11.2 論語 學而 — 吾日に吾が身を三省す — Epoché
この篇でできるようになること 最初の言葉と、続く三つの問いの関係を説明できます。 二つの一人称の働きを、位置から見分けられます。 相手を表す語を現代語に移し、原文の問いを書き戻せます。 前提 :11.1「論語 學而 — 學びて時に之を習ふ」。問いの形が、誰に向けられているかを引き続き考えます。 最初の言葉と三つの問い ここでは孔子の弟子の曾子が、自分の行いを振り返っています。 吾日三省吾身 と言ってから、三つの問いを並べます。三つの点で省みると読むと、先に数を挙げてから中身を示す作りになります。「三つある。一つは……」という日本語と同じ順に追えます。 ただし、 三 には「たびたび」と取る読みもあります。回数を厳密に三回と決める必要はありません。どちらの読みでも、続く問いを数えると三つあることは確かめられます。原文の字の解釈と、本文に並ぶ項目の数を分けて考えましょう。 原文の問い 振り返る内容 関わる相手 為人謀而不忠乎 人のために考え、真心を尽くしたか 相談を受ける相手 與朋友交而不信乎 友との交わりで誠実だったか 友人 傳不習乎 よく習得していないことを人に伝えなかったか 教える相手と自分の学び 最後の 傳 は、ここでは人に伝える(教える)という動詞として読みます。書き下しは「習はざるを傳ふるか」で、自分がよく習得していないことを人に伝えたのではないか、という問いです。人に教える前に、自分で十分習ったかを振り返っています。師から伝えられたことをおさらいしたか、と取る読みもあります。読みが分かれるところだと押さえておきましょう。 同じ一人称の二つの位置 吾 は、話し手自身を表す一人称です。 吾日三省吾身 の初めでは、省みる人が私だと示しています。後ろの 吾身 では、自分の身という名詞のまとまりを作っています。 現代語なら、主語の 我 と、私のものを示す 我的 を使い分けるところです。 型編 4課 で見た、前の語が名詞を説明する働きと結び付けます。漢文のこの句では、同じ字でも置かれた位置によって働きが違います。 日 も位置を見ます。ここでは太陽や、ある一日ではなく、毎日という時を示します。省みる動作より前です。現代語の 每天 と、時を動詞より前に置く 型編 8課 を思い出してください。 最初の 吾 だけを主語とし、後ろの 吾 まで別の主語にしないようにします。後ろは「吾が身」というまとまりの中で、誰の身かを説明しています。 誰と、誰のために 與朋友交 では、友人と、という相手を 與 で示してから、交わる動作へ進みます。現代語の 跟朋友 ・ 和朋友 と同じく、相手のまとまりを動詞より前に置きます。 型編 9課 の介詞の位置を手がかりにできます。 為人謀 も、人のために、というまとまりが先です。ここでの 為 は、誰のために考えるかを結ぶ介詞です。次の 謀 は、相談にのって考えてやることです。人をだます意味に取ると、振り返る内容が変わってしまいます。 書き下しの「人の為に謀りて」を見ると、誰のために、何をするかが分かれます。現代語では 给别人 などで相手を示せます。同じ 為 でも、「〜とする」という別の働きは 特別編 4篇 で確かめます。 この 為 を「なす」と読んで、その後を「人を謀る」とつながないでください。人のために考えるという動作について、真心を尽くしたかを問う句です。 自分に問いを向ける 三つの問いは、どれも 乎 で結びます。前の篇では反語によって強く肯定していました。ここでは、自分が十分に行ったかを振り返っています。字と文末の位置は同じでも、問いが誰に向くかは文脈で変わります。 前の二つは相手との関わりです。三つ目も人に伝える場面ですが、問われているのは自分が十分に習ったか、つまり自分の学びです。 特別編 1篇 の内から外へ広がる流れと並べると、こちらは外から内へ戻ると読めます。これは内容の並びから捉える読みどころで、字の並びだけで機械的に決まる規則ではありません。 問いの中の否定にも注意します。真心や誠実さが無かったのではないかと、自分へ尋ねています。否定の字を取り落とさず、その後にある態度や動作まで一緒に読んでください。 語釈 語 品詞 意味 日本語との差 例文 訳 吾 代詞 私・私の 位置により二つの働きになる 吾身 私の身 日 副詞 毎日 ここでは太陽ではない 吾日三省吾身 私は毎日自分を省みる 省 動詞 省みる 省くという読みではない 三省吾身 自分の身を省みる 為 介詞 〜のために この句では動詞ではない 為人謀 人のために考える 謀 動詞 考えてやる ここではだますことではない 為人謀 人のために考える 忠 形容詞 真心を尽くす 相談への態度を問う 不忠乎 真心を尽くさなかったのではないか 與 介詞 〜と 相手を動詞の前に置く 與朋友交 友人と交わる 信 形容詞 誠実である 友との交わりの態度 不信乎 誠実でなかったのではないか 傳 動詞 人に伝える・教える 教わったことと取る読みもある 傳不習乎 よく習得していないことを人に伝えたのではないか 練習 空欄を埋め、本文の句を書いてください。 _日三省_身 空欄を埋め、本文の句を書いてください。 _朋友交而不信_ 空欄を埋め、本文の句を書いてください。 _人謀_不忠乎 與朋友交 を、私を主語にした現代語の文に書き換えてください。 為人謀 を、私を主語にした現代語の文に書き換えてください。 「人の為に謀りて忠ならざるか」に当たる原文を書いてください。 「朋友と交はりて信ならざるか」に当たる原文を書いてください。 「習はざるを傳ふるか」に当たる原文を書いてください。 吾日三省吾身 の二つの一人称について、主語と連体の働きを選んでください。 三つの問いの向きと、前の篇の反語との違いを書いてください。読みの分かれる語にも触れましょう。 毎日自分に問う言葉を、誠実・正直・集中の三つについて現代語で書いてください。「今日」という時と、誰に対してか・どの場面でかを入れましょう。 ▶ で手本を聞き、 吾日三省吾身 で一度区切って音読します。その後の三つの問いは、同じ調子で、自分に問い直すつもりで読んでください。 この篇のまとめ 最初の言葉を受けて、三つの問いが続きます。時、主語、誰のためか、誰と交わるかを位置から読みます。同じ文末の字でも、ここでは自分への問いとして受け取ります。 次の篇へ 次の11.3では、学ぶことと考えることを入れ替えた対句を読みます。条件と結果を結ぶ字に注目します。 答え 吾日三省吾身 與朋友交而不信乎 為人謀而不忠乎 我跟朋友交往。 我给别人出主意。 為人謀而不忠乎 與朋友交而不信乎 傳不習乎 初めの 吾 が主語、 吾身 の 吾 が身を説明する連体の働きです。 人のため、友との交わり、自分の学びへと振り返ります。自分への問いであり、強く肯定する反語とは違います。 三 は三つの点・たびたび、 傳 は人に伝える(ここでの読み)・教わったことという読みがあります。 今天我在家里诚实吗? 今天我对朋友老实吗? 今天我上课专心吗? 参考文献 孔子の弟子たち『論語 學而』。パブリックドメイン(著者没後70年経過)。本文は抄。 出所: 当館所蔵の文書