レポートの書き方 — Epoché
要点 書き始める前に課題文を読み、締切・字数・提出方法などの形式と、何を問われ、何をする課題なのかを確かめます。分からないときは、担当の教員に聞いてかまいません。 大学のレポートは、問いに対して根拠を示しながら、自分なりの答えを導く文章です。思いを自由に書く感想文とも、調べたことをまとめる調べ学習とも違います。 レポートには、調べて報告する、論じる、実験を報告する、振り返るなどの形があり、呼び方も資料によって違います。どの形でも、根拠にもとづくことと読み手に分かることが大事だと説明する資料があります。 段落は 1 つの論点のまとまりです。最初に中心となる文を置き、残りの文で支えると、中心の文を順に追うことで全体の筋をつかみやすくなります。 書き上げたら、課題に答えているか、問いと答えが対応しているかから確かめます。語句や表記の直しは後からでも間に合います。時間を置く、声に出す、人に読んでもらうと、直す所に気づきやすくなります。 こんなときに 「授業で扱ったテーマから 1 つ選び、2000 字で論じなさい」という課題が出たが、何を書けば「論じた」ことになるのか見当がつかない。ほかにも、次のような場面で役に立ちます。 調べたことを丁寧にまとめて出したのに、「あなたの考えが見えない」とコメントが返ってきた。 高校までの感想文のように「興味深かった」「〜と思った」と書いたら、評価が伸びなかった。 実験のレポート、教養科目の論述、実習の振り返りの締切が重なり、同じ書き方でよいのか迷っている。 書き上げた直後に読み返しても、どこを直せばよいのか分からない。 この課題に生成 AI を使ってよいのか、分からない。 課題文を読み取る — 何を求められているか 課題文には、締切や字数などの「形式の条件」と、何に答えるかという「内容の条件」があります。書き始める前に両方を確かめると、課題とずれた力作を防げます。 形式の条件を確かめる 東北大学のレポート指南書は、書き始める前に、提出期限・採点基準・想定する読者の 3 つを確かめるよう勧めています。中でも期限が最も大事で、期限から逆算してテーマの大きさを判断する、という説明です [1] 。 慶應義塾大学メディアセンターの教材は、文字数によって妥当な問いの大きさがおのずと決まるとしています [2] 。東北大学の指南書も、字数やページ数が決まっていれば、話題(段落)の数も限られる、としています [1] 。 名古屋大学のアカデミック・スキルズ・ガイドは、表紙の有無、字数、用紙と文字の大きさ、期限、提出方法と、内容の指定の両方を確かめるよう案内しています [3] 。採点の基準表(ルーブリック)を前もって示す教員も増えているので、課題と一緒に採点基準も確かめると役に立ちます [1] 。 内容の条件 — 問いは決まっているか 課題によって、自分で決められる範囲が違います。東北大学の指南書は、課題を次の 3 つに分けています [1] 。 東北大学の分け方 課題の形 どんなときに出るか (1) 答えるべき問いが指定されている 授業の理解を確かめる課題に多い (2) テーマは指定され、問いは自分で決める 学期末のレポートの大部分 (3) テーマも自由に選べる レポートの書き方を学ぶ授業などの例外 大阪大学のアカデミック・ライティング入門によると、課題文の「述べよ」「論ぜよ」は、関係のありそうなことを字数が埋まるまで書くことではなく、筋の一貫した説明を求めています [4] 。名古屋大学のガイドは、課題の目的と、何をする必要があるのかが分からなければ、担当の教員に相談してよいとしています。「論じる」で何を求められているのか分からないときも同じです [5] 。 問いと短い答えに書き直してみる 大阪大学の入門書は、書く手順の最初を課題の分析としています。「○○について述べよ」を具体的な問いと短い答えに分け、いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように(5W1H)と自分に問いかけて広げる方法です [4] 。 たとえば「地域の公共交通について論じなさい」なら、「地方の路線バスの利用者が減っているのはなぜか」という問いと、「〜だからではないか」という仮の答えにできます。仮の答えは調べるうちに変わってかまいません。形にしておくと、何を調べるかが見えてきます。 読み手を誰と考えるか 読み手の考え方は、資料によって分かれます。名古屋大学のガイドは、担当の教員だけでなく、授業を受ける前の自分や友人のような、内容を知らない人に向けて書くよう勧めています [5] 。 東北大学の指南書は、授業の課題である限り、読み手の筆頭は担当の教員で、前提の知識を心配する必要はほとんど無い(振り返りのレポートは例外)としています。発表したり学生どうしで読み合ったりする課題なら、クラスメイトを読み手と考えます [1] 。授業の指示や採点の基準を手がかりに決められます。 課題の見通しを持つ 一橋大学附属図書館の寺島久美子は、学部生と大学院生 24 名へのインタビュー(27 件)から、レポート課題の成否の型を分析しました。抄録によると、成否に最も影響したのは、課題全体の見通し(Big picture context)を得られたかどうかでした [6] 。 この見通しを得るのに役立ったのは、「レポートとは何か」の知識と、その課題で何が求められているかの理解でした。論理的に考え、情報を組み立てて書く力も、成否に大きく影響していました [6] 。課題文を読み取る時間は、この見通しを作る時間でもあります。 生成 AI を使ってよいか 生成 AI を使ってよいかは、授業や課題によって違います。東京大学の学生向けの文書は、使ってよいかと使うときの条件は各授業の担当教員が判断するとし、学科や専攻、担当教員の指示に従うよう求めています [7] 。 文部科学省が大学と高等専門学校に向けた周知の文書は、出力をそのまま使うなど自分の手によらずにレポートを作ることを、学びを深めることにつながらないため一般に不適切としています [8] 。使ったことの申告の仕方や、剽窃(他の人の文章や考えを自分のものとして使うこと)との関係は 研究公正 で扱います。 レポートの種類を見分ける 「レポート」は 1 つの型ではありません。調べて報告するのか、論じるのか、実験を報告するのかで、書く中身と並べ方が変わります。種類の名前と数は資料によって違うので、「課題が何をさせたいのか」を見ると見分けやすくなります。 この文書のために調べた資料だけでも、分け方はそれぞれ違います。 資料 分け方 北里大学のガイドライン 代表として調査・論述・実験・講義・要約・感想の 6 種のレポート。ほかに数学の証明のレポートなどもあり、組み合わせることもある [9] 慶應義塾大学メディアセンターの教材 主な種類として報告型と論証型。論証型は、問いが与えられているか、自分で立てるかで 2 つに分ける [2] これからレポート・卒論を書く若者のために (版元の目次) 問題を提起してそれに解答するレポートと、事柄を取り上げて説明するレポート [10] 寺島(2018)の研究 文献講読型、論証型、仮説検証型 [6] 北里大学のガイドラインは、どのタイプにも共通する点として、根拠にもとづいて書くことと、読み手が理解できるように書くことを挙げています [9] 。 自分で課題を立てる長いレポートの 3 類型 名古屋大学のガイドは、自分で課題を立てて一から組み立てる長いレポートを、目的によって大まかに 3 つに分けています。ほかの型や、組み合わさった課題もあるとしています [5] 。 目的 流れ 社会的・政治的・技術的な問題の解決 問題の設定 → 原因や背景 → 解決の方法と評価の基準 → 提案が適切だと論じる 実験や社会調査などの経験的な調査 仮説 → 実験や調査の設計と実施 → 結果の分析と報告 → 仮説が支持されるかを論じる 資料の理解と評価 知りたいことを決める → 資料を読んで解釈する → 正しさ・信頼性・合理性から評価する → 何がどこまで分かったかを示す 課題文から見分ける手がかり 慶應義塾大学の教材は、報告型の例に「○○を読んで要約する」などを挙げています。問いが与えられている論証型の例は「○○について論じる」、問いを自分で立てる論証型の例は「関心を持ったテーマについて自由に論じる」です [2] 。 ただ、線の引き方は資料で違います。東北大学の指南書は、テーマを示して「自由に論じなさい」とする課題を、問いを自分で決める (2) の例にしています [1] 。迷ったら、読み手に何を示せばよいのかを担当の教員に確かめる方法があります。 実験レポート 実験レポートは、並べ方に基本の形がある種類です。名古屋大学のガイドは、目的、原理、実験方法、結果、考察、まとめ、参考資料の順を基本とし、授業で指示があればそちらに従うよう案内しています。要点は次のとおりです [11] 。 目的は、テキストを写さず自分の言葉で書く。方法は、他の人がやり直せるように過去形で正確に書く。 結果には、測ったデータや観察そのものを書き、推測や判断や意見を混ぜない。理論値と違っていても記録を残し、なぜ違うのかを考える。 考察では、目的を達成できたかを検討し、理論値や文献の値との比較、精度や誤差、改良の案を書く。「うまくいった」だけでは考察にならず、「おもしろかった」は感想である。 結果と考察は、分けて書くことも、まとめて書くこともあります [11] 。北里大学のガイドラインも実験レポートを別の章で扱っています [9] 。研究論文の構成は 論文の書き方 で扱います。 振り返りのレポート 「この授業を通して学んだことを書きなさい」のような振り返り(リフレクション)のレポートについて、東北大学の指南書は、文献を引かなくてよい場合も多いものの、感想文ではないとしています。意見や主張をはっきりさせる、理由や根拠を書く、読み手に分かる構成と表現にする、の 3 点を挙げています [1] 。 問いと主張を決める — 感想文・調べ学習との違い レポートの芯は、「問い」と、それに対する自分の「答え(主張)」です。高校までに身につけた学び方や書く心がけは、大学でも土台になります。そのうえでレポートでは、根拠を示して、なぜその答えになるのかを説明します。 感想文・調べ学習と何が違うか 慶應義塾大学の教材は、感想文を自分の考えや思いを自由に表す文章とし、大学のレポートを、問いに対して客観的な根拠を示しながら自分なりの答えを導く文章としています。感想文には「面白かった」「〜と思った」、レポートには「○○によると〜が示されている」「よって〜と考えられる」のような言い方が出てきます [2] 。東北大学の指南書も、作文は主観的な視点で書き、レポートは客観的に書くとしています [1] 。 大阪大学の入門書は、高校までの学びと書く心がけを大学でも続けて高めるよう勧めたうえで、調べ学習との違いを説明しています。調べ学習では調べたことをうまくまとめれば済むことが多いが、大学では、証拠にもとづいて自分がどう考えたか、何が新しく分かったかを書く、という違いです [4] 。「考えが見えない」と言われるときは、この違いが関わっていることがあります。 感想文のようになってしまうとき 中央大学ライティング・ラボの資料は、レポートが感想文のようになる代表的な原因として「私語り」を挙げています。考えた道筋をそのまま説明することと、根拠を示さずに推測で書くことです。直し方は、道筋を語る部分を削ることと、印象や推測を避けて根拠を示すことです [12] 。この文書で作った例で考えてみます。 直す前: 「私は最初、電子書籍のほうが便利だと思っていた。しかし調べていくうちに、紙の本にも良さがあるのではないかと感じるようになった。」 直した後: 「紙の本と電子書籍のどちらが学習に向くかは、読む目的によって異なる。」(続く文で、この主張を支える資料を示す) 主張から逆算して問いを決める 調べる前は仮の問いと答えで進め、調べ終えたら分かったことから主張を決めて、それに合わせて問いを整え直す、という進め方があります。 これからレポート・卒論を書く若者のために の目次にも、得られたデータや事実から結論を定め、結論に対応するよう問題を決め直す節があります [10] 。 東北大学の指南書も、学んで分かったことのうち最も伝えたいものを主張に据え、それに対応する問いを置くとしています。書き上がった文章では「問い(目的)→主張」の順でも、組み立てる段階では「主張→問い」の順に決まる、という考え方です。主張の説明に要らない内容は、読んだ文献から学んだことでも入れないほうがよい、ともしています [1] 。調べたことを削るのは惜しいものですが、関係しない内容が混ざると言いたいことが見えにくくなります。 問いの大きさを整える 慶應義塾大学の教材は、テーマが広ければ切り口を絞り、問いを疑問文で書いたうえで、文字数と期限に合わせて「誰が・いつ・どこで・どのように」で大きさを整える方法を紹介しています。情報が集まらない、多すぎる、考えに誤りがあった、というときは問いを見直してよいとしています [2] 。 たとえば「環境問題をどう解決するか」は 2000 字では扱いきれませんが、「自分の住む市で、家庭ごみの有料化はごみの量を減らしたか」まで絞ると考えやすくなります。 問いの種類 — 事実・原因・よしあし 東北大学の指南書は、問い(目的)と主張の組み合わせを「主題」と呼び、3 つの型に整理しています [1] 。 主題の型 扱うこと 問いの形の例 事実論 言葉の定義や事実の関係 〜とは何か、〜はどう変わってきたか 因果論 原因を特定する、結果を予測する なぜ〜が起きたのか、〜するとどうなるか 当為論(よしあしを問う) 物事の意義や問題点。書き手の価値の判断が問われる 〜すべきか 当為論では、自分の提案への反論と、それへの再反論(反駁)を含めると効果的だとしています。3 つはゆるやかな階層の関係にあり、1 本のレポートに一緒に出てくることもあります [1] 。 自分の答えと独自性 「自分の答え」と聞くと、新しい説が必要だと感じるかもしれません。東北大学の指南書は、論文とレポートの本質的な違いは主張の独創性の有無と考えられるもの