9.3 之の四つの顔 — 代詞・連体・主述のあいだ・ゆく — Epoché
この課でできるようになること 之 の四つの働きを、前後の語を手がかりに分けられます。 主語と述語のあいだの 之 が、文を名詞のまとまりにすることを説明できます。 書き下し文から、 之 のある原文を書き戻せます。 連体・代詞・動詞の 之 を、現代中国語へ言い換えられます。 前提 :9.2。否定の右側を確かめた読み方を、 之 の前後にも使います。 四つの働きを、一字で受け持つ 特別編を読むと、 之 に何度も出会います。ところが書き下し文では、「之を」と字が残るところも、「の」と仮名になるところもあります。同じ一字を、毎回同じ意味にすることはできません。 この課では四つに分けます。何かを指す代詞、名詞を結ぶ連体の語、主語と述語のあいだに置く語、そして「ゆく」という動詞です。まず表の例を読み、 之 のすぐ左と右に何があるかを見ます。 働き 書き下し 前後の目印 原文の例 代詞 これを・それを 動詞の後ろで、その対象を受ける 時習之 [1] 連体 の 名詞のまとまりと名詞を結ぶ 千里之行 [2] 主述のあいだ の 左が主語、右が述語 松柏之後彫 [3] 動詞 ゆく この例では右に行き先がある 輟耕之壟上 [4] 表の目印は、前後を読むための入口です。右に名詞があるだけで決めず、左の語と合わせて見ます。文全体にどんな働きが必要かを考えます。同じ「の」と読む二つも、右側が名詞か述語かで分けます。 動詞の対象を受ける代詞 學而時習之 [1] は、「學びて時に之を習ふ」です。 之 は習うという動詞の後ろで、習う対象を受けています。何をおさらいするのかは、この一字だけでは決まりません。 前へ戻ると、学ぶことが述べられています。ここでは、学んだことを受けて「それを」と言っています。代詞を見つけたら、その前に出た物事や人へ戻ります。その中から、動詞の対象になるものを探します。 現代語なら、物事を受ける 它 や、人を受ける 他 などを置く働きに当たります。 之 の字だけを見て、人か物かまで決めることはできません。指しているものを先に確かめ、その後で現代語の代詞を選びます。 名詞を結ぶ、連体の「の」 千里之行始於足下 [2] の初めは、千里の旅です。 千里 というまとまりが、 行 という名詞を説明します。 之 は二つを結ぶ「の」に当たります。 この文は、その旅が足もとから始まると述べています。先に「千里の旅」を一まとまりにすれば、それが何をするのかを続けて読めます。 之 を毎回「これ」とすると、このまとまりが作れません。 現代語では 的 を使う連体の形に当たります。 型編 4課 で見た、前の語が後ろの名詞を説明する関係です。 主語と述語を、名詞のまとまりにする 歲寒,然後知松柏之後彫也 [3] では、寒い季節になってはじめて、松や柏がほかの木よりしぼむのが遅いことが分かると述べています。 松柏之後彫 [3] の左側は松や柏という主語、右側はしぼむのに後れるという述語です。二つの名詞を並べているのではありません。主語と述語のあいだに 之 を置き、「松や柏のしぼむのが遅いこと」というまとまりにしています。 そのまとまり全体が、 知 の対象です。日本語でも「彼が来るのを知る」と言えます。「彼が来る」という文を、「の」で知る対象にする働きと比べてみてください。 書き下しの「松柏の彫むに後るる」を、名詞と名詞の「の」だと思いやすくなります。彫むに後るる(しぼむのが遅い)、は松や柏について述べた部分です。右が述語だと分かれば、千里の旅との違いが見えます。 まとまりが、次の判断の主語になる 吾妻之美我者、私我也 [5] は、妻が私を美しいと言うのは、私をひいきしているからだ、という説明です。妻が、私を美しいとする、という主述の関係に 之 が入っています。 ここでは 吾妻之美我者 [5] が一まとまりになり、続く判断の主語になります。前の例では知る対象、今度は判断の主語です。文の中の置き場所が違っても、主語と述語をまとめる働きに注目できます。末尾の 者 は、次の課で詳しく扱います。 場所へ向かう動詞「ゆく」 輟耕之壟上 [4] は、「耕すを輟めて壟上に之き」です。畑を耕すのをやめて、あぜへ行くという二つの動作が続きます。ここでは 之 が、行くという動詞です。 右側の 壟上 は行き先です。連体の「の」だと考えて「あぜの」とつなごうとしても、この動作の流れを読めません。先に耕すのをやめ、その次にどうしたのか、と考えます。すると、行くという働きが必要だと分かります。 現代語なら 去 に当たります。助詞だと決めつけず、前後の動作と場所を見てください。 之 の一字が現代語では別々の語に当たります。そのため、言い換えは読み分けを確かめる練習にもなります。 全訳 6 の 吾將瞷良人之所之也 [6] は「吾將に良人の之く所を瞷はんとするなり」で、 良人之所之 に 之 が二つあります。一つ目は 良人 と後ろの 所之 を結ぶ「の」、二つ目は「之く」と読む動詞です。「良人の之く所」は夫の行く先です。 所 は次の課で詳しく扱います。 書き下しと、原文の位置を合わせる 書き下し文では、連体と主述のあいだの 之 を、どちらも「の」と読むことがあります。一方、この課では代詞を「之を」、動詞を「之き」と書いています。字が残るのは代詞だけ、とは言えません。 字の有無だけで働きを決めないようにします。原文の 之 に先に目を留め、その位置が書き下しのどこに当たるかを追います。書き下しの語順は日本語に合わせて動きます。そのため、隣り合う語だけでなく、動詞と対象、動詞と行き先の組を見ます。 「の」だけを読んでいると、原文に 之 があることを忘れがちです。原文と書き下しを行き来し、どの字がどの仮名や語尾に当たるかを確かめましょう。 語表 語 品詞 意味 日本語との差 例文 訳 之 代詞・連体の語など これ・の・ゆく 前後で四つの働きを分ける 時習之 [1] 折にふれてそれをおさらいする 習 動詞 おさらいする 学んだことを繰り返す 時習之 [1] 折にふれてそれをおさらいする 千里 数量のまとまり 千里 ここでは旅の長さ 千里之行 [2] 千里の旅 行 名詞 旅 この句では動詞でない 千里之行 [2] 千里の旅 始 動詞 始まる 後ろに起点が続く 始於足下 [2] 足もとから始まる 足下 名詞 足もと この文では起点 始於足下 [2] 足もとから始まる 歲寒 名詞のまとまり 寒い季節 松や柏を見る条件 歲寒,然後知 [3] 寒い季節になってはじめて分かる 松柏 名詞 松と柏 しぼむ時期を述べる主語 松柏之後彫 [3] 松や柏のしぼむのが遅いこと 後彫 述語のまとまり しぼむのに後れる 後ろにある物という名詞でない 松柏之後彫 [3] 松や柏のしぼむのが遅いこと 輟 動詞 やめる 耕すのをやめる 輟耕 [4] 耕すのをやめる 耕 動詞 耕す 次に移動の動作が続く 輟耕 [4] 耕すのをやめる 壟上 名詞 あぜ 行き先を示す 之壟上 [4] あぜへ行く 美 動詞 美しいと思う この文では他人を美しいとする 美我 [5] 私を美しいと思う 私 動詞 ひいきする ここでは私という代詞でない 私我也 [5] 私をひいきしているからだ 全訳 原文の全訳です。この課程のために、原文に沿って訳しました。番号は原文の段落の番号で、原文と行き来できます。 先生が言われた。「学んで、折にふれてそれをおさらいする。なんと喜ばしいことではないか。友が遠いところから訪ねてくる。なんと楽しいことではないか。人が自分を認めてくれなくても恨まない。それこそ君子ではないか。」 ひとかかえもある大木も毛の先ほどの芽から生じ、九層の高い台も積み重ねた土から築かれ、千里の旅も足もとの一歩から始まる。 先生が言われた。「寒い季節になってはじめて、松や柏がほかの木よりも後までしぼまずに残ることがわかる。」 陳渉は若いころ、人に雇われて畑を耕していたことがある。耕すのをやめて畑のあぜに行き、長いあいだ嘆き恨んでいたが、やがて言った。「もし富や地位を得ても、たがいに忘れないようにしよう。」 妻がわたしを美しいと言うのは、わたしをひいきしているからだ。妾がわたしを美しいと言うのは、わたしを恐れているからだ。客がわたしを美しいと言うのは、わたしに何か頼みたいことがあるからだ。 それなのに、これまで身分の高い人が訪ねてきたことは一度もない。わたしは夫の行く先をこっそりうかがってみようと思う。 練習 前後を見て、原文を書き戻す 次の 之 を四つの働きに分け、前後の目印を書いてください。 時習之 [1] / 千里之行 [2] / 松柏之後彫 [3] / 輟耕之壟上 [4] 「千里の行」を、原文の字の順で書き戻してください。 「松柏の彫むに後るる」を、原文の字の順で書き戻してください。 「耕すを輟めて壟上に之き」を、原文の字の順で書き戻してください。 空欄に 之 が必要かを考え、原文の形で書いてください。 學而時習_ 空欄に 之 が必要かを考え、原文の形で書いてください。 千里_行始於足下 空欄に 之 が必要かを考え、原文の形で書いてください。 然後知松柏_後彫也 現代語の形と比べる 千里之行 [2] を、現代語の 的 を使った名詞のまとまりに替えてください。 時習之 [1] の 之 を、学んだ事柄を指す 它 に替え、主語を 我 として現代語の一文を書いてください。 輟耕之壟上 [4] を現代語へ言い換え、 之 に当たるところを 去 にしてください。主語は 他 とします。 代詞の 之 が何を指すかは、どこを見れば分かりますか。 然後知松柏之後彫也 [3] で、 知 の対象はどこからどこまでですか。また、 吾妻之美我者、私我也 [5] の 吾妻之美我者 は、何の主語になっていますか。 前の語で、名詞のまとまりを作る 語 窗子 ・ 喜爱 ・ 姐妹 を一語ずつ使い、 的 を含む名詞のまとまりを三つ作ってください。「これは〜です」の文に入れます。五問を通して、名詞+的+名詞と、主語+動詞+的+名詞を、それぞれ一つ以上使ってください。 語 毛衣 ・ 感兴趣 ・ 阿姨 を一語ずつ使い、 的 を含む名詞のまとまりを三つ作ってください。「これは〜です」の文に入れます。五問を通して、名詞+的+名詞と、主語+動詞+的+名詞を、それぞれ一つ以上使ってください。 語 植物 ・ 天真 ・ 宝宝 を一語ずつ使い、 的 を含む名詞のまとまりを三つ作ってください。「これは〜です」の文に入れます。五問を通して、名詞+的+名詞と、主語+動詞+的+名詞を、それぞれ一つ以上使ってください。 語 打扫 ・ 优秀 ・ 女士 を一語ずつ使い、 的 を含む名詞のまとまりを三つ作ってください。「これは〜です」の文に入れます。五問を通して、名詞+的+名詞と、主語+動詞+的+名詞を、それぞれ一つ以上使ってください。 語 鲜花 ・ 放松 ・ 独自 を一語ずつ使い、 的 を含む名詞のまとまりを三つ作ってください。「これは〜です」の文に入れます。五問を通して、名詞+的+名詞と、主語+動詞+的+名詞を、それぞれ一つ以上使ってください。 之 の位置で立ち止まって読む 原文を▶で聞いてから、中国語の音で通して読んでください。二度目は之で止まり、四つのどの働きかを言ってから進みます。書き下し文に移り、対応する「之を」「の」「之き」などを探してください。 この課のまとめ 代詞の 之 は、前の話から対象を受けます。 連体は名詞を結び、主述のあいだの 之 は文を名詞のまとまりにします。 場所へ行く動詞の 之 もあります。 書き下しに字が残るかだけで決めず、原文の位置と働きを追います。 次の課へ 次の9.4では、 者 と 所 を読みます。どちらも「〜するもの」と訳せても、取り出す向きと置く位置が違います。 所 の右を読み、まとまりの終わりを探します。 答え 順に、代詞・連体・主述のあいだ・動詞です。習う対象を受ける位置、名詞を結ぶ位置、 松柏 という主語と 後彫 という述語のあいだ、行き先の壟上の前、を見ます。 千里之行 [2] 松柏之後彫 [3] 輟耕之壟上 [4] 學而時習之 [1] 千里之行始於足下 [2] 然後知松柏之後彫也 [3] 千里的旅程 です。旅の長さを、後ろの名詞に結び付けます。 我时常复习它。 他停下农活,去了田埂上。 之より前の話を見ます。動詞の対象となる物事や人を探します。この課の習う例なら、前に述べた学んだことです。 这是我房间的窗子。 这是我喜爱的书。 这是我们姐妹的房间。 这是阿姨的毛衣。 这是我感兴趣的书。 这是我阿姨的书。 这是我家的植物。 这是天真的孩子。 这是我家宝宝的书。 这是我打扫的屋子。 这是优秀的学生。 这是那位女士的书。 这是我买的鲜花。 这是我放松的地方。 这是我独自去的地方。 松柏之後彫 までです( 也 は文末の字)。主語 松柏 と述語 後彫 のあいだに 之 が入り、全体が名詞のまとまりとして 知 の目的語になっています。 吾妻之美我者 は、続く 私我也 (私をひいきしているからだ)という判断の主語です。 参考文献 孔子の弟子たち『論語 學而』( 時習之 、 學而時習之 )。パブリックドメイン(著者没後70年経過)。引用は当館の特別編にある同じ原文から。 出所: 特別編 1篇 老子『老子 第六十四章』( 千里之行 、 千里之行始於足下 、 始於足下 )。パブリックドメイン(著者没後70年経過)。引用は当館の特別編にある同じ原文から。 出所: 特別編 11篇 孔子の弟子たち『論語 子罕』( 松柏之後彫 、 歲寒,然後知松柏之後彫也 、 歲寒,然後知 、 然後知松柏之後彫也 )。パブリックドメイン(著者没後70年経過)。引用は当館の特別編にある同じ原文から。 出所: 特別編 6篇 司馬遷『史記 陳涉世家』( 輟耕之壟上 、 輟耕 、 之壟上 )。パブリックドメイン(著者没後70年経過)。引用は当館の特別編にある同じ原文から。 出所: 特別編 89篇 劉向『戰國策 齊策一』( 吾妻之美我者、私我也 、 吾妻之美我者 、 美我 、 私我也 )。パブリックドメイン(著者没後70年経過)。引用は当館の特別編にある同じ原文から。 出所: 特別編 56篇 孟子『孟子 離婁下』( 吾將瞷良人之所之也 、 良人之所之 )。パブリックドメイン(著者没後70年経過