7.7 冠詞と数を訳す・訳さない — Epoché
この課でできるようになること ★冠詞と数が 何をしているか を見分けられる。 ★ 訳すか捨てるかを、一つずつ決められる 。 ★ 「その」「ある」「〜たち」を足すと限定が入る ことが分かる。 ★ 迷ったら捨てる という決まりを持てる。 前提 : 7.6 まで。型は 3.32 まで。冠詞は 3.18 と 3.32。 なぜ訳す(訳さない)か ★ 冠詞と数は、日本語に訳語を持ちません。 日本語に冠詞はなく、複数の印もほとんど付きません。★ 「犬」は一匹でも十匹でも「犬」です。 ★ これは「日本語が不正確だ」という話ではありません。 ★ 必要なときだけ数を言う言語 なのです。「犬が三匹いる」と言えば数は出ます。★ いつも言わないだけ です。 ★ だから、訳すときには毎回決めることになります。 ★ いつも訳す、でもなく、いつも訳さない、でもありません。 ★ 一つずつ、その冠詞が何をしているかを見て決めます。 ★足すと、原文に無い限定が入る ★ いちばんよくある失敗は、足しすぎることです。 a を見たら「ある」、 the を見たら「その」、複数形を見たら「〜たち」。★ これを機械的にやると、訳文が壊れます。 足したもの 日本語で何が起きるか 原文にそれはあるか 「その」 ★ 前に出たものを指す ★ あるとは限らない 「ある」 ★ 特定を避ける 。誰かは分からない ★ たいてい無い 「〜たち」 ★ 数えられる集まりになる ★ 総称なら無い ★ 三つとも、日本語では強い語です。 「その犬」と書けば、 読み手はどの犬かを探します 。★ 原文の the がそこまで指していないことは、いくらでもあります。 ★ だから、この課の決まりは一つです。 ★ 迷ったら捨てる。 ★ 捨てて減るのは情報ですが、足して増えるのは誤りです。 ★ 減った情報は、読み手が前後から埋めてくれます。入れた誤りは、埋まりません。 手順 三手で決める 何手目か 何を見るか 決まらないときは 一手 ★その冠詞・数が 何をしているか 文をもう一つ前から読む 二手 ★日本語に その働きがあるか 無ければ、訳語は要らない 三手 ★ 足すか捨てるか を決める ★ 捨てる ★ 一手めがすべてです。 ★ 形を見ても決まりません。 同じ a が、 三つの別のことをします 。 どの働きか 何をしているか 訳に出すか ★ 数える 一つだと言っている ★ 出す 。「一つ」「一人」 ★ 肩書き 何であるかを言っている ★ 出さない ★ 総称 その種類全部を指している ★ 出さない 。ただし「〜というもの」もある ★ 見分け方は、文のはたらきで決まります。 ★ 数が話の中身なら、数えている。 ★ 「何であるか」を言っている文なら、肩書き。 ★ その種類について一般に言っているなら、総称。 ★ the は二つに分かれる the も同じで、 二つの働き があります( 3.32 型編 )。 どの働きか 読み手は何ができるか 訳に出すか ★ 指し直す ★ 前に出たものを特定できる ★ 出してよい 。「その」 ★ 一つしかない 特定するも何も、一つしかない ★ 出さない ★ 下のほうに気をつけてください。 太陽・空・世界のように 一つしかないもの には the が付きます。★ ここに「その」を付けると、他にもあるように読めてしまいます。 ★ 複数形も同じ考え方です。 ★ 数えているのか、種類全部を指しているのか。 ★ 種類全部なら、日本語では単数の形で言います。 「犬は忠実だ」——★ 「犬たちは」とは言いません。 実例 六つ並べます。★ 日本語のほうを先に読んでください。 ★ そのうえで英語を見て、訳した人が何を出し、何を捨てたかを見ます。 英文 日本語訳 何が起きているか He is a student. [1] 彼は学生です。 ★ a が訳に出ない。職業の a は「一人の」ではない I have a child. [2] 子供が一人います。 ★同じ a が「一人」になる。数そのものを言いたいとき A man is as old as he feels. [3] 男の年齢は気持ち次第だ。 ★総称の a 。「ある男」ではなく「男というもの」 I like dogs. [4] 私は犬が好きです。 ★総称の複数。「犬たち」ではなく「犬」 The children wanted to go out. [5] 子供たちは外に出たかった。 ★ the が「その」にならない。「子供たち」で足りる The children were well looked after. [6] その子ども達は十分な世話を受けた。 ★同じ形で「その」が出る。前に出た子どもを指し直すとき 一つめと二つめ — 同じ a が違う ★ 一つめは肩書きです。 「彼は学生です」。★ 「一人の学生」とは言いません。 ★ ここで数を出すと、「学生は一人だけだ」という話に聞こえます。 ★ 二つめは数えています。 「子供が一人います」。★ ここでは a が訳に出ています。 ★ 子どもが何人いるかが、この文の中身だから です。 ★ 形はまったく同じです。 ★ どちらも a のあとに名詞が一つ。 ★ 違うのは、文が何を言おうとしているかだけ です。★ だから、冠詞は単語として訳せません。 三つめと四つめ — 総称 ★ 三つめは a で種類全部を指しています。 「男の年齢は気持ち次第だ」。★ 「ある男」ではありません。 ★ 「ある男の年齢は気持ち次第だ」と訳すと、その男が誰なのかを探すことになります。 ★ 四つめは複数形で種類全部を指しています。 「私は犬が好きです」。★ 「犬たちが好き」ではありません。 ★ 「犬たち」と書くと、特定の何匹かを好きだという意味になります。 ★ 総称は、英語では二通りに書けます —— a を付けるか、複数形にするか( 3.18 型編 )。★ 日本語では、どちらも同じ形になります。 ★ つまり、この区別は訳に出ません。 ★ 出さなくてよいのです。 五つめと六つめ — the を出すか捨てるか ★ 五つめと六つめは、英語の形がほとんど同じです。 どちらも The children で始まります。★ けれども訳が違います。 ★ 五つめは「子供たちは」—— the が消えています。 ★ 六つめは「その子ども達は」—— the が出ています。 ★ なぜ違うのか。 ★ 六つめは、前に出た子どもを指し直しているからです。 ★ 「世話を受けた」のは、その前に話に出てきた子どもたちです。 ★ だから「その」で指し直すことに意味があります。 ★ 五つめにはその必要がありません。 ★ 「子供たちは外に出たかった」で足ります。 ★ ここに「その」を足すと、読み手はどの子どもかを探しはじめます。 ★ この二つを並べたのは、同じ形が同じ訳にならないことを見てほしいからです。 ★ 訳すのは語ではなく、その語がその場でしている仕事です。 やってみる 二つやります。★ どちらも、足すか捨てるかを先に決めてから 訳してください。 ★ 捨てる練習。 自分が英語で読んだ文を三つ選び、 冠詞と複数形に丸を付ける 。★ 丸を付けたもの全部を、訳では捨ててみる。 ★ 捨てて困るものが一つでもあれば、それは働きのある冠詞です。 ★ 困らないものは、捨てたままでよい。 ★ 足す練習。 こんどは逆に、 「その」「ある」「〜たち」を全部足して 訳してみる。★ 読み返して、どこで読み手が迷うかを見つける。 ★ 迷わせているのが、足しすぎた印です。 練習 六つの実例を、行を押して音を聞いてから 日本語を見ずに音読 する。3 周する。★ 一つめと二つめ、五つめと六つめを続けて 読むこと。★ 形が同じで訳が違うことを、耳で覚える。 ★ 三つの働きを言えるようにする練習。 a の三つの働き—— 数える・肩書き・総称 ——を、 何も見ずに言えるようにする 。★ 言えたら、それぞれの例を自分で一つ作る。 ★作例は池から探してもよい( 7.5 訳編 で置いた探し方)。 ★ 自分の訳を読み直す練習。 これまでに自分が書いた訳文を一つ取り、 「その」「ある」「〜たち」を数える 。★ 数えたら、原文でそこに何があったかを確かめる。 ★ 原文に無いものを足していたら、それがこの課で直すところです。 この課のまとめ ★ 冠詞と数は、日本語に訳語を持たない。 だから訳すか捨てるかを、一つずつ決めることになる。 ★ いつも訳す・いつも訳さない、のどちらでもない。 その冠詞がその場でしている仕事を見る。 ★ 迷ったら捨てる。 捨てて減るのは情報だが、足して増えるのは誤り。 ★ 減った情報は読み手が前後から埋めてくれる。入れた誤りは埋まらない。 ★ a には 三つの働き がある—— 数える・肩書き・総称 。訳に出すのは一つめだけ。 ★ the には 二つの働き がある—— 指し直す・一つしかない 。訳に出してよいのは一つめだけ。 ★ 総称の複数は、日本語では単数の形で言う。 「犬たちは忠実だ」とは言わない。 ★ 同じ形が同じ訳にならない。 The children が「子供たちは」にも「その子ども達は」にもなる。 ★ 訳すのは語ではなく、その語がその場でしている仕事。 次の課へ 次の課は 7.8 、 時制と相を訳す です。★冠詞は、 日本語に訳語が無い ものでした。★時制は逆で、 日本語にもあります 。★ けれども、切り方が違います。 英語の現在完了は、 日本語では「た」にも「ている」にもなります 。★ あるのに合わない ——これは、無いよりも厄介です。 答え ★ 捨てて困るものの見つけ方。 捨てて困るのは、 読み手がどれのことか分からなくなるとき だけです。★ 「なんとなく物足りない」のは、困っているのではありません。 ★ 日本語として自然になったのです。 ★ ここを取り違えて、物足りなさを埋めるために「その」を足すのが、いちばん多い誤りです。 ★ 足しすぎの印。 ★ 読み手が前を探し始めたら、足しすぎです。 「その」は前を指す語なので、 前に何も無ければ、読み手は探して見つからないまま進みます 。★ 「ある」も同じで、後ろで正体が明かされることを期待させます。 ★ 明かされないと、読み手は置き去りになります。 ★ 冠詞を足すことは、読み手に約束をすることです。 ★ 守れない約束はしない——それがこの課の答えです。 参考文献 Tatoeba 文 #294855(CC BY 2.0 FR)。https://tatoeba.org/en/sentences/show/294855 Tatoeba 文 #10001252(CC BY 2.0 FR)。https://tatoeba.org/en/sentences/show/10001252 Tatoeba 文 #276866(CC BY 2.0 FR)。https://tatoeba.org/en/sentences/show/276866 Tatoeba 文 #252245(CC BY 2.0 FR)。https://tatoeba.org/en/sentences/show/252245 Tatoeba 文 #245753(CC BY 2.0 FR)。https://tatoeba.org/en/sentences/show/245753 Tatoeba 文 #47550(CC BY 2.0 FR)。https://tatoeba.org/en/sentences/show/47550