7.2 頭から理解する — 塊ごとに日本語を「置く」 — Epoché
この課でできるようになること 切った塊の一つ一つに日本語を置き、置いた順のまま意味を受け取れる。 置いた日本語と訳文の違いを言え、自分がどちらをやっているか見分けられる。 名詞の後ろから来る絞り込みを、前から順に受け取る形で日本語に置ける。 読 A の篇の一文を、塊で切って置きながら音読できる。 前提 : 7.1 まで。 英語を読んでいて「単語は全部分かるのに意味が取れない」ということが起きます。これは語の問題ではなく、受け取り方の問題です。塊に切るところまではできても、切った塊をどう扱うかを決めていないと、結局は全部の塊を目で拾い集めてから一気に意味にしようとします。拾い集めているあいだは何も分かっていないので、長い文になるほど最初の塊の記憶が消えていきます。 そこで、塊を一つ受け取るたびに その場で日本語を一つ置く ことにします。置いた日本語は自分にしか見えず、文の形にもなっていません。けれども置き終わったとき、その並びがそのまま理解になっています。この課でやるのはそれだけです。新しい文法も新しい語も出てきません。出てくるのは、既に知っている型を 受け取る順に並べ直さないで使う という一つの決め事だけです。 なぜ訳す(訳さない)か 7.1 訳編 でこの編の立場を述べました。読んで分かるために訳文を作る必要はない、という立場です。そう言うと「では日本語をいっさい使わないのか」と聞こえますが、そうではありません。この課は日本語を使います。しかも塊ごとに、はっきりと使います。一見すると前の課と逆のことを言っているようなので、先に 置いた日本語 と 訳文 の違いをはっきりさせます。 英語を英語のまま受け取るのは、この課程の最後の到達点です。そこへは 7.16 で行きます。第 1 期の段階でそれを求めると、たいていは「分かったつもりで目を滑らせる」ことになります。意味を日本語で言えないなら、それは分かっていません。だから今は日本語を使います。使うけれども、 成果物としての訳文は作らない ——これが置くという言葉の中身です。 見るところ 置いた日本語 訳文 だれのためのものか 自分ひとりのため 読む人のため 日本語として通るか 通らなくてよい 通らなければならない 塊の順をどうするか 英語のまま動かさない 日本語の順に入れ替える いつ終わるか 最後の塊を置いた時 何度も直したあと あとに残るか 残らず消える 残って人手に渡る この表の三行目が要です。訳文は日本語として通らなければならず、日本語として通すには塊の順を入れ替えなければならない。入れ替えるには、どこへ動かすかを決めるために 文の終わりまで見なければならない 。つまり、後ろから前へ組み直す読み方は怠けから来るのではなく、 訳文を作ろうとすることから自動的に出てきます 。読みながら訳文を作るのをやめれば、戻る理由そのものが消えます。 ですから、前から読むための敵は日本語ではありません。 日本語らしさ です。置いた日本語が据わりの悪い、途中で切れた、助詞のおかしなものであればあるほど、それは英語の順を保っている証拠です。きれいな日本語が出てきたら、そこで訳文を作りはじめています。 手順 手順は四つです。 塊を一つだけ読む。次の塊は見ない。 その塊の意味を、日本語で一つ置く。声に出すか、頭の中で言う。 置いたら次の塊へ進む。前には戻らない。 最後の塊を置いたら終わり。つなぎ直さない。 四つめが守れているかどうかが、この課の全部です。最後まで置いたあとに「で、結局どういう文だったか」と考え直したくなったら、それは置いた日本語を信用していないということです。置いた並びのままで内容は分かっているはずなので、そこで止めてください。 置くときの三つの約束 一つめ、 塊の中だけを見る 。その塊に何がかかるのか、この語が後で何と結びつくのかを先回りして考えません。先回りは戻ることと同じです。 二つめ、 文の形にしない 。「本屋で」「家の近くの」「日曜に開く」——これで置き終わりです。主語や述語を補って一文にしようとすると、足りないものを取りに戻ることになります。 三つめ、 塊と塊の順を入れ替えない 。入れ替えたくなったら、その気持ちが訳文を作りはじめた合図です。 ここで一つ、緩めてよいところがあります。 塊の中は日本語の語順でかまいません 。 I have many things to do. [1] を三つめの塊で「するべきことが」と置くように、塊の中で語をどう並べるかは日本語のやり方に従って大丈夫です。入れ替えないのは塊と塊のあいだであって、塊の中ではありません。この線を引いておかないと、置くこと自体ができなくなります。 後ろから来る絞り込みをどう受けるか — 3.8 と組で 英語は名詞を先に言って、その名詞を絞り込むものを後ろに足していきます。前置詞句・分詞・不定詞がその足し方で、 3.8 型編 に置いたとおりです。日本語はこれが逆で、絞り込みを先に言ってから名詞を言います。「本」より先に「わたしが知っている」が来る、あの並びです。この向きの違いこそが、学校で「後ろから訳し上げる」と教わった手順の出どころです。 ところが、 置くだけなら向きの違いは困りごとになりません 。英語の並びは「まず名詞、次にその絞り込み」です。これは受け取る側から見ると、 先に何の話かが分かり、あとから範囲が狭まる という、きわめて親切な順です。困るのは、狭まった結果を日本語の一語にまとめ直そうとするときだけです。まとめ直さなければ、英語の順のまま受け取れます。 受け方は二つあります。一つめは 「その〜は」で先に受けておく やり方。 The people who live there are our friends. [2] なら「その人たちは」と置いて、次に「そこに住んでいる」と置き、最後に「私たちの友人です」と置きます。「その人たち」が誰なのかは二つめの塊で分かるので、待たずに先へ進めます。 二つめは 置いてから後ろに足す やり方。 The lights in the room went out. [3] なら「明かりが」と置き、「部屋の中の」と足し、「消えた」で終わりです。日本語としては据わりが悪いですが、話し言葉の言い足し(「明かりが消えたんです、部屋の中の」)と同じ形で、意味は問題なく通ります。 では、同じ 5 文で右側を見てください。左が英文、まん中が池の日本語訳、右が 塊ごとに置いた日本語 です。まん中と右を見くらべると、まん中はどれも順が入れ替わっているのが分かります。 英文 日本語訳 塊ごとに置く The lights in the room went out. [3] 部屋の電気が消えてしまいました。 「明かりが」「部屋の中の」「消えた」。絞り込みが後から来る I ran because I was late for school. [4] 私は学校に遅れたので走った。 「走った」「遅れたから」「学校に」。理由は後から足りる The people who live there are our friends. [2] そこに住んでいる人々は私たちの友人です。 「その人たちは」「そこに住んでいる」「私たちの友人です」 I have many things to do. [1] 私はするべきことがたくさんある。 「たくさんある」「するべきことが」。何がかは後から絞られる The number of cars driven in the city has increased. [5] 市内を走る自動車の数が増えた。 「その数は」「自動車の」「市内を走っている」「増えた」 同じ文を二通りで — 置くと、組み直す 五つめの文で、二つのやり方を並べて見ます。 The number of cars driven in the city has increased. [5] です。塊は四つ。下の表の右の欄は、その塊が 訳文になると何番目に来るか です。 英語の塊 そこに置く日本語 訳文での置き場所 The number その数は 三つめ of cars 自動車の 二つめ driven in the city 市内を走っている いちばん頭 has increased. 増えた いちばん最後 訳文にすると「市内を走る自動車の数が増えた」になります。塊の順は三・二・一・四に組み替わっています。この組み替えをやるには、四つめの塊まで読み終えていなければなりません。つまり 訳文を作る限り、文の終わりまで意味は決まりません 。いっぽう右から二番目の欄を上から読むと、「その数は」「自動車の」「市内を走っている」「増えた」で、読み終わった時点で内容は分かっています。どちらが速いかではなく、 どちらが途中でも分かっているか を見てください。 実例 ここからは読 A の篇を使います。7.1 では第 1 篇を切りました。この課では第 2 篇から第 4 篇を使い、切ったうえで置きます。三篇とも語り手は同じ青年で、篇そのものは 8.2 読編 ・ 8.3 読編 ・ 8.4 読編 にあります。 実例 1 — 前置詞句が名詞を後ろから絞る 第 2 篇「 My Family 」から、祖母の住まいを言う一文です。 My mother's mother / lives in another town, / an hour away by train. [6] と切れます。 英語の塊 そこに置く日本語 My mother's mother 母の母は lives in another town, べつの町に住んでいる an hour away by train. [6] 電車で一時間の 三つめの塊が二つめの町を後ろから絞っています。前置詞の句が名詞の後ろに付く形で、3.8 の一つめの足し方です。置くときには「べつの町に住んでいる」で一度言い切ってしまい、そのあとに「電車で一時間の」と足します。訳文にするなら「電車で一時間離れたべつの町に」と前へ回しますが、回すためには三つめの塊まで読み終える必要があります。置くなら二つめの塊の時点で「どこかべつの町だ」と分かっており、三つめでその町の遠さが加わるだけです。 情報が増えていくだけで、書き直しは起きません 。 実例 2 — 関係詞と長い主語 第 4 篇「 Going Shopping 」から、市場での一文です。 The old woman / who sells vegetables / asked about my mother. [7] 。切れ目は二つで、一つめが関係詞の前、二つめが長い主語の後です。 英語の塊 そこに置く日本語 どの規則で切ったか The old woman その年配の女の人は — who sells vegetables 野菜を売っている 規則 3(関係詞の前) asked about my mother. わたしの母のことを聞いてきた 規則 5(長い主語の後) 一つめの塊は「その年配の女の人は」です。どの女の人かはまだ分かりませんが、それでかまいません。二つめで「野菜を売っている」と分かり、三つめで、その人が何をしたかが来ます。訳文にすると「野菜を売っている年配の女の人が、わたしの母のことを聞いてきた」で、二つめの塊が頭に移ります。 三つめの塊の中では「母のことを」が「聞いてきた」より先に来ています。これは塊の中の並べ替えなので、約束に反しません。日本語は動詞が後ろに来る言語なので、塊の中では自然にこの形になります。許されないのは、三つめの塊を二つめより前に持ってくることです。 実例 3 — 絞り込みが三つ続く 第 3 篇「 My Town 」から、通りに何があるかを並べた一文です。この篇でいちばん長い形の一つで、塊は六つになります。 英語の塊 そこに置く日本語 There is also ほかにもある a food shop, 食べ物の店 a market 市場 that opens on Sunday, 日曜に開く and the school それと学校 where my mother works. [8] 母が働いている 見どころは、絞り込みが二回、名詞の直後に来ていることです。「市場」と置いた直後に「日曜に開く」が来て、「それと学校」と置いた直後に「母が働いている」が来ます。置くやり方では、店を三つ数えながら、それぞれに説明が一つずつ付いていくだけです。訳文にすると「日曜に開く市場」「母が働いている学校」と二か所で前へ回すことになり、回している最中に一つめの店が頭から消えます。 並んでいるものが多いほど、置くほうが楽になります 。 置いた日本語を口に出す 最後に、置き方の練習の仕方を一つ書いておきます。紙に書かず、 声に出して 置いてください。英語の塊を音読し、そのすぐ後ろに日本語を小さく言い、また次の塊を音読する。この形だと、置いた日本語をつなぎ直す暇がありません。書いてしまうと、書いたものを見ながら直したくなります。声は消えるので直せません。消えることがこの練習の値打ちです。 やってみる 第 3 篇「 My Town 」から三文を選びました。切ってから置いてください。切れ目の規則は 7.1 訳編 の五つです。 The station is old, and only two trains an hour stop there. [8] The park is by the river, on the other side of the bridge. [8] In the morning the students stand together on the same side, and my father waits at the far end with the other men who work in the next city. [8] 置いた日本語は文の形にしないでください。三つめは塊が七つになります。多いと感じるかもしれませんが、置くだけなら一つずつ片づくので、長さは負担になりません。考え方は下の「答え」の一つめにあります。塊の数が違っても、前から受け取れているなら直す必要はありません。 練習 「手順」の 5 文を使う。行を押して音を聞き、英語の塊を 音読 し、塊ごとにその場で日本語を小さく声に出し