10.27 科挙 — 千三百年つづいた試験 — Epoché
この課でできるようになること 科挙が続いた時期と、試験で選ぶ理由を説明できます。 試験の段階と合格者の呼び名を中国語で言えます。 時代による科目の変化と、制度の利点・限界を分けられます。 作者の経歴と科挙の関係を、短い文で紹介できます。 前提 :10.26。名・字・号に続いて、人物の紹介に添えられる称号を見ます。 なぜ家柄ではなく試験なのか 科举 は、試験によって役人を選ぶ制度です。日本の字体では「科挙」と書きます。始まりは隋の605年ごろとされ、清の1905年に廃止されました。およそ千三百年という長さです。 日本史に重ねると、飛鳥時代から日露戦争のころまでに当たります。ただし、その間ずっと科目や試験の形が同じだったわけではありません。長く続いた制度の中でも、試す内容や、設ける段階は変わりました。 漢では地方から人を推薦して役人にしました。推薦する側の縁故に左右されると、有力な家が地位を独り占めしやすくなります。魏晋南北朝の時代には、家柄と役職の高さが強く結びつきました。 科挙には、その結びつきを崩して、学問による登用の道を開く働きがありました。皇帝にとっても、貴族の家の力を抑える手段になります。自分につながる官僚を得る手段でもあります。「学ぶ人に機会を与えること」と「皇帝の権力を支えること」は、同じ制度の二つの面です。 試験で選ぶといっても、学ぶための時間や本を誰もが同じように得られるわけではありません。家柄以外の道ができたことと、現実の条件がすべて平等だったことを分けて考えます。 地方から都へ — 段階と呼び名 清の時代の形をもとに、県試・府試・院試から、省での郷試へ進む順に見ます。次は、都での会試と殿試です。初めの県試・府試・院試は、まとめて 童试 と呼ばれます。ただし、字の見た目から子どもだけの試験と考えないようにします。 段階 試験の中国語 通った人の呼び名 読むときの要点 県試・府試( 童试 の初めの段階) 童试 童生 として院試へ 童试 の最後が院試 院試( 童试 の最後の段階) 院试 秀才 (生員) 学ぶ人としての身分を得る 省での郷試 乡试 举人 官僚になる資格へつながる 都での会試 会试 贡士 殿試へ進む 皇帝の前での殿試 殿试 进士 首席は 状元 表では、 童试 のうち県試・府試と、最後の院試を分けて示しています。 童试 の最後の院試に通ると 秀才 です。呼び名を覚えるときは、とくに次の三つを試験と組にします。院試の 秀才 、郷試の 举人 、殿試の 进士 です。郷試は省、会試と殿試は都という場所の移動も手がかりです。 郷試に通ると、官僚になる資格が生まれます。ただし、資格を得ることと、すぐに役職へ就くことは同じではありません。さらに会試と殿試へ進んだ人は、別の称号を得ます。 日本語の「秀才」から、単に頭のよい人とだけ読まないようにしましょう。この課の 秀才 は院試に通った人の称号です。 状元 も、もとは殿試の首席です。 举人 より 进士 のほうが後の段階です。字の印象で上下を決めず、省の郷試から都の会試・殿試へ進む順をたどります。 合格までの道は狭く、受験を長く続ける人もいました。魯迅の『孔乙己』には、科挙に通らないまま年を取った人物が登場します。この人物を考えるときも、この背景が役立ちます。称号があるかないかは、単なる試験の点数以上の意味を持ちました。 状元 は、現在もその分野の一番という意味で使われます。 高考状元 は大学入試のトップを指す呼び方です。古い制度での意味と、そこから広がった意味を分けて読みます。 何を答案に書いたのか 唐では、詩を作る力が科挙で問われたとされます。宋以降は、経書の意味をどう読むかという学びが重要になります。 四书五经 は、こうした共通の教養を考えるうえで欠かせない本のまとまりです。 明清では、 八股文 という形を細かく定めた文章が課されました。決まった部分に分けて書き、対句を多く使う文章とされます。思いついたことを自由に書くだけでなく、決められた順序と形に沿って論を進める力が求められます。 時代 この課で押さえる科目 求められる力 唐 詩 決められた条件で詩を作る 宋以降 経書の解釈 共通の本を読み、その意味を論じる 明清 八股文 細かく定めた文章の形に沿って書く これは時代ごとの重点を整理した表です。唐には詩しかなかったとか、宋にはそれ以外の試験が全くなかった、という意味ではありません。まず重点の移り方を押さえ、制度が千三百年間まったく同じだったという読み方を避けます。 試験場の小部屋と、書く訓練 試験会場の 贡院 には、一人ずつ入る狭い小部屋が並んでいました。小部屋には板が二枚あるだけだったと伝えられます。受験者は数日間、そこにこもって答案を書きました。 それでも不正は問題になりました。狭い部屋と監視は、試験の厳しさだけでなく、不正を防ごうとする仕組みも表しています。 この条件で最後まで文章を書き上げるには、構成や引用を使いこなす訓練が必要です。読んでいる古典の文章の形と、書き手が受けた教育を結びつけて考えられます。ただし、整った文章なら必ず科挙に通った人の作だと決めることはできません。 語表 語 品詞 意味 日本語との差 例文 訳 科举 名詞 科挙 試験による官吏登用制度 科举考试 科挙の試験 童试 名詞 県試・府試・院試をまとめた初級の試験 子どもだけが受ける意味ではない 参加童试 初級の試験を受ける 院试 名詞 院試 童试 の最後の段階で、通ると秀才になる 通过院试 院試に合格する 秀才 名詞 秀才・生員 ここでは院試に通った人の称号 一个秀才 一人の秀才 乡试 名詞 郷試 省で行う段階の試験 参加乡试 郷試を受ける 举人 名詞 挙人 郷試に通った人の称号 一个举人 一人の挙人 会试 名詞 会試 都で行う試験 参加会试 会試を受ける 贡士 名詞 貢士 会試に通った人の称号 一个贡士 一人の貢士 殿试 名詞 殿試 皇帝の前で行う最後の試験 参加殿试 殿試を受ける 进士 名詞 進士 殿試を経て得る称号 一个进士 一人の進士 状元 名詞 状元 殿試の首席、転じて分野の一番 考中状元 状元になる 八股文 名詞 八股文 細かく形を定めた文章 写八股文 八股文を書く 贡院 名詞 貢院 試験会場 贡院很大。 貢院は広い。 開いた道と、狭めた学び 科挙は、家柄だけによらず学問で身を立てる道を開きました。全国で同じ経書を読み、文章を書く教養を共有する仕組みにもなりました。土地ごとに話す言葉が違っても、共通の本を読むことで、書く言葉のつながりが支えられます。 一方、出世のために試験に出ることへ学びが偏ると、ほかの知識が軽んじられます。内容より文章の形式を競うことや、受験に一生を費やすことも問題になりました。学問への敬意が育つことと、学問の範囲が狭まることは、両方起こり得ます。 制度は朝鮮やベトナムにも広がり、ヨーロッパの文官試験にも影響を与えたと言われます。試験で公務を担う人を選ぶという考え方には、このようなつながりがあります。現在の試験とすべて同じ制度だったとは考えず、どの考え方が受け継がれたかを見ます。 古典の書き手では、韓愈、柳宗元、欧陽脩、王安石、蘇軾、范仲淹は進士でした。中国語の名前は 韩愈 ・ 柳宗元 ・ 欧阳修 ・ 王安石 ・ 苏轼 ・ 范仲淹 です。一方、李白は科挙を受けなかったとされます。 陶淵明や荘子は、科挙が始まる前の人です。受けたが落ちた人、制度はあったが受けなかった人、制度以前の人を分けます。経歴は文章を読む背景になります。ただし、制度の内外だけで作品の自由さや価値を決めるものではありません。 練習 称号と経歴を中国語で書く 院試に通った人物の紹介です。 他是_ に称号を補い、中国語の文を完成させてください。 郷試に通った人物の紹介です。 他是_ に称号を補い、中国語の文を完成させてください。 会試に通った人物の紹介です。 他是_ に称号を補い、中国語の文を完成させてください。 殿試に通った人物の紹介です。 他是_ に称号を補い、中国語の文を完成させてください。 殿試の首席になった人を指すように、 他是_ の空欄を補って中国語で書いてください。 蘇軾と韓愈が進士だったことを、中国語で一文ずつ書いてください。 李白が科挙を受けていないことを、経験の 过 を使って中国語で書いてください。 唐の受験生が詩を書き、明清の受験生が八股文を書いたことを、時代を動詞の前に置いて中国語で書いてください。 唐・宋以降・明清を、詩・経書の解釈・八股文と結んでください。また、陶淵明を「科挙を受けなかった人」とだけ説明すると何が伝わらないかを書いてください。 科挙が開いた道と、学びを狭めた面を一つずつ説明し、小部屋での試験が書く訓練にどう関わるかを述べてください。 戻り語 前の課で学んだ語を使って書きます。 学ぶ人や受験日の様子を、語ごとに中国語で一文ずつ書いてください。現代の架空の受験生でも構いません。 诗人 ・ 毕业 ・ 独自 。 学ぶ人や受験日の様子を、語ごとに中国語で一文ずつ書いてください。現代の架空の受験生でも構いません。 准时 ・ 步行 ・ 优秀 。 学ぶ人や受験日の様子を、語ごとに中国語で一文ずつ書いてください。現代の架空の受験生でも構いません。 着急 ・ 专心 ・ 失望 。 学ぶ人や受験日の様子を、語ごとに中国語で一文ずつ書いてください。現代の架空の受験生でも構いません。 放松 ・ 窗子 ・ 外套 。 学ぶ人や受験日の様子を、語ごとに中国語で一文ずつ書いてください。現代の架空の受験生でも構いません。 毛衣 ・ 箱子 ・ 眼镜 。 音読 語表の▶で試験と称号を聞き、順に言います。 四书五经 も音読し、試験の名、人の称号、本のまとまりを区別します。 この課のまとめ 科挙は隋から清まで約千三百年続きました。地方から都へ進む試験と称号を組にし、時代ごとに科目が変わることを押さえます。家柄以外の道と共通の教養を生んだ一方で、学びが試験へ偏る問題もありました。作者の経歴を読むときは、合格者、受けなかった人、制度以前の人を分けます。 次の課へ 次の10.28では、現在の学校と大学入試の高考を見ます。教育を受ける道、受験する地域、入試が中断されて復活した歴史をたどります。 答え 他是秀才。 他是举人。 他是贡士。 他是进士。 他是状元。 苏轼是进士。 韩愈也是进士。 李白没参加过科举。 唐代考诗,明清考八股文。 順に詩、経書の解釈、八股文です。陶淵明は制度の始まる前の人なので、科挙があったのに受けなかった李白とは事情が違います。 家柄だけによらず学問で身を立てる道を開いた一方、試験の科目や形式へ学びが偏る問題がありました。限られた環境で文章を完成させるため、構成や引用の訓練が必要でした。作品の価値が合否だけで決まるわけではありません。 他是一位诗人。 这位诗人毕业了。 考生独自写文章。 考生准时到了。 考生今天步行。 他是优秀的考生。 考生不着急。 他专心写文章。 考试以后他失望了。 考试以后他放松了。 考生打开了窗子。 考生穿上了外套。 考生穿了毛衣。 考生打开了箱子。 考生找到了眼镜。 参考文献 この課に引用はありません。