3.6 命令・禁止・呼格、呼びかけ — Venī et vidē — Epoché
この課でできるようになること 命令法と nōlī +不定詞で、命令と禁止を言える。 呼格で呼びかけ、 ō の有無を使い分けられる。 挨拶と手紙の型( salvē・valē・salūtem dīcit )を知っている。 前提 : 3.5 まで。 命令法の形は 形編 9課 で作りました。この課は 使い方 です。ローマ人は命令法を日常に使い、祈りにも手紙にも師の教えにも命令法が出ます。日本語話者は「〜てください」「〜していただけますか」に慣れているので、ラテン語の命令法を強すぎると感じますが、 ラテン語の側に丁寧さの段階は無い と覚えてください。 肯定の命令 — 単数と複数 相手が一人なら単数( venī )、複数なら -te ( venīte )。主語は要りません。目的語を付けるなら対格: Dā mihi librum (私に本をくれ)。命令法は いつも 2 人称 です。「〜しよう」「〜させよ」(1・3 人称)は接続法で言い、第 3 期に扱います。 原文 日本語訳 見るところ Veni et vide. [1] 来て、見よ。 単数 venī ・ vidē Venite et videte. [2] 来て、見なさい。 複数 venīte ・ vidēte Date, et dabitur vobis: [3] 与えよ、そうすれば与えられるだろう。 命令+ et +未来=「〜せよ、そうすれば〜」の型 Petite, et dabitur vobis: [4] 求めよ、そうすれば与えられるだろう。 同じ型。 petite (第 3 活用複数) Da huic locum: [5] この人に席を譲れ。 dā +与格+対格 Audite hæc, omnes gentes; [6] これを聞け、すべての民よ。 audīte +呼格 omnēs gentēs 禁止 — nōlī +不定詞 「〜するな」は nōlī (単数)/ nōlīte (複数)+不定詞: nōlī timēre (恐れるな)・ nōlīte timēre 。直訳は「恐れることを望むな」。 nōn +命令法( nōn timē )は古典散文では使いません。詩と後古典には nē +接続法( nē timeās )もあり、ウルガタの nē dīcās (言うな)はその形——第 3 期の接続法で出会います。第 1 期は nōlī だけで足ります。 呼格 — 呼びかけの格 呼びかけは 呼格 で、第 2 変化 -us (→ -e )以外は主格と同じ形です。 Domine (主よ)・ Amīce (友よ)・ mī fīlī (我が息子よ)・ Fortūna (運命よ)・ omnēs gentēs (すべての民よ)。感嘆詞 ō を添えることもありますが( Ō tempora, ō mōrēs! ああ時代よ、ああ風俗よ——キケロ)、ふつうは付けません。呼格は文頭でも文中でも文末でも置け、読点で区切られます。 原文 日本語訳 見るところ Domine, quis est? [7] 主よ、誰ですか。 Domine 呼格( -e ) Amice, ad quid venisti? [8] 友よ、何のために来たのか。 Amīce 呼格( -e ) Quid est tibi, mare, quod fugisti? [9] 海よ、お前はどうしたのか、逃げるとは。 mare 呼格(中性は主格と同じ) Nihil mihi tecum, fortuna. [10] 運命よ、私には君と何の関わりもない。 Fortūna 呼格が文末 挨拶と手紙の型 場面 言い方 会ったとき Salvē (一人に)/ Salvēte (複数に)。「健やかであれ」が原義 別れるとき・手紙の結び Valē / Valēte 。「元気で」。 Cūrā ut valeās 元気でいるよう気をつけて(セネカの結びの型) 手紙の書き出し Seneca Lūcīliō suō salūtem (セネカがルキリウスへ挨拶を[送る])。差出人が主格・宛先が与格・ salūtem dīcit の省略形 S. D. 感謝 Grātiās agō (感謝する。直訳「感謝を行う」)/ Grātiās tibi agō 君に感謝する お願いの和らげ quaesō (お願いだ)/ sīs (= sī vīs よろしければ)を命令法に添える セネカの『道徳書簡』124 通はすべて Seneca Lūcīliō suō salūtem で始まり、 Valē で終わります。第 3 期にこの手紙を読むとき、型が分かっていれば最初と最後の行はもう読めています。 背景 — ローマ人は命令法をどう使ったか ラテン語の命令法が「失礼でない」ことは、ローマ人の手紙を読むとよく分かります。キケロは友人アッティクスへの手紙で cūrā ut valeās (元気でいるよう気をつけて)・ scrībe ad mē (私に書いてくれ)と命令法を連発しますが、二人は対等の親友です。セネカがルキリウスに fac ergō, mī Lūcīlī, quod facere tē scrībis (だからルキリウスよ、君が書いているとおりのことをしなさい)と言うのは師の口調。祈りの Miserēre meī, Deus (神よ、私を憐れみたまえ)は神への命令法で、これは日本語の「〜たまえ」にあたる。つまりラテン語では、 相手との関係は命令法の形ではなく、呼びかけ( mī Lūcīlī ・ Domine )と文脈で示す のです。 丁寧さを足したいときは、命令法に小さな語を添えます。 quaesō (お願いだ)・ sīs (= sī vīs よろしければ)・ amābō tē (直訳「君を愛するだろう」=どうか)。喜劇作家プラウトゥスの台詞にはこれが頻出し、日常のローマ人の話し言葉がうかがえます。逆に、命令法をさらに強くする言い方はほとんど無い——命令法自体がすでに直接だからです。 呼格は、格の中でいちばん 古い時代の姿 を残しています。インド・ヨーロッパ祖語の呼格は「語幹そのもの」で、語尾を持たなかった。ラテン語で第 2 変化だけ -e になるのは、語幹末の母音 o が呼格では e に交替するという祖語の規則の名残です(ギリシア語の -e も同じ)。 -ius の呼格 -ī ( fīlī・Vergilī )は -ie が縮んだもの。呼格は文の他の部分と一致も支配もしない、いわば「文の外に立つ」格で、だから位置が自由で読点で区切られます。日本語の「〜よ」がどこにでも置けるのと同じです。 日本語ならどう言うか 日本語の「〜てください」は依頼で、命令形「〜しろ」は乱暴に響きます。ラテン語の命令法はその中間——「〜せよ」「〜なさい」「〜てください」のどれにも訳せ、文脈(祈りか、師弟か、友人か)で選びます。逆に日本語の「〜しましょう」「〜させてください」は命令法では言えず、第 3 期の接続法( eāmus 行こう)を待ちます。呼びかけは、日本語が名前や役職(「先生」「お父さん」)で呼ぶのに対し、ラテン語は呼格で名詞そのものを呼ぶ( pater 父よ・ magister 先生よ)。 Date , et dabitur vōbīs .(与えよ、そうすれば君たちに与えられるだろう) 語(順に) 意味 読む順 Date, 与えよ ① et そうすれば ② dabitur 与えられるだろう ④ vōbīs. 君たちに ③ 命令+ et +未来は「〜せよ、そうすれば〜」の型。 dabitur は受動の未来(第 2 期)ですが、型として覚えておけば読めます。 新出語 語(品詞) 意味 注 valeō la 動詞・第 2 活用( valēre , valuī ) 健康である、力がある 日本語との差 valē =さようなら。英語 valid ・ value salveō la 動詞・第 2 活用( salvēre ;命令だけ) 健やかである 日本語との差 salvē =こんにちは。英語 salvation ・ safe Salva sis, Lisa! [11] こんにちは、リサ。 quaesō la 動詞1 人称のみ お願いだ、どうか 日本語との差 命令を和らげる。 quaerō の古い形 Paginam, quam quaesivi, invenire non possum. [12] 探してたページが見つからない。 Da mihi poculum lactis, quaeso. [13] ミルクを一杯ください。 ecce la 感嘆詞 見よ、ほら 日本語との差 Ecce homō (この人を見よ)。伊 ecco Ecce illa parva puella a sene agitatur! [14] 見て、その若い女性は老人に追いかけられる! gēns la i 名詞・第 3 変化 i 幹・女性( gentis ) 氏族、民族 日本語との差 英語 gentle ・ gentile 。呼格複数 gentēs ita la 副詞 そのように、はい 日本語との差 答えの「はい」に近い。英語 (不変) sīc la 副詞 このように、そう 日本語との差 校訂の [ sic ](原文ママ)。伊 sì・西 sí の元 minimē la 副詞 少しも〜ない、いいえ 日本語との差 minimus の副詞 certē la 副詞 確かに、少なくとも 日本語との差 英語 certain petō la 動詞・第 3 活用( petere , petīvī , petītum ) 求める、向かう、攻める 日本語との差 英語 petition ・ compete 読むときの手順 — 命令と呼格を見たら 命令法は、語尾が無い( amā・vidē・dūc・audī )か -te で終わる短い動詞で、主語が無い文に出ます。読み上げは短く強く。呼格は 読点に挟まれた名詞 で、文の主語でも目的語でもない——「文の外」にあります。呼格を主語と取り違えると文が壊れるので、読点の間の名詞は「呼びかけかもしれない」と一度疑ってください。 -e で終わる語( Domine・Amīce )は第 2 変化の呼格の可能性が高く、 -a ・ -us 以外の主格と同形の呼格は文脈で判断します。第 1 期の統制作文では、呼格は必ず文頭か文末に置き、読点で区切ります。 練習 練習 1 — 命令と禁止 「来い(一人に)」「来るな(一人に)」「聞け(複数に)」「恐れるな(複数に)」をラテン語にしてください。 練習 2 — 呼格 amīcus ・ fīlius ・ puella ・ rēx ・ Mārcus の呼格を書いてください。 練習 3 — 本文を隠して復唱する 上の 10 文を 3 段で読んでください。命令法は短く強く、呼格のあとは一拍置く。 この課のまとめ 命令法は 2 人称だけ。単数は語幹、複数 -te 。丁寧さの段階は無い。 禁止は nōlī(te) +不定詞。 nōn +命令法は使わない。 呼びかけは呼格。 -us → -e 以外は主格と同形。 ō はふつう付けない。 挨拶 salvē/valē 、手紙は差出人主格+宛先与格+ salūtem 。 次の課へ 第 3.7 課は 時制の使い分けと時の表現 。現在・未完了・未来をいつ使うか、「〜日に」(奪格)と「〜日間」(対格)の違い、 hodiē・crās・herī・nunc・tum 。 答え 練習 1 : Venī. / Nōlī venīre. / Audīte. / Nōlīte timēre. 練習 2 : amīce / fīlī / puella / rēx / Mārce 。 参考文献 Vulg . Ioh . 1:46( Veni et vide. )。 Vulgata Clementina , la . wikisource 。パブリックドメイン Vulg . Ioh . 1:39( Venite et videte. )。 Vulgata Clementina , la . wikisource 。パブリックドメイン Vulg . Luc . 6:38( Date, et dabitur vobis: )。 Vulgata Clementina , la . wikisource 。パブリックドメイン Vulg . Matt . 7:7( Petite, et dabitur vobis: )。 Vulgata Clementina , la . wikisource 。パブリックドメイン Vulg . Luc . 14:9( Da huic locum: )。 Vulgata Clementina , la . wikisource 。パブリックドメイン Vulg . Ps . 48:2( Audite hæc, omnes gentes; )。 Vulgata Clementina , la . wikisource 。パブリックドメイン Vulg . Ioh . 13:25( Domine, quis est? )。 Vulgata Clementina , la . wikisource 。パブリックドメイン Vulg . Matt . 26:50( Amice, ad quid venisti? )。 Vulgata Clementina , la . wikisource 。パブリックドメイン Vulg . Ps . 113:5( Quid est tibi, mare, quod fugisti? )。 Vulgata Clementina , la . wikisource 。パブリックドメイン Sen . Ep . 20.118.4( Nihil mihi tecum, fortuna. )。 Perseus Digital Library ( canonical-latinLit , phi 1017. phi 015)。 CC BY-SA 4.0 Tatoeba 文 #5875155( Salva sis, Lisa! )。Tatoeba Project, CC BY 2.0 FR. https://tatoeba.org/en/sentences/show/5875155 Tatoeba 文 #3868684(