14.59 正しいからではなく、予言できるから選ぶ — Epoché
この篇でできるようになること ★ 二つの説を並べて置く 書き方が読める。 ★ 予言できるほうを選ぶ という理由が分かる。 ★ 反論を自分で出して実験を作り直す 運びが読める。 ★ 自分の失敗を書く のに気づける。 前提 : 特別編に門はありません。第 5 期まで済んでいれば、どこからでも読めます(目安は 3.40 まで/4.60 まで)。 読む前に ★ 特別編は どの篇から読んでもかまいません 。★ 前の篇を読んでいなくても通じるように書いてあります。 ★ これは 本物の研究論文 です。★ 器械の名と数が出ます が、★ 分からなくても読めます ——★ この篇で見るのは 装置ではなく、決め方 だから です。 どちらのことか 確かめること ★ 科学のこと ★ 科学者がだれに向けて書いたか( 12.14 知編 ) ★ 学術英語のこと ★ いまの論文の書き方との差( 12.15 知編 ) ★ 一つだけ、先に知っておくとよいこと があります。★ この論文が書かれた時点で、 陰極線が何かは決まっていませんでした 。 ★ 二つの説が 対等に争って いました ——★ エーテルの中で起きる何か か、★ 負の電気を帯びた粒 か。 原文 原文は別の文書にあります(作品ページの「原文」)。本文は 1679 語、段落は 12 つ、文は 42 本、一文の平均は 40.0 語です。 ★ however が 4 回、 objection が 3 回 出ます。★ 数えました 。★ この二語が この論文の骨 です——★ 進んでは立ち止まり、 立ち止まっては作り直し ます。 全訳 原文の全訳です。この課程のために、原文に沿って訳しました。番号は原文の段落の番号で、原文と行き来できます。 この論文で述べる実験は、陰極線の正体について何らかの知見を得たいと望んで行ったものです。この線については、きわめてさまざまな意見があります。ドイツの物理学者のほとんど一致した意見によれば、陰極線はエーテルの中の何らかの過程によるもので、――一様な磁場の中ではその進路が直線ではなく円を描くことからして――これまでに観察されたどの現象にも、それに似たしくみのものはありません。この線についてのもう一つの見方は、まったくエーテル的なものであるどころか、実は完全に物質的なものであり、負の電気を帯びた物質の粒子の通り道を示している、というものです。これほど違う見方を見分けるのは難しくないはずだと、ひと目には思われるでしょう。ところが経験の示すところでは、そうではありません。この問題をもっとも深く研究した物理学者たちの中に、どちらの説の支持者も見いだせるからです。 帯電した粒子の説は、研究を進めるうえで、エーテルの説よりも大きな利点を持っています。この説ははっきりしていて、そこから何が帰結するかを予言できるからです。エーテルの説では、ある与えられた状況のもとで何が起こるかを予言することはできません。この説によれば、私たちが扱っているのはエーテルの中のこれまで観察されたことのない現象であり、その法則を私たちは知らないからです。 以下の実験は、帯電した粒子の説から出てくる帰結のいくつかを試すために行いました。 陰極線が運ぶ電荷 もしこの線が負の電気を帯びた粒子であるなら、囲いの中に入ったとき、その中へ負の電気の電荷を運び込むはずです。これがそのとおりであることは、ペランによって証明されています。ペランは平らな陰極の前に、互いに絶縁した、軸を同じにする二つの金属の円筒を置きました。外側の円筒は大地につなぎ、内側の円筒は金箔検電器につなぎました。これらの円筒は、それぞれに一つずつある二つの小さな穴を除いて閉じており、穴は、陰極線がそこを通って内側の円筒の中へ入れるように配置されていました。ペランは、線が内側の円筒に入ると検電器が負の電気の電荷を受け取り、線が磁石で曲げられて穴を通らなくなったときには、検電器に電気は行かないことを見いだしました。 この実験は、負の電気を帯びた何かが陰極から、陰極に直角に進んで撃ち出されること、そしてその何かが磁石によって曲げられることを証明しています。しかしこの実験には、検電器が帯電した原因が陰極線と何かかかわりがあることまでは証明していない、という反論の余地があります。さて、エーテルの説の支持者たちも、帯電した粒子が陰極から撃ち出されることは否定しません。けれども彼らは、これらの帯電した粒子が陰極線とかかわるのは、小銃を撃ったときに小銃の弾が閃光とかかわる程度のことにすぎない、と言うのです。そこで私は、この反論を受けない形でペランの実験をくり返しました。用いた配置は次のとおりです。――スリットを入れた、軸を同じにする二つの円筒(図1)を、放電管につないだガラスの球の中に置きます。陰極Aから出た陰極線は、管の首にはめこんだ金属の栓のスリットを通って球の中に入ります。この栓は陽極につながれ、大地に接地されています。したがって陰極線は、磁石で曲げられないかぎり円筒には当たりません。外側の円筒は大地に、内側の円筒は電位計につなぎます。陰極線(その通り道はガラスのりん光でたどりました)がスリットに当たっていないときには、線を生み出す誘導コイルを動かしても、電位計に送られる電荷は小さく、不規則でした。ところが、線を磁石で曲げてスリットに当たるようにすると、負の電気の大きな電荷が電位計に送られました。私はその電荷の大きさに驚きました。ときには、狭いスリットを通って一秒間に内側の円筒に入る負の電気が、1.5マイクロファラドの電気容量の電位を20ボルトも変えるほどでした。もし線が磁石によってあまりに 大きく曲げられて、円筒のスリットを行き過ぎてしまうと、円筒に入る電荷は、狙いが正しかったときの値のごくわずかな割合にまで再び落ちました。このようにこの実験は、磁気の力で陰極線をどうねじり曲げても、負の電気は線と同じ道をたどること、そしてこの負の電気は陰極線と切り離せないほど結びついていることを示しています。 線を磁石で向けてスリットから内側の円筒に入るようにすると、この円筒につないだ電位計の振れはある値まで増え、そこで止まります。線が円筒に流れ込み続けているにもかかわらず、です。これは、陰極線が通ると球の中の気体が電気の導体になるためです。そのため、線が通っていないときには内側の円筒は完全に絶縁されていますが、線が球を通るやいなや、内側の円筒と外側の円筒のあいだの空気が導体になり、電気は内側の円筒から大地へ逃げていきます。こうして内側の円筒の中の電荷は、いつまでも増え続けるわけではありません。円筒は、線から負の電気を得る速さと、空気を通る伝導によってそれを失う速さとが等しい、つり合いの状態に落ち着きます。内側の円筒がはじめに正の電荷を持っていれば、円筒はたちまちその電荷を失って負の電荷を得ます。一方、はじめの電荷が負であれば、はじめの負の電位が数値の上でつり合いの値より大きい場合には、円筒から電気が漏れていきます。 静電場による陰極線の曲がり 陰極線は負の電気を帯びた粒子だという見方に対して、ごく一般に持ち出される反論は、これまで小さな静電気の力のもとでは線の曲がりが観察されていない、というものです。また、誘導コイルや起電機のような大きな電位差の源につないだ電極の近くを線が通ると、線は曲げられますが、この場合の曲がりは、エーテルの説の支持者たちによって、電極のあいだを通る放電によるものであって、主として静電場によるものではないとみなされています。ヘルツは、放電管の中に置いた二枚の平行な金属板のあいだに線を通しましたが、板を蓄電池の電池群につないでも線は曲がらないことを見いだしました。この実験をくり返したところ、私もはじめは同じ結果を得ました。しかしその後の実験で、曲がりが無いのは、陰極線によって希薄な気体に与えられる電気伝導性のためであることが分かりました。この伝導性を測ってみると、排気が進むにつれて非常に急速に小さくなることが分かりました。そこで、非常に高い真空でヘルツの実験を試みれば、静電気の力による陰極線の曲がりを検出できる見込みがあるかもしれない、と思われたのです。 用いた装置を図2に示します。 図2 陰極Cから出た線は、陽極Aのスリットを通ります。陽極Aは管にぴったりとはまった金属の栓で、大地につながれています。線は、大地につないだもう一つの金属の栓Bの第二のスリットを通ったあと、長さ約5センチ、幅2センチ、間隔1.5センチの二枚の平行なアルミニウム板のあいだを進みます。それから管の端に当たり、細くはっきりしたりん光の斑点を作ります。管の外側に貼った目盛りで、この斑点の曲がりを測ります。高い真空では、二枚のアルミニウム板を小さな蓄電池の電池群の端子につなぐと、線は曲がりました。上の板を電池の負極に、下の板を正極につなぐと線は下がり、上の板を正極に、下の板を負極につなぐと線は上がりました。曲がりは板のあいだの電位の差に比例しており、電位差がわずか2ボルトのときでも曲がりを検出できました。曲がりが起きたのは真空が良いときだけでしたが、曲がりが無いのは媒質の伝導性のためであることは、真空がちょうど曲がりの始まる段階に達したときに起こることによって示されます。この段階では、板をはじめて電池の端子につないだときには線の曲がりがありますが、そのつなぎを保っていると、りん光の斑点はしだいに曲がっていない位置へとはい戻っていきます。これはまさに、板のあいだの空間が、ごく悪い導体ではあっても導体であれば起こるはずのことです。そうであれば、板のあいだの正と負のイオンがゆっくりと拡散し、やがて正の板は負のイオンで、負の板は正のイオンで覆われるからです。こうして板のあいだの電場の強さは消え、陰極線は静電気の力を受けなくなるでしょう。このことのもう一つの例は、曲がりが見えるほど圧力が低く、板のあいだに大きな電位差、たとえば200ボルトをかけたときに起こることです。このような状況では陰極線は大きく曲がりますが、大きな起電力のもとで媒質がときどき破れ、明るい放電が板のあいだを通ります。これが起こると、陰極線が作るりん光の斑点は、曲がっていない位置へ跳ね戻ります。陰極線が静電場で曲げられるとき、りん光の帯は、比べれば暗い隙間で隔てられたいくつかの明るい帯に分かれます。この現象は、陰極線が磁石で曲げられるときにビルケランドが観察し、彼が磁気スペクトルと呼んだものと、まったく似たしくみです。 語釈 帯の外の語は 65 語です。★ 二つに割れ ます——★ 器械の語 ( electroscope ・ electrometer ・ slit )と、★ 電気の語 ( cathode ・ anode ・ deflexion )。★ 覚えるのは 四つだけ で足ります——★ cathode (陰極)・ deflexion (曲がり)・エーテル( æther )・ objection (反論) 。 語(品詞) 意味 注 Birkeland en 名 ビルケランド。陰極線の曲がりを調べた人 Cathode en 名 陰極。電気を送り出す側の極 The cathode inside the old vacuum tube glowed faintly in the dark. その古い真空管の中の陰極は、暗闇の中でかすかに光っていました。 Electrostatic en 形 止まっている電気の The balloon picked up an electrostatic charge after rubbing against the wool sweater. その風船は、ウールのセーターにこすれたあと、止まっている電気を帯びました。 German en 形 ドイツの The German engineer explained his design to the curious students. そのドイツの技師は、興味を持った生徒たちに自分の設計を説明しました。 Hertz's en 名 ヘルツの。電磁波を確かめた人 Perrin en 名 ペラン。この論文が引く実験をした人 Perrin’s en 名 ペランの analogous en 形 似たしくみの The heart's pumping action is analogous to a simple mechanical pump. 心臓の送り出す働きは、単純な機械式ポンプと似たしくみです。 anode en 名 陽極 Electrons flow from the cathode toward the anode inside the tube. 電子は、その管の中で陰極から陽極に向かって流れます。 apparatus en 名 実験の装置 The laboratory ordered new apparatus for measuring air pressure. その研究室は、気圧を測るための新しい実験の装置を注文しました。 bulb en 名 ガラスの球。実験の器 The old glass bulb glowed a soft orange when switched on. その古いガラスの球は、電源を入れると柔らかいオレンジ色に光りました。 circular en 形 円を描く The dancers moved in a slow circular pattern around the fire. 踊り手たちは、焚き火の周りを円を描くようにゆっくりと動きました。 cm en 略 センチメートル coaxial en 形 軸を同じにした The technician connected the antenna using a length of coaxial cable. 技術者は、軸を同じにしたケーブルを使ってアンテナをつなぎました。 coil en 名 巻いたもの。コイル A copper coil wound around the iron rod produced a strong magnetic field. 鉄の棒に巻かれた銅のコイルは、強い磁場を作り出しました。 coils en 名 コイル(複数) Several copper coils were stacked neatly