11.21 列子 天瑞 — 杞人憂天 — Epoché
この篇でできるようになること 三つの心配と、それぞれへの返事を本文から取り出せます。 二つの問いの形を見分け、現代語にできます。 亡を無いと読み、耳の限定を訳せます。 前提 :11.20「賈島 尋隱者不遇 — 雲深くして處を知らず」。書かれない問いを考えた詩から、問いと返事が書かれた話へ進みます。 心配する人を、もう一人が心配する 列子は列禦寇の名を冠する書です。ただし、現在の形は後の時代にまとめられたという説が有力で、成り立ちには議論があります。ここでは天瑞篇の問答を読みます。 初めの 杞國有人憂天地崩墜 から、後ろの 廢寢食者 までで、眠りも食事もできないほど心配する人を紹介します。存在を述べる 有 と、人をまとめる 者 の間に、長い説明が入ります。 次の 又有憂彼之所憂者 では、さらにもう一人を出します。 所 のまとまりは、その人が心配していることです。心配される人と説き聞かせる人を、同じ人物にして読まないようにしましょう。 亡を無いと読む 身亡所寄 は、身を寄せるところがないという心配です。 亡 を、滅びるや死ぬと読んでから、残りをつなぐのではありません。この本文では 無 に当たる字として読みます。 亡處亡氣 と 亡處亡塊 にも同じ字があります。前者は気のない場所がない、後者は土の塊のない場所がない、という重なった否定です。最初の一字と、この二か所の各二字を合わせて、本文では五つ確かめられます。 日本語でも、亡の字に、なし、という訓があります。見慣れた滅びる意味に固定せず、無いと読めば文がつながることを確かめます。通假字としての働きは 特別編 1篇 とも結び付きます。 身が滅んでしまった話ではありません。天地が崩れたら身を寄せる所がない、と心配している場面です。 それにすぎない、と言う 天、積氣耳 は、天は気の積み重なりにすぎない、という返事です。文末の 耳 が、それだけだと範囲を限ります。日本語の、のみ、現代語の 罢了 ・ 而已 と比べられます。 ここでは相手が大きく感じている心配を、小さくする調子があります。ただし、この返事を現代の科学的な説明としてそのまま覚える課ではありません。話の人物が何を根拠に安心させようとしているかを読みます。 地への返事も 地積塊耳 と同じ結びです。一方、日・月・星や星座( 日月星宿 )への返事は 亦積氣中之有光耀者 で、耳では結びません。似た説明でも、三つとも同じ型だとまとめないでください。 続く二字と、間に挟む形 形A 読み 形B 読み 違い 奈何 いかんぞ 奈…何 いかんせん 続けて理由や方法を問う形と、間の対象をどうするか問う形 奈何憂崩墜乎 いかんぞほうついをうれえんや 奈地壞何 ちのやぶるるをいかんせん なぜ心配するかと、地が壊れたらどうするか この場面の前者は、どうして崩れ落ちることを心配するのか、と説く側が問いかけます。後者は、地が壊れたらどうするのか、と心配する側が尋ねます。二字を見つけるだけでなく、間に何が入るかと、誰の問いかを一緒に読みます。 不當墜邪 も、心配する人が本当に不安を述べる問いです。否定と文末の問いがありますが、落ちるはずではないかと確かめる問いです。 地が壊れたらどうするかを、なぜ地が壊れるかという原因の質問に変えないでください。間に挟まれた出来事への対処を問うています。 返事の対応と、二人の結び 心配するもの 返事の中心 形 天 天、積氣耳 気の積み重なりにすぎない 日・月・星や星座 亦積氣中之有光耀者 気の中の光るもの 地 地積塊耳 土の塊の積み重なりにすぎない 天の説明と地の説明では、一日中その中で動いたり止まったりするという話も繰り返します。身近な身体の動きを挙げて説き聞かせる点は共通します。ただし、真ん中の返事は、落ちても傷つけられないという説明です。 最後は 其人舍然大喜,曉之者亦舍然大喜。 と、二人がともに喜びます。説く側も何かが解けたように読めますが、最初から同じ恐れを抱いていたと断定する必要はありません。この結びの受け取りには違いがあります。 原典の続きには長廬子が現れ、説いた側の説明にも疑問を向けます。この抄はその前で終わっています。取り越し苦労という成語の意味だけで話を閉じず、続きに関心があれば原典へ進めます。 語釈 語 品詞 意味 日本語との差 例文 訳 憂 動詞 心配する 人物の行動を動かす 憂天地崩墜 天地が崩れるのを心配する 亡 否定の語 無い ここでは無に当たる 亡處亡氣 気のない場所がない 曉 動詞 説き聞かせる 夜明けの意味ではない 往曉之 出かけて説き聞かせる 耳 語気詞 にすぎない 耳という身体の名ではない 積氣耳 気の積み重なりにすぎない 若 代詞 おまえ ここでは相手を指す 若屈伸呼吸 おまえが体を曲げ伸ばしし呼吸する 奈何 固定句型 どうして・どうしたら ここでは心配する理由を問う 奈何憂崩墜乎 どうして崩れ落ちることを心配するのか 亦 副詞 やはり・もまた 前に述べたことを受ける 亦不能有所中傷 やはり当たって傷つけることはできない 舍然 形容の語 こだわりが解けた様子 二人の結末に出る 舍然大喜 こだわりが解けて大いに喜ぶ 練習 空欄を埋めて本文のまとまりを書いてください。 天、積氣_ 空欄を埋めて本文のまとまりを書いてください。 _處_氣 空欄を埋めて本文のまとまりを書いてください。 __憂崩墜乎 空欄を埋めて本文のまとまりを書いてください。 _地壞_ 天、積氣耳 と 地積塊耳 を、 不过是 と 罢了 を使った現代語にしてください。 奈何憂崩墜乎 と 奈地壞何 を、理由を問う文と対処を問う文に分けて、現代語にしてください。 本文の 亡 を全て抜き出し、無いと滅びるのどちらで読むか書いてください。 三つの返事で同じ形と違う形を挙げ、最後に二人が喜ぶことから読めることを説明してください。 前の課で学んだ語( 着急 ・ 冷静 ・ 放松 ・ 烦 )から二つ以上を使い、心配しすぎる相手にかける言葉を現代語の二文で書いてください。一文目で落ち着くように言い、二文目で気を楽にするように言います。 天・日月星宿・地の三つの心配について、それぞれへの返事の中心を本文から抜き出してください。 音読:次の原文の句を ▶ で聞き、声に出して読んでください。 天、積氣耳 ▶ の手本を聞き、声に出してください。耳は軽く短く落とします。 この篇のまとめ 心配の対象と返事を組にし、三つの答えを同じ形にまとめず読みました。亡の否定、耳の限定、二通りの問いを区別し、最後に二人が喜ぶ点も残します。 次の篇へ 次の11.22では同じ列子の愚公移山を読みます。山を動かそうとする人への問いと反対を追い、如を使う形と諸の働きを見ます。 答え 天、積氣耳 亡處亡氣 奈何憂崩墜乎 奈地壞何 天不过是积聚的气罢了。 地不过是堆积的土块罢了。 你为什么担心天崩塌呢? 大地毁坏了怎么办? 身亡所寄 に一字、 亡處亡氣 に二字、 亡處亡塊 に二字です。五つとも無いと読みます。 天と地の返事は、積み重なりにすぎないという耳の形です。日・月・星や星座は、気の中の光るものという者の形です。最後は、心配した側だけでなく説いた側にも、こだわりが解けるような喜びがあると読めます。 别着急,你要冷静一点。 放松一点,天不会塌的。 天: 天、積氣耳 。日月星宿: 亦積氣中之有光耀者 。地: 地積塊耳 。 参考文献 列禦寇(伝)『列子 天瑞』。パブリックドメイン(著者没後70年経過)。本文は抄。 出所: 当館所蔵の文書