11.29 戰國策 齊策 — 畫蛇添足 — Epoché
この篇でできるようになること 安能の反語を、できないという意味で訳せます。 飲む直前を表す且と、その後の出来事をつなげられます。 三つの者が指す人と、説得に使われる話の役割を説明できます。 前提 :11.28「列子 湯問 — 伯牙、琴を鼓す」。問いの形で答えを求めない反語を、別の場面で読みます。 誰を止めるための話か 戰國策は、戦国時代の人々の説得ややり取りを集め、前漢の劉向が整理した書です。この課では齊策二に置かれた蛇の小話を、抄として読みます。 もとの場面では、楚の将軍昭陽が魏を破った後、さらに齊を攻めようとしています。陳軫はこの話を用いて、思いとどまらせます。すでに得た勝ちに余計なことを足して失わないように、ということです。ここに示された原文は、その説得の枠の中の小話です。 蛇の絵の上手下手だけを競う話ではありません。先に得たものがあるのに、さらに足して、それまでの成果まで失います。その点が、将軍への言葉につながります。 酒を飲める人を決める 楚有祠者 で、祭りをする人が現れます。その家来たちに酒が与えられますが、皆で飲むには足りず、一人なら余りがある。そこで、地面に蛇を描き、先にできた人が飲むことにします。 先成者飲酒 では、先にできた人が主語です。 者 は前の動作を受け、人をまとめています。現代語の 的人 を使うまとまりと比べられます。 最初の約束を確かめてから続きを読むと、男がどこで余計なことを始めたかが分かります。足まで描くことは、この約束に入っていません。 飲んだのではなく、飲もうとした 引酒且飲之 は、酒を引き寄せ、今にも飲もうとしたところです。 且 は qiě と読み、この場面では動作の寸前を示します。現代語の 而且 にある字を思い出し、しかも飲んだ、と訳してはいけません。 まだ飲んでいないことが、この後に奪われる展開を支えます。勝ちが目の前にあったのに飲まず、足を付け加える。あと少しだったという間が、一字で置かれています。 酒を引き寄せて飲んだ、と完了させないでください。飲む直前で止めると、酒を奪われる後の動きとつながります。 左手に酒、右手に余計な足 左手持巵,右手畫蛇 は、左右の手を同じ調子で並べています。左は酒の入ったさかずきを持ち、右は描き続けています。 巵 は 卮 の異体字で、さかずきのことです。 手の動きを追うだけで、持っているものと、付け足そうとするものが分かれます。人物の性格を長く説明しなくても、余計なことをした瞬間が読めます。勝った後になお描く行動が、それを示しています。 吾能為之足 で、男は蛇に足まで描けると言います。ここでの 為 は wéi と読み、作る・描くという動詞です。誰かのためにという介詞や、受け身の働きをこの文に持ち込まないようにします。 できるという言葉を裏返す もう一人は、 蛇固無足 と、蛇にはもともと足がないと述べます。 無 は存在の否定で、現代語の 没有 と比べられます。単に描く動作をしなかったという意味ではありません。 続く 子安能為之足 は、あなたにどうして蛇に足が描けようか、できはしない、という反語です。 安 と 能 が組になり、可能だという相手の言葉を強く打ち消します。 特別編 24篇 で読んだ、どうして、という字の働きが手がかりになります。 ここで問題なのは、線を描く手の能力ではなく、足を付けたものを蛇として認められるかです。男の、できる、を相手は同じ形で返して止めます。別の競争の約束を持ち出すのではなく、蛇には足がないという点に戻しています。 最後まで、人を主語にする 為蛇足者,終亡其酒。 は、蛇に足を描いた者が、とうとう酒を失った、という結びです。足を描いたこと、という出来事が酒を失うのではありません。後ろの述語を見て、前が人を指すと確かめます。 本文のまとまり 指す人 後ろの動き 祠者 祭りをする人 家来たちに酒を与える 先成者 先に描き終えた人 酒を飲むという約束の対象 為蛇足者 蛇に足を描いた人 結局、酒を失う 亡 は、ここでは失うという動詞です。 特別編 21篇 で読んだ、無い、という使い方とも異なります。後ろに酒という対象が続き、何を失ったのかを示しています。 この篇の者は、どれも人として読めます。他の文で物や事柄をまとめる働きがあっても、この結びを事柄の主語に替えないでください。 最後に、原典の説得の場面へ戻ってみましょう。余計な足は、すでに勝った後のさらなる攻撃に重ねられます。小話の結末を読むことで、やめるべき時にやめるという陳軫の働きかけが見えます。 語釈 語 品詞 意味 日本語との差 例文 訳 祠 動詞 祭る 日本語の「祠(ほこら)」は小さな社。ここは祭るという動詞 祠者 祭りをする人 舍人 名詞 家来 日本語の「舎人(とねり)」は宮廷に仕えた役人。ここは祭りをする人の家来。舍は shè と読む 賜其舍人巵酒 その家来たちにさかずきの酒を与える 巵 名詞 さかずき 卮の異体字。日本語ではほとんど使わない 左手持巵 左手にさかずきを持つ 且 副詞 今にも〜しようとする この場面ではまだ飲まない 且飲之 今にもそれを飲もうとする 為 動詞 作る・描く ここでは足を描く動作 為之足 蛇に足を描いてやる 安能 反語の形 どうしてできようか できないと強くいう 子安能為之足 あなたにどうして蛇に足が描けようか 固 副詞 もともと 足のない性質を示す 蛇固無足 蛇にはもともと足がない 亡 動詞 失う この篇では無いではない 終亡其酒 とうとうその酒を失う 練習 安・能・且・者・無・亡から選んで空欄を埋め、本文のまとまりを書いてください。その句の訳も書いてください。 引酒_飲之 安・能・且・者・無・亡から選んで空欄を埋め、本文のまとまりを書いてください。 蛇固_足 安・能・且・者・無・亡から選んで空欄を埋め、本文のまとまりを書いてください。 子__為之足 安・能・且・者・無・亡から選んで空欄を埋め、本文のまとまりを書いてください。 為蛇足_ 安・能・且・者・無・亡から選んで空欄を埋め、本文のまとまりを書いてください。 終_其酒 吾能為之足 を、相手に向けた反語に変え、現代語でも言い換えてください。 先に描き終える、足を足す、別の人が酒を奪う、酒を失う、の四段階を現代語の四文で書いてください。 祠者 ・ 先成者 ・ 為蛇足者 がそれぞれ誰を指すかを、ア 蛇に足を描いた人、イ 祭りをする人、ウ 先に描き終えた人、から選んでください。 酒を奪った人の返し方と、この話が将軍への説得に使われる理由を説明してください。 着急 ・ 自信 ・ 失望 を全部使い、足を描き足した男の気持ちを、蛇を描く場面と酒を奪われる場面に結んだ現代語の文で二つ書いてください。 音読:次の原文の句を ▶ で聞き、声に出して読んでください。 引酒且飲之 ▶ の手本を聞いて音読します。酒を引き寄せる 引酒 の後で軽く止め、まだ飲んでいない 且飲之 を続けて言ってください。 この篇のまとめ 飲む直前の一字と左右の手の動きから、勝ちを失う流れを読みました。相手の可能の言葉を反語で返す形と、人を主語にした結びを確かめます。 次の篇へ 次の11.30では狐が虎の威を借りる話を読みます。狐が自分を百獣の長だと言い張る場面で、人に何かをさせる形と、何を何と思うかを表す形を見ます。 答え 引酒且飲之 (酒を引き寄せ、今にも飲もうとした) 蛇固無足 子安能為之足 為蛇足者 終亡其酒 子安能為之足 你哪能给蛇添脚呢? 他先画了蛇。 他还画了蛇的脚。 别人抢了他的酒。 酒不是他的。 祠者 はイ(祭りをする人)、 先成者 はウ(先に描き終えた人)、 為蛇足者 はア(蛇に足を描いた人)です。 足を描けるという言葉を、蛇には足がないから描けない、という反語で返します。既に勝っているのに余計な攻撃をして成果を失わないよう、将軍を止める話です。 他有自信,还要画脚。 他很着急,也很失望。 参考文献 劉向(編)『戰國策 齊策二』。パブリックドメイン(著者没後70年経過)。本文は抄。 出所: https://zh.wikisource.org/wiki/戰國策 (士禮居叢書本)/齊/二