0.2 母音 5 つと長短 — マクロンは本文に書く — Epoché
この課でできるようになること 母音 5 つを日本語の母音と同じ口で出せる。 マクロンの意味(長母音)と、長短が語を分ける例を 6 組言える。 この課程が本文にマクロンを書く理由と、音声では長短が聞こえないという制約を知っている。 前提 : 0.1 まで。 ラテン語の母音は a e i o u の 5 つ。日本語のア・エ・イ・オ・ウとほぼ同じ口で出せます(u だけは唇を丸めて前に出す)。英語のように「アとエの間」のような曖昧な母音はありません。ここまでは良い知らせです。 そして、日本語話者にだけ通じる良い知らせがもう一つ。 ラテン語の母音には長短があり、日本語と同じ仕組み です。「おばさん」と「おばあさん」、「こと」と「こうと(皇統)」が別の語であるように、 malum (悪)と mālum (りんご)は別の語です。英語話者はこの感覚をゼロから作らなければなりませんが、日本語話者は持っています。 マクロン — 長い母音の印 長い母音の上に引く横棒 ā ē ī ō ū を マクロン と呼びます。★ ローマ人はこの印を書きませんでした。 原典にも、校訂本にも、辞書の見出し以外には出てきません。教科書と辞書だけが付ける、学習のための印です。 この課程は、第 1 期から第 3 期まで、 本文のラテン語すべてにマクロンを付けます 。第 4 期(韻文と歴史)からは原典どおり印なしで読み、語表にだけ残します。印がある間に、語の長短を目で覚えてしまうのが狙いです。 ★ 正直に言っておくべきことがあります。 この課程の音声は、母音の長短を出せません。ラテン語を読む声は現代語の声を借りたもので(設計上の判断)、その読み規則に長短が無いからです。音声で正しく聞こえるのは 強勢の位置 だけで、これは次の課で扱います。だから長短は 目で覚え、自分の声で作る ——音声を聞くときは「どこが長いか」を本文のマクロンで確かめながら、自分で長く発音してください。日本語話者にはそれができます。 長短が語を分ける — 最小対 6 組 同じ綴りで長短だけが違う語の対です。声に出して、長いほうを はっきり 2 拍 で読んでください。 短い 長い malum 悪 mālum りんご liber 本 līber 自由な os 骨 ōs 口 populus 民 pōpulus ポプラ venit 来る(現在) vēnit 来た(完了) legit 読む(現在) lēgit 読んだ(完了) 最後の 2 組が重要です。 venit / vēnit は 現在と過去の違い で、文の意味がまるごと変わります。第 2 期で完了形を学ぶとき、この長短が時制の印になっていることに出会います。 母音の作り方 — 日本語話者が気をつける 3 点 u は唇を丸める。 日本語のウは唇が平らですが、ラテン語の u はフランス語の ou 、英語の boot の音。 ūnus ・ lūx 。 e と o は口を大きく。 短い e・o は日本語より少し広く(英語 bed ・法の o)、長い ē ・ ō は狭く長く。厳密に区別しなくても通じますが、 rēx (レークス)は「レェクス」と広げない。 語末の母音を落とさない。 日本語の「です」の u が消えるように、語末の -us ・ -um の母音を無声化しがちです。ラテン語では語末の母音が 格を示す ので、消すと文法が消えます。 実文で長短を見る セネカとウルガタの短い文です。マクロンの位置を見ながら、音声を再生し、長いところを自分で長く読んでください。音声は長短を出しませんが、強勢(次の課)は正しいので、強勢と長短の両方を意識する練習になります。 原文 日本語訳 見るところ Mors ad te venit; [1] 死は君のところへ来る。 venit (現在・短い e)。もし vēnit なら「来た」 deus nihil habet. [2] 神は何も持たない。 nihil は短い i が二つ Mors est non esse; [3] 死とは、無いことである。 esse (〜であること)。e は短い Illa terra est, hic homo est. [4] あれは土、これは人だ。 terra の rr は 0.5 の重子音 Mors per omnes it; [5] 死はすべての人を通り過ぎる。 omnēs の ē は長い 池から引いた文には原典どおりマクロンがありません(校訂本に印は無い)。この課程は例文の表ではそのまま引き、語表と本文(統制作文)にだけマクロンを付けます。 印の無い文を、覚えた長短で読む ——第 4 期に原典を読むときの姿を、いまから少しずつ見ておいてください。 新出語 語(品詞) 意味 注 mors la 名詞・第 3 変化・女性( mortis ) 死 日本語との差 英語 mortal の元 Mors tua vita mea. [6] 君の死は私の生。 Nativitas et mors non eadem sunt. [7] 生と死は同じものではない。 veniō la 動詞・第 4 活用( venīre , vēnī , ventum ) 来る 日本語との差 完了 vēnī は e が長い Nos ambo e Germania venimus. [8] 私たち二人ともドイツ出身なんだ。 Nos ambae e Germania venimus. [9] 私たち二人ともドイツ出身なんだ。 nihil la 名詞・不変化 何も(〜ない) 日本語との差 英語 nihilism の元。 nīl とも deus nihil habet. 神は何も持たない。 Nihil novi sub sole. [10] 太陽のもとに新しいものなどはない。 habeō la 動詞・第 2 活用( habēre , habuī , habitum ) 持つ 日本語との差 英語 have とは無関係(偶然の一致) Philippus duas raedas et unam birotam habet. [11] フィリップは、1台の自転車と2台の車を持っています。 Is duas raedas habet. [12] 彼は車を2台持ってるんだ。 terra la 名詞・第 1 変化・女性( -ae ) 土、大地、国 日本語との差 英語 terrain ・ territory の元 Illa terra est, hic homo est. あれは土、これは人だ。 Feminae huius terrae pro libertate pugnant. [13] あの国の女は自由のために戦っている。 homō la 名詞・第 3 変化・男性( hominis ) 人、人間 日本語との差 男女を問わない「人」。男は vir Cornu bos capitur, voce ligatur homo. [14] 牛は角により、人は言葉により捕まえられる。 Homo homini lupus. [15] 人間は人間にとって狼である。 mālum la 名詞・第 2 変化・中性( -ī ) りんご 日本語との差 短い a の malum は「悪」 Licetne mihi hoc malum edere? [16] このりんご食べてもいい? liber la 名詞・第 2 変化・男性( librī ) 本 日本語との差 長い līber は「自由な」 Liber quod heri emi pretiosum erat. [17] 昨日買った本、高かった。 Hic liber novus est. [18] この本は新しい。 ローマ人は長短をどう書いたか、そして長短はどこへ行ったか ローマ人がマクロンを書かなかった、と言いました。しかし長短を書き分けようとした試みはあります。共和政末期から帝政初期の碑文には、長い母音の上に小さな斜めの印(アペクス)を打ったものがあり、長い i は字を縦に伸ばして書きました。詩人も文法家も長短を意識していたことが分かります。ただ、それは一般の書き方にはならず、写本の時代には消えました。だからいま私たちが読む校訂本には印がなく、辞書と教科書だけがマクロンで補っているのです。 長短そのものも、やがて消えました。ラテン語から生まれたイタリア語・フランス語・スペイン語には母音の長短がありません。帝政後期に長短の区別が弱まり、代わりに母音の「広さ」と強勢の位置が語を分けるようになったからです。つまり、この課程の音声(現代語の声を借りたもの)が長短を出せないのは偶然ではなく、ラテン語の子孫たちがみな長短を失ったからでもあります。 古典期の音を出せるのは、いまのところ人の声だけ ——だから自分の声で作る、という方針になります。 日本の教室では、辞書(田中秀央『羅和辞典』・水谷智洋『羅和辞典 改訂版』)も教科書もマクロンを付けます。この課程の語表は辞書の見出しと同じ形なので、あとで辞書を引くときに迷いません。ただし辞書によっては短い母音にも印(ブレーヴェ、上向きの弧)を付けるものがあります。この課程は長い母音だけに印を付け、印の無い母音は短い、と読んでください。 練習 練習 1 — どちらの語か 次の語のマクロンを見て、意味を言ってください。 mālum liber ōs vēnit populus lēgit 練習 2 — マクロンを補う 次の語は第 0.1 課の語表に出ました。マクロンを補ってください(語表を見返してよい)。 lux rex tu vos 練習 3 — 長く読む(本文を隠して復唱) 上の 5 文を、音声を聞いたあと本文を隠して復唱してください。音声は長短を出さないので、 マクロンのところを自分で 2 拍に伸ばす ことを意識します。 omnēs は「オムネース」。 この課のまとめ 母音は 5 つ。日本語と同じ口。 u だけ唇を丸める 。 長短がある 。日本語と同じ仕組み。語を分け( malum / mālum )、時制を分ける( venit / vēnit )。 マクロンは学習用の印。原典には無い。この課程は第 3 期まで本文に付け、第 4 期から外す。 ★音声は長短を出せない。 長短は目で覚え、自分の声で作る 。 語末の母音を落とさない——そこに格がある。 次の課へ 第 0.3 課は 二重母音と子音 です。 ae ・ oe ・ au の読み方、c・g・v・t を「いつも同じ音」で読む復元式の規則、そして教会式との違いを 1 表で見ます。 答え 練習 1 : (1) りんご。(2) 本。(3) 口。(4) 来た(完了)。(5) 民。(6) 読んだ(完了)。 練習 2 : lūx ・ rēx ・ tū ・ vōs 。 参考文献 Sen . Ep . 1.4.3( Mors ad te venit; )。 Perseus Digital Library ( canonical-latinLit , phi 1017. phi 015)。 CC BY-SA 4.0 Sen . Ep . 4.31.10( deus nihil habet. )。 Perseus Digital Library ( canonical-latinLit , phi 1017. phi 015)。 CC BY-SA 4.0 Sen . Ep . 6.54.4( Mors est non esse; )。 Perseus Digital Library ( canonical-latinLit , phi 1017. phi 015)。 CC BY-SA 4.0 Sen . Ep . 19.117.14( Illa terra est, hic homo est. )。 Perseus Digital Library ( canonical-latinLit , phi 1017. phi 015)。 CC BY-SA 4.0 Sen . Ep . 15.93.12( Mors per omnes it; )。 Perseus Digital Library ( canonical-latinLit , phi 1017. phi 015)。 CC BY-SA 4.0 Tatoeba 文 #627952( Mors tua vita mea. )。Tatoeba Project, CC BY 2.0 FR. https://tatoeba.org/en/sentences/show/627952 Tatoeba 文 #11728775( Nativitas et mors non eadem sunt. )。Tatoeba Project, CC BY 2.0 FR. https://tatoeba.org/en/sentences/show/11728775 Tatoeba 文 #8490292( Nos ambo e Germania venimus. )。Tatoeba Project, CC BY 2.0 FR. https://tatoeba.org/en/sentences/show/8490292 Tatoeba 文 #8490294( Nos ambae e Germania venimus. )。Tatoeba Project, CC BY 2.0 FR. https://tatoeba.org/en/sentences/show/8490294 Tatoeba 文 #364516( Nihil novi sub sole. )。Tatoeba Project, CC BY 2.0 FR. https://tatoeba.org/en/sentences/show/364516 Tatoeba 文 #1305732( Philippus duas raedas et unam birotam habet. )。Tatoeba Project, CC BY 2.0 FR. https://tatoeba.org/en/sentences/show/1305732 Tatoeba 文 #1586858( Is duas raedas habet. )。Tatoeba Project, CC BY 2.0 FR. https://tatoeba.org/en/sentences