6.44 唐詩五首 — Epoché
この篇でできるようになること 五言と七言の切れ目を声で分けられます。 省かれた語のつながりを補って、現代語で短く書けます。 否定、可能補語、疑問詞を本文に見つけられます。 農夫の詩と帰郷の詩を決める一語を説明できます。 前提 :6.43「聞一多『死水』」。本文は別の読書ページにあり、五つの段落が一首ずつに当たります。 五首を、短い語のつながりで読む 王維『鹿柴』、孟郊『遊子吟』、李紳『憫農 其一』、賀知章『回鄉偶書 其一』、白居易『賦得古原草送別』を読みます。本文を句読点を除いて数えると、順に20字、30字、20字、28字、40字で、合わせて138字です。 ここでは簡体字の本文を読みます。短いから易しいとは限りません。それでも、誰が何をするか、どの語がどの語へ掛かるかを補えば、まとまりが見えます。 慈母手中线,游子身上衣 には、母、手の中、糸、旅に出る子、身の上、衣が並びます。現代語の名詞をつなぐ 的 などが省かれています。日本語の訓読も、このつながりを補います。補い方を、決まった読み方にしたものです。 省かれた所を何でも 的 で埋めるのではありません。母の手の中の糸を言うなら、手の中という場所をひとまとまりにしてから関係を示します。日本語の「の」の数だけ字を足さず、自然な現代語の文にします。 五言と七言の切れ目 この課では、五言を二字と三字、七言を二字、二字、三字に分けて練習します。 空山 の後で切り、 不见人 を続けます。七言は 少小 、 离家 、 老大回 というまとまりです。 切れ目は意味を考える助けにもなります。若いころ、家を離れた、年を取って戻った、と前から追います。声に出すときは、中国語の元の順に読みます。二字と三字の足の違いを感じます。 訓読の語順へ並べ替えてから中国語を読もうとしないようにします。原文の順で区切り、その順のまま意味を受け取ります。日本語の訳を読む練習と、中国語を音読する練習を分けましょう。 今の中国語にもつながる形 空山不见人 の否定は、動詞の前です。 但闻人语响 の 但 も動詞より前にあり、ここではただ聞こえるだけ、という働きです。前の見えないことと、耳に入る声を組にして読みます。 野火烧不尽 は、野火でも焼き尽くせないという可能補語の形です。 不 を挟んで、動作の結果まで到達できないことを表します。 型編 19課 で学んだ形を、古い詩の句にも見つけられます。 笑问客从何处来 では、 从 が出発する場所を示し、 何处 がどこかを尋ねます。 型編 9課 の起点と、 型編 3課 の疑問の働きを合わせて読みます。 谁言寸草心,报得三春晖 は、誰が言えようか、いや言えない、という反語です。子の小さい心で、母の春の日ざしのような愛に報いきれるかと問い、できないという思いを示します。 注: 报得 は、ここでは反語の一部として読めれば十分です。この形は後の課で学びます。 語表 語 品詞 意味 日本語との差 例文 訳 空山 名詞 人けのない山 空っぽの山という景色 空山不见人 人けのない山に人の姿は見えない 但 副詞 ただ〜だけ ここではしかしではない 但闻人语响。 ただ人の声の響きが聞こえる。 闻 動詞 聞く ここでは音を聞く 但闻人语响。 ただ人の声の響きが聞こえる。 返景 名詞 夕日の照り返し 光をいう古い語 返景入深林 照り返しが深い林へ入る 复 副詞 また・再び 繰り返す動き 复照青苔上。 また青い苔の上を照らす。 青苔 名詞 青い苔 光を受けるもの 复照青苔上。 また青い苔の上を照らす。 慈母 名詞 慈しみ深い母 母の愛情を示す 慈母手中线 慈しみ深い母の手の中の糸 游子 名詞 旅に出る子 故郷から離れる人 游子身上衣。 旅に出る子の身につける衣。 临行 句 旅立ちにあたり 出発を前にして 临行密密缝 旅立ちを前に目をつめて縫う 密密 副詞 すき間なく・細かく 縫い目を細かくする 临行密密缝 旅立ちを前に目をつめて縫う 缝 動詞 縫う ここでは動詞 临行密密缝 旅立ちを前に目をつめて縫う 恐 動詞 案じる・恐れる 帰りの遅さを心配する 意恐迟迟归。 帰りが遅くなりはしないかと案じる。 迟迟 副詞 遅く・なかなか〜しない 戻るまでの長さ 意恐迟迟归。 帰りが遅くなりはしないかと案じる。 寸草 名詞 わずかな草 子の小さな心をたとえる 谁言寸草心 誰が言えよう、わずかな草のような心が 三春晖 名詞 春の三か月の日ざし 母の愛のたとえ 报得三春晖。 春の日ざしに報いきれるなどと。 粟 名詞 粟 種としてまく粒 春种一粒粟 春に一粒の粟をまく 颗 量詞 粒 小さな実を数える 秋收万颗子。 秋に万粒の実を取り入れる。 四海 名詞 天下・世の中 四つの海だけを指すのでない 四海无闲田 天下に遊んでいる田はない 闲田 名詞 使われていない田 耕されずにある田 四海无闲田 天下に遊んでいる田はない 犹 副詞 なお・それでも 前の豊かさを受けて折り返す 农夫犹饿死。 農夫はそれでも飢え死にする。 少小 名詞 幼いころ・若いころ 年を取った時と対になる 少小离家老大回 若くして家を離れ、年老いて帰る 乡音 名詞 故郷のなまり 帰郷しても変わらないもの 乡音无改鬓毛衰 なまりは変わらず、びんの毛は衰えた 鬓毛 名詞 びんの毛 顔の左右の髪 乡音无改鬓毛衰 なまりは変わらず、びんの毛は衰えた 何处 疑問詞 どこ 場所を尋ねる古い語 笑问客从何处来。 笑って客はどこから来たかと問う。 离离 形容詞 草の生い茂るさま 草の勢いを描く 离离原上草 生い茂る野原の草 枯荣 名詞 枯れることと茂ること 一年の変化 一岁一枯荣。 一年に一度、枯れてまた茂る。 烧不尽 動詞 焼き尽くせない 可能補語の否定 野火烧不尽 野火でも焼き尽くせない 远芳 名詞 遠くまで続く草の香り 草の広がりを指す 远芳侵古道 遠く続く草の香りが古道をおおう 晴翠 名詞 晴れた日の草の緑 草の色をまとめる 晴翠接荒城。 晴れた日の緑が荒れた城へ続く。 王孙 名詞 旅立つ人・友 ここでは見送る相手 又送王孙去 また友を送り出す 萋萋 形容詞 草の生い茂るさま 別れの情と重ねる 萋萋满别情。 生い茂る草が別れの情に満ちる。 対訳 王維『鹿柴』 人けのない山に、人の姿は見えない。ただ、人の声の響きだけが聞こえてくる。夕日の照り返しが深い林に入りこみ、ふたたび青い苔の上を照らしている。 孟郊『遊子吟』 慈しみ深い母の手の中の糸は、旅に出る子の身につける衣になる。旅立ちを前に、目をつめて縫う。帰りが遅くなりはしないかと案じてのことだ。誰が言えようか、寸ばかりの草のような心で、春の三か月の日ざしに報いきれるなどと。 李紳『憫農 其一』 春に一粒の粟をまけば、秋には万粒の実を取り入れる。天下に遊んでいる田は一つも無い。それなのに、農夫はなお飢えて死ぬ。 賀知章『回鄉偶書 其一』 若くして家を離れ、年老いて帰ってきた。ふるさとの訛りは変わらないが、びんの毛は衰えた。子どもたちは顔を見ても見知らぬ人と思い、笑って「お客さんはどこから来たの」と問う。 白居易『賦得古原草送別』 生い茂る、野原の上の草。一年に一度、枯れてはまた茂る。野火も焼き尽くすことはできず、春風が吹けばまた生えてくる。遠くまで届くかおりが古い道をおおい、晴れた日の草の緑が荒れた城まで続く。またここで友を送り出す。生い茂る草が、別れの情でいっぱいだ。 見えない人、聞こえる声 『鹿柴』は、人の姿が見えない山から始まります。それでも声は聞こえ、次に夕日の光が深い林へ入り、苔を照らします。目、耳、目と、受け取る感覚が切り替わります。 「私」を一度も書かずに、見えるものと聞こえるものを並べています。主語がないから何の話でもないのではありません。どの感覚で場面を受け取るかを、句ごとに替えて読んでみましょう。 豊かな田と、飢える農夫 『憫農』では、一粒から万粒へ、そして耕されない田はないという豊かさを述べます。それなのに 农夫犹饿死 です。 犹 は、なお、それでもという意味です。この語が前の三句を受けて、話を折り返します。 この字を取ると、春の種まき、秋の収穫、田、農夫という四つの事実の並びに近づきます。豊かであるはずなのに飢えるという矛盾を、短い語で強く示しているのです。 帰ってきた人が、客と呼ばれる 『回鄉偶書』では、故郷へ戻った人を子どもたちが知らず、客はどこから来たのかと笑って尋ねます。 笑问 に悲しいという語はありません。子どもの笑顔と、帰ってきた本人がよそ者として扱われる場面を比べます。そのずれを読みます。 『賦得古原草送別』では、草が枯れてもまた生えることと、友を送り出すことが並びます。 野火烧不尽,春风吹又生 を、草の生命の動きとして読み、その先の別れの情へ進みます。 練習 母の手の中に糸があるという現代語にします。 母亲_手 と 手_ の空欄に、それぞれ 的 ・ 里 のどちらを入れるか考え、糸を主語にした一文を書いてください。 ただ人の声が聞こえたという現代語にします。 听到_ の空欄に完了の字を入れ、主語を付けて一文にしてください。 客がどこから来たかを尋ねる文にします。 _哪里来 に起点を示す語を入れ、客を主語にした一文を書いてください。 本文の 空山不见人 を、場所を先に示す現代中国語の一文にしてください。 本文の 乡音无改鬓毛衰 を、変わらないものと変わったものに分けて、短い現代語の二文にしてください。 野火烧不尽 にならい、どうしても終わらないことを 不完 を使って一文にしてください。 野火烧不尽 にならい、 不尽 を使って、感謝を言い尽くせない文を作ってください。 『鹿柴』の四句を、目で受け取る句か耳で受け取る句かに分けてください。 『憫農』で、豊かさから飢えへ折り返す字を挙げ、その字がなければどう変わるかを二〜三文で説明してください。 帰郷の詩で、悲しいという語を使わずに隔たりを示す句を本文から書き出してください。 本文から、動詞の前に 不 を置く否定の句、可能補語の否定の句、場所を尋ねる疑問詞を含む句を、一つずつ中国語で書いてください。 戻り語 前の課で学んだ語を使い、『遊子吟』か『回鄉偶書』の場面を今の時代に移して、中国語 3 文で書きます。 针・毛衣・外套・长途・独自・列车 から三つ以上使います。 针 と 毛衣 を使い、母が旅立つ子のために編み物をする場面を中国語で書いてください。 长途 と 列车 を使い、遠い故郷へ帰る場面を中国語で書いてください。 独自 と 外套 を使い、一人で旅立つ場面を中国語で書いてください。 音読 ▶で手本を聞き、五言は二字と三字、七言は二字、二字、三字に分けて読みます。中国語の元の順を守り、五首の短い足取りを声で確かめます。 この篇のまとめ 省かれたつながりを補い、前から意味を受け取ります。今の中国語と共通する否定や疑問、可能補語を手がかりにできます。短い一字や場面の置き方が、詩全体の向きを決めます。 次の篇へ 次の6.45は蘇軾・李清照・辛棄疾の宋詞三首です。曲に合わせて句の長さが変わる言葉から、息づかいの違いを読みます。 答え 线在母亲的手里。 我只听到了人声。 客人从哪里来? 在山里看不见人。 我的乡音没变。 我的头发少了。 我看不完这些书。 我说不尽对您的感谢。 空山不见人 は目、 但闻人语响 は耳、 返景入深林 と 复照青苔上 は目に関わります。 犹 です。「それでもなお」があるため、豊かな田があるのに農夫が飢えるという矛盾が強く出ます。なければ、四つの事実がそのまま並ぶ形に近づきます。 笑问客从何处来。 帰った本人が、子どもから客として扱われます。 否定: 空山不见人 。可能補語の否定: 野火烧不尽 。疑問詞: 笑问客从何处来 ( 何处 )。 妈妈用针给我织毛衣。 我坐长途列车回家。 我穿上外套,独自出发。 参考文献 王維・孟郊・李紳・賀知章・白居易『唐詩五首』( 空山不见人,但闻人语响。 )。五首それぞれの詩本文を通して収録。繁体字を簡体字に改め、底本に混ざっていた註・校勘を除く。パブリックドメイン。出所:王維『鹿柴』 https://zh.wikisource.org/wiki/%E9%B9%BF%E6%9F%B4_%28%E7%8E%8B%E7%B6%AD%29 / 孟郊『遊子吟』 https://zh.wikisource.org/wiki/%E9%81%8A%E5%AD%90%E5%90%9F_%28%E5%AD%9F%E9%83%8A%29 / 李紳『憫農 其一』 https://zh.wikisource.org/wiki/%E6%86%AB%E8%BE%B2_%28%E6%9D%8E%E7%B4%B3%29 / 賀知章『回鄉偶書 其一』 https://zh.wikisource.org/wiki/%E5%9B%9E%E9%84%89%E5%81%B6%E6%9B%B8 / 白居易『賦得古原草送別』 https://zh.wikisource.org/wiki/%E8%B3%A6%E5%BE%97%E5%8F%A4%E5%8E%9F%E8%8D%89%E9%80%81%E5%88%A5