11.62 林嗣環 口技 — 一人・一桌・一椅・一扇・一撫尺のみ — Epoché
この篇でできるようになること 場面を切り替える語から、夜の家、眠り、火事の順をたどれます。 冒頭の道具と末尾の一覧を比べ、加わるものを示せます。 二重否定と、人を指すまとまりを現代語に書き換えられます。 前提 :11.61「魏學洢 核舟記」。目に見える物を数えた後、音だけでいくつもの物や人を見せる文章を読みます。 屏風の後ろで演じる一人 作者の林嗣環は清初の人です。口技は、口だけで人や物の音を出す芸です。この篇では芸人が屏風の陰に座り、客は姿を見ずに音を聞きます。 宴席の一角に屏風を設け、その中の道具を挙げます。 一桌、一椅、一扇、一撫尺而已 で、机、椅子、扇、拍子木が一つずつです。 撫尺 は台を打って合図する拍子木です。 少しすると拍子木が一度鳴り、座が静まります。初めに芸人と道具を示してから、これから描く夜の家の音へ入ります。実際の客席と、音で演じられる家を分けて読みましょう。 者で、どのような人かをまとめる 京中有善口技者 は、都に口技のうまい人がいるという存在文です。 善口技者 が、口技を得意とする人という名詞のまとまりになります。 無敢嘩者 も、あえて声を立てる人がいないという形です。 者 で人をまとめ、いる、いないという文の中に入れます。 現代語では 的人 で人をまとめられます。 型編 4課 の修飾と 型編 5課 の存在を使います。どんな人がいるか、いないかを組み立て直します。 遠い犬から、家の中へ 初めに遠い路地の犬の声が聞こえます。次に家の中の女が目を覚まし、夫を揺り動かします。夫婦の声と寝床の音が重なり、赤ん坊、上の子も起きて、音が増えます。 読む側は家を目で見ていませんが、聞こえる音が近くなり、する人が増えることで、家の中をたどれます。犬から夫婦、子どもたちへという順に注意して読みましょう。 ここでは、起きたことだけでなく、同時に重なる音を並べる所が重要です。一つの動作が終わってから次へ、という順だけでは、場面のにぎやかさを受け取れません。 八つの声を、一度に鳴らす 女が手で子をあやす音、口でなだめる声、赤ん坊が乳を含んで泣く声、上の子の声が並びます。寝床の音、夫がしかる声、尿が瓶に落ちる音と桶に落ちる音も並びます。 それぞれを 聲 で受けた八つの名詞のまとまりです。その後に 一齊湊發 と置き、全部が一度に鳴り出すと述べます。八つのまとまりを積んでから、一つの動詞のまとまりで受ける形です。 音の中身を説明する部分には、たたく、泣くなどの動作が含まれます。それでも、声という字まで含めた全体では、何の音かを示す名詞のまとまりです。 客は首を伸ばし、顔を傾けて見入り、ほほえんで黙って感心します。演じられる音の描写の後に、現実の客の反応が置かれています。 音が減ると、客も座り直す やがて家の人々は寝床に戻り、赤ん坊も眠りかけます。夫のいびきから、まばらになる妻の手の音、ねずみや器の音、眠っている妻の咳へと続きます。こうして聞こえるものが小さくなります。 微聞 は、かすかに聞こえることです。音を増やし続けず、静かな所まで落とします。夜の家で高まった音から、眠りへ下がる部分です。 続く第四段は 賓客意少舒,稍稍正坐 の九字です。客の気持ちが少し緩み、座り直す姿だけを短く置きます。演じられる音が静まった所で、聞いている側の姿勢も変わります。 その直後に突然の火事の声が来ます。静かな音と、安心して座り直す短い段が間にあるため、次の大声がいっそう急に聞こえます。 時をつなぐ語で切れ目を見つける 少頃 はしばらくして、 既而 はやがて、 忽 は突然、 俄而 はたちまち、 忽然 は突然という意味です。どの語の後で、どんな音が始まり、止むかを見ます。 既而 は二度あり、一度目は赤ん坊が目を覚ます所、二度目は夫が寝床に戻る所です。同じ語でも、一方は音が増える側、もう一方は静まる側へつながります。 現代語の話し言葉では 忽然 が使われます。 既而 ・ 俄而 は書き言葉で、会話ではふつう使いません。時間をつなぐ働きと、使う場面を分けて覚えます。 火事の音と、客の恐れ 忽一人大呼 から、一人が火事だと叫びます。夫と妻も叫び、二人の子が泣きます。 俄而 の後は百千の人、子ども、犬へ広がります。家の崩れる音や風や火、救いを求める声まで重なります。 凡所應有,無所不有 は、あるはずのものは何でもある、という二重否定です。無いものが無いという形で、火事の場面の音がそろっていることを述べます。 手が百本あり、指も百本ずつあっても、一つ一つ指し示せない。口が百あり、舌も百ずつあっても、言い表せない。手と指、口と舌を対にし、ありえないほど多くても追いつかないと示します。 客も顔色を変え、席を離れ、腕を出し、足を震わせます。 幾欲先走 は、ほとんど我先に逃げ出しそうだということです。芸を見ているはずの客が、演じられる火事へ入り込むほどの反応です。 この 走 を、現代語の歩く意味にしないでください。ここは逃げることです。客の顔色や震える足とつなぎ、散歩に出る場面として読まないようにします。 全部ある、みなが反応する 無所不有 は、無いものがないという内容です。一方、 無不伸頸側目 や 無不變色離席 は、そうしない人がいないという、客についての二重否定です。 前者は音のそろい方、後の二つは客のそろった反応を述べています。何をひとまとめにするかを見て、現代語の 都 を使う形へ置き換えます。疑問詞を、何でも、の意味で使う形は 型編 36課 と比べられます。 最後に拍子木が鳴ると、すべての音が絶えます。屏風を外してみると、 一人、一桌、一椅、一扇、一撫尺而已 です。初めの四つの道具に、一人が加わっています。 冒頭と末尾は、一字一句同じ一覧ではありません。道具四つは同じですが、末尾の先頭に 一人 があります。この一人からあれほどの音が出たことを、最後に見せています。 目の前には一人と四つの道具しかありません。夜の家も火事の群衆も消え、音を出した側だけが残ります。初めの少なさを思い出す結びが、聞いてきた多さを際立たせます。 語釈 語 品詞 意味 日本語との差 例文 訳 撫尺 名詞 合図用の拍子木 台を打って鳴らす 撫尺一下 拍子木が一度鳴る 少頃 時の語 しばらくして 芸の始まりの間 少頃,但聞屏障中撫尺一下 しばらくして屏風の中の拍子木だけが聞こえる 既而 時の語 やがて この篇では二度出る 既而兒醒 やがて赤ん坊が目を覚ます 湊發 動詞 集まって鳴り出す 並べた音をまとめる 一齊湊發 一度に鳴り出す 舒 動詞 緩む 客の気持ちを述べる 賓客意少舒 客の気持ちが少し緩む 俄而 時の語 たちまち 火事の声が広がる 俄而百千人大呼 たちまち百千の人が大声で叫ぶ 名 動詞 言い表す ここでは名前という名詞ではない 不能名其一處也 その一か所も言い表せない 走 動詞 逃げる ここでは歩くではない 幾欲先走 ほとんど我先に逃げ出しそうだ 撤 動詞 取り払う 芸の後に姿を見せる 撤屏視之 屏風を取り払って見る 練習 少頃 、二度の 既而 、 忽 、 俄而 、 忽然 の後に始まる、または止む音を、次から一つずつ選んでください。拍子木の音/赤ん坊の泣き声/いびき/火事の叫び/百千の声/すべての音が止む 字を原文どおりに補って書いてください。 凡所應有,無所不_ 字を原文どおりに補って書いてください。 滿座賓客無_伸頸側目 字を原文どおりに補って書いてください。 京中有善口技_ 字を原文どおりに補って書いてください。 _然撫尺一下,眾響畢絕 冒頭と末尾の道具の並びを書き写し、末尾にだけある字を示してください。末尾の全文は現代語にも直します。 無所不有 と 無不變色離席 を、現代語の 都 を使う文に書き換えてください。 京中有善口技者 と 無敢嘩者 を現代語へ書き換えてください。 音で演じられる家と客の様子を、 宝宝 ・ 醒 ・ 妻子 ・ 丈夫 ・ 着火 ・ 激动 を使う短い現代語の三文で書いてください。 賓客意少舒,稍稍正坐 は音の流れのどこにあり、次の突然の声にどう働きますか。二文で説明してください。 音読:次の原文の句を ▶ で聞き、声に出して読んでください。 婦手拍兒聲,口中嗚聲,兒含乳啼聲,大兒初醒聲,床聲,夫叱大兒聲,溺瓶中聲,溺桶中聲,一齊湊發 八つの声は切らずに続けて読み、「 一齊湊發 」で止めてください。 この篇のまとめ 家の音を増やし、眠りで静めてから火事へ広げました。二重否定で音と客の反応をそろえ、最後に一人を加えた一覧で、音を生んだ側を見せる文章を読みました。 次の篇へ 次の11.63では宋濂の送天台陳庭學序を読みます。蜀への旅と詩の上達を述べながら、最後に山水の外にあるものを問う序です。 答え 少頃 は拍子木の音、一度目の 既而 は赤ん坊の泣き声、二度目の 既而 はいびき、 忽 は火事の叫び、 俄而 は百千の声、 忽然 はすべての音が止む、です。 凡所應有,無所不有 滿座賓客無不伸頸側目 京中有善口技者 忽然撫尺一下,眾響畢絕 一桌、一椅、一扇、一撫尺而已 一人、一桌、一椅、一扇、一撫尺而已 。加わる字は 一人 です。 現代語では量詞を付けて 一个人 、 一张桌子 、 一把椅子 、 一把扇子 、 一块抚尺 と並べ、それだけだということを 只有 で表します。 什么样的声音都有。 客人脸色都变了,都离席了。 京城里有擅长口技的人。 没有敢出声的人。 宝宝醒了,妻子也醒了。 丈夫大叫,家里着火了。 所有客人都很激动。 家の音が小さくなった後に、客が気を緩めて座り直す姿を置きます。その直後に火事の大声が来るため、音の変化がいっそう急に感じられます。 参考文献 林嗣環『口技』。パブリックドメイン(著者没後70年経過)。 出所: https://zh.wikisource.org/wiki/口技