3.57 文体 I — 規則は趣味ではなく、読む人のための設計 — Epoché
この課でできるようになること ★ 文体の規則が「作法」ではなく「設計」だ と分かる。 ★ 不要語を削る ——削るのは語で、中身ではないと分かる。 ★ 能動・肯定・具体 の三つを、自分の文に当てられる。 ★ 読 E で読んだ規則 ( 8.130 読編 ・ 8.131 読編 )とつながっていることが分かる。 前提 : 3.56 まで。読 E の 8.130・8.131 を読んでいるとなおよい。 例文で見る 10 文を並べます。行を押すと音が鳴ります。★ 上から下へ、 ぼかした文 → はっきりした文 の順です。★ 意味が変わっているのではありません ——★ 同じことを、 読む人が引っかからない形 で言い直しています。 英文 日本語訳 どこを見るか It was not very cold yesterday. [1] 昨日はあまり寒くなかった。 ★ not very 。 否定でぼかしている It was not always this way. [2] いつだってこんなようだったわけじゃない。 ★ not always 。 何だったのかは言っていない How's the weather? [3] 天気はどうですか。 ★ weather は ひとまとめの語 It rained hard yesterday. [4] 昨日は激しい雨が降った。 ★ rained hard 。 同じことを具体で It rained yesterday. [5] きのう雨が降った。 ★ 四語 。 これ以上は削れない The boy was helped by me. [6] その少年は私によって助けられました。 ★ 受動 。 五語のうち二語が by me He wrote the report. [7] 彼は報告書を作成した。 ★ 能動 。 だれが・何を が先頭 He built a new house. [8] 彼は新しい家を建てた。 ★ 能動+具体 。 built は made より狭い There is a better way. [9] もっといい方法がある。 ★ There is 。 主語が後ろへ逃げる He smiled and left. [10] 彼は微笑みそして立ち上がった。 ★ 二つの動詞が同じ形 。 並べると読みやすい 骨組み ★規則は、読む人のための設計 ★ これが、この課でいちばん大事な一つ です。 Strunk は『 The Elements of Style 』(1918 年)で、「不要語を削る」という規則をこう書き出しています [11] —— Vigorous writing is concise 。★ 続きが要 です—— A sentence should contain no unnecessary words, a paragraph no unnecessary sentences, for the same reason that a drawing should have no unnecessary lines and a machine no unnecessary parts 。 ★ 比べているのは 絵と機械 です。★ 作法の話ではなく、 設計の話 として書かれて います。★ 線が一本多い絵は見にくく、部品が一つ多い機械は壊れやすい ——★ 語が一つ多い文は、 読む人がそのぶん時間を使う 。 ★ だから、この課の規則に 「丁寧だから」「格好がいいから」という理由はありません 。★ 理由はいつも一つ—— 読む人の手間 です。 ★ 読 E で、あなたはもうこの本を読んでいます ( 8.130 読編 ・ 8.131 読編 )。★ そこで出たのは 句読点と段落の規則 —— In a series of three or more terms with a single conjunction, use a comma after each term except the last [12] と、 Make the paragraph the unit of composition [12] です。★ この課で足すのは、 その先の 文の中身 の規則 です。 ★不要語を削る — 削るのは語であって、中身ではない ★ いちばん誤解されるところ です。★ 「短く書け」ではありません 。 Strunk 自身がすぐに断っています [11] —— This requires not that the writer make all his sentences short 。 どんな語か 見かけ どう直すか ★ 中身の無い枠 the fact that ★ 丸ごと落とす 長い言い換え in order to to だけにする ★ 後ろへ逃げる主語 There is a better way ★ A better way exists ぼかしの副詞 rather / very / quite ★ 消す ★ いちばん上は、 日本語話者がとくに書きやすい 形です。★ 「〜という事実」を そのまま the fact that にする からです。★ 英語では、 ほとんどの場合そのまま落とせます 。 ★ 四つめのぼかしの副詞は、 「丁寧にしたい」という気持ちから入ります 。★ 3.49 型編 で見たとおり、 丁寧さは副詞ではなく文の形で作ります 。 ★能動で書く — だれがやったのかを戻す Strunk は規則 10 でこう言います [11] —— The active voice is usually more direct and vigorous than the passive 。★ そして、自分で例を並べます —— I shall always remember my first visit to Boston と My first visit to Boston will always be remembered by me 。 ★ 後ろのほうが 長く、遅く、弱い のが分かります。★ 理由は 語数ではありません ——★ 「だれが」が 文の終わりまで出てこない からです。 ★ ただし、 3.35 型編 で置いたとおり、 受動が正しい場面はあります ——★ だれがやったかが 分からない・言う必要がない・言いたくない とき。★ 規則 10 は「受動を使うな」ではなく、 「理由なく受動にするな」 です。 ★肯定で言う — 否定はぼかしの道具ではない 規則 11 はこう始まります [11] —— Put statements in positive form 、 Make definite assertions 。★ そのあとが厳しい —— Use the word _not_ as a means of denial or in antithesis, never as a means of evasion 。 ぼかした形 はっきりした形 He was not very often on time He usually came late not honest dishonest did not remember forgot ★ 上の二つは Strunk の例 です [11] 。★ どれも 語数が減り、同時にはっきりします ——★ 二つの効きが同じ向き だというのが、この課の規則がつながっている印です。 ★具体の語を選ぶ — ひとまとめの語をほどく 規則 12 です [11] —— Prefer the specific to the general, the definite to the vague, the concrete to the abstract 。★ Strunk の例が分かりやすい —— A period of unfavorable weather set in を It rained every day for a week に直します。 ★ もう一組 —— He showed satisfaction as he took possession of his well-earned reward が He grinned as he pocketed the coin になります。★ 十二語が七語 になり、★ 同時に 目に見えるようになりました 。 ★ 日本語話者には、 ここが助けになります ——★ 抽象語は たいてい長くて順位が低い語 ( satisfaction ・ possession )、★ 具体語は 短くて順位が高い語 ( grinned ・ coin )。★ 知っている語で書くほうが、 結果として良い文体になります 。 ★並べるものは同じ形で 規則 15 です [11] —— Express co-ordinate ideas in similar form 。★ 理由も書いてあります —— The likeness of form enables the reader to recognize more readily the likeness of content and function 。 ★ また 読む人の手間 です 。★ 形がそろっていれば、 中身もそろっていると一目で分かる 。★ 10.13 作編 の箇条書きで置いた規則と同じもの です。 日本語ならどう言うか 日本語との差を三つ挙げます。 何が 日本語では 英語では 規則の性質 ★ 作法(相手を立てる) ★ 設計(読む手間を減らす) 削る対象 言い切りを避けて足す ★ 足した語を削る 否定の使い方 やわらげる道具 ★ 打ち消す道具だけ ★ いちばん上が芯 です。★ 日本語の文章作法は 相手との関係 を軸に説かれることが多い のに対し、★ Strunk の規則は 読む人の作業量 だけを見て います。 ★ 真ん中は、書くときに効きます 。★ 日本語では 「〜ではないかと思われる」 のように 足してやわらげます が、★ 英語で同じことをすると 規則 11 と 13 の両方に当たります 。 丁寧さの段 ★ 「はっきり書く」と「無礼」は 別のこと です。★ ここを混ぜると、 この課の規則が使えなくなります 。 どんな文か はっきりしているか 丁寧か ★ Send the report. ★ はっきり ★ 低い ★ Could you tell me the way? [13] ★ はっきり ★ 丁寧 ★ It would perhaps be possible to consider sending it ★ ぼやけている ★ 丁寧に見えるだけ ★ 真ん中が答え です(この一文は池から引きました)。★ 丁寧さは 文の形(疑問・法助動詞) で作り、★ 中身は具体のまま にします ( 3.49 型編 )。 ★ いちばん下は 読む人に仕事を渡しています ——★ いつまでに何をすればよいのかを、 読む人が考えなければなりません 。 よくある誤り 三つ挙げます。下の誤文は Epoché の作例です。 削りすぎて中身まで落とす。 「金曜までに報告書を送ってください」を Report. にしては★ 規則ではなく電報 です。★ Strunk が断っているとおり、 短くすることが目的ではありません 。 受動を全部やめる。 Someone broke the window last night. は、★ だれが割ったか分からないのに someone という空の主語 を立てて います。★ The window was broken last night. のほうが正しい です( 3.35 型編 )。 抽象語を「丁寧語」だと思う。 We will conduct an evaluation of the situation. は★ We will look at it. と同じこと を言っています。★ 長いほうが 専門的に見える と思うと、この誤りに落ちます 。 ★ 三つめは、 仕事の英語でいちばん多い です。★ 9.13 論編 で置いた 名詞化 が、ここでも効いて います——★ evaluate という動詞を an evaluation という名詞にすると、★ 動詞の席が空いて conduct のような中身の無い語が入ります 。 実文で通す ★ 読 E で読んだ Strunk の原文から、 規則そのものの書き方 を見ます ( 8.130 読編 ・ 8.131 読編 )。 どこから 原文 何が見えるか ★ 規則 2 red, white, and blue [12] ★ 三語を同じ形で ★ 規則 2 の例文 He opened the letter, read it, and made a note of its contents ★ 三つの動詞が同じ形 ★ 規則 9 The beginning of each paragraph is a signal to him that a new step in the development of the subject has been reached [12] ★ 段落の頭は合図 ★ 真ん中が、この課の縮図 です。★ opened ・ read ・ made が 三つとも過去形の能動 で、★ 主語は一度しか出てきません 。★ 規則 15(同じ形で並べる)と規則 13(不要語を削る)が 同時に働いて います。 ★ いちばん下は 受動です ( has been reached )。★ Strunk 自身が 理由のある受動 を使って います——★ 「だれが到達したか」は 読み手であって書き手ではない からです。★ 規則は 機械の当てはめではありません 。 動画で見る この課の内容に近い解説動画です。押すと再生されます(再生は YouTube に接続します)。「画面に固定して見る」を押すと、本文を読みながら見られます。 Writing Concisely - UNC Writing Center UNC Writing Center (2:08, 2018) 不要語を削る。2 分。★ノースカロライナ大学ライティングセンター Writing Center Workshop: Conciseness USCA Writing Center (16:55, 2025) 同じ主題