8.52 黒馬物語(4)— 経験のない人には分からない — Epoché
この篇でできるようになること ★ 読者を外に置く 語りかけに気づける。 「痛い」と言わずに痛みを書く書き方が分かる。 長い説明の文を、切れ目で区切って読める。 帯の外の語を、語釈を見ながら読み通せる。 前提 : 8.51 まで。型は 3.24 まで。語は 4.36 まで。 読む前に 調教 ( breaking in )とは、馬に人を乗せられるようにすることです。くつわを口に入れ、くらを背に置き、人の言うとおりに動くよう教えこみます。 この篇で出てくる道具を先に挙げておきます。語釈にも入っていますが、 何のための道具か を知っていると読みやすくなります。 どの道具か どこに付けるか 何のためか bridle 頭 手綱をつなぐ saddle 背 人が座る collar 首 車を引かせる crupper しっぽの下 くらがずれないようにする 原文 原文は別の文書にあります(作品ページの「原文」)。全部で 678 語、段落は 5 つです。 I was now beginning to grow handsome; my coat had grown fine and soft, and was bright black. 読むときに一つ試してください。 「痛い」という語が何回出るか 数えながら読む。少ないはずです。 全訳 原文の全訳です。この課程のために、原文に沿って訳しました。番号は原文の段落の番号で、原文と行き来できます。 わたしはそのころ、見ばえがよくなりはじめていました。毛並みは細かくやわらかになり、つやのある黒でした。片方の足だけが白く、額にはかわいらしい白い星がありました。わたしはとても美しいと思われていました。主人は、わたしが四歳になるまで売ろうとしませんでした。若者は大人のように働くべきではないし、子馬はすっかり大きくなるまでは馬のように働くべきではない、と主人は言っていました。 わたしが四歳になると、ゴードンという地主がわたしを見にやって来ました。地主はわたしの目と口と脚を調べ、脚は上から下まで手でさわってみました。それからわたしは、地主の前で並足をし、速足をし、駆け足をしなければなりませんでした。地主はわたしを気に入ったようで、「よく調教されれば、とてもよい馬になるでしょう」と言いました。主人は、わたしをこわがらせたり痛い目にあわせたりしたくないので、自分で調教すると言いました。そして、ぐずぐずせず、さっそく次の日から始めました。 調教というのがどういうものか、みなさんがご存じとはかぎりませんから、説明しておきましょう。それは、馬にくらとおもがいをつけることを教え、男でも女でも子どもでも、人を背に乗せることを教え、その人たちの望むとおりの道を、おとなしく進むよう教えることです。そのほかにも、首輪と、しりがいと、しりがけをつけることを覚え、それをつけられるあいだはじっと立っていることを覚えなければなりません。それから、荷車か軽い馬車を後ろにつけられて、それを引きずらなければ歩くことも速足をすることもできなくなります。そして、御者の望むとおりに、速く行ったりゆっくり行ったりしなければなりません。見たものに驚いて跳びのいてはいけないし、ほかの馬に話しかけても、かみついても、けってもいけないし、自分の意志というものをもってもいけません。どんなに疲れていても、おなかがすいていても、いつも主人の意志に従わなければなりません。けれども何よりつらいのは、いったん馬具をつけられたら、うれしくて跳ねることも、疲れて横になることもできないことです。ですから、おわかりでしょう、この調教というのはたいへんなことなのです。 もちろんわたしは、端綱と頭絡には前からずっと慣れていましたし、引かれて野原や小道をおとなしく歩きまわるのにも慣れていました。けれども、今度はくつわとおもがいをつけることになったのです。主人はいつものようにカラス麦をくれ、さんざんなだめすかしたあげく、くつわをわたしの口に入れ、おもがいを留めました。でも、それはいやなものでした!くつわを口に入れられたことのない者には、それがどんなにいやな感じがするか、想像もつかないでしょう。人の指ほどの太さの、冷たく固い大きな鋼の棒が、口の中へ、歯のあいだへ、舌の上へと押しこまれ、その両端は口の端から突き出て、頭の上、のどの下、鼻のまわり、あごの下を通る革ひもで、そこにしっかりと留められるのです。ですから、どうやってもその固くていやなものを取り除くことはできません。ほんとうにいやなものです!そう、ほんとうにいやなものです!少なくとも、わたしはそう思いました。けれども、母さんが出かけるときにはいつもそれをつけていたこと、大きくなった馬はみなそうしていることを、わたしは知っていました。そうして、おいしいカラス麦やら、主人がなでてくれたり、やさしい言葉をかけてくれたり、穏やかに扱ってくれたりしたことやらで、わたしはくつわとおもがいをつけられるようになりました。 次はくらでしたが、それはくつわの半分もいやではありませんでした。年寄りのダニエルがわたしの頭を押さえているあいだに、主人はとてもそっとそれをわたしの背に置きました。それから腹帯を体の下でしっかり締め、そのあいだじゅう、わたしをなでたり話しかけたりしていました。それからカラス麦を少しもらい、それから少し引いて歩かされました。主人はこれを毎日続けたので、そのうちわたしはカラス麦とくらを心待ちにするようになりました。とうとうある朝、主人はわたしの背に乗り、やわらかな草の上を通って牧場をひとまわりしました。たしかに妙な感じがしました。けれども、主人を乗せていることを、わたしはいささか誇らしく感じたと言わなければなりません。そして、主人が毎日少しずつわたしに乗り続けたので、わたしはまもなくそれに慣れました。 語釈 帯の外の語は 48 語です。下に 全部 出します。 体の部分と馬具の語 が多いことに気づいてください。 語(品詞) 意味 注 Daniel en 名 ダニエル。馬の世話をする男 Gordon en 名 ゴードン。地主の姓 Squire en 名 地主 The Squire rode out early each morning to inspect his fields. その地主は毎朝早く畑を見回るために馬で出かけました。 accustomed en 形 慣れた Over the years, she grew accustomed to the quiet country life. 何年もの間に、彼女は静かな田舎の暮らしに慣れていきました。 bite en 動 かむ The nervous horse tried to bite the strap near its mouth. その神経質な馬は口の近くの革ひもにかみつこうとしました。 breeching en 名 尻帯。後ろ足のまわりの帯 The stable boy checked the breeching before hitching the cart. 馬丁は荷車をつなぐ前にしりがいを点検しました。 bridle en 名 おもがい。頭につける革具 He gently placed the leather bridle over the horse's head. 彼は革のおもがいを馬の頭にそっとかけました。 cart en 名 荷車 The farmer loaded fresh vegetables onto the wooden cart. 農夫は新鮮な野菜を木の荷車に積み込みました。 chaise en 名 軽い二輪馬車 The family traveled to town in a light, two-wheeled chaise. その家族は軽い二輪馬車に乗って町へ出かけました。 chin en 名 あご The strap fastened snugly just below the horse's chin. その革ひもは馬のあごのすぐ下にぴったりと留められました。 coaxing en 名 なだめすかすこと It took some gentle coaxing to get the shy pony to move. その内気なポニーを動かすには少しなだめすかすことが必要でした。 collar en 名 首輪。車を引かせる具 The heavy collar rested comfortably on the horse's strong shoulders. 重い首輪は馬の力強い肩に心地よく乗っていました。 colts en 名 若い馬(複数) The two colts nudged each other playfully near the fence. その二頭の若い馬は柵の近くで戯れるようにお互いをつつきました。 crupper en 名 しりがい。尾の下に回す革ひも The stable hand adjusted the crupper before the long ride. 馬丁は長い乗馬の前にしりがけを調整しました。 dragging en 動 引きずっている The tired dog kept dragging its leash along the sandy path. その疲れた犬は砂の道でリードを引きずり続けました。 forehead en 名 ひたい A small white mark shone on the horse's forehead. 馬のひたいに小さな白い印が光っていました。 frightened en 形 おびえた The frightened horse reared up at the sudden loud noise. その馬は突然の大きな音におびえて後ろ足で立ち上がりました。 gallop en 動 全速力で走る The rider let the horse gallop freely across the open meadow. 乗り手は馬に広い牧草地を自由に全速力で走らせました。 gentle en 形 おとなしい The old horse remained gentle even around the smallest children. その老馬はごく小さな子どもたちのそばでもおとなしいままでした。 gently en 副 そっと She gently brushed the mud from the horse's smooth coat. 彼女は馬のなめらかな毛から泥をそっとはらいました。 girths en 名 腹帯(複数) He tightened the girths carefully before mounting the horse. 彼は馬に乗る前に腹帯を注意深く締めました。 grass en 名 草 The pony wandered slowly through the tall summer grass. そのポニーは背の高い夏の草の中をゆっくりと歩き回りました。 halter en 名 端綱(はづな)。引くための綱 She led the calm horse by its rope halter. 彼女はその落ち着いた馬を縄の端綱で引いていきました。 handsome en 形 見ばえのよい The handsome black horse drew everyone's attention at the fair. その見ばえのよい黒い馬は品評会で皆の注目を集めました。 harness en 名 馬具一式 The stable boy cleaned the leather harness every Saturday morning. 馬丁は毎週土曜の朝に革の馬具一式を掃除しました。 headstall en 名 頭につける革の部分 The worn headstall needed a new buckle before the trip. その使い古された頭の革具は旅の前に新しい留め金が必要でした。 hungry en 形 おなかのすいた The hungry horse pushed its nose against the empty feed bucket. おなかのすいた馬は空のえさ桶に鼻を押し当てました。 joy en 名 喜び The children jumped with joy when they saw the new foal. 子どもたちは新しい子馬を見て喜びのあまり飛び跳ねました。 lads en 名 若者(複数) Two young lads helped carry water to the thirsty horses. 二人の若者がのどの渇いた馬たちに水を運ぶのを手伝いました。 lanes en 名 小道(複数) Narrow country lanes wound between the quiet green fields. 細い田舎の小道が静かな緑の畑の間を曲がりくねっていました。 meadow en 名 牧草地 The horses rested peacefully in the shade of the meadow. 馬たちは牧草地の木かげで穏やかに休んでいました。 nasty en 形 いやな A nasty smell came from the old, unused stable. 使われていない古い馬小屋からいやなにおいがしました。 nose en 名 鼻 The horse rubbed its soft nose against her shoulder. その馬はやわらかい鼻を彼女の肩にこすりつけました。 oats en 名 からす麦。馬の飼料 The stable boy poured fresh oats into the wooden trough. 馬丁は木のかいばおけに新しいからす麦を注ぎました。 pats en 名 軽くたたくこと(複数) The gentle horse enjoyed a few friendly pats on its neck. そのおとなしい馬は首を何度か軽くたたかれるのを喜んで