11.55 春秋左氏傳 莊公十年 曹劌論戰 — 一鼓して氣を作し、再びして衰へ、三たびして竭く — Epoché
この篇でできるようになること 問答、戦い、勝利後の説明という三段に分けられます。 君の三つの答えと、曹劌の返しを対にできます。 二度目を表す語と、何を頼みに戦うかという問いを現代語にできます。 前提 :11.54「王羲之 蘭亭集序」。論を始める語を確かめた後、行動を先に描き、理由を後に置く文章を読みます。 魯の側から書かれた戦い 『左傳』は左丘明の作と伝えられます。この篇は莊公十年の戦いで、初めの 齊師伐我 は、齊の軍が我が国を攻めた、ということです。ここで我が国とは魯です。『春秋』が魯の年代記であることを踏まえ、語りの側を定めて読みます。 曹劌が面会を求めると、同郷の人は、位のある人が考えるのだから、なぜ加わるのかと問います。 肉食者 は、肉を食べる生活ができる位のある人々を指します。食事の好みを話しているわけではありません。 又何間焉 の 間 は jiàn と読み、加わるという意味です。曹劌は 肉食者鄙,未能遠謀 と答えます。 鄙 はここでは見識が狭いことです。日本語の、いなか、という意味だけでは、遠くを見通して考えられないという次の言葉につながりません。 一つの問いに、君が三度答える 曹劌の問いは 何以戰 、何を頼みにして戦うのか、の一度です。それに対して君が三つの答えを出し、曹劌がそれぞれを受けます。曹劌が三度たずねたと読まないよう、発言する人を追ってください。 初めに君は、生活を支える衣食を独り占めせず、人に分けると答えます。曹劌の返しは 小惠未徧,民弗從也 です。小さな恵みは広く行き渡らず、民は従わないと述べます。 次に君は、神に供える犧牲や玉や絹について、偽って多く申告せず、誠実にすると答えます。曹劌は 小信未孚,神弗福也 、小さな誠実はまだ信を得ておらず、神は福を与えない、と返します。 三つ目は、大きな訴えも小さな訴えも、すべてを明らかにできなくても実情に即して判断する、という答えです。ここで曹劌は 忠之屬也,可以一戰 と認めます。誠を尽くすことの類いであり、一戦することができるという評価です。 三つ目だけを認める理由は、曹劌の返し 忠之屬也 から読みます。 否定の語を、話し手とともに読む 弗 は、この問答に四度出ます。君の 弗敢專也 と 弗敢加也 は、あえて独り占めしない、偽って増やさないという自分の行いです。一方、曹劌の 民弗從也 と 神弗福也 は、民と神の側についての否定です。 同じ否定の字を見つけるだけでなく、誰が何をしないのかを対応させます。君の心がけの説明と、それで戦えるかを判断する曹劌の返しの違いが見えてきます。 戦場では、理由をまだ言わない 君は曹劌とともに車に乗り、長勺で戦います。君が太鼓を打とうとすると、曹劌は 未可 、まだいけない、と止めます。齊の人々が三度太鼓を打つと、 可矣 、よい、と言います。 齊が敗れ、君が車を走らせて追おうとした時も、曹劌は 未可 と止めます。車から降りて轍を見、車の横木に上がって遠くを望みます。その後に、 可矣 と言い、ようやく追います。 曹劌の言葉を取り出すと、 未可 ・ 可矣 ・ 未可 ・ 可矣 という順です。どれも二字で、ここでは理由を述べません。読む側には、なぜ止めるのか、なぜ今ならよいのか、という問いが残ります。 前の問答では、言葉で根拠を確かめました。一方、戦場では短い判断と、降りて見る、登って望むという行動が先に置かれます。その理由を後で読むことが、この篇の組み立てです。 一度目、二度目、三度目の太鼓 勝利の後、君が理由を問うと、曹劌は 夫戰,勇氣也 と説明を始めます。文頭の 夫 は、そもそも、と論を起こす合図です。前の短い返答から、理由を続けて述べる話し方へ変わります。 一鼓作氣,再而衰,三而竭 は、一度目の太鼓で気力が起こり、二度目で衰え、三度目で尽きるという説明です。 再 はこの並びでは二度目を指します。 彼竭我盈 では、相手は尽き、こちらは満ちている、と両軍を一句に並べます。相手の気力が尽きた時に、こちらの気力は満ちている。その違いが、待ってから攻めた理由です。 再而衰 を、また衰える、としないでください。前後の 一 ・ 三 とともに、一、二、三と数えています。現代語の 第二次 にすると、どの段階かを確かめられます。 追う前に、何を確かめたか 追撃を待った理由も、文頭の 夫 で起こします。大国は測りにくく、伏兵がいるのを恐れたということです。勝った直後だから、すぐ追えばよいとは判断していません。 吾視其轍亂,望其旗靡,故逐之 は、轍が乱れ、旗が倒れているのを見たので追った、という説明です。前の段の、降りて見る、登って望むという動きが、ここで何を確かめるためだったか分かります。 二度止めた理由を混ぜないでください。攻める時には両軍の気力の違い、追う時には伏兵への用心と、見て確かめた轍や旗が述べられます。初めに曹劌は、位ある人は遠くを見通せないと言っています。その言葉が、君の行動と曹劌の判断を読む手がかりになります。 何を頼みにして、という問いの語順 何以戰 は、介詞の目的語である疑問詞が前に出ています。並びをふつうの位置へ戻せば 以何戰 です。現代語の 凭什么 では、何に当たる疑問詞が介詞の後ろに来ます。 この問いを、武器は何か、だけに狭めないでください。君は衣食、供え物、裁判のことを答えています。何を戦いの頼みにするか、と読むと問答がつながります。 雖不能察 の 雖 は、できなくても、という譲歩です。 則請從 は、戦うなら従いたいというつながり、 故克之 は、だから勝ったという理由のつながりです。現代語の 虽然 ・ 就 ・ 所以 と比べ、文と文を何で結ぶかを見ます。 疑問詞の位置は 型編 3課 、動作の回数は 型編 23課 、接続の語は 型編 34課 で確かめられます。字を置き換える時にも、問う人、答える人、攻める時と追う時の違いを保ちましょう。 語釈 語 品詞 意味 日本語との差 例文 訳 肉食者 名詞 位のある人々 食事の好みではない 肉食者謀之 位のある人々がそれを考える 鄙 形容詞 見識が狭い いなかの意味にしない 肉食者鄙 位のある人々は見識が狭い 間 動詞 加わる 時間の間ではない 又何間焉 どうしてそこに加わるのか 徧 動詞 行き渡る 遍と同じ。行き渡る 小惠未徧 小さな恵みは行き渡っていない 孚 動詞 信を得る 小信への評価 小信未孚 小さな誠実は信を得ていない 獄 名詞 訴訟・裁判 牢屋だけではない 小大之獄 大小の訴訟 鼓 動詞 太鼓を打つ 名詞を動作に使う 齊人三鼓 齊の人々が三度太鼓を打つ 再 数の語 二度目 ここではもう一度ではない 再而衰 二度目で衰える 竭 動詞 尽きる 気力について述べる 彼竭我盈 相手は尽き、こちらは満ちる 轍 名詞 車輪の通った跡 敗走を確かめる対象 吾視其轍亂 私はその轍が乱れているのを見た 練習 君への返しを、原文どおりに補って書いてください。 小惠未_,民_從也 君への返しを、原文どおりに補って書いてください。 小信未_,神_福也 君への返しを、原文どおりに補って書いてください。 _之屬也,可以一戰 何以戰 を現代語の問いに直し、介詞と疑問詞をふつうの位置に置いた文言の形も書いてください。 一鼓作氣,再而衰,三而竭 を、現代語の 第一次 ・ 第二次 ・ 第三次 で言い換えてください。 原文の 彼竭我盈,故克之 と 夫大國,難測也,懼有伏焉 の理由を使い、戦場の二度の 未可 を、理由を言いながら止める現代語の会話へ書き直してください。 还不行 ・ 因为 を使います。 本文の 再 と現代語の 再见 ・ 再说 の 再 は、二度目と、もう一度・これからのどちらですか。 急ぐ君と落ち着いた曹劌について、短い現代語の文を二つ書いてください。 着急 ・ 激动 と 冷静 ・ 英勇 をそれぞれ使います。 前の課の語 判断 を使い、曹劌の行動を短い現代語の文にしてください。 戦場の短い言葉を四つ順に取り出し、理由がどこで述べられるか答えてください。 本文を問答・戦い・勝利後の説明の三段に分けるとき、それぞれの段の初めの句を本文から抜き出してください。 音読:次の原文の句を ▶ で聞き、声に出して読んでください。 一鼓作氣,再而衰,三而竭。 一鼓作氣 を強く読み、 再而衰 ・ 三而竭 とだんだん弱く読んでください。 この篇のまとめ 君の三つの答えを評価する問答から、理由を言わずに止める戦場へ進みました。勝利後に気力と伏兵の説明を読むと、短い判断と行動の意味が分かります。 次の篇へ 次の11.56では戰國策の鄒忌諷齊王納諫を読みます。同じ答えの理由を分け、王の周りへ当てはめる諫めと、比較や二重否定を確かめます。 答え 小惠未徧,民弗從也 小信未孚,神弗福也 忠之屬也,可以一戰 我们凭什么打仗? 以何戰 。現代語では疑問詞が介詞の後ろになります。 凭什么 は相手をなじる、抗議の調子にもなります。素直に問うなら 靠什么 とも言えます。 第一次击鼓,士气高涨;第二次击鼓,士气衰弱;第三次击鼓,士气耗尽。 太鼓を打とうとする君への答え: 还不行,因为要等敌人的士气耗尽。 追おうとする君への答え: 还不行,因为我怕大国有伏兵。 本文は一、二、三の二度目です。現代語の二つは、これから再び、もう一度という意味で、回数の二度目を指定していません。 国君很着急,也很激动。 曹刿很冷静,也很英勇。 曹刿先观察,然后判断。 未可 、 可矣 、 未可 、 可矣 。理由は勝った後、君が問う場面でまとめて述べられます。 問何以戰 / 公與之乘 / 旣克 参考文献 左丘明(伝)『春秋左氏傳 莊公十年』。パブリックドメイン(著者没後70年経過)。 出所: https://zh.wikisource.org/wiki/古文觀止/卷1