6.48 『禮記』大學(冒頭) — Epoché
この篇でできるようになること 三綱領と八条目を、本文と語釈を見ながら説明できます。 前の句の終わりを次の頭に置く連鎖を見つけられます。 八条目を二つの向きにたどり、その違いを説明できます。 順序を示す短い現代語の文を書けます。 前提 :6.47『春夜宴從弟桃花園序』。中国語の本文は別の読書ページで読みます。 読編の最後に読むもの 『禮記』大學篇の冒頭を読みます。『禮記』は前漢の戴聖らが編んだとされる書物です。成立から二千年以上たつ古典です。 本文は簡体字です。繁体字の 而後 を 而后 に、 脩身 を 修身 に改めています。繁体字の古典と書き下し文を行き来する学習は、特別編へつながります。 ここでは、三つの大きな目標である三綱領を読みます。それを進める八つの事柄である八条目も読みます。音読みで知っている名前をまとめて唱えるだけでなく、本文の句の区切りを追います。 三つ並ぶ、道のありか 大学之道 の 之 は、ここでは 型編 4課 の 的 に当たります。続く三つの 在 は、道が何にあるかを示します。場所を示す言い方を手がかりに、学問の目指す所を読みます。 在明明德 :明らかな徳を明らかにすることにある。 在亲民 :民に親しむことにある。 在止于至善 :この上ない善にとどまることにある。 最初の句では、前の 明 が「明らかにする」という動詞です。後ろの 明德 がその対象です。同じ字が続いても、二つとも同じ働きではありません。 終わりの字を、次の頭へ 知止而后有定,定而后能静,静而后能安 では、前の句の終わりが次の句の頭に来ます。とどまる所を知ることから定まりへ、定まりから静けさへ、静けさから安らかさへと、一つずつ進みます。 この書き方を連鎖式と呼びます。 而后 は、前のことが済んでから後のことへ進むつなぎです。現代語の 然后 ・ 以后 を手がかりにできます。 続きまで追うと、 止 ・ 定 ・ 静 ・ 安 ・ 虑 ・ 得 の順です。後ろの二つも、考えることから得ることへとつながります。途中を飛ばすと、次へ進んだときに、前の何を受けているかが分からなくなります。 目的から戻り、結果へ進む 八条目の最初の向きは、天下から国、家、自分の身、心、意、知、物へと戻る向きです。何かをしようとするなら、そのためにまず何が必要かをたどります。 欲治其国者,先齐其家 は、国を治めようとする者は、まず家をととのえるという句です。 先 は動詞の前にあります。最後の段階だけは 致知在格物 と、 在 で結びます。 ここでの 先 を、単に昔の出来事を指す「以前」として読みません。国を治めようとするなら、まず家をととのえる必要があるという、前提の順です。 要…,就得先… (…するなら、まず…しなければならない)の形に言い直して確かめます。 治国 をしたいなら、まず 齐家 が要る、という順になります。 次は逆の向きです。 物格而后知至 から 国治而后天下平 へ、前のことができてから何が起きるかを述べます。物から知、意、心、身、家、国、天下へと進みます。 下りは目的の側から「そのためには何が要るか」を見ます。上りは結果の側から「そうすれば何が起きるか」を見ます。同じ事柄でも、語の順番までそのまま逆に並べればよいのではありません。 音読みの名前だけで一語のように読まないようにします。 修其身 は身を修めることですが、 身修 は身が修まることです。動作とその対象を述べる順と、整った状態を述べる順を、本文で書き分けます。 結びが戻る一点 長い連鎖の後で、天子から庶民まで、身を修めることが根本だと述べます。国や天下の話を経て、自分のあり方へ戻る結びです。根本と末端を切り離せない、という本文の考えがここへ集まります。 注: 以修身为本 と 其本乱而末治者否矣 は、それぞれ「修身を根本とする」「根本が乱れて末端が治まることはない」と読みます。練習で、この形を使って自分の文を一つ書きます。 語表 語 品詞 意味 日本語との差 例文 訳 大学 名詞 大人の学問 ここでは現在の学校名ではない 大学之道 大人の学問の道 道 名詞 道・進むべきあり方 ここでは道路ではない 大学之道 大人の学問の道 明德 名詞 明らかな徳 人の徳をいう 在明明德 明らかな徳を明らかにすることにある 明 動詞 明らかにする 最初の明は動詞 在明明德 明らかな徳を明らかにすることにある 亲民 句 民に親しむ 朱子は 新民 (民を新たにする)と読むが、ここでは字のまま読む 在亲民 民に親しむことにある 至善 名詞 この上ない善 到達する最善のあり方 在止于至善 この上ない善にとどまることにある 知止 句 とどまる所を知る 何を目指すかを知る 知止而后有定 とどまる所を知ってから定まりがある 定 名詞・動詞 定まり・定まる 目指す所が定まる 定而后能静 定まってから静かでいられる 静 形容詞 静かである 心の静けさ 静而后能安 静かであってから安らかでいられる 安 形容詞 安らかである 落ち着いていられる 安而后能虑 安らかであってから考えられる 虑 動詞 考える ここでは思慮すること 虑而后能得 考えてから得ることができる 本末 名詞 根本と末端 二つを対にする 物有本末 物には根本と末端がある 终始 名詞 終わりと始まり 順序を考える語 事有终始 事には終わりと始まりがある 先后 名詞 先と後 順番の違い 知所先后 何を先にし何を後にするかを知る 欲 助動詞 〜しようとする 願いや目的を示す 欲治其国者 その国を治めようとする者 治 動詞 治める ここでは国を治める 先治其国 まずその国を治める 齐 動詞 ととのえる ここでは家をととのえる 先齐其家 まずその家をととのえる 修 動詞 修める 自分のあり方をととのえる 先修其身 まずその身を修める 正 動詞 正す ここでは心を正す 先正其心 まずその心を正す 诚 動詞 誠にする ここでは意を誠にする 先诚其意 まずその意を誠にする 致知 句 知を十分にする 知を至らせること 致知在格物 知を至らせることは物の理を究めることにある 格物 句 物の理を究める この対訳での読み方 致知在格物 知を至らせることは物の理を究めることにある 修身 句 身を修める 自分のあり方をととのえる 壹是皆以修身为本 ひとえに皆、身を修めることを根本とする 天下 名詞 世の中 国より広い範囲 欲明明德于天下者 明らかな徳を天下に明らかにしようとする者 天子 名詞 国を治める天子 古い身分の名 自天子以至于庶人 天子から庶民に至るまで 庶人 名詞 庶民 古い身分の名 自天子以至于庶人 天子から庶民に至るまで 壹是 副詞 ひとえに・すべて 皆とともに読む 壹是皆以修身为本 ひとえに皆、身を修めることを根本とする 本 名詞 根本 木の根に当たる部分 以修身为本 身を修めることを根本とする 乱 動詞 乱れる 根本の乱れ 其本乱 その根本が乱れる 厚 動詞 厚く扱う ここでは大切に扱う 其所厚者薄 厚くすべきものを薄く扱う 薄 動詞 薄く扱う ここでは軽く扱う 而其所薄者厚 薄くてよいものを厚く扱う 対訳 三綱領と連鎖 大学の道は、明らかな徳を明らかにすることにあり、民に親しむことにあり、この上ない善にとどまることにある。とどまるところを知ってのちに定まりがあり、定まってのちに静かでいられ、静かでのちに安らかでいられ、安らかでのちに考えることができ、考えてのちに得ることができる。物には根本と末端があり、事にはおわりとはじめがある。何を先にし何を後にするかを知れば、道に近づく。 目的からたどる順 昔、明らかな徳を天下に明らかにしようとした者は、まずその国を治めた。その国を治めようとする者は、まずその家をととのえた。その家をととのえようとする者は、まずその身を修めた。その身を修めようとする者は、まずその心を正した。その心を正そうとする者は、まずその意を誠にした。その意を誠にしようとする者は、まずその知を至らせた。知を至らせることは、物の理を究めることにある。 結果へたどる順 物の理が究められてのちに知が至り、知が至ってのちに意が誠になり、意が誠になってのちに心が正しくなり、心が正しくなってのちに身が修まり、身が修まってのちに家がととのい、家がととのってのちに国が治まり、国が治まってのちに天下が平らかになる。 根本へ戻る結び 天子から庶民に至るまで、ひとえにすべて、身を修めることを根本とする。その根本が乱れていて末端が治まるということは、あり得ない。その厚くすべきものを薄くし、その薄くてよいものを厚くする、そのようなことでうまくいったためしは、いまだかつて無い。これを根本を知ると言い、これを知の極みと言う。 練習 本文から一字ずつ入れ、句を書いてください。 知止而后有_,_而后能静 本文から一字ずつ入れ、句を書いてください。 静而后能_,_而后能虑,虑而后能_ 本文の下りで、 先 のある六句を順に書き出してください。 前の問いでたどった事柄を、物から天下へ進む上りの順に書いてください。本文に合わせ、動作と対象の順にも注意します。 目指す所を先に知り、その後で定まれるという内容を、主語のある短い現代語の二文で書いてください。 先 ・ 然后才 を使います。 先に定まって、その後で静かでいられるという内容を、同じ形の短い現代語の二文で書いてください。 先に静かになり、その後で安らかでいられるという内容を、同じ形の短い現代語の二文で書いてください。 前の課で学んだ 放松・冷静・专心 を使って、前の句の最後の語を次の句の初めで繰り返す、連鎖の現代語の文を作ってください。 以…为本 の形で、自分にとっての根本を一文で書いてください。続けて、本文の 其本乱而末治者否矣 を現代語に言い換えて書いてください。 三綱領を日本語で三つ書き、本文のどの三句に当たるかを示してください。 八条目を二つの向きで書く理由を、「目的の側」「結果の側」を使って日本語で二、三文にしてください。 読編で学んだ読み方のうち、この篇で特に役立ったものを一つ挙げ、本文の語を根拠に一文で説明してください。 戻り語 本文の語を使って、根本と結果を確かめます。 戻り語の 修身 を使い、誰もが身を修める必要があるという本文の考えを、短い現代語にしてください。 戻り語の 明德 を含む三綱領の句を一つ写し、動詞の字と、その対象を分けて示してください。 戻り語の 天下 を使い、国が治まってから天下が平らかになるという内容を、短い現代語へ替えてください。 音読 ▶で本文を聞き、八条目の下りと上りを読みます。下りは同じ形の連なりを一つの流れとして読み、息は句の切れ目で継ぎます。上りは一段ずつゆっくり止まり、前の終わりを次へ受け渡します。 この篇のまとめ 前の句の終わりを次の頭へ置くと、意味が鎖のようにつながります。八条目は、目的から必要なことへ戻る順と、整ったことから結果へ進む順の両方で読みます。結びでは、その長い連鎖を身を修めるという一点へ戻します。 次の篇へ 次の7.9は作編「評論 — 反論は、受け取ることから始まる」です。相手の主張を、相手が認める形に言い直します。どこまで同意するかを決めてから、争点を一つに絞って書きます。 答え 知止而后有定,定而后能静 。前の終わりと次の頭が同じ字です。 静而后能安,安而后能虑,虑而后能得 。安らかさ、思慮、得ることの順です。 順に 先治其国 ・ 先齐其家 ・ 先修其身 ・ 先正其心 ・ 先诚其意 ・ 先致其知 です。最後は 致知在格物 と結びます。 物格 ・ 知至 ・ 意诚 ・ 心正 ・ 身修 ・ 家齐 ・ 国治 ・ 天下平 です。下りの名前をただ逆順にせず、上りの本文の形を写します。 我先明确目标。 然后我才能定下来。 我先定下心来。 然后我才能平静。 我先平静。 然后我才能安宁。 我先放松,放松了才能冷静。 冷静了才能专心。 我以诚信为本。 根本乱了,末端不可能治好。 明らかな徳を明らかにすること、民に親しむこと、最善にとどまることです。 在明明德 ・ 在亲民 ・ 在止于至善 に当たります。 下りは目的の側から、実現するために何が先に必要かをたどります。上りは結果の側から、一つが整うと次に何が整うかをたどります。同じ関係を両方の向きから示しています。 同じ語が戻る位置を追う読み方が役立ちます。 定 ・ 静 ・ 安 が前の句の終わりから次の頭へ渡るため、意味のつながりを追えます。 人人都要修身。 在明明德 。動詞は最初の 明 、対象は 明德 です。 国家治理好了,天下才会太平。 参考文献 戴聖ら(前漢の編とされる)『禮記 大學(冒頭)』( 大学之道,在明明德,在亲民,在止于至善。 )。大學篇冒頭の三綱領と八条目を含む抄。繁体字を簡体字に改めた。成立から二千年以上を経たパブリックドメインの古典。出所:https://zh.wikisource.org/wiki/禮記/大學