3.2 四段活用 — Epoché
この課でできるようになること 四段活用の六つの形を、現代語の五段活用「書く」「思う」からそのまま導ける。 歴史的仮名遣いの 思は・思ひ・思ふ・思へ を「おもわ・おもい・おもう・おもえ」と読める。 四段では終止形と連体形が同じ音、已然形と命令形が同じ音になることを知り、後ろの語で見分けられる。 原文の中から四段動詞を拾い、六つの形のどれかを言える。 前提 : 3.1 まで。 動詞の仲間の中で、いちばん数が多いのが四段活用です。 書く・思ふ・言ふ・知る・聞く・立つ・待つ・走る・拝む ——古文に出てくる動詞の半分以上がここに入ります。そして幸運なことに、四段活用は 現代語の五段活用とまったく同じ並び です。新しく覚えることは、ほとんどありません。 前の課で「形は後ろの語で決まる」と言いました。この課では、その六つの形が実際にどんな音で並ぶのかを、一つの動詞について通しで見ます。順序はやはり、現代語が先です。 現代語に残っている形 まず、いま使っている言い回しの中に、四段活用の六つの形が全部そろっていることを確かめます。 いまの言い回し 中にある動詞 形 知らぬが仏 知る 未然形(知ら) 聞きしに勝る 聞く 連用形(聞き) 押すな押すな 押す 終止形(押す) 立つ鳥あとを濁さず 立つ・濁す 連体形(立つ)・未然形(濁さ) 住めば都 住む 已然形(住め) 急がば回れ 回る 命令形(回れ) 六つとも、あなたはふだん口にしています。「住めば都」の「住め」を、現代語の文法では仮定形と呼びますが、この言い回しの意味は「もし住んだら」ではなく「住んでみると」です。もとが古文の已然形だからです。名前が変わっただけで、形も意味も残っています。 次に「書く」を、後ろの語を替えながら通しで言ってみてください。「書かない・書きます・書く・書くとき・書けば・書け」。出てくる音は 書か・書き・書く・書け の四つだけです。ア・イ・ウ・エの四つの段にわたるので、この仲間を四段活用と呼びます。名前はここから来ています。 古文ではこうなる 古文の四段活用も、並びは同じです。 書か・書き・書く・書く・書け・書け 。現代語と食い違うのは、次の二点だけです。 「書こう」にあたる形が無い。 意志・推量は、未然形に「む」を付けて 書かむ (「かかん」と読む)と言います。現代語では「書こ」という別の音を用意しましたが、古文は未然形のまま「む」を足します。 未然形は「まだ書いていない」の形 なので、打消の「ず」と同じ場所に来るわけです。 「ば」の意味が形で分かれる。 書かば (未然形+ば)は「もし書くなら」、 書けば (已然形+ば)は「書くと・書いたので」。現代語では「書けば」の一つに合流してしまいました。 もう一つ、四段を読むときの注意があります。 終止形と連体形が同じ音、已然形と命令形も同じ音 になります。 書く が終止形か連体形かは、後ろに名詞があるかどうかでしか分かりません。 書け が已然形か命令形かも、後ろに「ば」「ども」があるかどうかで決まります。形が同じでも、役目は後ろの語が教えてくれます。ここでも見るのは後ろです。 表記についても一つ。 思ふ の仲間(ハ行四段)は、 思は・思ひ・思ふ・思へ と書きますが、読みは「おもわ・おもい・おもう・おもえ」です。語の途中と終わりのハ行はワ行の音で読む、という 音編 1課 の規則がそのまま効きます。 書き方が違うだけで、音は現代語と同じ だと分かると、四段の動詞は急に読めるようになります。 原文で確かめる 『徒然草』と『宇治拾遺物語』から、四段動詞を形ごとに拾います。動詞の後ろの語を先に探してください。 仁和寺にある法師、年よるまで石清水ををがまざりければ、心うくおぼえて、ある時思ひたちて、ただ一人かちよりまうでけり。 [1] 読み: にんなじに ある ほうし、としよるまで いわしみずを おがまざりければ、こころうく おぼえて、あるとき おもいたちて、ただ ひとり かちより もうでけり。/訳: 仁和寺にいた法師が、年をとるまで石清水八幡宮を拝んだことがなかったので、残念に思って、ある時思い立って、たった一人、徒歩で参詣した。「をがま」は四段動詞「をがむ」の未然形(後ろが打消の「ざり」)。「思ひたち」は「思ひ立つ」の連用形(後ろが「て」)。なお「おぼえ」「まうで」は四段ではありません。この二つは次の課の下二段活用です。 初心の人ふたつの矢をもつことなかれ。後の矢をたのみて初の矢になほざりの心あり。毎度ただ得失なく、この一箭に定むべしとおもへ [2] 読み: しょしんの ひと ふたつの やを もつこと なかれ。のちの やを たのみて はじめの やに なおざりの こころ あり。まいど ただ とくしつ なく、この いっせんに さだむべしと おもえ。/訳: 初心者は二本の矢を持ってはならない。二本目をあてにして、一本目をおろそかにする心が生まれる。毎回、当たり外れを考えず、この一本で決めると思え。「もつ」は後ろが名詞「こと」なので連体形。「たのみ」は「て」の前で連用形。文末の「おもへ」は命令形です。「なかれ」は形容詞「なし」の命令形で、これは 形編 7課 で扱います。 懈怠の心みづから知らずといへども、師これを知る。 [2] 読み: けだいの こころ みずから しらずと いえども、しは これを しる。/訳: 怠け心は自分では気づかないけれども、師のほうはそれを見抜いている。同じ動詞「知る」が、ここでは二つの形で出ています。「知ら」は「ず」の前なので未然形、「知る。」は言い切りなので終止形です。「いへ」は「ども」の前で已然形。 「助けよや、ねこまたよやねこまたよや」と叫べば [3] 読み: たすけよや、ねこまたよや ねこまたよや、と さけべば。/訳: 「助けてくれ、猫まただ、猫まただ」と叫ぶと。川に転げ落ちた法師の悲鳴です。「叫べ」は四段動詞「叫ぶ」の已然形(後ろが「ば」で、「叫ぶと」の意味)。「助けよ」のほうは下二段の命令形で、次の課で扱います。 僧達わらふことかぎりなし。 [4] 読み: そうたち わらう こと かぎりなし。/訳: 僧たちは笑うことがこの上ない(大笑いした)。「わらふ」は後ろが名詞「こと」なので連体形です。読みは「わらう」で、現代語とまったく同じ音になります。 読み上げと音読 ハ行四段の読み替えが、この課の音の山です。 思は →「おもわ」、 思ひ →「おもい」、 思ふ →「おもう」、 思へ →「おもえ」。 いへども は「いえども」、 わらふ は「わらう」です。読み上げを聞いてから、上の五つの原文をそれぞれ二回ずつ声に出してください。 書いてある字ではなく、聞こえた音のとおりに読む のがこつです。目で「ふ」を追うと舌がつまずきますが、耳で「う」と聞いていれば、そのまま口が動きます。 練習 次の四段動詞が、それぞれどの形かを答えてください。 をがまざりけれ / たのみて / わらふこと / 叫べば / おもへ 。 言ふ を六つの形に並べ、それぞれの読みを添えてください。 「初心の人〜おもへ」の一節を、いまの音で三回、声に出して音読してください。二回目からは、動詞の後ろの語(こと・て・べし)に印を付けるつもりで読んでください。 この課のまとめ 形 書く 思ふ 「思ふ」の読み 後ろに来る語 未然形 書か 思は おもわ ず・む・ば(もし〜なら) 連用形 書き 思ひ おもい て・つつ・けり・たり 終止形 書く 思ふ おもう 。・べし・らむ 連体形 書く 思ふ おもう 人・こと・もの 已然形 書け 思へ おもえ ば(〜すると)・ども 命令形 書け 思へ おもえ 。(言い切り) 四段活用は現代語の五段活用と同じ並び。ア・イ・ウ・エの四段にわたるので四段という。 終止形と連体形、已然形と命令形は音が同じ。区別は後ろの語だけが教える。 現代語との違いは二つ。意志は未然形+「む」、「ば」は前の形で仮定(未然)と確定(已然)に分かれる。 次の課へ 3.3 では下二段活用を扱います。この課で「次の課で」と断った おぼゆ・まうづ・助く がその仲間で、現代語の「受ける」「覚える」にあたる動詞です。終止形が「う」で終わり、連体形が「うる」になる——現代語の「あり得る」に残っている、あの形です。 答え をがまざりけれ =未然形(後ろが打消の「ざり」)/ たのみて =連用形/ わらふこと =連体形/ 叫べば =已然形/ おもへ =命令形。 言は (いわ)・ 言ひ (いい)・ 言ふ (いう)・ 言ふ (いう)・ 言へ (いえ)・ 言へ (いえ)。 読みの目安: しょしんの ひと ふたつの やを もつこと なかれ。のちの やを たのみて はじめの やに なおざりの こころ あり。まいど ただ とくしつ なく、この いっせんに さだむべしと おもえ。 参考文献 兼好法師『徒然草』第52段(國文大觀)。パブリックドメイン(作者没後 70 年以上)。漢字は通行の字体に改め、踊り字を開いた。出所: https://ja.wikisource.org/wiki/徒然草_(國文大觀) 兼好法師『徒然草』第92段(國文大觀)。パブリックドメイン(作者没後 70 年以上)。漢字は通行の字体に改め、踊り字を開いた。出所: https://ja.wikisource.org/wiki/徒然草_(國文大觀) 兼好法師『徒然草』第89段(國文大觀)。パブリックドメイン(作者没後 70 年以上)。漢字は通行の字体に改め、踊り字を開いた。出所: https://ja.wikisource.org/wiki/徒然草_(國文大觀) 作者未詳『宇治拾遺物語』巻第一「児のかい餅するにそら寝したる事」(國史大系)。パブリックドメイン。漢字は通行の字体に改め、踊り字を開いた。出所: https://ja.wikisource.org/wiki/宇治拾遺物語