文献の探し方 — Epoché
要点 いきなり論文を探すより、先に事典や入門書で用語と全体像をつかむと、検索に使う言葉が見つかりやすくなります。 図書は図書館の目録で、論文は論文のデータベースで探します。道具ごとに収録範囲が違うので、1 つで全部が見つかるとは限りません。 言い換えの語を OR で、別の観点の語を AND でつなぐと、漏れを減らしながら絞り込めます。記号の書き方はデータベースごとに違います。 良い文献が 1 つ見つかったら、その参考文献(過去へ)と、それを引用した文献(新しい方へ)をたどれます。 行き詰まったら、図書館のレファレンス(調べものの相談)を使えます。相談も調べものの道具の 1 つです。 こんなときに レポートの課題が出て、まず検索エンジンで調べてみたら、出てくるのは解説記事やまとめばかり。どこに「文献」があるのか分からない。そんな場面から始まることは珍しくありません。 ほかにも、次のような場面でこの文書が役に立ちます。 論文のデータベースで検索したら 3 件しか出てこなかった。反対に、何万件も出てきて手がつけられない。 ゼミで「先行研究を集めてきて」と言われ、1 本は見つかったが、その先をどう探せばよいか分からない。 先生に勧められた本が、自分の大学の図書館に無い。 卒業研究のテーマが決まり、同じような研究がもう発表されていないか確かめたい。 先行研究を調べると、そのテーマでどんな研究が行われてきたか、自分と同じ内容がすでに発表されていないか、自分の考えを支える意見や反論があるかが分かります [1] 。この文書では、そのための道具と手順を順に紹介します。 探し始める前に — 事典や入門書から入る 研究の成果は論文として発表され、議論を経て図書にまとめられることが多くあります。学び始めた人が読みやすい順は、その逆です。事典や入門書で用語と全体像をつかんでから論文に進むと、検索に使う言葉が選べるようになります。 大阪大学総合図書館の教材(人文・社会科学の卒業研究に向けたもの)は、研究が生まれる順と、学ぶ人が読む順が逆になることを図で示しています。論文として出た成果は、議論が深まるにつれて図書にまとめられることが多いので、専門分野を学び始める段階では事典や概説書から読むのがよい、という説明です [2] 。鹿児島大学附属図書館も、テーマを決めたら辞書・事典で基礎知識を確かめ、参考書を読んでから文献の調査に進む流れを案内しています [3] 。 事典の項目や入門書を読むと、そのテーマで使われる専門用語が分かります。項目の末尾や巻末の参考文献は、次に読む文献の手がかりにもなります。 文献探しは、一方向に進む作業ではありません。京都大学図書館機構は、探す(Explore)、評価する(Evaluate)、所在を確かめる(Locate)、集める(Collect)の段階を行き来しながら進めると説明しています [4] 。見つけた文献を読んで新しい言葉を知り、また探す、という往復は自然なことです。見つけた資料の良し悪しを見きわめる方法は、 情報源の見きわめ方 で扱います。 「検索」と「入手」を分けて考える データベースの主な役目は、文献の書誌情報(著者・題・掲載誌・年など)を示すことです。本文をその場で読めるのは、そのデータベースで公開されている分に限った、追加の機能です。大阪大学の教材は、検索のときは書誌情報を集めることに専念し、どう手に入れるかはその後で考えるよう勧めています。自分の大学ですぐ読める論文が、そのテーマで良い論文だとは限らないからです [2] 。読めない文献の入手方法は、所属先の図書館に相談できます。 道具を選ぶ — 目録と論文のデータベース 図書を探すなら図書館の目録、雑誌の論文を探すなら論文のデータベースを使います。道具ごとに、どこの資料を収録しているかが違います。1 つの道具で見つからなくても、別の道具で見つかることがあります。 図書を探す — 大学の目録から全国へ 図書を探す道具は、図書館の蔵書検索(OPAC)です。大阪大学の教材は、日本語の学術書であれば、全国の大学図書館の総合目録と国立国会図書館サーチの 2 つでほぼ足りると説明しています。国内で出版された本は国立国会図書館に納められるので、国立国会図書館サーチにほぼ揃うためです [2] 。 探す範囲を広げていく順番の例は、次のとおりです。 自分の大学の OPAC で、学内にあるかを確かめる。 CiNii Research で、全国の大学図書館にあるかを確かめる。CiNii Research の図書のデータは、全国の大学図書館の蔵書をまとめた目録(総合目録、NACSIS-CAT)から来ています [5] 。 国立国会図書館サーチで探す。国立国会図書館の所蔵資料に加えて、都道府県立・政令指定都市立の図書館、大学図書館、研究機関などの資料も検索対象です [6] 。 国立情報学研究所には、論文(CiNii Articles)・博士論文(CiNii Dissertations)・図書(CiNii Books)の検索サービスがありました。これらはどれも CiNii Research に統合されています(2026 年 9 月時点)。古い案内に「CiNii Articles で探す」とあれば、今は CiNii Research で同じように探せます [7] 。 統合の時期は、CiNii Articles が 2022 年 4 月 [7] 、CiNii Dissertations が 2024 年 12 月 [8] 、CiNii Books が 2026 年 3 月です。CiNii Books は 2027 年 3 月ごろまで旧サービスも使える予定ですが、統合にともなって著者検索と、目次などを探す内容検索は提供を終えました [9] 。古い案内で「CiNii Books の内容検索」を勧めていても、今は使えません。 論文を探す — データベースの選び方 雑誌の論文は、論文のデータベースで探します。大阪大学の教材は、全分野を対象にするか特定の分野に絞ったものか、日本語の論文か海外の論文か、という 2 つの軸で選ぶことを勧めています。特定の分野のデータベースは、その分野の収録が厚く、検索の機能も高度なことが多いと説明しています [2] 。 よく使われる道具を、向く場面と、収録しているもので見比べます。 道具 向く場面 収録しているもの CiNii Research 日本語の論文・図書・博士論文 雑誌記事索引、J-STAGE、機関リポジトリなど J-STAGE 国内の学会誌などの論文を読む 国内の発行機関の電子ジャーナル Google Scholar とっかかり、漏れの確かめ 収録範囲は公開されていない 分野のデータベース その分野の文献を漏れなく 医中誌Web、PubMed など CiNii Research が収録しているのは、国立国会図書館が作る雑誌記事の目録(雑誌記事索引)、J-STAGE の論文、機関リポジトリのデータなどです [5] 。機関リポジトリは、大学が所属する研究者の論文などを公開する場所です。J-STAGE は、科学技術振興機構が運営する電子ジャーナルの公開サイトです。人文学・社会科学を含む国内の発行機関の雑誌が載っていて、多くの記事が無料で読めます [10] 。 Google Scholar の結果は関連度の順に並び、出版年の範囲を指定して新しい論文に絞れます [11] 。ただし収録範囲が公開されておらず、絞り込みの機能も限られます。そのため、主な道具にするより補助に向いています [2] 。分野のデータベースには、医学の医中誌Web や PubMed などがあります。何があるかは所属先の図書館の案内で確かめられます [1][12] 。 名古屋大学附属図書館や東京大学附属図書館の案内でも、国内の論文は CiNii Research、海外の論文は Web of Science や Scopus などの全分野のデータベース、という使い分けが紹介されています [1][12] 。Web of Science と Scopus は大学が契約して使うサービスで、使えるかどうかや学外からの使い方は大学ごとに違います。 生成 AI で文献を探すとき 対話型の生成 AI や論文検索の AI ツールは、調べものの入り口として便利です。一方で、大阪大学の教材は、先行研究の調査に使うときの注意を 3 つ挙げています。実在しない文献をもっともらしく示すことがあること、重要な文献が漏れたり偏ったりするおそれがあること、入力した内容がツールの提供者に共有される可能性があることです。そのため、知らない分野の検索語を思いつくためのとっかかりや、調査の後に漏れがないかを確かめる補助に使うのがよい、と説明しています [2] 。挙がった文献は、目録やデータベースで実在を確かめてから使うと安心です。確かめ方は 情報源の見きわめ方 で扱います。 検索語を選ぶ — キーワードと件名 図書の目録や CiNii Research など多くのデータベースは、入力した文字がタイトルなどに含まれるかどうかで探します。同じことを表す別の言葉や、より広い言葉・狭い言葉を考えておくと、見落としが減ります。図書を探すときは「件名」という決まった言葉も使えます。 言い換え・広い言葉・狭い言葉 大阪大学の教材によると、図書の目録や CiNii Research などは、入れた言葉が書名などに文字として含まれるかで文献を探します。そのため、同じ意味の言葉(同義語・類義語)、より広い言葉(上位語)、より狭い言葉(下位語)、関係の深い言葉を考えておくことが勧められています。図書は論文より扱う範囲が広いので、書名には思いついた言葉より広い言葉が使われていることが多い、という指摘もあります [2] 。 結果が多すぎるときは専門的な言葉に、少なすぎるときは広い言葉に変えてみる方法があります。見つかった論文で使われている用語を、次の検索語にするのも有効です [1] 。Google Scholar のヘルプも、よく知らない分野では、まず解説的な記事から専門用語を拾うことを勧めています [11] 。 件名 — 主題を表す決まった言葉 件名は、資料の主題を表すために図書館が決めている言葉(統制語)です。国立国会図書館は、自館の目録で使う件名の一覧(国立国会図書館件名標目表、NDLSH)を公開しており、国立国会図書館サーチで特定の主題の資料をまとめて探すのに便利だと説明しています [13] 。書名に思いがけない言葉が使われている本でも、件名が同じなら一緒に見つけられます。 医学などの一部のデータベースには、シソーラスという統制語の体系があります。同じ主題の文献に同じ言葉が付けられるので、言い換えを自分で全部並べなくても漏れが減ります。医学中央雑誌刊行会の医学用語シソーラスは、医学・歯学・薬学・看護学などの用語を体系的に関係づけたもので、文献の索引と検索に使われています [14] 。PubMed では、入力した語が統制語(MeSH)などに自動で対応づけられます [15] 。ただし、どの統制語を選ぶかは使う人が決めます。上位語・下位語の一覧を見てから選ぶと、狙いに合った検索がしやすくなります [2] 。 検索式を組む — AND・OR・NOT と絞り込み AND でつなぐと件数は減り、OR でつなぐと増えます。言い換えの語を OR でまとめ、別の観点の語と AND で組み合わせるのが基本の形です。記号の書き方はデータベースによって違うので、初めて使うときはヘルプを見ると安心です。 大阪大学の教材には、「選挙」と「動画」の研究を探す例が載っています。「選挙 動画」で探すと件数が少なかったので、「投票」「衆院選」「参院選」など選挙を言い換えた語を OR でまとめ、その全体を「動画」と AND で組み合わせる、という直し方です [2] 。式にすると、次の形になります。 (選挙 OR 投票 OR 衆院選 OR 参院選) AND 動画 CiNii Research では、( ) で囲んだ部分が先に処理されるので、この形の式が使えます [16] 。 記号の書き方は、同じ日本の図書館のサービスでも違います。代表的な 2 つを並べると、次のとおりです。 したいこと CiNii Research 国立国会図書館サーチ 両方を含む(AND) 語と語の間に空白 語と語の間に空白 どちらかを含む(OR) 大文字の OR か | 語の頭に + 含まない(NOT) 大文字の NOT か、語の頭に - 語の頭に - ひと続きの語句(フレーズ) " " で囲む(英数字だけ) " " で囲む 語の頭が同じ語(前方一致) 語の末尾に *(英数字だけ) キーワードでは不要 CiNii Research では、( ) で囲んだ部分を先に処理できます。フレーズ検索と前方一致は、半角の英数字などの 1 バイト文字だけで使え、日本語の語には使えません [16] 。前方一致では、たとえば work* と入れると worker や working も探せます。国立国会図書館サーチでは、たとえば「夏目 +漱石 -こころ」と入れると、「夏目または漱石を含み、こころを含まない」という条件になります。記号の前には空白を入れ、記号は半角で入力し、演算子は左から順に処理されます。前方一致の * が働くのは、ISBN や請求記号などの番号の項目で、それ以外の項目は初めから部分一致で探します [17] 。東京大学附属図書館の一覧表も、データベースごとに演算子の種類や書き方が違うことを示しています [12] 。 NOT は、指定した語を含まない記録だけを探す指定です [16] 。除外する語が入っていれば一律に外れるので [12] 、その語をたまたま含む大事な文献も一緒に外れます。NOT を使ったら、結果を一度見直しておくと安心です。 絞り込みと並べ替え 検索の前後で、次のように範囲を絞れます。 国立国会図書館サーチ: 検索する資料の種類を選べます [17] 。インターネットで読める資料だけに絞ることもできます [6] 。 CiNii Research: 検索結果の画面で、データの種類などの項目から絞り込めます [18] 。詳細検索では、検索するデータの出どころを限れます [16] 。