3.10 助動詞 I — can/could/will/would と丁寧さの段 II — Epoché
この課でできるようになること 助動詞の置き場所と、後ろの動詞が原形になることを、形の規則として言える。 could ・ would が過去を言う場合と「一歩下がる」場合を、文脈で見分けられる。 一つの頼みごとを、五つの段に載せ替えて言える。 否定で訊く形( Won't you など)が誘いになることを知っていて、答え方を間違えない。 前提 : 3.9 まで。 前の課で、動詞の形を変えると文の重心が動くことを見ました。この課で扱うのは、同じことを 動詞の手前に一語置く ことでやる道具です。助動詞と呼ばれますが、名前は気にしなくてかまいません。やっていることは一つで、 出来事の中身はそのままに、話し手がそれをどう扱っているかを足す ことです。 「彼は来る」という出来事があるとします。彼が来られるのか、来るつもりなのか、来てほしいと頼んでいるのか——出来事は同じでも、話し手の扱いは全部違います。日本語はこれを語尾で作ります。「来られる」「来るだろう」「来てくれませんか」。英語は 動詞の手前 に一語を置いて作ります。置き場所が逆なだけで、やっていることは同じです。そして英語のほうには、日本語に無い仕掛けが一つあります。 過去形にすると丁寧になる ——この仕掛けがこの課の山です。 例文で見る まず 10 文を見ます。見てほしいのは 助動詞の直後 です。どの文でも、助動詞の後ろに来る動詞は 形を変えていません 。三単現の -s も、過去形も、そこには出てきません。3 番めと 4 番めは対になっていて、同じ could が違うはたらきをしています。 英文 日本語訳 見るところ I can do it. [1] 私はそれができる。 can は「できる」。動詞は原形のまま I can hear you. [2] 君の声が聞こえる。 見える・聞こえるにも can を使う He could do it. [3] 彼ならできるでしょうが。 could だが過去ではない。控えめな見込み I could not get out. [4] 私は外へ出られなかった。 こちらは本当の過去。できなかった、という事実 I will go. [5] 私が行きます。 will は「そうする」という意志 I will think about it. [6] ま、考えときましょう。 その場で決めたことにも will I would like to go with you. [7] ご一緒したいものです。 would like は控えめな望み。 want より柔らかい He would not go out. [8] 外に出ようとしない。 would not は「どうしてもしようとしない」 Shall I help you? [9] お手伝いしましょうか。 Shall I は自分のほうを差し出す Shall we go? [10] 行きましょうか。 Shall we は相手を誘う 十の文で、助動詞は五種類しか出ていません。 can ・ could ・ will ・ would ・ shall です。そのうち二つ—— could と would ——は形のうえでは過去形ですが、3 番めと 7 番めは過去のことを言っていません。 骨組み 規則は二つです。一つめ、 助動詞は動詞の手前に置き、後ろの動詞は原形にする 。二つめ、 助動詞の過去形は、過去を言うこともあれば「一歩下がる」を言うこともある 。一つめは形の規則なので覚えれば終わりです。二つめがこの課の中身です。 置き場所と、後ろの動詞 助動詞は主語の直後、動詞の手前に入ります。そして後ろの動詞は 原形 になります。 I can do it. [1] の動詞は原形のままで、 He could do it. [3] も、主語が三人称なのに -s が付いていません。助動詞が入ると、時と人称の印は 助動詞のほうが引き受ける ので、動詞は身軽になります。第 1 期の 3.1 型編 で見た「主語に合わせて動詞が変わる」規則は、助動詞があるあいだだけ休みます。 否定にするときも疑問にするときも、動くのは助動詞です。 I will not go. [11] は not を助動詞の後ろに置いただけ、 Will you do it? [12] は助動詞を先頭に出しただけです。第 1 期の 3.2 で do を使って作った疑問と否定が、助動詞があるときは 助動詞そのもので作れる ようになります。 do は要りません。 can と could — できる、と、一歩下がったできる can は「できる」です。 I can do it. [1] のような能力のほか、 I can hear you. [2] のように 見える・聞こえる・分かる にもよく使われます。日本語では「聞こえる」と一語で言えるところを、英語は can と組んで言うのが普通です。ここを省くと不自然になるので、感じる動詞は can と対で覚えておくと得です。 問題は could です。二つのはたらきがあります。一つめは 本当の過去 で、 I could not get out. [4] はそのときできなかったという事実を言っています。二つめは 一歩下がった今 で、 He could do it. [3] は彼の力を今の話として、しかし断定を避けて言っています。同じ形で二つあるのは不便に見えますが、見分けるのは簡単です。 過去の場面が文脈にあれば過去、無ければ今 ——これで足ります。 なぜ過去形が「一歩下がる」になるのか。英語では、 過去の形は今から距離を取った形 として使われるからです。距離を取れば断定が弱まり、弱まれば相手に断る余地が生まれます。それが丁寧さになります。日本語にこの仕掛けはありませんが、似たことはしています。「〜でしょうか」「〜のですが」のように 言い切らない ことで柔らかくする——あれと同じ働きを、英語は動詞の形でやっています。 will と would — するつもり、と、一歩下がったするつもり will は「そうする」という意志です。 I will go. [5] は、今その場で「私が行く」と決めた言い方。 I will think about it. [6] も、その場で引き受けた返事です。未来を表す形と習った人が多いはずですが、実際に文の中でしていることは 意志を置くこと のほうです。ただの予定なら第 1 期の 3.6 型編 で見た be going to のほうが向きます。 would も二つのはたらきを持ちます。 一歩下がった今 としては、 I would like to go with you. [7] のように控えめな望みを言います。 want をそのまま使うと要求に聞こえるので、頼みごとや注文ではこちらがふつうです。 過去 としては、 He would not go out. [8] のように「どうしても〜しようとしなかった」という意地の張り方を表します。 would not のこの使い方は、物にも使えます。 Shall I と Shall we — 自分を差し出す、相手を誘う shall は、今の英語では二つの形でしか出てきません。 Shall I help you? [9] と Shall we go? [10] です。前者は 自分がやりましょうか と申し出る形、後者は 一緒にやりましょうか と誘う形です。 Shall I close the door? [13] のように、手を貸す場面でよく出ます。どちらも相手に決めさせる形なので、頼むより先に申し出るときの定型として覚えてしまってください。 否定で訊く — 押すのではなく誘う 助動詞を否定の形にして訊くと、意味が変わります。 Won't you come with me? [14] は「来ないの?」ではなく 「来ませんか」という誘い です。 Wouldn't you like to come with us, too? [15] はさらに柔らかく、相手の望みとして差し出しています。否定で訊くことが誘いになるのは日本語と同じで、「行かない?」が誘いになるのと同じ仕掛けです。 ただし、押しが強くなる側にも振れます。 Can't you stay a little longer? [16] は引き止める言い方ですが、 Can't you even do this? [17] は責める言い方です。 Couldn't you just do it later? [18] は could で一歩下がっているぶん、責める感じが薄くなっています。 否定で訊く形は、誘いにも責めにもなる ——どちらになるかは場面と声の調子で決まります。自信が無いうちは、否定ではなく Could you で訊くほうが安全です。 日本語ならどう言うか 同じところから入ります。 日本語にも助動詞にあたる仕組みがあります。 「来られる」「来るだろう」「来てくれませんか」——出来事の中身を変えずに、話し手の扱いだけを足しています。ずれるのは二点、 置き場所 と、 過去形の意味 です。 日本語は語尾、英語は手前 言いたいこと 日本語では 英語では できる 〜できる(語尾) can + 動詞(手前) そうするつもりだ 〜しよう(語尾) will + 動詞(手前) してくれませんか 〜てくれませんか(語尾) Would you + 動詞(先頭) 日本語は語の最後に付けるので、 最後まで聞かないと話し手の扱いが分かりません 。英語は手前に置くので、 最初に分かります 。これは聞き取りに直接効きます。英語では文の二語目までで「できるのか・するつもりなのか・頼んでいるのか」が決まっているので、そこを聞き逃さなければ、残りは中身を拾うだけになります。第 5 編「聞」で助動詞が弱く短く鳴るのを扱いますが、 弱いのに大事 というのがこの語の厄介なところです。 日本語に無い区別 — 過去形が過去を言わない これがこの課で唯一、日本語に対応物が無いところです。日本語で「来られましたか」と言えば、それは過去のことです。英語の Could you come? は過去ではありません。今これから来てほしいと頼んでいます。 過去形は時間を後ろにずらすのではなく、話し手と出来事の距離を取っている のです。距離を取ると断定が弱まり、相手に断る余地が残ります。それが丁寧さの正体です。 この仕掛けは助動詞だけのものではありません。第 3 期で扱う仮定の形——もし〜ならば——も、同じ理由で過去形を使います。「起きていないこと」は今から遠いので、過去の形で言うのです。ここで 過去形=距離 という見方を入れておくと、第 3 期がそのまま続きになります。 丁寧さの段 この節は毎課置きます。日本語話者の英語には丁寧さの段が一段しかない、という実測があるからです。この課が、その段を作る本体です。下の五つは、中身がどれも 一緒に来てほしい で共通していて、変わるのは頭の一語か二語だけです。上から下へ、相手の逃げ場が広がっていきます。 英文 日本語訳 どんな相手に Will you go with us? [19] 私たちと一緒に行きませんか。 まっすぐ訊く。親しい相手・決まっている予定 Won't you come with me? [14] 一緒に行きませんか。 否定で訊いて誘いにする。断る余地を残す Could you come with me? [20] 一緒に来ていただけますか? 一歩下がって頼む。初対面・目上 Would you come with me? [21] 一緒に来ていただけますか? 相手の意向を訊く形にする。もっとも柔らかい頼み Wouldn't you like to come with us, too? [15] あなたも私たちと一緒にいらっしゃいませんか。 相手の望みとして差し出す。誘いの最上段 一行めは予定を確かめる言い方で、相手が来ることがほぼ決まっている場面に向きます。二行めは否定で訊いて誘いにしていて、断る余地が一段増えます。三行めの Could you は過去形の距離を使った頼みで、初対面や目上にそのまま出せます。四行めの Would you は相手の意向を訊く形なので、頼みとしてはもっとも柔らかくなります。五行めは頼みですらなく、 相手の望みとして差し出して います。 五段のうち、日本語話者がふだん使うのは一行めだけ、という実測があります。理由ははっきりしていて、 教科書に出る順が Will you から始まるから です。そのまま止まると、頼みごとがいつも命令に近く聞こえます。直し方は簡単で、 頼むときは必ず過去形のほうを使う と決めてしまうことです。 Can you と言いかけたら Could you に、 Will you と言いかけたら Would you に。それだけで段が二つ上がります。 よくある誤り 三つ挙げます。どれも日本語の仕組みを英語にそのまま持ち込んだ形で、下の誤文は Epoché の作例です。書いた英文ではなく、 話した英文 で自分を確かめてください。 助動詞の後ろに三単現の -s を残す。 He can plays. → He can play. 助動詞が入ると、人称と時の印は助動詞のほうが引き受けます。後ろの動詞は原形です。第 1 期で「三人称なら -s 」を体に入れた人ほど出やすい誤りなので、 助動詞を置いた瞬間に -s を外す と決めてください。 助動詞を二つ並べる。 I will can do. → I will be able to. 英語では助動詞を二つ続けて置けません。「これからできるようになる」と言いたいときは、 can の代わりに別の言い方を使います。その言い方は次の課で扱います。日本語では「できるだろう」と重ねられるので、この誤りはほぼ全員が一度は通ります。 否定で訊かれて、日本語の感覚で答える。 Yes, I won't. → No, I won't. Won't you come? に「はい、行きません」と答えたくなりますが、英語では 行かないなら No 、行くなら Yes です。訊かれ方が否定でも肯定でも、答えは 自分がするかしないか だけで決まります。日本語は相手の言ったことに合わせて「はい/いいえ」を決めるので、ここで必ずずれます。 動画で見