14.89 綴りが音を写す — 答えに届かない話 — Epoché
この篇でできるようになること ★ 音を写した綴り を声に出して読み解ける。 ★ 枠の内と外で英語が変わる 作りが見える。 ★ 二重否定や and の連なり が、方言の文法だと分かる。 ★ 答えに届かない話 の組み立てが言える。 前提 : 特別編に門はありません。第 5 期まで済んでいれば、どこからでも読めます(目安は 3.40 まで/4.60 まで)。 読む前に ★ 特別編は どの篇から読んでもかまいません 。★ 前の篇を読んでいなくても通じるように書いてあります 。 ★ この篇の本文は 途中から始まり ます 。★ 枠に収めるために 語り手の前置き三段と最初の脱線一段を外して あり ます——★ 落ちは削っていません。中ほども飛ばしていません。 ★ 外した分の発端を ここで補い ます 。 ★ 「私」が、東部の友人に頼まれて、 ある牧師をさがしに西部の町へ来ます ——★ 名は Rev. Leonidas W. Smiley 。 ★ 酒場で 年寄りの Simon Wheeler をつかまえて尋ね ます 。 ★ ところが老人は まるで別人の Jim Smiley の話を始め ます ——★ 何にでも賭ける男の話 です。 ★ 本文はここから ——★ Thish-yer Smiley had a mare (このなスマイリーは雌馬を持っててな) 。 読む前に確かめること どこで置いたか ★ 英語圏の地図と変種(方言) ★ 12.3 知編 ★ 英語のユーモアと礼儀 ★ 12.9 知編 アメリカの成り立ち 12.12 知編 ★ 同じ部の別の篇と 並べると差が出ます ——★ 14.88 英語の名文 は 書かれた随筆 で、★ この篇は 喋られた話を写したもの です。 原文 原文は別の文書にあります(作品ページの「原文」)。本文は 1777 語、段落は 21 に分かれ、文は 47 本、一文の平均は 37.8 語です。 ★ 一文の平均 37.8 語は ずいぶん長い です。★ ところが 難しい語は入っていません ——★ and が 135 回 出て、★ それでつないでいる だけです。★ いちばん長い一文は 115 語 で、★ 子犬の話が and で延々とつながって います 。 全訳 原文の全訳です。この課程のために、原文に沿って訳しました。番号は原文の段落の番号で、原文と行き来できます。 「このスマイリーって男はね、雌馬を一頭持ってたんですよ。仲間うちじゃ十五分馬って呼んでたけど、そりゃほんの冗談でね、もちろんそれよりは速かったんでさ。で、あいつはその馬でよく金を勝ち取ったもんです。あんなにのろくて、いつも喘息だか、ジステンパーだか、肺病だか、そんなようなものを患ってたってのにね。みんなはその馬に二、三百ヤードの先を譲ってやって、走ってる途中で追い抜いたもんです。ところが、いつだって競走のどん尻になると、あの馬は興奮して、やけっぱちみたいになって、跳ねたり脚を踏んばったりしながら追い上げてくる。脚をぐにゃぐにゃとあっちこっちに振り回して、ときには宙に浮かせ、ときには片側の柵のほうへはみ出させてね。で、咳をしたりくしゃみをしたり鼻を鳴らしたりで、も・っ・と土ぼこりを蹴立てて、も・っ・と大騒ぎをする。そうして決まって、見物席のところにほんの首ひとつだけ先に着くんですよ。ざっと数えられるかぎりじゃね。 「それから、あいつはちっちゃなブルドッグの子犬を飼ってた。見たところじゃ、一セントの値打ちもなさそうでね、ただごろごろして、いやな顔をして、何か盗むすきを狙ってるだけって具合でした。ところが、いったんそいつに金が賭けられると、まるで別の犬になるんです。下あごが蒸気船の船首楼みたいに突き出してきて、歯がむき出しになって、かまどの火みたいにぎらぎら光る。で、相手の犬がそいつに飛びかかって、さんざん痛めつけて、噛みついて、肩越しに二度三度と投げ飛ばしても、アンドルー・ジャクソンは、それがその子犬の名前だったんですがね、アンドルー・ジャクソンは、平気な顔で、はなからこうなると思ってたって素振りしか見せない。そのあいだじゅう、相手方への賭け金は倍に倍にとふくらんで、とうとう金が出そろう。すると、いきなりあいつは、相手の犬の後ろ脚の関節のところをがぶりとくわえて、そのまま食らいついて離れないんです。噛み砕くんじゃありませんよ、いいですか、ただくわえて、相手が降参するまでぶら下がってるだけ、たとえ一年かかってもね。スマイリーはその子犬でいつだって勝ってたんですが、あるとき、後ろ脚の無い犬と組ませたんですよ。その脚は丸のこで切り落とされちまってたんです。で、勝負がだいぶ進んで、金も出そろって、いざお気に入りの急所に食らいつこうとしたとき、あいつはたちまち、自分がまんまとはめられたこと、相手の犬に、いわば袋のねずみにされたことに気がついた。驚いたような顔をして、それから、なんだかがっかりした様子になって、もう勝とうともしなくなって、それでこっぴどくやられちまったんです。あいつはスマイリーに、まるで、おれの心は張り裂けた、こいつはあんたのせいだ、喧嘩のときにいちばん頼りにしてる後ろ脚の無い犬なんかと組ませるからだ、と言わんばかりの目つきをして、それから少しばかりびっこを引いて離れていって、横になって死んじまいました。いい子犬でしたよ、あのアンドルー・ジャクソンは。生きてりゃひとかどの名を上げたでしょうに。素質はあったし、天才だったんです。わかるんですよ。だって、あいつにはこれといった機会なんか無かったんだから、才能も無いのに、あんな事情の下であれだけの喧嘩ができるなんてのは道理に合わないでしょう。あいつの最後の喧嘩と、その成り行きを思い出すと、いつだってかわいそうな気持ちになりますよ。 「さて、このスマイリーって男は、ネズミ捕りのテリアだの、軍鶏だの、雄猫だの、そういうたぐいのものをあれこれ飼ってましてね、こっちが落ち着いていられないほどでした。何を持っていって賭けを持ちかけても、あいつは必ず受けて立つんです。ある日、あいつはカエルを一匹つかまえて、家に連れて帰って、こいつを教育してやるつもりだと言いました。それで三か月のあいだ、裏庭に座りこんで、そのカエルに跳び方を教えるほかは何もしなかったんです。で、ほんとうに教えこんじまったんですよ。後ろから軽くひと突きしてやると、次の瞬間にはそのカエルがドーナツみたいに宙でくるくる回るのが見える。とんぼ返りを一回、うまく弾みがつけば二回ぐらいして、猫みたいにぴたりと足から着地するんです。蠅を捕ることにかけても、あいつはそのカエルをすっかり仕込んで、しじゅう稽古をさせてたもんだから、目の届くかぎり、どの蠅も毎回必ず仕留めるようになった。スマイリーに言わせりゃ、カエルに要るのは教育だけで、教育さえあればたいていのことはできるってね。わたしもそれを信じますよ。だって、わたしは見たんです。あいつがダン・ウェブスターを、ここのこの床の上に置いて、ダン・ウェブスターってのはそのカエルの名前でしたがね、「蠅だ、ダン、蠅だ!」って叫ぶと、まばたきするより早く、カエルはまっすぐ跳び上がって、あそこのカウンターから蠅をさっとさらって、泥の塊みたいにどさっと床にまた落ちてくる。それから、後ろ足で頭の横をかきはじめるんですが、その澄ました様子といったら、どのカエルにもできる以上のことをしたなんて、これっぽっちも思ってないみたいなんです。あんなに才能があるのに、あんなに慎み深くて、まっすぐなカエルは見たことがないでしょうよ。それに、平らなところで正々堂々と跳ぶとなったら、ひと跳びで越える距離は、あんたがこれまでに見たどんな同類の動物よりも長かった。平地での跳びっこがあいつの得意技だったんですよ、いいですか。だから、それとなると、スマイリーは手もとに一文でも残ってるかぎり、そのカエルに金を賭けたもんです。スマイリーは自分のカエルがえらく自慢でしたが、それも無理はない。旅をして、あちこち行ったことのある連中が、みんな口をそろえて、あれはこれまでに見たどんなカエルよりも上だって言ってたんですから。 「さて、スマイリーはその生き物を小さな格子の箱に入れてましてね、ときどき町へ持って出かけては賭けの相手を待ち構えてたんです。ある日、ひとりの男が、そいつはこのキャンプのよそ者だったんですがね、箱を持ったあいつに出くわして、こう言うんです。 「『その箱の中に入ってるのは、いったい何ですかね?』 「するとスマイリーは、なんだか気のない様子で、『オウムかもしれないし、カナリアかもしれないが、そうじゃない。ただのカエルさ』と言う。 「で、その男は箱を受け取って、念入りに眺めて、あっちこっちに向きを変えてみて、こう言う。『ふうん、なるほどそうだ。で、こいつは何の役に立つんですかね?』 「『そうだな』とスマイリーは、のんきに、気にもとめない様子で言う。『ひとつのことには十分役に立つと思うね。こいつはキャラヴェラス郡のどんなカエルよりも遠くへ跳べるんだ』 「男はまた箱を受け取って、もう一度じっくりと念入りに眺めてから、スマイリーに返して、ひどくゆっくりと言う。『へえ』と男は言う。『わたしにゃ、このカエルにほかのカエルよりましなところがあるようには見えませんがね』 「『そうかもしれないな』とスマイリーは言う。『あんたはカエルがわかってるのかもしれないし、わかってないのかもしれない。経験を積んでるのかもしれないし、いわば素人にすぎないのかもしれない。とにかく、おれにはおれの考えがある。こいつがキャラヴェラス郡のどんなカエルよりも遠くへ跳べるほうに、四十ドル賭けようじゃないか』 「すると男はちょっと考えてから、なんだかしょんぼりした様子で言う。『いやあ、わたしはここじゃよそ者で、カエルを持ってないんでね。カエルさえいりゃ、あんたと賭けるんだが』 「するとスマイリーは言う。『そんなことなら大丈夫、大丈夫だ。ちょっとこの箱を持っててくれりゃ、あんたにカエルを取ってきてやるよ』それで男は箱を受け取って、自分の四十ドルをスマイリーの金といっしょに出して、座りこんで待つことにした。 「そうして男はそこにかなり長いこと座って、ひとりで考えに考えてたんですが、やがてカエルを取り出して、その口をこじ開けて、ティースプーンを持ってきて、カエルの腹を鶉撃ちの散弾でいっぱいにしたんです。あごのすぐ下あたりまでぎっしりとね。それからカエルを床に置いた。スマイリーのほうは沼へ行って、長いこと泥の中をばしゃばしゃ歩き回って、やっとカエルを一匹つかまえて、持って帰ってきて、その男に渡して、こう言う。 「『さあ、用意ができたら、そいつをダンの横に並べてくれ。前足をダンの前足ときっちりそろえてな。合図はおれがする』それから、あいつは『一、二、三、それ!』と言って、あいつと男とでカエルを後ろからつついた。すると新しいカエルは元気よくぴょんと跳び出したが、ダンはぐっと力を入れて、肩をいからせて、こんなふうにね、フランス人みたいに。でも、どうにもならない。びくとも動けないんです。教会みたいにどっしりと根を生やしちまって、錨でも下ろされたみたいに、身動きひとつできない。スマイリーはずいぶん驚いて、うんざりもしたんですが、もちろん何がどうなってるのか、さっぱりわからなかった。 「男は金を受け取って立ち去りかけた。で、戸口から出ていくときに、ダンのほうへ肩越しに親指をくいっと向けて、こんなふうにね、またひどくゆっくりと言うんです。『へえ』と男は言う。『わたしにゃ、このカエルにほかのカエルよりましなところがあるようには見えませんがね』 「スマイリーは頭をかきながら、長いこと突っ立ってダンを見下ろしてたんですが、とうとうこう言った。『いったいぜんたい、なんでこのカエルはしくじったんだろうな。どこか具合でも悪いんじゃないか。どうも、ひどくぶくぶくして見えるぞ』それでダンの首根っこをつかんで持ち上げてみて、こう言った。『こりゃ驚いた、五ポンドはあるじゃないか!』そしてカエルを逆さにすると、カエルは両手いっぱいほどの散弾を吐き出した。それでやっと、あいつは事の次第がわかって、もうかんかんに怒ってね、カエルを下に置いて、その男を追いかけて飛び出していったんですが、とうとうつかまえられませんでした。それで……」 [ここでサイモン・ウィーラーは前庭から自分の名が呼ばれるのを聞き、何の用かと立ち上がった。]そして、離れていきながら私のほうを向いて、こう言った。「そこに座ってなさい、お客さん、くつろいでてくださいよ。すぐ戻ってきますから」 しかし、失礼ながら、この進取の気性に富んだ流れ者ジム・スマイリーの話の続きを聞いても、レオニダス・W・スマイリー師について大した情報が得られそうには思えなかったので、私はその場を立ち去りかけた。 戸口のところで、人づきあいのよいウィーラーが戻ってくるのに出くわした。彼は私を引きとめて、また話しはじめた。 「さて、このスマイリーって男は、尻尾の無い、黄色い片目の牝牛を一頭持ってましてね、尻尾といっても、バナナみたいな短い切れ端があるだけで、それで……」 しかし、時間も気持ちもなかったので、私はその不幸な牝牛の話を聞くのを待たずに、いとまを告げた。 語釈 I — 音を写した綴り 帯の外の語は全部で 128 語ですが、★ 二つに割ります 。★ 前半( 42 語)は 普通の綴りが別にある語 です——★ 覚えるのではなく、 声に出して元の語をあてる ためのもの です。★ feller が 9 回、 ketched が 4 回 出ます。 語(品詞) 意味 注 acrost en 前 across の訛り。横切って ag'in en 副 again の訛り。また amature en 名 amateur の訛り。素人 bannanner en 名 banana の訛り。バナナ better'n en 接 better than の詰め。〜よりまし cal'lated en 動 calculated の詰め。見込んでいた Dan'l en 名 Daniel の詰め。ダニエル everywheres en 副 everywhere の訛り。どこにでも feller en 名 fellow の訛り。やつ、男 fellers en 名 fellows の訛り。やつら fo'castle en