11.61 魏學洢 核舟記 — 其の長さを計るに、曾て寸に盈たず — Epoché
この篇でできるようになること 舟を見て回る順を、各段の初めの句で示せます。 およその寸法と正確な総数を訳し分けられます。 人を特定する形と物を数える形を現代語にし、最後の驚きを説明できます。 前提 :11.60「王安石 傷仲永」。人物の変化を追った後、目の前の小さな彫り物を順に見る記を読みます。 文学を彫った舟を、文章にする 魏學洢は明末の人です。王叔遠という名工から、桃の種を彫った舟を贈られ、その姿を書き留めました。王叔遠の名は毅で、舟の背の文字にもその名が現れます。 彫られた場面は 大蘇泛赤壁 、蘇軾が赤壁に舟を浮かべる所です。へさきには蘇軾、僧の佛印、黃庭堅がいます。本文では蘇軾を東坡、黃庭堅を魯直とも呼ぶので、別々の人として数えないようにします。 窓には『後赤壁賦』の 山高月小,水落石出 と、『前赤壁賦』の 清風徐來,水波不興 が刻まれています。文章の場面を彫り物にし、その彫り物をまた文章で見せる記です。 外から中へ、へさきから背へ 初めに名工と舟を紹介し、次に寸法を置きます。船室と窓を見た後、へさきの三人、ともの二人へ移ります。舟の背の文字を読んで、最後に全体を数えます。 段の初めの 舟首尾長約八分有奇 、 船頭坐三人 、 舟尾橫臥一楫 、 其船背稍夷 、 通計一舟 が、見る場所を移す目印になります。 全体の長さを知ってから窓を開け、前と後ろの人物を見て、背へ回ります。読む側も、手に取って向きを変えながら見ているように、順をたどれます。 あまり、ばかり、と端数の足し算 長約八分有奇 は、長さがおよそ八分あまりということです。 有奇 の 奇 は jī と読み、端数、あまりを表します。名工を紹介する 奇巧 の qí とは読みが違います。 高可二黍許 は、高さが黍の粒二つばかりということです。 可 ・ 許 でおよその量を示します。寸法は本文の概数のまま受け取ります。 数のすぐ後の 有奇 を、めずらしい物がある、としないでください。 奇 の読みと置かれる位置を合わせ、八分あまり、と読みます。 一方、 三十有四 の 有 は、又に当たり、十の位に端数を足します。こちらは三十四という正確な総数で、およその数ではありません。 誰かを特定する形、物を数える形 中軒敞者為艙 は、中で高く広くなった所が船室であるという文です。 者 で前の説明を受け、 為 で何であるかをつなぎます。 中峨冠而多髯者為東坡 も、真ん中で高い冠を着け、ひげが多い人が東坡だ、という同じ形です。現代語の 是 を使って、特徴と名前をつなげられます。 総計の 為人者五,為窗者八 は、人として作られたものが五つ、窓として作られたものが八つということです。作られた物を 者 でまとめ、その後ろへ数を置きます。現代語では 的 と量詞を使い、何を数えるかを示せます。 同じ字の並びに見えても、人の特徴から名前を特定する所と、作った物の総数を述べる所があります。 型編 2課 の判断と、 型編 4課 の修飾、 型編 7課 の数え方を使い分けます。 材料に合わせ、字には色を付ける 名工の紹介の 罔不因勢象形 は、材料の形に合わせて姿をかたどらないものはない、という二重否定です。 罔 は無に当たり、 不 と重ねて、どれもそうするという意味を強く出します。 窓の文字を述べた後の 石青糝之 は、石青という青い顔料を字にまぶすことです。 石青 という名詞を動詞の前に置き、石青で、という材料や道具を表しています。 これを名詞の状語用法として読みます。現代語なら 用 を立てて表せます。この文では、何を使って字に色を付けるかを示しています。 啟窗而觀 と 閉之 には、開けて見る人、閉じる人の主語がありません。見る人の動きとしてつなぎます。後にある 佛印居右 や 東坡右手執卷端 のように、する人が書かれた文と分けましょう。 手と足を、一つずつ追う へさきの三人は、右手、左手、右足、左足という順に細かく描かれます。東坡が巻物の端を持つ手と、魯直の背に添える手を分け、魯直も巻物を持つ手と指す手を分けます。 其兩膝相比者,各隱卷底衣褶中 では、並んだ両膝が巻物の下の衣のひだに隠れていると述べます。この句には、何々のようだ、という字は付いていません。隠れている位置の説明として読めます。 佛印では、立てる膝、伏せる膝、舟を支える腕、数珠を掛けた腕を一つずつ置きます。小さな人の姿を、ただ細かいとほめるのではなく、どこに何があるかを順に示すことで細かさを伝えます。 彫り物から音を想像する ともの右の船頭は 若嘯呼狀 、口笛を吹き呼ぶような姿です。左の船頭は 若聽茶聲然 、茶の煮える音を聞いているようです。動かない彫り物の姿から、音まで思い描いています。 ここは、実際に彫り物が音を出したという記録ではありません。 若 や 然 を付け、そう見える様子として書いています。一方、衣のひだに隠れた膝の句は、位置をそのまま述べています。 数え尽くしてから、一寸にも満たない 背には、刻んだ時と作者の名、篆書の印があります。細い文字の画や、墨色と朱色まで述べ、見終えた後で総計に入ります。 人五つ、窓八つ、道具はそれぞれ一つです。字は、窓の二組の句が各八字で十六字、題名が十四字、篆書が四字なので、合計三十四字です。本文の字を数えて確かめてみましょう。 その後の 而計其長,曾不盈寸 で、それなのに長さを測れば一寸にも満たないと述べます。 曾 は zēng と読み、なんと、まったく、という否定の強めです。 書き下しの「曾て」を、日本語の以前という意味にしないでください。昔は一寸に満たなかったのでなく、これほどあるのに一寸にも満たない、という驚きです。 最初に寸法を置いた後、窓と人と道具と字を数え上げ、最後に小ささへ戻ります。たくさんの物が収まることを読んだからこそ、一寸にも満たないという結びが強く響きます。 語釈 語 品詞 意味 日本語との差 例文 訳 貽 動詞 贈る 作者が受け取る 嘗貽余核舟一 かつて私に核舟を一つ贈った 有奇 概数の語 〜あまり 端数があること 長約八分有奇 長さはおよそ八分あまり 黍 名詞 黍の粒 高さを比べる小さな単位 高可二黍許 高さは黍二粒ばかり 軒敞 形容詞 高く広々している 船室を特定する特徴 中軒敞者為艙 中の高く広い所が船室である 髯 名詞 ひげ 人物を見分ける特徴 中峨冠而多髯者 真ん中の高い冠でひげの多い人 糝 動詞 まぶす 顔料を付ける 石青糝之 石青を字にまぶす 夷 形容詞 平らだ 人や国の呼び名ではない 其船背稍夷 舟の背はやや平らである 了了 形容詞 はっきりしている 細い画の見え方 鉤畫了了 はねや画がはっきりしている 曾 副詞 なんと・まったく ここは以前ではない 曾不盈寸 なんと一寸にも満たない 練習 次の句を本文の順に並べ、どこを見る段かも答えてください。 其船背稍夷 / 通計一舟 / 船頭坐三人 / 舟首尾長約八分有奇 / 舟尾橫臥一楫 原文どおりに字を補って書いてください。 長約八分有_,高_二黍_ 原文どおりに字を補って書いてください。 為字共三十_四 原文どおりに字を補って書いてください。 _不因勢象形 為人者五,為窗者八 と 中峨冠而多髯者為東坡 を現代語へ言い換えてください。 書き下し「而して其の長さを計るに、曾て寸に盈たず」を、接続の字も含めて原文の字順に書き戻してください。 核舟を見ている場面を、 窗子 ・ 眼镜 ・ 台上 ・ 箱子 を使う短い現代語の三文で書いてください。 戻す語 仔细 を使い、小さな彫り物を見る文を現代語で書いてください。 其兩膝相比者,各隱卷底衣褶中 と 若嘯呼狀 ・ 若聽茶聲然 は、何が違う書き方ですか。二文で答えてください。 曾不盈寸 の 曾 は、日本語の「かつて」と何が違いますか。一文で答えてください。 長約八分有奇 と 為字共三十有四 を訳し、二つの 有 の働きの違いを一文で書いてください。 音読:次の原文の句を ▶ で聞き、声に出して読んでください。 而計其長,曾不盈寸 「 而計其長 」の後で間を置いてください。「 曾不盈寸 」は、驚きが伝わるようにはっきり言い切ります。 この篇のまとめ 舟を見て回る順に、位置と数を確かめました。概数と総数、人物を特定する形と数える形を分け、積み上げた細かさを最後の小ささへ戻す結びを読みました。 次の篇へ 次の11.62では林嗣環の口技を読みます。屏風の後ろの一人が夜の家と火事を演じ、見える物に代わって聞こえる物を数え上げる文章です。 答え 舟首尾長約八分有奇 (寸法)→ 船頭坐三人 (へさき)→ 舟尾橫臥一楫 (とも)→ 其船背稍夷 (背)→ 通計一舟 (総計)です。 長約八分有奇,高可二黍許 為字共三十有四 罔不因勢象形 人有五个,窗有八个。 中间戴高帽、胡子多的是东坡。 而計其長,曾不盈寸 台上有一个小箱子,箱子里放着核舟。 我戴着眼镜看窗子。 窗子上有小字。 我仔细看船上的人。 両膝は衣のひだに隠れていると述べ、その句には「ようだ」の形がありません。音に関わる二句は、口笛を吹くような姿、茶の音を聞くようだと書き、姿から音を想像しています。 「かつて」は以前を表しますが、ここの 曾 は否定を強め、なんと一寸にも満たない、という驚きを表します。 長さはおよそ八分あまり、字は全部で三十四。前の 有奇 は端数があることを表すおよその数で、後の 有 は又に当たり、三十に四を足した正確な数を表します。 参考文献 魏學洢『核舟記』。パブリックドメイン(著者没後70年経過)。本文は抄。 出所: https://zh.wikisource.org/wiki/核舟記