11.30 戰國策 楚策 — 狐、虎の威を假る — Epoché
この篇でできるようになること 誰が誰に何をさせるかを、使の前後から読めます。 以…為…と以為を、何をどう思うかという関係で訳せます。 狐が証明しようとすることと、見せたことの違いを示せます。 前提 :11.29「戰國策 齊策 — 畫蛇添足」。説得の枠の中に置かれた小話を、今回も読みます。 王の問いに、狐と虎で返す 戰國策の楚策一にある話です。楚の宣王は、北方の国々が家臣の昭奚恤を恐れているのか、と問います。江乙はこの話で答えます。ここに示された原文は、狐と虎の部分の抄です。 王は虎、家臣は狐に見立てられます。恐れられているのは家臣自身でなく、背後の王の兵力だと伝えるための話です。王の力を認める言い方で、家臣の威勢を相対的に小さくしています。 小話では、食べる側の虎が、捕まえた狐の言葉を信じます。力では弱い狐が、何を言い、どんな配置を作ったかを順に追ってください。 三つの言葉で、歩く順を決める 狐の働きかけ 本文の根拠 虎に受け入れさせたいこと 権威を示す 天帝使我長百獸 自分は天帝に命じられた長だ 脅す 今子食我,是逆天帝命也 食べれば天帝に逆らうことになる 見せると申し出る 吾為子先行,子隨我後 狐が前、虎が後という順で歩く 天帝の命を証明する文書などが示されるわけではありません。疑うなら見せよう、と言い、しかも歩く順まで狐が指定しています。獣が何に向かって反応するかを考えると、この配置の意味が見えてきます。 百獸之見我 は、百獣が私を見るという主語と述語のまとまりです。名詞二つを、の、で結ぶだけの形とは違います。見るという動作を含む内容を、後ろの逃げるかどうかへつないでください。続く 敢不走乎 は、あえて逃げずにいるかどうか、という問いです。全体で、百獣が私を見て逃げないかどうかを見よ、と虎に確かめさせる言い方になります。 使う側、なる人、なるもの 天帝使我長百獸 では、天帝が、私を、百獣の長にならせたという順です。 使 の後の人は、同時に次の動作をする側になります。現代語の 使 ・ 让 を使う 型編 27課 の兼語文と比べられます。 長 はここで zhǎng と読み、長となるという動詞です。長いという cháng の形容詞ではありません。誰をどのような立場にしたかを読むと、この字に必要な働きが分かります。 この文は狐が自分について言う主張です。語り手が、実際に天帝の命があったと確認した文ではありません。発言の中にあることも、読み取る内容の一部です。 そうだと思う、というまとまり 子以我為不信 は、あなたが私を信用できないと思うなら、という関係です。 以 と 為 の間が、どう捉えるかという対象で、後ろが判断の内容になります。この 為 は wéi と読みます。すぐ後の 吾為子先行 の 為 は、あなたのために、の意味で wèi と読み分けます。 虎以為然 では、虎がそうだと思ったことを述べます。 以為 と続く形は、現代語の 以为 にもつながります。最後の 以為畏狐也 も、恐れている相手は狐だと思った、という虎の受け取り方です。 判断を述べる形は、判断の中身が正しいという保証ではありません。虎が信じた内容と、語り手が説明する出来事を分けると、最後の誤りが読めます。 無いのか、するなのか 子無敢食我也 は、けっして私を食べるな、という禁止です。 無 はここで 毋 に当たる字として使われています。前の蛇に足がないという存在の否定とは、文の働きが違います。 後ろに動作が続き、相手に向けていることを手がかりにします。同じ字だけを取り出して訳を決めず、狐が虎の行動を止めようとしている場面で読みます。 見せたことは、証明になったか 獸見之皆走 で、獣たちはみな逃げます。 走 はこの場面では逃げることです。現代語の歩く意味で、ただ歩いて行ったとすると、恐れて逃げたという結末につながりません。 獣が歩く速さを描いているだけではありません。後の、恐れて逃げたという説明へつながる動詞として読みます。 狐が示すべきなのは、自分が百獣の長にされたかどうかです。しかし実際に見せたのは、狐と虎が一緒に来ると獣が逃げることでした。逃げたことだけでは、その理由が狐にあるとまでは言えません。 虎不知獸畏己而走也 の分からない対象は、獣が自分を恐れて逃げたという全体です。次の 以為畏狐也 が思いこみです。恐れられた相手が自分なのに、狐だと取り違えます。 最後を、獣は本当に狐を恐れていた、と訳さないでください。分かっていなかった事実と、そう思った内容が対になっています。 王への返事という枠へ戻ると、虎が自分の力に気づかない点も重要です。家臣の威勢の背後には、王の力があります。その力を王自身に認めさせる向きで、この結末が使われています。 語釈 語 品詞 意味 日本語との差 例文 訳 使 動詞 人に〜させる 後の人が次の動作の主語になる 使我長百獸 私を百獣の長にならせる 長 動詞 長となる 長いという読みではない 長百獸 百獣の長となる 逆 動詞 逆らう 天帝の命に対する行為 逆天帝命 天帝の命に逆らう 無 禁止の語 するな ここでは毋に当たる 無敢食我也 けっして私を食べるな 信 形容の語 信用できる 狐への判断 以我為不信 私を信用できないと思う 隨 動詞 従う・ついて行く 虎が後ろを歩く 子隨我後 あなたは私の後ろについて来る 走 動詞 逃げる ここでは歩くではない 獸見之皆走 獣はそれを見てみな逃げる 以為 動詞 と思う 正しい事実とは限らない 虎以為然 虎はそうだと思う 畏 動詞 恐れる 誰を恐れたかが重要 畏狐 狐を恐れる 練習 空欄を埋めて本文のまとまりを書いてください。 天帝_我長百獸 空欄を埋めて本文のまとまりを書いてください。 子_我_不信 空欄を埋めて本文のまとまりを書いてください。 子_敢食我也 空欄を埋めて本文のまとまりを書いてください。 獸見之皆_ 天帝使我長百獸 を、現代語の 让 を使う形へ直してください。 子以我為不信 と 以為畏狐也 を現代語にしてください。さらに 以为 を使い、思っていたことを一文書いてください。 本文の 無 ・ 走 ・ 長 の意味を、ア 無い、イ するな、ウ 歩く、エ 逃げる、オ 長い、カ 長となる、から選んでください。 長 は読みも zhǎng・cháng から選んでください。 狐が証明すべきことと見せたこと、王への説得での対応を説明してください。 尾巴 ・ 树林 ・ 自信 ・ 老实 を全部使い、狐と虎が森を歩く場面を、狐の自信と虎の様子が分かる現代語の文で二つ書いてください。 音読:次の原文の句を ▶ で聞き、声に出して読んでください。 虎不知獸畏己而走也,以為畏狐也。 ▶ の手本を聞いて音読します。語り手の声で静かに読み、 虎不知獸畏己而走也 の後で一度止めて、虎が知らなかった事実と、 以為畏狐也 の思いこみを読み分けてください。 この篇のまとめ 使役で長となるという狐の主張と、虎がそう思ったという判断を分けて読みました。獣が逃げた事実だけでは、狐が恐れられた証明にならないことを、結末から確かめます。 次の篇へ 次の11.31では鷸蚌相爭を読みます。鳥と貝が互いに放さず、別の者に捕らえられる話から、動作の時と、応じようとしない態度を読みます。 答え 天帝使我長百獸 子以我為不信 子無敢食我也 獸見之皆走 天帝让我当百兽的首领。 你以为我骗你吗? 老虎以为野兽害怕狐狸。 我以为他很老实。 無 はイ(するな)、 走 はエ(逃げる)、 長 はカ(長となる)で、読みは zhǎng です。 証明すべきことは自分が百獣の長にされたかどうか、見せたことは虎を後ろに伴って来ると獣が逃げることです。王を虎、家臣を狐に重ね、恐れられているのは背後の王の力だと伝えます。 树林里,狐狸摇尾巴,很有自信。 老虎很老实,也一起走。 参考文献 劉向(編)『戰國策 楚策一』。パブリックドメイン(著者没後70年経過)。本文は抄。 出所: https://zh.wikisource.org/wiki/戰國策 (士禮居叢書本)/楚/一