14.39 理由を書かない — 格言だけで組んだ序文 — Epoché
この篇でできるようになること ★ 格言だけで組んだ文章 が読める。 ★ 定義の文型 が見分けられる。 ★ 一語だけ変える対句 に気づける。 ★ 理由を書かない ことの効き目が言える。 前提 : 特別編に門はありません。第 5 期まで済んでいれば、どこからでも読めます(目安は 3.40 まで/4.60 まで)。 読む前に ★ この序文は あとから足されました 。★ 小説が世に出たあと、 「不道徳な本だ」と言われた ので、★ 単行本にするときに これを前に付けた のです。★ つまり 反論の文書 です——★ ところが どこにも反論の形がありません 。★ 背景は 12.11 知編 にあります 。 ★ ふつう反論には 理由が要ります ( 9.11 論編 )。★ この序文には 理由を表す語が一つもありません ——★ because ・ since ・ therefore が 0 回 。★ 言い切りだけを 34 本並べて終わります 。 何を見るか この篇での値 何が分かるか ★ 一文の語数 ★ 平均 11.2 語(最短 3・最長 28) ★ 格言の長さ ★ セミコロン・疑問符・感嘆符 ★ 0 個・0 個・0 個 ★ 言い足しも問いかけもしない ★ ヘッジの語 ★ 0 個 ★ 逃げ道を残していない ★ 8.213 読編 の論文では ヘッジが二十四か所 ありました 。★ この序文は ゼロ ——★ 3.36 型編 で置いた 言い切れる範囲を示す やり方の ちょうど裏 です。 原文 原文は別の文書にあります(作品ページの「原文」)。本文は 380 語、段落は 7 、文は 34 本、一文の平均は 11.2 語です。 ★ 全文です 。★ この篇は 切り出していません ——★ 短いので、はじめから終わりまで入っています 。★ だから 並び順そのものを読めます 。 全訳 原文の全訳です。この課程のために、原文に沿って訳しました。番号は原文の段落の番号で、原文と行き来できます。 作り手とは、美しいものを創る者である。芸を現し、作り手を隠すことが、芸のねらいである。批評する者とは、美しいものから受けた印象を、別のやり方や新しい素材に移しかえることのできる者である。 いちばん高い批評も、いちばん低い批評と同じく、自分について語る一つのやり方である。美しいものに醜い意味を見いだす者は、堕落していて、しかも魅力がない。これは欠点である。 美しいものに美しい意味を見いだす者は、教養ある人々である。この人々には望みがある。美しいものが美だけを意味する、選ばれた人々である。 道徳的な本とか不道徳な本とかいうものは存在しない。本はよく書かれているか、まずく書かれているかである。それだけのことだ。 十九世紀が写実を嫌うのは、鏡に映った自分の顔を見たキャリバンの怒りである。 十九世紀が浪漫を嫌うのは、鏡に自分の顔が映っていないのを見たキャリバンの怒りである。人間の道徳の生活は作り手の題材の一部をなすが、芸の道徳は、不完全な媒体を完全に使うことにある。作り手は何かを証明しようとは望まない。真実であることでさえ、証明できてしまうのだ。作り手は倫理の上の共感をもたない。作り手が倫理の上の共感をもつのは、許しがたい文体の癖である。作り手は決して病的ではない。作り手は何でも表現することができる。思考と言語は、作り手にとって芸の道具である。悪徳と美徳は、作り手にとって芸の素材である。形の点から見れば、あらゆる芸の手本は音楽家の芸である。感情の点から見れば、役者の技が手本である。すべての芸は、面であり、同時にしるしである。面の下へ入っていく者は、危険を覚悟でそうするのである。しるしを読み解く者も、危険を覚悟でそうするのである。芸がほんとうに映しているのは、生ではなく、見る者である。ある作品について意見が分かれるのは、その作品が新しく、込み入っていて、生きていることを示している。批評する者たちの意見が割れているとき、作り手は自分と合っている。役に立つものを作った人を許せるのは、その人がそれを賛美しないかぎりにおいてである。役に立たないものを作ることのただ一つの言いわけは、それを強く賛美していることである。 すべての芸は、まったく役に立たない。 語釈 帯の外の語は 15 語しかありません。★ 第 IV 部でいちばん少ない です。★ 語はやさしいのに、 言っていることは取りにくい ——★ 理由が書かれていないから です。★ 語が難しいのと、 中身が難しいのは別 ——★ この篇はその見本 です。 語(品詞) 意味 注 Caliban en 名 カリバン(シェイクスピア『テンペスト』に出る人物) autobiography en 名 自伝 She spent her final years writing a detailed autobiography. 彼女は最後の数年を、詳しい自伝を書くことに費やしました。 creator en 名 作り手 The museum honored the creator of the town's oldest bridge. その博物館は、町の最古の橋の作り手を称えました。 cultivated en 形 教養のある( the cultivated =教養ある人々) Farmers cultivated this valley for nearly three centuries. 農夫たちは、この谷を三世紀近く耕してきました。 forgive en 動 許す She found it hard to forgive such a careless mistake. 彼女はそのような不注意な過ちを許すのが難しいと感じました。 immoral en 形 道に外れた The old judge called the merchant's scheme deeply immoral. その老いた裁判官は、その商人の企てを深く道に外れたものと呼びました。 imperfect en 形 欠けたところのある The imperfect translation left several passages unclear. その欠けたところのある翻訳は、いくつかの箇所を不明瞭にしました。 intensely en 副 ひどく He disliked the noisy city intensely after years in the countryside. 田舎で何年も過ごした後、彼は騒がしい都会をひどく嫌いました。 mannerism en 名 身についた癖・わざとらしさ His odd mannerism of tapping the table amused his students. 卓をたたく彼の奇妙な癖は、生徒たちを面白がらせました。 morbid en 形 病んだところのある Her morbid curiosity about the old ruins worried her mother. その古い廃墟への彼女の病んだ興味は、母親を心配させました。 peril en 名 危うさ The climbers faced real peril once the storm arrived. 登山者たちは嵐が来ると、本当の危うさに直面しました。 romanticism en 名 ロマン主義(心の動きを重んじる流れ) The painting reflected the romanticism popular in that century. その絵画は、その世紀に広まったロマン主義を反映していました。 spectator en 名 見ている人 A single spectator remained after the long race ended. その長い競走が終わった後、一人の見ている人だけが残りました。 unpardonable en 形 許しがたい He considered the lie unpardonable, however small it seemed. 彼はその嘘を、どれほど小さく見えても許しがたいと考えました。 useless en 形 役に立たない The broken lantern proved useless during the sudden blackout. その壊れたランタンは、突然の停電の間まったく役に立ちませんでした。 定義の文型だけで進む ★ 第一段落は 三つの定義 です 。 The artist is the creator of beautiful things. The critic is he who can translate into another manner or a new material his impression of beautiful things. ★ 「作り手とは、美しいものを作る者である」 、★ 「批評する者とは、美しいものについての自分の印象を別のやり方か新しい素材へ移しかえられる者である」 。 どんな形か その働き ★ 甲は乙である ★ 類を示す ★ 甲とは、〜する者である ★ 種差を示す ★ 3.37 型編 に置いた 類と種差 の形 です。★ 言い切りに聞こえるのは、 定義の形だから ——★ 定義は 反論しにくい のです。★ 「ちがう」と言うには、 別の定義を出すしかありません 。 ★ もう一つの形が Those who … ——この篇に 4 回 です。 Those who find ugly meanings in beautiful things are corrupt without being charming. Those who find beautiful meanings in beautiful things are the cultivated. ★ 「美しいもののなかに醜い意味を見つける者は、人を引きつけることもなく、そのうえ濁っている」 、★ 「美しいもののなかに美しい意味を見つける者は、耕された者である」 。★ 形をそろえて 中身だけを入れ替えます ( 3.44 型編 )。 一語だけ変えた対句 ★ この篇のいちばん有名な二文 です。 The nineteenth century dislike of realism is the rage of Caliban seeing his own face in a glass. The nineteenth century dislike of romanticism is the rage of Caliban not seeing his own face in a glass. ★ 「十九世紀が写実を嫌うのは、鏡のなかに自分の顔を見たカリバンの怒りである」 、★ 「十九世紀がロマン主義を嫌うのは、鏡のなかに自分の顔を見なかったカリバンの怒りである」 。 どこが同じか どこが違うか ★ 文の形がそっくり同じ ★ realism と romanticism ★ カリバンと鏡も同じ ★ seeing と not seeing ★ 変えたのは 二か所だけ です。★ それで 正反対のことを言っています ——★ 写実を嫌うのは 自分が映るから 、ロマン主義を嫌うのは 自分が映らないから 。 ★ 言われているのは 一つのこと ——★ どちらにしても 怒っているのは読む側 で、作品のせいではない 。★ 二文に割って対にすると、 証明しないまま結論が置けます ——★ 9.20 論編 の見方でいえば、 形の力で通している ところです。 否定で言い切る ★ No artist … が 3 回 出ます。 No artist desires to prove anything. No artist has ethical sympathies. No artist is ever morbid. ★ 「作り手は何かを証明したいと望みはしない」 、★ 「作り手は道徳の上での共感を持たない」 、★ 「作り手が病んでいることはけしてない」 。 ★ No を主語の頭に置くと、 例外を許さない言い方 になります 。★ Artists do not desire なら 「たいていは」と読めます が、★ No artist desires は 「一人もいない」 です。 ★ いちばん強い言い切りは、この二文 です。 There is no such thing as a moral or an immoral book. Books are well written, or badly written. That is all. ★ 「道徳的な本、不道徳な本などというものは無い。本はよく書かれているか、下手に書かれているかである。それだけのことだ」 。★ That is all. は 3 語 です。★ ここで 議論を打ち切っています ——★ 反論に答えるのではなく、 問いそのものを無しにする やり方 です。 いちばん短い一文で閉じる ★ 序文の最後の段落は 一文だけ です 。 All art is quite useless. ★ 「すべての芸術は、まったく役に立たない」 。★ 5 語 です。★ 直前の二文を見てください 。 We can forgive a man for making a useful thing as long as he does not admire it. The only excuse for making a useless thing is that one admires it intensely. ★ 「役に立つものを作ることは、その者がそれを愛でないかぎり許せる」 、★ 「役に立たないものを作ることの唯一の言い分は、それを強く愛でているということである」 。 どの順か どう効くか ★ 結論を先に置く ★ 主張として読まれる ★ 下ごしらえを先、結論を最後 ★ 行き着いたように読まれる ★ この序文は後のほうを選びました 。★ 役に立つ/役に立たないの話を二文しておいて、 五語で閉じます ——★ 3.58 型編 の 知っていることを先に、新しいことを後に の形 です。 訳 ★ 取りにくい五つを選びました 。 原文の要 日本語 To reve