8.1 簡繁は一対一ではない — 一つの簡体字が二つ三つの繁体字に分かれる — Epoché
この課でできるようになること 意味によって繁体字を書き分けられます。 見た目が違っても同じ語の表記だと分かります。 簡体字と繁体字の向きを変えて書けます。 繁体字の散文を、知っている語につないで読めます。 前提 :7.8。ここからは繁体字で書かれた文を読む練習です。 簡体字だけでは届かない本へ 台湾の本や香港の新聞、古典を読むと、繁体字に出会います。簡体字で知っている語でも、字の形が変わるだけで、知らない語のように見えることがあります。字体の違いを、語の意味の違いと分けて考えましょう。 HSKの語彙表の一級は、最初に学ぶ語です。その中にも、簡体字と繁体字で形の違う語が含まれています。 [1] 初めの段階で学ぶ語にも違いがあるので、繁体字を後回しにはできません。ただし、違う形のすべてが初めて見る字とは限りません。日本語で見慣れた字が手がかりになる場合もあります。 まとめる向きと、戻す向き 簡体字には、画数を減らしたもののほか、二つ以上の字を一つにまとめたものがあります。例えば 發 と 髮 は、どちらも簡体字では 发 です。繁体字を読むときは、まとめる向きで考えると、すでに知っている語へたどり着けます。 反対に、 发 から繁体字へ戻すには、文の意味が必要です。出発の話か、髪の話かで字が分かれます。同じ簡体字だから、どの語の中でも同じ繁体字へ替えればよい、という対応ではありません。 意味で書き分ける三字 簡体字 繁体字 意味 干 乾 乾く側。 乾淨 ・ 乾杯 ・ 餅乾 干 幹 する・やる側。 幹什麼 ・ 幹活兒 ・ 能幹 发 發 出る・発する側。 出發 ・ 發現 发 髮 髪の毛。 頭髮 ・ 理髮 签 簽 署名。 簽名 ・ 簽證 签 籤 札・くじ。 標籤 ・ 抽籤 日本語の「乾杯」と「幹部」を思い出すと、 乾 と 幹 が別の字であることをつかめます。「出発」と「頭髪」でも、発する字と髪の字は違います。日本語の字形をそのまま写すのではなく、意味の分かれ方を手がかりにして繁体字を選びます。 头发 や 理发 は髪の話なので、 頭髮 ・ 理髮 です。 頭發 と機械的に替えないようにします。出発する 出發 とは、同じ字ではありません。 干净 ・ 饼干 は 乾 、 干活儿 ・ 能干 は 幹 を使います。字が少ないほうを選ぶのではなく、語の意味を先に確かめましょう。 同じ語に二つの書き方がある 一方、同じ語の中で二つの表記が使われる組もあります。次の表では、左右の繁体字を見て、違う語が二つあると思わないことが大切です。ここにある語の対応を覚えます。ただし、同じ字を含む別の語へ無条件に広げないようにします。 簡体字 繁体字 意味 哪里 哪裏 / 哪裡 どこ 尽量 儘量 / 盡量 できるだけ 反复 反復 / 反覆 繰り返す 柜台 櫃檯 / 櫃臺 カウンター 合并 合並 / 合併 合併する 词汇 詞匯 / 詞彙 語彙 赞不绝口 讚不絕口 / 贊不絕口 絶えずほめる 日本語の常用漢字には「裏」がありますが、「裡」はありません。 [2] 見慣れない 裡 を、間違いの字だと思わないようにしましょう。読むときは 哪裏 も 哪裡 も同じ語です。自分で書くときは、どちらかにそろえます。 复 には 復 ・ 複 ・ 覆 に対応する場合があります。ただし、どの語の中でも三字を自由に交換するわけではありません。この課では、書き方が二通りある例として 反復 と 反覆 を覚えます。 変換した後にも意味を見る この表の繁体字から簡体字へは、同じ語へまとめて読めます。反対に簡体字から戻す変換では、意味に合わない字が出ることがあります。 頭發 のような形を見たら、髪の話なのに発する字になっていないかを確かめます。 轻松 の 松 も、木の松なら 松 ですが、ゆるむ意味では 鬆 です。この語は 輕鬆 と書きます。変換後の字だけを見るのでなく、元の語の意味と合わせて読みます。 語表 簡体字 繁体字 意味 例文 訳 干净 乾淨 きれいだ 很乾淨 とてもきれいだ 干活儿 幹活兒 仕事をする 去幹活兒 仕事をしに行く 头发 頭髮 髪の毛 洗頭髮 髪を洗う 出发 出發 出発する 要出發 出発するところだ 签名 簽名 署名する 請簽名 署名をお願いします 标签 標籤 ラベル 貼標籤 ラベルを貼る 哪里 哪裡 どこ 在哪裡 どこにいるか 尽量 儘量 できるだけ 儘量早來 できるだけ早く来る 乾淨 と 幹活兒 、 頭髮 と 出發 、 簽名 と 標籤 を、それぞれ意味の違いから選びます。 哪裡 と 儘量 は、別の表記を見ても同じ語として読み取ります。 朱自清「歌聲」を読む 読書ページには朱自清「歌聲」があります。 [3] 音楽会で聴いた三曲を、季節、色、香り、体の感じへと広げて書いた文章です。簡体字へ全文を書き換えてから読むのではなく、知っている語を繁体字の中で見つけます。 這是在花園裏。 では、 裏 を知っている 里 につなげられます。 發 を見つけても、いつも髪の意味とはしません。 煥發 のように、光や輝きが出る場面を読みます。 最後の段落では、耳だけでなく、目、鼻、舌、体へと聴く感覚が広がります。歌の中に春の朝や花の色を感じていたことが、ここへつながります。字を一つずつ当てるだけで終わらず、段落の景色を追いましょう。 対訳 中国語の文書の段落ごとの訳です。先に原文を読んでから見てください。 昨夜、中西音楽歌舞大会で聴いた「中西絲竹和唱」の三曲の清らかな歌に、私はすっかり心を奪われ、酔いしれてしまった。 それはまるで晩春のある朝のようだった。細かな霧雨が音もなく私の顔に降りかかり、しっとりとした軽やかな感じを呼び起こす。新鮮なそよ風が私の袂を揺らし、恋人の息が手に吹きかかるようだ。私の立つ白い明礬石の小道は、その細かな雨に濡れて、薄く乳脂を塗ったようになっていた。踏めば踏むほどなめらかで愛らしく感じられた。 これは花園の中である。花々はまだみな清らかな夢を見ている。あの細かな雨がこっそりと花々の塵を洗い流し、その甘く柔らかな艶がおのずと輝き出した。洗い落とされたうわべの艶やかさの下に、静かな紅、寂しげな紫、そして苦笑いするような白と緑が見える。日の光のあるときには、深く隠していた色だ。以前は錦のように私の目の前にあったものが、今はみな沈んだ色を帯びている。――春が去ってゆくのを愁えているのだろうか。春の気だるさを感じているのだろうか。 おそらくはそのけぶるような雨のせいでもあろう、園の中には濃い香りがなかった。さらさらと吹く東風が運んでくるのは、ひとすじひとすじの、飢えたような花の香りだけだ。そこに湿った草むらの匂いと土の味わいが混じっている。園の外の田畑や沼からは、植えたばかりの苗、伸び盛りの麦、木陰をつくる柳の、すがすがしい気がときおり送られてくる。これらは甘美ではないが、私の鼻を強く刺激し、心地よいけだるさを感じさせた。 ご覧、それはみな歌の中にあるものなのだ。私は耳で、そして目で、鼻で、舌で、体で聴いていた。心でも歌っていた。私はついに一種の健やかな麻痺にとらえられ、そうして歌のものとなった。それからは歌がひとりで歌い、ひとりで聴くばかりで、世界にはただ歌声だけがあった。 練習 形を変える — 中国語で書く 次の語を繁体字で書き、選んだ字の意味を日本語で添えてください。 干净 ・ 干活儿 ・ 饼干 ・ 出发 ・ 头发 ・ 理发 ・ 签名 ・ 标签 。 空欄に合う繁体字を書いて語句を完成させてください。 很_淨 ・ 很能_ ・ 要出_ ・ 洗頭_ ・ 請_名 ・ 貼標_ 。 次の文を簡体字で書いてください。 你在哪裡? / 你在哪裏? / 他住在這裏嗎? / 請儘量慢點說。 / 我會盡快寫信給你。 / 我會儘量不打擾你復習。 (三文目から六文目は Tatoeba の文 #136598・#8697576・#859227・#27 を繁体字に改めたもの。Tatoeba Project, CC BY 2.0 FR) 次の繁体字の語を簡体字で書いてください。 儘量 ・ 盡量 ・ 反復 ・ 反覆 。 头发 と 出发 を使い、簡体字で一文ずつ書いてから、内容を変えずに繁体字へ書き換えてください。 台湾のサイトに載っていた語として、次の八つが並んでいます。正しい形と、簡体字から機械で変換した誤りが混ざっています。誤りを選び、正しい繁体字に直して書いてください。 頭髮 ・ 頭發 ・ 幹活兒 ・ 乾活兒 ・ 標籤 ・ 標簽 ・ 出發 ・ 乾淨 。 乾淨 ・ 出發 ・ 頭髮 ・ 簽名 から二語を選び、繁体字で自分の文を一文ずつ書いてください。 「歌聲」の季節と天気、雨に洗われた花の色、耳以外に使って聴いたものを、日本語で答えてください。 戻り語 前の課で学んだ語を使って書きます。髪について書くときは、 头发 も入れてください。 語ごとに身近な人や生活の文を簡体字で作って、繁体字へ書き直してください。 能干 ・ 打扫 ・ 毛巾 。 語ごとに身近な人や生活の文を簡体字で作って、繁体字へ書き直してください。 镜子 ・ 修理 ・ 电梯 。 語ごとに身近な人や生活の文を簡体字で作って、繁体字へ書き直してください。 诚实 ・ 自信 ・ 专心 。 語ごとに身近な人や生活の文を簡体字で作って、繁体字へ書き直してください。 冷静 ・ 毕业 ・ 准时 。 語ごとに身近な人や生活の文を簡体字で作って、繁体字へ書き直してください。 护士 ・ 导游 ・ 孙女 。 音読 「歌聲」を段落ごとに声に出して読みます。読めない字は一度飛ばし、最後まで読んでから▶で手本を聞きます。二度目は、段落の景色を思い浮かべながら通して読みます。 この課のまとめ 意味で書き分ける字と、同じ語の別の表記を分けて覚えます。読むときは、繁体字を知っている簡体字の語へつなげます。書くときは、語の意味に合う形かを確かめましょう。 次の課へ 次の8.2「偏旁の対応」では、ごんべんやいとへんなど、部品ごとに対応を見つけます。一字ずつ別々に覚える代わりに、共通する形を手がかりに読んでいきます。 答え 乾淨 ・ 幹活兒 ・ 餅乾 ・ 出發 ・ 頭髮 ・ 理髮 ・ 簽名 ・ 標籤 。 乾 は乾く側、 幹 はする側、 發 は発する側、 髮 は髪、 簽 は署名、 籤 は札です。 很乾淨 ・ 很能幹 ・ 要出發 ・ 洗頭髮 ・ 請簽名 ・ 貼標籤 你在哪里? / 你在哪里? / 他住在这里吗? / 请尽量慢点说。 / 我会尽快写信给你。 / 我会尽量不打扰你复习。 裡 と 裏 はどちらも 里 、 儘 と 盡 はどちらも 尽 、 復 は 复 になります。 尽量 ・ 尽量 ・ 反复 ・ 反复 我想洗头发。 → 我想洗頭髮。 / 我们明天出发。 → 我們明天出發。 誤りは 頭發 → 頭髮 、 乾活兒 → 幹活兒 、 標簽 → 標籤 の三つです。 頭髮 ・ 幹活兒 ・ 標籤 ・ 出發 ・ 乾淨 は正しい形です。 我的房間很乾淨。 我想洗頭髮。 晩春の朝で、細かな雨が静かに降っています。花には静かな紅、寂しげな紫、苦笑いするような白と緑を感じています。耳のほかに目・鼻・舌・体で聴き、心でも歌っていました。 她很能干。 → 她很能幹。 我每天打扫房间。 → 我每天打掃房間。 我的毛巾很干净。 → 我的毛巾很乾淨。 我在镜子前洗头发。 → 我在鏡子前洗頭髮。 他修理好了椅子。 → 他修理好了椅子。 电梯在这里。 → 電梯在這裡。 他很诚实。 → 他很誠實。 她很自信。 → 她很自信。 我专心读书。 → 我專心讀書。 我现在很冷静。 → 我現在很冷靜。 我今年毕业。 → 我今年畢業。 我会准时出发。 → 我會準時出發。 她是护士。 → 她是護士。 他是导游。 → 他是導遊。 我的孙女很能干。 → 我的孫女很能幹。 参考文献 HSK 3.0 語彙表(一〜七級)。 kanji-data(davidluzgouveia/kanji-data)。常用漢字の字形は学年配当一〜八による。 朱自清「歌聲」(一九二一年、『時事新報・學燈副刊』初出)。中文維基文庫。パブリックドメイン。