8.209 行で切る — 長い息と、短い息 — Epoché
この篇でできるようになること ★ 行で切って読む ことができる。 ★ 行の長さが息の長さ だと分かる。 ★ 行の頭を揃えるくり返し が見える。 ★ 散文と詩の読み方の違い が言える。 前提 : 8.208 まで。 読む前に ★ ここまでの篇は 散文 でした 。★ 散文は 文で切れます ——★ 終止符の来るところが切れ目 です。 ★ 詩は 行で切れます 。★ 文が終わっていなくても、 行が終われば一度息を置きます 。★ だから、 行の終わりに何の語を置くか が、詩人の仕事になります 。 どちらの詩人か 一行の語数(この篇で数えた) 息の長さ ★ ホイットマン ★ 平均 12.0 語 (最長 26 語) ★ 長い。一息で言い切らない ★ ディキンソン ★ 平均 5.1 語 (最長 10 語) ★ 短い。四行で一つの考え ★ 比は 2.4 倍 です。★ 同じ国・ほぼ同じ年ごろの詩人で、 息の長さが二倍以上違う ——★ これは好みの差ではなく、 何を書こうとしたかの差 です。 ★ ホイットマンは 数え上げます ——★ 人・仕事・土地を次々に並べる ので、★ 行が長くなります 。★ ディキンソンは 一つのことを、一つの譬えで言い切ります ——★ だから短い のです。 読み方 ★ 行の終わりで一度止める 。★ 文が続いていても止める ——★ 止めてみて、 そこで意味が切れるかどうか を見る 。 ★ またいでいる行を探す 。★ 行が終わっても文が終わらない ところ——★ そこは わざと途中で切ってある 。 ★ 行の頭を縦に読む 。★ 同じ語で始まる行が続いていないか を見る(この篇では I で始まる行が 11 行)。 ★ 声に出す 。★ 詩は 目で読むと行が消えます ——★ 息の長さは、声でしか分かりません 。 原文 原文は別の文書にあります(作品ページの「原文」)。本文は 1406 語、行は 174 行(ホイットマン 75 行、ディキンソン 99 行)です。 ★ 行の数だけ、 息を置く場所がある ということです——★ 散文の篇( 8.197 読編 など)とは 止まる回数がまるで違います 。 全訳 原文の全訳です。この課程のために、原文に沿って訳しました。番号は原文の段落の番号で、原文と行き来できます。 私は私自身を讃え、私自身を歌う、 そして私が身にまとうものを、あなたも身にまとうだろう、 私に属するすべての原子は、同じようにあなたにも属しているのだから。 私はぶらぶらと過ごし、私の魂を招く、 私は身をもたせかけ、くつろいでぶらぶらと過ごし、夏草の一本の葉先をながめる。 私の舌、私の血のすべての原子は、この土、この空気からつくられ、 ここに生まれた両親からここに生まれ、その両親も同じように、そのまた両親も同じように生まれた、 私、いま三十七歳、申し分なく健やかなこの私が歌いはじめる、 死ぬまでやめないことを願って。 信条も学派もしばらく脇に置き、 それらはそのままでよしとしてしばし退かせるが、決して忘れはしない、 私は良くも悪くも受け入れ、どんな危険を冒しても語らせる、 抑えのない自然を、その始まりの力のままに。 家々も部屋も香りに満ち、棚には香水がひしめいている、 私自身もその香りを吸い、それを知り、それを好む、 その蒸留したものは私をも酔わせるだろうが、私はそうはさせない。 大気は香水ではない、大気には 蒸留したものの味はない、それには匂いがない、 それは永遠に私の口のためのもの、私はそれに恋している、 私は森のそばの土手に行き、何も隠さず裸になろう、 それが私に触れてくれることに、私は夢中なのだ。 私自身の息の煙、 こだま、さざ波、ささやくざわめき、恋の根、絹の糸、木の股とつる、 私の呼吸と吸気、私の心臓の鼓動、私の肺を通る血と空気の流れ、 青い葉と枯れ葉の匂い、岸と暗い色の海の岩の匂い、納屋の干し草の匂い、 風の渦へと解き放たれた、私の声が吐き出す言葉の響き、 いくつかの軽い口づけ、いくつかの抱擁、腕をまわして抱き寄せること、 しなやかな枝が揺れるときの、木々の上の光と影の戯れ、 ひとりでいるときの、あるいは通りの雑踏の中での、あるいは野や丘の斜面に沿っての喜び、 健やかさの感じ、真昼のさえずり、寝床から起き上がって太陽を迎える私の歌。 あなたは千エーカーを多いと思ったか? 大地を大きいと思ったか? あなたは読むことを覚えるのに、そんなに長く練習したのか? あなたは詩の意味をつかんで、そんなに誇らしく思ったのか? この日と夜を私とともにとどまれ、そうすればあなたはすべての詩の源を手にするだろう、 あなたは大地と太陽の恵みを手にするだろう、(太陽はまだ何百万も残っている、) あなたはもう、物事を又聞きや又々聞きで受け取ることはない、死者の目を通して見ることも、書物の中の亡霊を糧にすることもない、 あなたは私の目を通して見ることもない、私から物事を受け取ることもない、 あなたはあらゆる方面に耳を傾け、それらをあなた自身で濾していくだろう。 私はおしゃべりたちが語っていたことを聞いた、 始まりと終わりについての話を、 だが私は、始まりについても終わりについても語らない。 いま以上の始まりなど、かつてなかった、 いま以上の若さも老いも、なかった、 そして、いま以上の完全さは、これからも決してない、 いま以上の天国も地獄も、ない。 衝き動かし、衝き動かし、衝き動かす、 いつも、世界の生み出す衝動。 ぼんやりした中から、対をなす等しいものが進み出る、いつも実質と増加、いつも性、 いつも同一性の編み目、いつも区別、いつも生命の繁殖。 詳しく述べても無駄だ、学のある者もない者も、そうだと感じている。 最も確かなものと同じほど確かに、柱はまっすぐに立ち、よく 組み合わされ、梁で支えられ、 馬のようにたくましく、情に厚く、尊大で、電気を帯びて、 私とこの神秘、ここに私たちは立っている。 澄んで甘美なのは私の魂、澄んで甘美なのは私の魂でないものすべて。 一方を欠けば両方を欠く、そして見えないものは見えるものによって証される、 やがてそれが見えないものとなり、今度は自分が証されるまで。 最良のものを示し、それを最悪のものから分けることで、時代は時代を悩ませる、 物事の完全なふさわしさと平静さを知っているから、彼らが論じている間、私は黙っていて、水浴びに行き、自分自身に見とれる。 私の、そして心身ともに健やかで清らかなどの人の、すべての器官と性質が歓迎される、 一インチも、一インチのかけらさえも卑しくはない、そしてどれも、ほかのものよりなじみが薄いということはない。 私は満ち足りている――私は見て、踊り、笑い、歌う。 抱きしめ愛してくれる寝床の友が、夜通し私のかたわらで眠り、夜明けのきざしとともに忍び足で去っていき、 白い布をかぶせ、その豊かさで家をふくらませる籠を私に残していくのに、 私は受け入れることと悟ることを先へのばし、私の目に向かって叫ぶべきだろうか、 道を見送り、道の先を見つめるのをやめて、 ただちに計算し、一セントまで私に示せと、 一つのものの値打ちを正確に、二つのものの値打ちを正確に、そしてどちらが上かを? 旅する者たち、尋ねる者たちが私を取り巻く、 私の会う人々、若いころの暮らしや、私の住む区や町や、国が私に与える影響、 最新の日付、発見、発明、協会、古い作家と新しい作家、 私の食事、服、仲間、見た目、賛辞、支払うべきもの、 私の愛するある男や女の、本当の、あるいは思い込みの無関心、 私の身内のだれかや私自身の病気、あるいは悪い行い、金の損失や不足、あるいは落ち込みや高揚、 戦い、兄弟どうしが殺し合う戦争の恐ろしさ、真偽の定かでない知らせに浮かされる熱、 成功をいちばん甘く思うのは 成功したことのない人だ。 甘露を分かるには いちばんひどい渇きが要る。 きょう旗を取った 紫の軍勢のだれひとりとして 勝利というものを あれほどはっきりとは言い表せない、 打ち負かされ、死にかけている彼ほどには、 その閉ざされた耳に 遠い勝ちどきの調べが 苦しいほどはっきりと響いてくる彼ほどには! 夜のうち私たちの分を耐え、 朝のうち私たちの分を受け、 喜びのうち私たちの空白を満たし、 あざけりのうち私たちの空白を満たす。 ここに一つの星、あそこに一つの星、 道に迷う者もいる。 ここに霧、あそこに霧、 そのあとで――昼! 赤と黒。 魂よ、おまえはまた賭けるのか? まさにこんな賭けで 何百もの者が、たしかに負けた、 けれども何十かの者は、すべてを勝ち取った。 天使たちの息をのむ投票は おまえを記そうとして、ぐずぐずとためらい、 小鬼たちは熱心な寄り合いで 私の魂をくじ引きにかける。 赤の勝ち。 なんという喜び! なんという喜び! もし私がしくじったら、なんという貧しさ! それでも、私と同じほど貧しい者が ひと振りにすべてを賭けて、 勝ったのだ! そうだ! こんなにもためらった、 勝利のこちら側で! 生はただの生、死はただの死! 至福はただの至福、息はただの息! そして、もし本当に私がしくじっても、 少なくとも最悪を知ることは甘い。 負けは負けでしかない、 それよりわびしいものが勝つことはない! そして、もし私が勝ったら――おお、海の号砲よ、 おお、尖塔にある鐘たちよ、 はじめはゆっくりとくり返して! 天国とは、思い描いていたのとは 違うもので、不意に目覚めてみれば、 私をこんなにも圧倒してしまうかもしれないから! 喜べ! 大嵐は過ぎた! 四人は陸にたどりついた。 四十人はいっしょに沈んだ、 沸き立つ砂の中へ。 鳴らせ、わずかな救いのために! 弔いの鐘を打て、いとしい魂たちのために―― 隣人も友も花婿も、 浅瀬の上でくるくると回っている! 人々はあの難破をどんなふうに語るだろう、 冬が戸をゆさぶるころ、 やがて子どもたちが尋ねる、「でも四十人は? その人たちはもう帰ってこなかったの?」 すると沈黙が話をひたし、 やわらかさが語り手の目をひたす。 そして子どもたちはもうそれ以上尋ねず、 ただ波だけが答える。 もし私が一つの心が砕けるのを止められるなら、 私が生きるのは無駄ではない。 もし私が一つの命の痛みをやわらげられるなら、 あるいは一つの苦しみを冷ましてやれるなら、 あるいは弱りはてた一羽のコマドリを もう一度巣へ戻してやれるなら、 私が生きるのは無駄ではない。 もう少しで! 手の届くところに! 触れることもできたのに! その道を通りかかったかもしれなかったのに! そっと村を通ってぶらつき、 同じようにそっとぶらついて去っていった! そのように、だれにも気づかれないスミレが 野の中に低く横たわっている、 求めてのばす指には遅すぎて、 その指は一時間前に通り過ぎていった。 傷ついた鹿がいちばん高く跳ぶ、 狩人がそう語るのを聞いたことがある。 それは死の恍惚にすぎない、 そしてそのあと、茂みは静まる。 打たれた岩がほとばしり、 踏まれた鋼がはね返る。 頬はいつも赤い、 ちょうど熱がうずくところで! 陽気さは苦悩の鎧、 苦悩はそれで用心深く身を固める、 だれかに血を見つけられて 「けがをしている」と叫ばれないように! 心はまず楽しみを求める、 それから、痛みを免れることを。 それから、苦しみを鈍らせる あの小さな痛み止めを。 それから、眠りにつくことを。 それから、もしそれが 読んだあとで 一 — 行の頭を揃える ★ ホイットマンの部分で、 I で始まる行が 11 行 あります 。 I celebrate myself, and sing myself / I loafe and invite my soul ★ 同じ形をくり返すと、 読む人は次も同じ形が来ると思います 。★ そこで 形を変えると、その行だけが立ちます ——★ 5.40 聞編 の演説と 同じ仕掛け です。 ★ 詩と演説が似ているのは偶然ではありません 。★ どちらも 声に出して人に届ける言葉 だからです。 二 — 短い行で、譬えを置く Success is counted sweetest / By those who ne'er succeed ★ 二行で 一つの考えが置かれます ——★ 成功をいちばん甘く思うのは、 成功したことのない人だ 。★ 説明はありません 。★ この先の行で、 譬え(旗を取った兵と、倒れた兵) に移ります 。 ★ ディキンソンの詩は、 四行でひとまとまり が多い です——★ 賛美歌の形 から来ています。★ 歌える長さ だからこそ、★ 短い行で切れる のです。 三 — 詩を訳すとき ★ 7.15 訳編 で見たとおり、 訳では四つのうちどれかを捨てます 。★ 詩では 行の切れ目 がいちばん捨てられやすい ——★ 日本語の語順に直すと、 行をまたいで語が動く からです。 ★ だから 詩は原文で読む価値がいちばん高い です。★ 意味は訳で取れます が、★ 息の長さは 原文にしかありません 。 語釈 帯の外の語は 137 語です。★ 古い形( loafe ・ ne'er )と、 詩にしか出ない語 が多い のがこの篇の特徴です。★ 散文の篇より宣言語が多いのは、 詩が語を選ぶから です。 語(品詞) 意味 注 Conjectured en 動 推し量った( conjecture の過去形) The scientists conjectured that the strange signal came from deep space. 科学者たちは、その奇妙な信号は深宇宙から来たものだと推し量りました。 ET en 接 と(フランス語。詩の題 Rouge et Noir の中) GAGNE en 動 勝つ(フランス語。詩の題 Rouge Gagne の中) Imps en 名 小鬼(複数) The old story described mischievous imps hiding in the chimney. その古い話は、煙突に隠れるいたずら好きな小鬼たちについて描いていました。 Lest en 接 〜しないように He wrote down the address at once, lest he forget it. 彼は、それを忘れないように、すぐに住所を書き留めました。 Lingers en 動 ぐずぐず残る A