1.2 5 つの母音から 12 へ — sheep と ship、cap と cup — Epoché
この課でできるようになること 日本語の 5 つの母音に、英語の母音がいくつ重なっているかを言える。 seat と sit 、 cap と cup を、長さでなく舌の高さと力の入れ方で作り分けられる。 母音だけが違う語の対(最小対)を音読判定にかけ、左右が別の綴りで返るかで自分の母音を確かめられる。 前提 : 1.1 まで。 前の課では、カタカナが足した母音を 抜く ことをしました。この課は、抜いたあとに どの母音を出すか です。母音を足さないだけでは足りません。1 音節で言えていても、その 1 つの母音が隣の母音とすり替わっていれば、相手には別の語が届きます。 日本語の母音は ア イ ウ エ オ の 5 つです。英語はその倍以上あります。この課程が使う音の辞書(CMUdict)は、基本語 2,809 語の母音を 15 の記号 で書き分けていました。うち 5 つは二重母音( time や day の母音のように、1 つの音節の中で音が滑るもの)で、残る 10 が単母音です。弱いところにだけ出る曖昧な母音をどう数えるか、方言でどこまで区別するかで、数え方は 1 つ 2 つ動きます。題の 12 はそのよく使われる数え方です。正確な数より大事なのは、 5 が 10 以上になる ということ——日本語の母音 1 つに、英語の母音が 2 つも 3 つも重なっている、という事実のほうです。 日本語との差 重なっている、というのはこういうことです。日本語で イ と聞こえる範囲に、英語は 2 つの母音を置いています。ア と聞こえる範囲には 3 つ、ウ には 2 つ、オ には 2 つ。日本語の耳はその範囲に入った音を全部「同じ イ」「同じ ア」として受け取るので、違いがあることにそもそも気づきません。聞こえていないものは言い分けられないので、口も 1 つしか作りません。 下の表が、その重なりです。右の列に、重なりのせいで同じ音になってしまう語の対を挙げました。この課の残りは、この 6 つの重なりを 1 つずつほどいていく作業です。 日本語の母音 重なる英語の母音の数 同じ音になってしまう対 イ 2 つ seat と sit ア 3 つ cap と cup 、 car と core ウ 2 つ pool と pull エ 1 つ(ただし ア と境を接する) bad と bed オ 2 つ(ただし ア と境を接する) far と for 伸ばす アー 1 つ(日本語に無い舌の形) father と further 設計書の実測では、この課程の基本語 2,809 語のうち 88.4% に、日本語に無い音が入っています。母音の側の内訳は、曖昧母音( cup の母音と同じ枠で数えます)42.6%、 sit の母音 25.3%、伸ばす アー の母音 17.4%、 cap の母音 11.3%、 for の母音 6.4%。子音の側は R 29.5%、 L 28.9%、 F 10.5%、 V 8.8%、 TH 2.0%。最も広く効いているのは曖昧母音で、次が R と L 、その次が sit の母音です。つまり通じる発音の太い柱は 母音と R ・ L の 2 本—— TH は最下位で、そこに時間をかけるのは後回しでよい(1.5 で扱います)。この課が母音、次の 2 課がその 2 本目です。 長さで分けようとしない ここが日本語話者のいちばんの落とし穴です。日本語では、母音の 長さ が語を分けます。「おばさん」と「おばあさん」、「ここ」と「こうこう」。長さは日本語にとって意味を変える道具なので、英語の母音の違いを見せられると、私たちは自動的に「長いほう・短いほう」に振り分けてしまいます。カタカナがまさにそれをやっていて、張った母音は伸ばす音で、緩めた母音は短い音で写されています。 しかし seat と sit の違いは、長さではありません。 舌の高さと、力の入れ方 です。 seat の側は、口を横に引いて舌を高く保ち、その形を最後まで 緩めません (張った母音)。 sit の側は、力を抜いて舌を少し下げ、口の真ん中へ寄せます(緩めた母音)。力を抜くと結果として短くなりやすいので、長さは 差の影 としては現れます。けれども目印にはできません。 目印にできない理由は 2 つあります。1 つは、同じ母音でも後ろの子音によって長さが変わるからです(1.11 で扱います)。もう 1 つは、日本語の「長い母音」は口の形を変えずに伸ばすだけなので、いくら伸ばしても張った母音にはならないからです。長く言えば通じる、は起こりません。 力を入れたまま保つか、抜くか ——この 1 点に置き換えてください。 六つの対で聞き分ける 母音だけが違う語の対を最小対と呼びます。基本語の中の最小対を数えると、この課で扱う 6 つの重なりで合わせて 49 組 ありました。組の数が多い重なりほど、間違えたときに別の語になってしまう危険が大きい、ということです。 以下の表に出すのは、そのうち 綴りが変わる対だけ です。理由は音読判定にあります。読書ページの音読判定は、あなたの声を 綴り で返します。だから綴りの違う対なら、左を読んだのに右の綴りが返ってきた、という形で自分の母音を機械に判定させられます。組が多い節は、両方の語がやさしいものから 8 組までに絞りました(表に出したのは全部で 37 組)。3 列目には、その対の綴りのどこが違うかを書いてあります。判定の返りを見るときの目印です。 日本語の イ に重なる — seat と sit 日本語の イ の範囲に、英語は張った母音と緩めた母音の 2 つを置いています。実測で 17 組 ——6 つの中で最も多く、題に挙げた sheep と ship もこの中に入ります。左の列は口を横に引いたまま緩めない側、右の列は力を抜いて舌を少し下げた側です。 左の語(発音) 右の語(発音) 綴りの違い eat [ˈit] it [ˈɪt] ea を i に least [lˈist] list [lˈɪst] ea を i に feel [fˈil] fill [fˈɪl] ee を il に seat [sˈit] sit [sˈɪt] ea を i に reach [ɹˈitʃ] rich [ɹˈɪtʃ] ea を i に beat [bˈit] bit [bˈɪt] ea を i に heat [hˈit] hit [hˈɪt] ea を i に peak [pˈik] pick [pˈɪk] ea を ic に 英文 日本語訳 見るところ Have a seat. [1] 座りなよ。 seat は最後まで口を横に引いたまま Let's sit down. [2] 座りましょう。 sit は力を抜く。長さで seat と分けようとしない 日本語の ア に重なる — cap と cup 日本語の ア の範囲は広く、英語の母音を 3 つ抱えています。まずそのうちの 2 つ。 cap の側は口を大きめに開いて舌を前に置き、 cup の側は口の真ん中で短く、力を入れずに出します。実測で 8 組 。カタカナで両方とも知っている語が多いのが、この重なりの厄介なところです。 左の語(発音) 右の語(発音) 綴りの違い staff [stˈæf] stuff [stˈʌf] a を u に match [mˈætʃ] much [mˈʌtʃ] at を u に fan [fˈæn] fun [fˈʌn] a を u に cat [kˈæt] cut [kˈʌt] a を u に lack [lˈæk] luck [lˈʌk] a を u に track [tɹˈæk] truck [tɹˈʌk] a を u に drag [dɹˈæɡ] drug [dɹˈʌɡ] a を u に cap [kˈæp] cup [kˈʌp] a を u に 英文 日本語訳 見るところ I think both match. [3] 両方とも合ってると思うよ。 match は口を横にも開く。左の列の母音 You look much better. [4] 前よりもずっと良さそうですね。 much は口の真ん中で短く。右の列の母音 ア と エ の境目 — bad と bed cap の母音は、日本語の ア と エ のちょうど間にあります。だから日本語話者はこれを エ に寄せてしまい、 bad が bed に化けます。実測で 11 組 。左の列は口をもっと大きく開いて舌を低く、右の列は口の開きを小さくして舌を上げます。 左の語(発音) 右の語(発音) 綴りの違い than [ðˈæn] then [ðˈɛn] a を e に bad [bˈæd] bed [bˈɛd] a を e に gas [ɡˈæs] guess [ɡˈɛs] a を ues に dad [dˈæd] dead [dˈɛd] e を足す latter [lˈætɚ] letter [lˈɛtɚ] a を e に band [bˈænd] bend [bˈɛnd] a を e に land [lˈænd] lend [lˈɛnd] a を e に sand [sˈænd] send [sˈɛnd] a を e に 英文 日本語訳 見るところ Is it bad? [5] 悪いですか? bad は口を大きく開ける Get to bed. [6] ベッドへいけ。 bed は開きを小さく。 bad と混ぜない 日本語の ウ に重なる — pool と pull 日本語の ウ にも英語の母音が 2 つ重なります。実測では 2 組 しかありませんが、どちらの語も日常でよく使うので、少ないからといって捨てられません。左の列は唇をしっかり丸めて突き出したまま保ち、右の列は丸めをゆるめて力を抜きます。日本語の ウ は唇をあまり丸めないので、左の列のほうが遠い音です。 左の語(発音) 右の語(発音) 綴りの違い pool [pˈul] pull [pˈʊl] oo を ul に fool [fˈul] full [fˈʊl] oo を ul に 英文 日本語訳 見るところ Are you full? [7] お腹いっぱいになった? full は右の列の母音。唇の丸めをゆるめる ア と オ の境目 — far と for 日本語の ア の 3 つ目と、オ の側の母音です。 far の側は口を大きく開けて舌を低く後ろに、 for の側は唇を丸めます。実測で 7 組 。どちらの後ろにも英語の r の音が続くので、この節の対は 1.3 と 1.4 の L と R の課にもそのまま持ち越せます。 左の語(発音) 右の語(発音) 綴りの違い far [fˈɑɹ] for [fˈɔɹ] a を o に star [stˈɑɹ] store [stˈɔɹ] ar を ore に farm [fˈɑɹm] form [fˈɔɹm] a を o に farmer [fˈɑɹmɚ] former [fˈɔɹmɚ] a を o に bar [bˈɑɹ] bore [bˈɔɹ] ar を ore に car [kˈɑɹ] core [kˈɔɹ] ar を ore に part [pˈɑɹt] port [pˈɔɹt] a を o に 英文 日本語訳 見るところ Thanks for coming from so far away! [8] はるばる来てくれてありがとう! 1 文に両方ある。 for は唇を丸め、 far は開ける 伸ばす アー に重なる — father と further 最後は、日本語に対応する母音が無いものです。カタカナは伸ばす アー で写しますが、英語のこの母音は 舌の真ん中を持ち上げて、どこにも触れさせずに響かせる 音で、口の形がまったく違います。実測で 4 組 。出現率は 17.4% と高く、 further のように弱いところにも強いところにも出ます。左の列がその母音、右の列は日本語の ア に近い側です。 左の語(発音) 右の語(発音) 綴りの違い further [fˈɚðɚ] father [fˈɑðɚ] ur を a に earn [ˈɚn] on [ˈɑn] ear を o に hurt [hˈɚt] hot [hˈɑt] ur を o に shirt [ʃˈɚt] shot [ʃˈɑt] ir を o に 英文 日本語訳 見るところ We want further information. [9] より詳しい情報がほしい。 further は 2 つの音節ともこの母音 He's my father. [10] 彼は私の父です。 father は第 1 音節が ア に近い側、第 2 音節がこの母音 語表 対の中から 12 語を取りました。「カタカナとの差」の列を見てください。カタカナで知っている語は、拍が音節より多いだけでなく、母音が伸ばす音か短い音かに振り分けられています。その振り分けこそが、この課で外したい癖です。意味は書いていません——語を押せば辞書が出ます。角かっこの中は発音の記号で、読み上げには渡していません。 seat en 名詞 ● [sˈit] カタカナとの差 シート → ● (3 拍を 1 音節に) 連語 take a seat Have a seat. [1] 座りなよ。 He kept a seat for me. [11] 彼は私に席を取っておいてくれた。 fill en 動詞 ● [fˈɪl] カタカナとの差 フィル → ● (2 拍を 1 音節に) 連語 fill in a form Should I fill it in now? [12] すぐに書かなければなりませんか。 I filled a vase with water. [13] 花瓶を水で満たした。 rich en 形容詞 ● [ɹˈɪtʃ] カタカナとの差 リッチ → ● (3 拍を 1 音節に) 連語 rich in oil He's not rich or able. [14] 彼は金持ちでも有能でもない。 I was rich at the time. [15] 当時は、リッチだったよ。 match en 名詞・動詞 ● [mˈætʃ] カタカナとの差 マッチ → ● (3 拍を 1 音節に