12.9 英語のユーモアと礼儀 — Epoché
この課で分かるようになること ★ 言わないことで言う やり方を、例で説明できる。 ★ 皮肉 がどういうものかを知り、 自分では使わない と決められる。 ★ 謝罪の語を出しすぎない ようにできる。 英語のユーモアが 大まじめな顔で言われる ことに気づける。 前提 : 12.8 まで。読は 8.72 まで。話は 6.24 まで。 ★言わないことで言う 英語の礼儀は、 ことばを足すことで丁寧になる ——そう教わることが多いと思います。★ 半分だけ正しい のです。 もう半分は 引き算 です。 言わずにおくことで、相手に受け取らせる 。★ 重いことほど、短く、遠回しに言われます。 8.69 読編 — 死を言わずに告げる メアリに両親の死を告げる場面です。若い男は、こう言うだけです。 There is nobody left to come. [1] ★ 「死んだ」とも「両親」とも言っていません。 来る者が一人もいない 、とだけ。 それでも、伝わります。そして、★ 直接言うより重く伝わります 。 なぜでしょうか。★ 聞いた側が、自分で言葉にするから です。「来る者がいない」→「誰も残っていない」→「両親は死んだ」—— この道を、自分で歩きます 。人に言われたことより、 自分でたどり着いたことのほうが深く入ります 。 8.67 読編 — 名を呼ばない コレラが広がった朝、大人たちは病気の名を 一度も言いません 。 Is it so very bad? Oh, is it? [2] ★ it だけで話しています。 口に出したくない からです。そして、 相手も分かっているから、言わなくて済みます 。 ★ これは礼儀ではなく、恐れです。 けれども、働き方は同じです—— 言わずにおいて、相手に受け取らせる 。 日本語にも同じことがあります。「あのこと」「例の件」。★ 言わないという選択は、どの言語にもあります。 違うのは、 どこで使うか です。 依頼と断り 6.17 話編 からの話編で、 丁寧さの段 を練習してきました。★その中心にあるのも、同じ考え方です。 直接言うと 英語ではこう言う 何をしているか 窓を閉めろ Could you close it? ★ できるかどうか を聞いている いやだ I'm afraid I can't. ★ 残念だ と言っている それは違う I'm not sure. ★ 自信が無い と言っている ★ 三つとも、本当の用件を言っていません。 できるかどうかを聞き、残念がり、自信が無いと言う。 けれども、意味は届きます。 ★ これが英語の丁寧さの正体です。 「です・ます」のような形が無いぶん、 言い方をずらすこと で同じ働きをさせています。 ★皮肉 皮肉 とは、言っていることと 思っていることが逆 の言い方です。ひどい天気の日に「いい天気だね」と言う、あれです。 ★ 英語では、皮肉がよく使われます。 とくにイギリスでは、 会話の当たり前の部品 になっています。 見分け方 どこを見るか 何が起きているか ★ 場面と合っているか ほめことばが、ほめる場面でない 声の調子 ★ 平らすぎる か、大げさすぎる ★ 言いすぎていないか 同じことを何度も言う 三つめの例が、読んだ篇にあります。 8.72 読編 の小男です。 I see clearly! [3] ★ これは皮肉ではありません。 小男は本気で言っています。けれども、 言いすぎているせいで、分かっていないことが読者に伝わります 。 ★ 言いすぎは、裏を見せます。 皮肉が働くのも、同じ仕組みです。 大げさに言うと、逆に聞こえる 。 ★自分では使わない この課でいちばん言いたいのは、これです。★ 外国語で皮肉を言ってはいけません。 なぜか どうなるか 声の調子が足りない ★ 本気で言ったと取られる 相手との間柄が要る 知らない相手には通じない ★ 失敗すると取り返せない 冗談だったと言っても遅い ★ 分かるようになることと、使えるようになることは別です。 読んで分かるのは、早くできます。自分で言うのは、 ずっとあとでいい 。 8.63 読編 で「知らずに外れたのが間違い、知って外れたのが工夫」と言いました。★ 皮肉も同じです。 使えるのは、 使わなくても言える人 だけです。 ★謝罪の型 日本語話者が、 英語でいちばんやりがちな失敗 を置きます。 ★ 「すみません」を、そのまま英語にしてしまう ことです。 日本語の「すみません」は謝罪ではない どんな場面か 日本語では 英語では 人を呼びとめる すみません Excuse me 物を取ってもらった すみません ★ Thank you 道をあける すみません Excuse me ★本当に悪いことをした すみません I'm sorry ★ 四つのうち、謝罪は一つだけです。 日本語は、この四つを 同じ一語でまかなって います。 英語にはできません。そして、★ 全部を I'm sorry にすると、困ったことが起きます 。 ★非を認めたことになる I'm sorry は、 二つの意味 を持っています。 どちらの意味か どういうときか 気の毒に思う 相手に悪いことが起きたとき。自分のせいではない ★ 自分が悪かった 自分のせいで相手が困ったとき ★ 場面で決まります。 そして、 自分に関わりのある場面 で言えば、 二つめに取られます 。 たとえば、事故のあとで I'm sorry と言うと、★ 「自分が悪かった」と認めた と受け取られることがあります。日本語のつもりで とりあえず謝った だけなのに、です。 ★ だから、謝罪の語は数えて使ってください。 礼を言うところでは礼を言い、呼びとめるときは呼びとめる語を使う。 謝るのは、本当に謝るときだけ です。 6.19 話編 で「言い直して足す」形を練習しました。★謝るときも同じで、 一度言って、何をどうするかを続けます 。くり返し謝るより、 これからどうするかを言うほうが 通じます。 ★ユーモアは、大まじめな顔で 英語のユーモアには、 はっきりした癖 があります。 ★ 笑わせにきていることを、言いません。 8.70 読編 — 乾いた終わり方 さるが犬を打ち負かす場面で、さるは勝ったあとも やめません 。 left him senseless on the ground [4] そして、語り手は 何も言いません 。「ひどい」とも「面白い」とも。★ そこで終わりです。 ★ 書き手が感想を言わないことが、この文章の味になっています。 読む人は、 自分で驚くか、笑うか を選べます。 8.63 読編 のキプリングも同じです。辞書に無い語を作り、でたらめな由来を語りながら、★ 一度も「これは冗談だ」と言いません 。 日本語のユーモア 英語のユーモア ★ 笑うところを示す ことがある ★ 示さない 声や表情でやる 語の選び方でもやる 話し手も一緒に笑う ★ まじめな顔のまま ★ だから、気づかずに通り過ぎることがあります。 「変なことを言っているな」と思ったら、 冗談かもしれない と考えてみてください。 やってみる ★読 C の篇から、 直接言っていないのに伝わっている ところを二つ探す。そして、 直接言ったらどうなるか を一行ずつ書いてみる。 ★自分が一日のうちに 「すみません」と言った回数 を数える。そして、そのうち 本当に謝ったのは何回か を数える。 日本語の冗談を一つ思い出して、 笑うところが示されているか を確かめる。示されていたら、★ 示さずに言う言い方 を考えてみる。 この課のまとめ ★ 英語の礼儀は、言わないことで言う。 重いことほど、短く、遠回しに。 ★ 聞いた側が自分で言葉にするから、深く入る。 人に言われたことより、自分でたどり着いたことのほうが残る。 英語の丁寧さは、 言い方をずらすこと で作られる。「です・ます」のような形が無いから。 ★ 言いすぎは、裏を見せる。 皮肉が働くのも同じ仕組み( 8.72 読編 )。 ★ 外国語で皮肉を言ってはいけない。 本気で言ったと取られ、取り返せない。 ★ 分かるようになることと、使えるようになることは別。 ★ 日本語の「すみません」は、謝罪でないことが多い。 英語では、礼・呼びかけ・謝罪を言い分ける。 ★ I'm sorry は 非を認めたと取られる ことがある。謝罪の語は数えて使う。 くり返し謝るより、 これからどうするかを言う ( 6.19 話編 )。 ★ 英語のユーモアは、笑わせにきていることを言わない。 まじめな顔のまま( 8.63 読編 ・ 8.70 読編 )。 次の課へ 次の課は 13.5 、 復編 —— 第 3 期の門 です。第 3 期で積んだものを、ここでまとめて確かめます。★この期に学んだのは、 型が八つ、語が七百二十、聞くが六課、話すが八課、訳すが二課、読むが三十二篇、論が四課、作が四課 。 できていないところを見つけるための課 です。見つかったら、その課に戻ってください。 答え 一つめの課題について、 例を二つ 置きます。 ★ 8.69 読編 ——「来る者は誰もいない」。直接言えば「お父さんもお母さんも亡くなりました」。★ 直接言うと、告げる側の文になります。 遠回しに言うと、 受け取る側の文 になります。この場面の相手は子どもです。 受け取る速さを、本人にまかせている のです。 ★ 8.68 読編 ——「深く眠っているあいだに、多くのことが起きた」。直接言えば、両親が死に、遺体が運び出され、使用人が逃げた、と書くことになります。★ 書かないことで、大きさが出ています ( 8.68 読編 で扱ったとおり)。★ 礼儀の間接さと、書き方の省略は、同じ形をしています。 参考文献 原文の出所: Frances Hodgson Burnett『The Secret Garden』(1911), "Chapter I THERE IS NO ONE LEFT(4/4)"。パブリックドメイン(Project Gutenberg #113)。原文は 1 字も変えていない。https://www.gutenberg.org/ebooks/113 原文の出所: Frances Hodgson Burnett『The Secret Garden』(1911), "Chapter I THERE IS NO ONE LEFT(2/4)"。パブリックドメイン(Project Gutenberg #113)。原文は 1 字も変えていない。https://www.gutenberg.org/ebooks/113 原文の出所: William Holmes McGuffey『McGuffey's Fourth Eclectic Reader』(1879), "LVI. KNOWLEDGE IS POWER. (151)"。パブリックドメイン(Project Gutenberg #14880)。原文は 1 字も変えていない。https://www.gutenberg.org/ebooks/14880 原文の出所: William Holmes McGuffey『McGuffey's Fourth Eclectic Reader』(1879), "VIII. THE MONKEY. (39)"。パブリックドメイン(Project Gutenberg #14880)。原文は 1 字も変えていない。https://www.gutenberg.org/ebooks/14880