ノートの取り方 — Epoché
要点 大学の講義では、大事な点が板書より話の中で示されることが多くあります。全部を写そうとせず、要点・キーワード・話の流れ・疑問を短く書き、講義のあとで補って仕上げる方法があります。 ノートは、取ったあとに見返すことで役に立ちやすくなる、と研究のまとめは説明しています。講義から 1 日ほどのうちに見直し、自分の言葉で要約したり、問いを書き足したりできます。 本や論文の読書ノートは、書誌情報・要約・引用・自分の考えを分けて書くと、あとでレポートに使いやすくなります。引用は「」でくくってページを添えておくと、人の文と自分の文を取り違えにくくなります。 手書きとタイピングには、それぞれ利点があります。手書きのほうが成績がやや高いという研究のまとめが複数ありますが、差がはっきりしなかったまとめもあり、結論は分かれています。どちらを選んでも、気が散らない工夫と見返す時間が支えになります。 授業の録音や撮影の決まりは、大学や授業によって違います。教員の許可なく撮影・録音しないよう求める大学の案内もあるので、履修の手引きや授業の指示で確かめておくと安心です。 こんなときに 入学して最初の数週間、先生が黒板をほとんど使わずに 90 分話し続けた。何を書けばよいか分からないうちに講義が終わり、ノートには 3 行しか残っていない。大学のノートは、そんな戸惑いから始まることが珍しくありません。 ほかにも、次のような場面でこの文書が役に立ちます。 スライドが次々に切り替わり、写しているうちに説明を聞き逃してしまう。 試験の前にノートを開いたら、単語が並んでいるだけで、何の話だったか思い出せない。 レポートを書く段になって、メモしてあった印象的な一文が、どの本の何ページだったか分からない。 自分のメモをもとにレポートを書いたら、本の文章をほぼそのまま使っていたことに後で気づいた。 スライドをスマートフォンで撮ってよいのか、友だちにノートを見せてよいのか、迷っている。 この文書では、講義のノートと読書のノートについて、何のために取るのか、何を書くのか、あとでどう使うのかを順に紹介します。集めた文献の整理は 文献の管理 、レポートでの引用の書き方は 引用と参考文献 で扱います。 ノートは何のために取るのか — 書く働きと見返す働き ノートには、書きながら内容を整理する働きと、あとで見返すための記録の働きがあります。研究をまとめた論文は、講義ノートの主な利点は見返すことから生まれる、と整理しています。目指すのは、全部を書き残したノートより、あとで思い出して使えるノートです。 高校の授業と大学の講義の違い 聖隷クリストファー大学の学習支援室の資料は、高校の授業が板書中心なのに対して、大学の講義は話が中心で、大事な点は先生の話の中にあると説明しています [1] 。三重短期大学の資料も、この違いを表にまとめています [2] 。日本医療大学の 学修ハンドブック は、大学の講義は教科書どおりに進むとは限らないと書いています。要点は口頭で示されることが多いので、講義を思い出して復習する手段としてノートが要る、という説明です [3] 。 あとで思い出せるノート 同じハンドブックは、よいノートとは、あとで見返したときに講義の内容を思い出せるノートだと説明しています。ノートは記憶を助けるためのもので、何もかも記録する必要はありません。反対に、理解しないまま写しただけのノートは、あとで見ても何も思い出せない、とも書いています [3] 。 聖隷クリストファー大学の資料も、先生の話を全部書こうとすると、書くことに気を取られて理解がおろそかになると注意しています。講義の内容を思い出せるように、ポイントを書き留める方法を勧めています [1] 。 見返すことで生きるノート 手書きとタイピングを比べた Flanigan らの論文は、序論で先行研究をまとめて、ノートの働きを 2 つに分けています。書く過程で理解を助ける働きと、あとで見返せる記録としての働きです。そのうえで、取ったノートを見返した学生のほうが、取るだけの学生より成績が高い傾向を示す研究が複数あることから、主な利点は見返すことから生まれる、とまとめています [4] 。 同じ論文によると、講義で示された考えと図の総数を報告した 3 つの研究では、学生がノートに記録できたのは考えの 3 割ほど、図の 1〜2 割ほどでした。著者らはこの数字から、ノートの量を増やす方法を研究で探し続ける必要がある、としています [4] 。書き漏らしは珍しくないので、講義のあとで補う時間を取る方法があります。 (段階 2 以上。初めて読むときは飛ばしてかまいません)Kobayashi は、ノートを取ることそのものの効果を調べた 57 の比較研究を、メタ分析(多くの研究の結果を統計的にまとめる方法)でまとめました。それまでのメタ分析では、この効果は、正の効果はあるが控えめだとされていました。この分析では、学習材料を視覚的に示すことが、ノートを取る過程を妨げていました。著者は、効果が控えめな理由を、学習者のノートの取り方が不完全だからではなく、書く作業の負担やテストの種類などによるものだと示唆しています [5] 。 同じ著者の 33 研究のメタ分析は、ノートを取ることと見返すことを組み合わせた効果が、どちらもしない場合と比べてかなり大きいと報告しています。枠組みや教員のノートを渡す工夫は、事前の訓練や口頭の指示だけより効果的でした。学業の段階が低い学習者ほど、こうした工夫の恩恵が大きかったとされています [6] 。 講義ノート — 聞きながら何を書くか 講義中は、理解することを先にして、要点・キーワード・話の流れを短く書く方法があります。板書・配布資料・口頭の説明・スライドなど、講義の進め方によって書くことの中心が変わります。分からなかったことは、疑問として書き留めておけます。 講義の前に準備できること ノースカロライナ大学チャペルヒル校の学習支援センターは、講義の前に、予習の範囲やシラバスでその日のテーマを見ておくこと、前回のノートに目を通しておくことを勧めています。ページの最初に科目名と日付を書き、科目ごとにまとめて日付の順に保管しておく方法も挙げています [7] 。 講義中に書くこと 同じ案内は、考え方を学ぶ講義では、話を全文で書くより、主な点を書く方法を勧めています。キーワード・日付・人名を書いておき、定義はあとで調べる方法もあります。略語や記号、箇条書きを使うと短く書けます。質問したいことや混乱した点も書いておく方法を挙げています [7] 。 何が大事かを見分ける手がかりとして、同じ案内は次のものを挙げています [7] 。 講義の初めに示される、その日の話のまとめ 「主な点は 4 つあります」「まとめると」のような、話の区切りを示す言葉 繰り返し出てくる言葉 身振りや声の調子による強調 講義の最後のまとめ 三重短期大学の資料は、日本語の講義で話の筋を示すつなぎ言葉として、「まず第一に」「というのも」「したがって」「要するに」「ちなみに」などを一覧にしています [2] 。こうした言葉が聞こえたら、話の組み立てを書き留める合図にできます。 同じ資料は、誰の考えが話されているのかを区別することも勧めています。教員が自分の説を述べているのか、ある考え方を説明しているのか。その考え方を肯定しているのか、否定しているのか。大事なことか補足か、例か脱線か、という区別です [2] 。この区別は、読書ノートで要約と自分の考えを分けることにもつながります。 分からないことが出てきたら、ノートに書き留めておき、機会を見て質問できます。日本医療大学のハンドブックは、質問の前に、どこまで分かっていてどこから分からないのかをはっきりさせることを勧めています。授業の流れを止められるのを好まない教員もいるので、授業のあとに尋ねる方法もある、と書いています [3] 。 講義の進め方ごとの工夫 日本医療大学のハンドブックは、講義の進め方を 4 つに分けて、ノートの取り方の工夫を示しています [3] 。 講義の進め方 ノートの工夫の例 板書が中心 板書を写すだけでなく、口頭での補足の説明も書く 資料を配って進める 話の内容を大事さで選んで書き、資料のどの図表の話かを記録する 口頭の説明が中心 キーワードを中心に書き、話の骨組みをつかむ スライドを使う 画面を全部写すのは無理なので、図表の名前と場所、キーワードを記録する 配布資料やスライドの印刷があるときは、そこに講義で示された情報を書き込めます。同じハンドブックは、書き込む場所をはっきりさせておくと、あとで照らし合わせやすいと説明しています。講義中の書き込みと復習のときの書き込みを、色や場所で分けておくと、自分の理解の過程をたどれるとも書いています [3] 。配布資料には日付と、どのノートと関係するかを書いて、ノートと一緒に保存しておく方法も挙げています [3] 。 ページの使い方の例 ページの使い方にも、いくつかの型があります。日本医療大学のハンドブックは、ページ全体に書いて、あとから色や付箋で補う例と、余白を多めに取り、「疑問点用」などの場所を分けておく例を載せています [3] 。 ノースカロライナ大学の案内は、型の例として、日付・中心の問い・トピック・ノート・問い・要約の欄を持つ「コーネル式ノート(Cornell Notes)」を挙げています。ほかにも、アウトライン、流れ図や概念図、表の形があります [7] 。コーネル大学の学習支援センターは、この方式を同大学の教育学の教授 Walter Pauk が考案したと紹介しています。そのうえで、いろいろな方法を試して、場面ごとに合うものを決めるとよいと書いています [8] 。 (段階 2 以上)大学生 24 名の日本の実験では、板書があると教員の話す速さが遅くなりました。24 名中 21 名は、板書から 60 秒以内にノートを取っていました [9] 。 数学の講義を調べた研究では、板書の講義では話と板書が交互に進み、学生のノートを取る動きは板書の動きにそろっていました。スライドの講義では、話しながらスライドが切り替わり、ノートを取るタイミングに個人差が出ることがうかがえました [10] 。 講義のあとで — 見直して仕上げ、使う ノートは、講義のあとで仕上げることができます。記憶が新しいうちに見直して抜けを補い、自分の言葉で要約したり、問いを書き足したりします。見返すときは、読むだけでなく、思い出してみる使い方もあります。 見直して抜けを補う ノースカロライナ大学の案内は、講義から 1 日ほどのうちにノートを見直すことを勧めています。読みにくいところを直し、抜けを補うためです。見直すことは、考えを整理し、何が大事かを判断する助けにもなると説明しています [7] 。見直しでは、書いた内容が分かりやすいかを確かめる、キーワードの定義を補う、分からなかった考え方を調べる、といった作業ができます。残った疑問は、教員が質問を受ける時間(オフィスアワー)に尋ねることもできます [7] 。 講義中に分からない言葉が出ても、そこで止まる必要はありません。聖隷クリストファー大学の資料は、あとで調べられることはスペースを空けておき、講義のあとに復習しながらノートを完成させる方法を紹介しています [1] 。 仕上げ方にも選択肢があります。日本医療大学のハンドブックは、同じノートに色を変えて書き足す方法と、講義用と完成用の 2 冊に分ける方法を挙げています。新しいノートに書き直すと、それが復習にもなる、という説明です [3] 。 自分の言葉でまとめ直す ノースカロライナ大学の案内は、見返し方として、次の 4 つを挙げています。ノートの内容を自分の言葉で要約する、ノートについての問いを書く、欠けているところを埋める、内容をまとまりに分ける、です [7] 。問いと要約の欄を持つコーネル式ノートなら、その欄をこの作業に使えます。 (段階 2 以上)Chi と Wylie の ICAP という枠組みは、学習活動を外から見える行動で 4 つに分けます。受け身(Passive)、能動(Active)、構成的(Constructive)、対話的(Interactive)で、この順に学習が深まると予測します [11] 。ノートの取り方の研究をこの枠組みで整理すると、全部をそのまま写すのは受け身、一部を切り貼りしてまとめるのは能動に当たります。自分の言葉で書くノートは、結論や推論を含むため多くは構成的に、仲間と一緒に作るノートは対話的に当たります。自由に書いたノートが、短い部分の切り貼りより効果的だった研究も紹介されています [11] 。ただし著者らは、ある研究の結果をこの枠組みで説明した箇所で、結果を正しく読むにはノートの中身まで見る必要がある、とも断っています [11] 。 講義ノートの見直しを調べた Luo らの実験では、見直して書き足す条件と、書き写すだけの条件を比べました。見直す条件のほうが、書き足したノートが多く、考えどうしの関係を問う問題の得点がやや高くなりました。講義の途中に設けた休止の時間に見直すと、講義のあとに同じ時間見直すより、ノートも成績もよい結果でした [12] 。休止は実験で設けたものなので、普段の講義にそのまま当てはまるとは限りません。 ノートで思い出してみる ノースカロライナ大学の案内は、ノートから学習用のまとめを作り、それを使って自分でテストする方法を紹介しています [7] 。小学生から大学生までを含む研究をまとめたメタ分析では、学んだことを思い出してみる練習テストが、読み直しなどほかの学習の仕方より学習に有利でした。効果は、テストの形や参加者などによって変わると報告されています [13] 。 次は、この文書で考えた一例です(資料にある手順ではありません)。ノートの余白に問いを書いておき、見返すときは答えの部分を紙で隠して、問いに答えられるかを試します。答えられなかったところが、次に見直す場所になります。 ノートを使うとき、貸し借りするとき ノートはレポートの材料にもなります。大阪大学のアカデミック・ライティングの教材は、レポートの課題を「問い」と「答え」の形に直す手順を示しています。そのとき、講義で聞いた話を思い出したり、ノートを見返