字を三つ挙げ、部品・旧字体・別の出現箇所のどれを手がかりにしたかを書いてください。 戻り語 前の課で学んだ語を使って書きます。 冬の家や家族について、語ごとに短い中国語を書いてください。繁体字でも書いてみましょう。 窗子 ・ 豆腐 ・ 松树 。 冬の家や家族について、語ごとに短い中国語を書いてください。繁体字でも書いてみましょう。 毛衣 ・ 外套 ・ 寒冷 。 冬の家や家族について、語ごとに短い中国語を書いてください。繁体字でも書いてみましょう。 宁静 ・ 舒适 ・ 放松 。 冬の家や家族について、語ごとに短い中国語を書いてください。繁体字でも書いてみましょう。 天真 ・ 妻子 ・ 丈夫 。 冬の家や家族について、語ごとに短い中国語を書いてください。繁体字でも書いてみましょう。 宝宝 ・ 夫妇 ・ 阿姨 。 音読 一場面ずつ声に出して読み、日本語で一文にまとめてから次へ進みます。最後は全体を続けて読み、結びが三つの思い出を受け取る調子を感じます。 この課のまとめ 文末まで読んでから戻り、字体の問題か語の問題かを分けます。三つの冬の場面を追い、最後の言葉まで読み切ることが、この課の目標です。 次の課へ 次の10.25では知編に戻り、父方と母方で分かれる親族の呼び名を学びます。繁編の続き8.5は、あとの期で読みます。 答え 繁体字 簡体字 日本語 爐 炉 炉 燈 灯 灯 圍 围 囲 聲 声 声 氣 气 気 兒 儿 児 圍著桌子坐 熱氣裡 槳聲 冬天很寒冷,我在家吃豆腐。 窗子外面有松树。 那里很宁静。 / 窗子外面有松樹。 外面很冷,家里很暖和。 豆腐:父と兄弟、家の食卓。月夜:S君・P君、西湖の舟。四人暮らし:妻と子ども、台州の家。 こんろが高く、湯気の中から豆腐を取り、子どもたちの皿へ入れるために立ち上がりました。結末では、どんなに寒く、大風や大雪でも、これらの思い出を考えると心はいつも温かい、と述べています。寒い夜に父が豆腐を取ってくれた温かさのような思い出が、どんな寒さの中でも心を温める、というつながりです。 例: 燈 は日本語の旧字体から灯を考えました。 聲 は 槳聲 と別の音の語を比べました。 轉 は車の部品を 车 へ戻して考えました。 我在窗子旁边。 / 我在窗子旁邊。 我们冬天吃豆腐。 / 我們冬天吃豆腐。 松树在山上。 / 松樹在山上。 她穿着毛衣。 / 她穿著毛衣。 我的外套很暖。 / 我的外套很暖。 那年的冬天很寒冷。 / 那年的冬天很寒冷。 冬夜很宁静。 / 冬夜很寧靜。 家里很舒适。 / 家裡很舒適。 我在家里很放松。 / 我在家裡很放鬆。 孩子的笑容很天真。 / 孩子的笑容很天真。 我的妻子在窗前。 / 我的妻子在窗前。 她的丈夫回家了。 / 她的丈夫回家了。 宝宝在家里睡觉。 / 寶寶在家裡睡覺。 我们是夫妇。 / 我們是夫婦。 阿姨做了热豆腐。 / 阿姨做了熱豆腐。 参考文献 朱自清「冬天」(一九三三年十二月一日『中學生』第四十号初出)。中文維基文庫。パブリックドメイン(著者没後70年経過)。本文四段落は原文の繁体字のまま。