11.47 吳均 與宋元思書 — 奇山異水、天下に獨り絕たり — Epoché
この篇でできるようになること 四字句とそれ以外を分け、景色が移る順を示せます。 矢と比べる形と、走る馬にたとえる形を言い換えられます。 起点・終点・およその距離を現代語で書けます。 前提 :11.46「韓愈 雜說四(馬說)」。動詞そのものに使役の意味を持たせる形を、景色を見る人の心にも見ます。 題の違いと、川の旅 吳均の手紙で、富春江の景色を描きます。題には與宋元思書と與朱元思書の両方が伝わり、中国の教科書などでは後者が広く使われます。この課では底本の題を用います。別の題で見ても同じ作品です。 初めは風ともやが澄み、空と山が同じ色になります。舟は流れにまかせて漂い、東西へ動きます。場所の範囲を示した後、めずらしい山と水が天下に抜きん出ると述べ、詳しい景色へ進みます。 相手への挨拶が中心ではなく、目の前の景色を並べて届ける手紙です。相手に来てほしいという誘いは、本文には書かれていません。書かれている景色と、読み手が想像する手紙の目的は、分けて考えましょう。 四字でそろう所、長くなる所 風煙俱淨 や 天山共色 のように、四字句が主になります。 特別編 42篇 の答謝中書書で読んだ形と比べられます。ただし、最初から最後まで全部四字というわけではありません。 自富陽至桐廬 は六字、 一百許里 は四字です。この底本では読点で分かれますが、起点と終点と距離を続けて述べる内容です。二つを合わせたまとまりは長くなります。 蟬則千轉不窮 と 猿則百叫無絕 も六字、 鳶飛戾天者 と 經綸世務者 は五字です。四字で切る調子を覚えてから、長い句では意味を崩さず切り方を替えてください。 どこからどこまで、どのくらい 自富陽至桐廬,一百許里 は、富陽から桐廬まで、百里ばかりという範囲です。 自 が起点、 至 が終点を示し、後ろへ距離を置きます。 許 は数の後にあり、ばかり、およそ、という意味です。許すという動作を言っていません。現代語の 大约 と比べ、数を正確な値に言い換えないようにします。 型編 9課 の 从 と 到 を使うと、同じ二地点の範囲を言えます。本文の百里を、現在の道の実測値にそのまま替えず、本文が述べるおよその距離として扱います。 数の後の 許 を許可の動詞とすると、何を許すのかという別の文になります。距離の数をほどよく幅のあるものにする語として読みます。 矢よりはげしく、馬のように走る 水の色と底まで見える澄み方を描いた後、流れと波の動きを述べます。 急湍甚箭 は、はやせが矢よりはげしいという比較です。 甚 の後に、比べる相手の矢を直接置きます。 猛浪若奔 は、激しい波が走る馬のようだというたとえです。 奔 はここで走る馬を指します。書き下しでは「奔るがごとし」と動詞のように読みますが、意味は、走る馬のようだ、ということです。矢を上回ると言うことと、馬に似ていると言うことは、同じ判断ではありません。 現代語では、前者を 比 、後者を 像 で言い換えられます。二つの句はともに勢いを描きますが、程度を比べる形と、様子を重ねる形を対にしているのです。 上る山から、聞こえる音へ 高い山には寒々とした木が生え、山が競って高くなるように描かれます。 負勢競上 の 上 は、のぼるという動詞です。地形の勢いを受けて、上へ伸びる動きを読めます。 次に泉が石に当たる音、鳥の鳴く音、蟬と猿の声が続きます。 泠泠 と 嚶嚶 は、同じ字を重ねた畳語です。この二つが音の様子を写します。 千轉 と 百叫 は、数と動作を組にした言い方で、畳語ではありません。声が何度も続くことを読むので、ここで千回、百回を実際に数えた報告と決めないようにします。 景色を見る人の心 鳶飛戾天者 は、詩經の句を借り、高い地位を目指す人を言います。 經綸世務者 は、世を治めることに携わる人です。ここで初めて、景色を受け取る人のあり方へ目が移ります。 峰を望むと心を休ませ、谷をのぞくと帰るのを忘れます。 望峰息心 の 息 は、心を休ませるという使役の意味を持つ動詞です。 本文の 窺谷忘返 は、帰ることを忘れるという句です。 返 が帰る動作を表します。高く上ろうとする気持ちや世の務めへの関心が、山や谷を前にして静まると読めます。 人の話を挟んだ後で、もう一度景色へ戻ります。水や山が美しいと列挙するだけでなく、その美しさが人へどう働くかを述べるための場所です。 暗さと明るさを並べて終える 橫柯上蔽 の 上 は、上のほうでという場所を示します。枝が上っていく動詞ではありません。覆う動詞の前にあり、覆う場所を説明する名詞の状語用法です。 在晝猶昏 と昼でも暗いことを言い、続く 有時見日 では、ときおり日が見えます。枝の茂る所とまばらな所を通して、暗さと明るさを並べます。 広い空と山から始まった景色が、木の間から届く光へ戻って閉じます。水、山、音、人、光の順を確かめると、同じ四字句でも見る範囲が少しずつ変わることを追えます。 負勢競上 では上る動詞、 橫柯上蔽 では上のほうでという場所です。同じ字を見つけただけで同じ動作にせず、前後の動詞と位置を読みます。 語釈 語 品詞 意味 日本語との差 例文 訳 許 助字 ばかり・およそ 数の後で幅を示す 一百許里 百里ばかり 縹碧 形容詞 薄い青色 水の色 水皆縹碧 水はどれも薄い青色だ 湍 名詞 はやせ 流れの激しい所 急湍甚箭 はやせは矢よりはげしい 甚 動詞 〜よりはげしい 比較の相手が続く 急湍甚箭 はやせは矢よりはげしい 奔 名詞 走る馬 動作から馬を指す 猛浪若奔 激しい波は走る馬のようだ 泠泠 音を表す語 澄んだ音の様子 同じ字の重なり 泠泠作響 澄んだ音を立てる 嚶嚶 音を表す語 鳥の鳴き声 同じ字の重なり 嚶嚶成韻 鳥の声が調べになる 戾 動詞 至る ここでは天へ届く 鳶飛戾天者 とびのように天へ至ろうとする者 息 動詞 休ませる 心への使役の意味 望峰息心 峰を望んで心を休ませる 柯 名詞 枝 上のほうで覆うもの 橫柯上蔽 横に伸びた枝が上のほうで覆う 練習 空欄を埋め、本文の句を書いてください。 _富陽_桐廬,一百_里 空欄を埋め、本文の句を書いてください。 急湍_箭,猛浪_奔 空欄を埋め、本文の句を書いてください。 窺谷忘_ 本文の読点などで区切られた句を見て、四字でないものを書き出してください。 急湍甚箭 を比較の文、 猛浪若奔 をたとえの文にして、現代語へ置き換えてください。 自富陽至桐廬,一百許里 を現代語にし、続けて自分が知る二地点の間も、 从 ・ 到 ・ 大约 を使って書いてください。二地点の距離は自分で確かめた数を使います。 前の課で学んだ語を使い、舟で川を下る場面を三文書いてください。 树林 ・ 松树 、 划 ・ 舒适 、 冲 ・ 沉 を組にして使います。 鳶飛戾天者 と 經綸世務者 はどのような人で、景色を見てどうなるのか説明してください。 水、山、音、人、光に当たる本文の句を、一つずつ順に挙げてください。 音読:次の原文の句を ▶ で聞き、声に出して読んでください。 自富陽至桐廬,一百許里,奇山異水,天下獨絕。 急湍甚箭,猛浪若奔。 泉水激石,泠泠作響。好鳥相鳴,嚶嚶成韻。蟬則千轉不窮,猿則百叫無絕。 橫柯上蔽,在晝猶昏;疏條交映,有時見日。 ▶ の手本を聞き、四字を基本に音読します。 自富陽至桐廬 、 蟬則千轉不窮 、 猿則百叫無絕 のように四字でない句では切り方を変え、 泠泠 と 嚶嚶 の畳語はやわらかく読みます。最後の句は、暗い景色から日の見える景色へ調子を替えて読んでください。 この篇のまとめ 四字句を主としながら、長い句も交える形を読みました。比較とたとえ、動詞の上と場所の上を分け、水から人を経て光へ戻る順を捉えます。 次の篇へ 次の11.48では酈道元の水經注の三峽を読みます。長江の峡谷を山と季節ごとに描き、最後に漁師の歌を置く文章です。 答え 自富陽至桐廬,一百許里 急湍甚箭,猛浪若奔 窺谷忘返 自富陽至桐廬 、 蟬則千轉不窮 、 猿則百叫無絕 、 鳶飛戾天者 、 經綸世務者 です。 急流比箭更快。 大浪像奔跑的马。 从富阳到桐庐,大约有一百里。 後半は各自の答えです。 从 +起点+ 到 +終点+ 大约 +距離の順で書きます。 我们在河上划船,很舒适。 两岸的松树林很美。 大浪冲着船,船却没沉。 高い地位を目指す人と、世を治める人です。峰を見て心を休ませ、谷をのぞくと帰ることを忘れます。 水皆縹碧 、 夾岸高山 、 泠泠作響 、 望峰息心 、 有時見日 です。 参考文献 吳均『與宋元思書』。パブリックドメイン(著者没後70年経過)。 出所: https://zh.wikisource.org/wiki/與宋元思書